喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

88

 中央広場に降り立つと、久方振りの装備に身を包んでいた。藍色の服に黒銀のフライパンと包丁。イベントが始まる前の装備だ。メニューを開いて時間を確認すると、確かに四月四日の午後五時となっているので、イベント開始から三時間しか経ってない。 また、近くにリトシーはいるがサクラとアケビの姿が見えない。恐らく、イベント開始前の立ち位置に戻っているのかもしれない。「オウカ君! お疲れ様!」 その証拠に、頭上でトルドラゴに乗っているリースがいるし。「君達も頑張っていたようだね! 最後の途中経過では二位になっていたじゃないか!」「……リースもな」 上空から大声でそんな事を言ってくるので、周りにいたプレイヤーの視線が刺さってくる。もう少し声を小さくしてくれないかな? うるさい云々ではなく、注目の的になってしまうので。リースに悪気はないのだろうけど配慮はして欲しい。 それにしても二位か。一体何が起こったんだ? 四位とかに下がるなら何処の誰かは知らないが直前に抜かした相手がモンスターを一体倒したとかで変動すると理解出来るが。
『イベントに参加されたプレイヤーの皆様、お疲れ様でした』
 と、全体に聞こえる程の音量でアナウンスが流れ始める。
『只今より、ソロイベント及びパーティーイベントの最終ランキングを発表いたします』
 そんな音声と共に、頭上にモニターが二つ表示され、五位から順に名前と獲得ポイントが浮かび上がって行った。
『ソロイベント【地神からの挑戦】最終ランキング 1位 カンナギ   Point 3000 2位 リース    Point 2998 3位 琥太郎    Point 2996 4位 KOTOHA Point 2898 5位 マーガレット Point 2887     』
『パーティーイベント【クルルの森の異変】最終ランキング 1位 エール(PL)     Point 1589 2位 オウカ(PL)     Point 1530 3位 召喚戦隊サモレンジャー Point 1528  4位 ギーグ(PL)     Point 1524 5位 もふもふ愛好会     Point 1523    』
 何か機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツ……だっけか? がランキングから消えてる。メッセージで七回目のランキングを確認すると三位の所にいたし、順当に行ってればこいつらが二位だったと思う。 もしかして、終了間際にPKしてしまったか、死に戻りでもしてしまったのだろうか? だからポイントが減ってランキング外になってしまったとか?
『ランキング上位五名及び五組のプレイヤーの皆様には限定ユニークアイテムを配布いたします』
『メッセージを受信しました』
 俺の下にメッセージが一通受信された。メッセージを開いた確認をする。
『送信者:Summoner&Tamer Online運営  件名:ランクインおめでとうございます』
『オウカ様。 パーティーイベント【クルルの森の異変】ランキング2位おめでとうございます。 その健闘を称え、限定ユニークアイテム【青土の腕輪】を贈呈します。』
 パーティーイベントでは一位が【紅水の勾玉】、二位が【青土の腕輪】、三位が【緑木の首飾り】、四位が【黄土の指輪】、五位が【黒火の耳飾り】だったか。 で、俺が手に入れたのは【青土の腕輪】。これは別に補助効果のあるアクセサリとかではなく、まして装備してステータスアップ等の効果を得る物ではない。 言ってしまえば、俺達は拠点を一つ手に入れた事になる。 STOではこことは別の場所に拠点を作る事が出来るそうだ。そこで自分だけの工房や調理場、調合室等を拵える事が可能だ。 ただ、その分大金が必要だ。拠点の広さは大まかに大・中・小を選べてそこから徐々に拡大、増築が可能である。俺が調べた結果、小で100万ネル、中で300万ネル。大に至っては500万ネルも必要になってくる。 それだけ払うのならば街の工房を借りた方が何かと安上がりだが、拠点では用途別の部屋を同じ敷地内に用意する事が出来る。なので複数の生産スキルを所持している者にとっては移動の手間も省ける。それに加えて自分の好きなように室内をカスタマイズ出来るので効率がよくなる。 また、拠点内部に限り召喚獣の召喚時間が減らなくなる。つまりは今回の【クルルの森の異変】と同じように召喚獣と戯れる事が出来る事になる。生産職ではないが召喚獣と一緒の時間を少しでも多く取りたい【サモナー】にも配慮されている。 逆に【テイマー】への恩恵と言えば人目を気にする事も無くパートナーと戯れる事くらいか。人目が気になる人にとっては重宝するだろう。 今回のパーティーイベントの限定ユニークアイテムはその拠点へと向かう為の言わば移動装置のようなものだ。それぞれの限定ユニークアイテムに対応した、既に色々と設定されている拠点が今回の報酬と言う事になる。 以上が、俺が公式サイトやウィキで得た情報と自分の考察だ。別にこのユニークアイテムだけではなく、拠点を購入した場合には装備品に見立てた何らかの移動装置が同時に手に入る。また、拠点への移動はモンスターの湧かない町や村から出ないと行えないようになっている。これは死に戻りを嫌ってのエスケープ手段に使わせない為だと思う。 メッセージに添付されてた【青土の腕輪】をタップすると、次の瞬間に俺の左腕に青く波打つような紋様が掘られた腕輪が嵌められる。 これに触れる事で、拠点に移動するかしないかのウィンドウが表示されるらしい。このウィンドウは生命力のゲージやコマンドウィンドウと同じではなく、通常のメニューと同じで誰からも視認出来る。 で、だ。ここにいても周囲からの視線が痛く刺さって来るばかりなので、早速移動しよう。
『また、これより獲得ポイントとアイテムの交か――』
『拠点へ移動しますか? はい いいえ       』
 アナウンスが何か言っていたが、直ぐ様『はい』をタップする。 俺とリトシーは直ぐに光に包まれて移動する。「おぉ……」「しー……」 二人して感嘆の声を上げる。 この【青土の腕輪】の移動先の拠点は言わば洞穴だ。ただの洞窟ではなく、澄んだ水が流れ、高い天井の上に開いた穴から差し込まれている光で所々青系統の色で光っている幻想的なものだ。 一ヶ所――天井を含めれば二ヶ所以外が洞穴の壁で囲まれた閉鎖的な空間だが、それでも空間自体かなり広いので息が詰まるような事はなく、どちらかと言えば水のせせらぎで心が落ち着く。 そして、この空間の中央部に巨岩が聳え立っている。が、ただの岩ではなく扉があり、窓がある。つまり、これが拠点そのものなのだろう。材質は洞穴の壁と同じで光を受けて所々青色にキラキラと輝く。 公式サイトに載っていた画像と寸分狂わずだが、直接訪れて見た方が綺麗に見えるな。 で、その岩の扉の前にはサクラとアケビの共同作業で作られた石窯が鎮座し、番犬のようにきまいら――もとい【縮小化】の呪いが解かれたキマイラが座り、組んだ腕に顎を乗せて寝ているのが見えた。つまり、もうアケビはこの拠点にいるんだろうな。もしかしたらサクラもいるかもしれない。「入ってみるか?」「しー」 隣りにいるリトシーに提案し、大きく頷いたので俺達は岩へと歩いて行き、近付いても起きないキマイラの横を通って扉のノブを回して中へと入る。 入って直ぐはそのまま居間のようで、中は結構さっぱりとしているが、それでもソファやテーブル、棚に灯体は存在している。イベント期間厄介になっていたフチの家とは違ってきちんと壁で仕切りがされており、一室ずつ区切られている。ただし、廊下は存在しない。「あ、オウカさん」「オウカ君」「れにー」 そのソファに腰掛けていたサクラとアケビが俺達に気付き、フレニアがリトシーの方へと飛んでくる。「しー♪」 リトシーは跳びはねながらフレニアの方へと向かう。「……悪かったな。約束守れなくて」 俺は直ぐにアケビに謝る。アケビは三位の【緑木の首飾り】で行ける拠点を欲していた。あそこはこことは違い、森に囲まれ、小鳥のさえずりと心地のよい風が吹き込む朽ちた大木が拠点となっている。 アケビは森に囲まれながらのんびりと生産をしてみたい、と言っていた。今ならセイリー族の集落にある工房等が当て嵌まっていると言えるが、アケビとしては一人もしくは身内と気兼ねなく生産出来る場が欲しかったとの事。 また、一番欲していた理由が養蜂をしてみたいから、だそうだ。どうやらこのSTOでは養蜂も出来るようで、それに適した場所が森等花の咲く植物が多くある【緑木の首飾り】の拠点だったそうで、余計にそこを手に入れたかった。……今思えば、アケビが最初からハビニーに気を掛けていたのはそれが理由だったのかもしれないな。 と言うのは今は置いておくとして、だ。【緑木の首飾り】を手に入れると言う約束を果たせなかった俺は頭を下げる。「ううん。そんなの気にしないで。オウカ君は何も悪くない。私の為にポイントの調整までしてくれた。こういうイベントでそれをやろうと思ってもなかなか上手くいくものでもないし。謝るとしたら、我儘に付き合わせて、無理させちゃった私の方」 アケビはソファから立ち上がっていて、俺の頭を上げさせる。そして、俺をソファに座るように促し、俺はそれに従ってゆっくり座る。「改めて、皆ありがとうございます。オウカ君とサクラちゃん、それにリトシーとフレニアの御蔭でこんな素敵な場所が手に入りました。本当にありがとうございます」 アケビは俺達に頭を下げて礼を述べる。「いえ、僕の方こそアケビさんには世話になりっぱなしでしたし。これで少しでも返せたのなら」「俺も装備色々作って貰ったしな」「しー」「れにー」 俺達も頭を下げる。何か全員が頭を下げていて変な空間になったな。「……あ、そろそろポイントをアイテムに換えませんか? 確か七日までは大丈夫ですけど、皆が揃っているうちにやってしまった方がいいかと」 サクラの一言で皆顔を上げる。そう言えば、ポイントをアイテムに換える事が出来るんだったな。 手に入れたポイントは1530。それなりにいいアイテムを入手する事が出来る筈だ。 さて、どんなアイテムと換えようか。


「喚んで、育てて、冒険しよう。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く