喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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 腕を組みながらツバキは顔をこちらに向ける。「……で、オウカ達はどう思う?」 ゴダイ達四人と別れて、無属性の幻柱が鎮座していたこの場所にサクラ達が集まった。ここに集まった理由は俺が鳥に乗ると酔ってしまう事を考慮してくれた結果で頭が上がらない。 俺達パーティーの他はボイスチャットで連絡を取ったツバキのパーティーもいる。「一緒に進めて行こうぜ」との事で、俺達は断る理由も無かったので一つ返事でOKする。 現在は五人と四匹で円を組んで【十晶石の幻柱】を全て壊した際に出現した鬼神の言葉について考えている。「さぁな。取り敢えず、もうセイリー族は贄じゃないってのくらいしか」「だよなぁ」 俺の返答にツバキは大袈裟に溜息を吐く。結局の所、セイリー族が贄ではなくなったが別の贄が何なのか分からず、そして【十晶石の幻柱】がなくとも禁術は発動出来ると言う事くらいしか分かっていない。 また、贄でなくなったとしても、セイリー族から危険が去ったと言う訳ではない。鬼神は禁術の発動を終えたら血祭りに上げると言っていたので、どちらにしても禁術発動阻止をしなければクエストは不達成になる筈だ。 現在、幻柱に囚われていたセイリー族は全員セーフティエリアである道に横たわっている。あそこならモンスターに襲われる事が無いので、当分の間は安全だ。ここにいたセイリー族は解散する前にゴダイ達と俺の五人でマップを頼りに運んだ。直ぐ隣りが道で結構早く終わったんだよな。「で、あいつの言ってた事から贄は別の何かが既に用意されてんだろ?」「しかも、どうしてか分からないけど魔力を持たないって前提条件がある」 鬼神が、そして神子も言っていた魔力を持たないと者が贄と言う条件。【十晶石の幻柱】が全て壊された今、セイリー族は贄から外れたが、代わりの贄が何処かにいるらしい。「何で魔力を持ってると駄目なんだ?」 ツバキは首を傾げながら俺達に尋ねてくる。「それも分からん」「分からない事ばかりですね」 俺と、そして右隣りにいるサクラは同時に溜息を吐く。「禁術ってのがどんな効果持ってんのかも分からないけどな」 実際、鬼神がどのような術を発動しようとしているのか分かれば、ある程度の予測は立てられるのだが。 ……ん? そう言えば、鬼神関係で今の所触れられてないのがあるな。あれも今回のクエストに関係してると思うんだが……。「…………」「どうしました?」 黙っているとサクラが気になったようで声を掛けてくる。「いや……そう言えば今の所水晶玉についてなんら情報が出てないと思ってな」「水晶玉?」 左隣りにいるアケビが声を上げると、その後を紡ぐようにツバキが口にする。「水晶玉ってぇと、神殿で情報募集してた奴の事か?」「あぁ。そう言えばツバキ達は知らないか。【腐骨蛇の復活】クエストのあった夜に出た緊急クエストであの鬼神と戦ったんだ。その時【十晶石の幻片】の他に水晶玉を持ってたんだ」「お前、一度戦ってたのかよ。夜の森に落ちて緊急クエスト受けたってのは訊いてたけどそこは初耳だわ」「あの時はそこまで詳しく説明しなくてもいいと思ってたからな」「まぁ、あの時は俺達も訊こうとは思わなかったし」 ツバキはうんうんと頷く。あの時はクエストをやるって事の方が優先順位が高かっただろうしな。「で、あの時の鬼神は水晶玉を持ってたんだ。最初は何の変哲もなかったが、徐々に黒い靄のようなのが中に溜まって行った。そして、サモレンジャーの攻撃でやられる時に水晶玉にダメージがいかないようにわざわざ放り投げて、その後復活した鬼神が拾って消えた」「それ訊くと明らかに重要な物って印象しかねぇな」「ただ、水晶玉は禁術の発動条件について何にも触れられてなかったからもしかしたら関係ないのかもしれない」 このクエストに関係はあるかもしれないと思ったが、禁術についてはそうとは限らない。神子も何も言っていなかったから、本当に関係ないかもしれない。「でも、関係あるかもしれないんだろ? だったら水晶に靄が溜まったって言う跡地に行ってみようぜ」「……けど、フチ曰く何もなかったらしいんだよな」 サモレンジャー(恐らく)が調べていたらしいけど、何の成果もあげられなかったと昨日フチから訊いた。サモレンジャーだったら人助けを生業としているのでいい加減に調べるなんてことはしない筈だから、本当に何もないんだと思う。「今なら何かあるかもしれないじゃん。ほら、早いとこ行こうぜ」 だが、ツバキの言う通り最終クエスト発生中の今だと何かしら起きているかもしれない。「……そうだな」 そう言う訳で、俺達は【鳥のオカリナ】で鳥を呼び、跡地へと向かう。一番早く着いたのは俺だった。鳥は俺を酔わせない事を第一にしてくれたらしく。全速力で一気に飛んで行った次第だ。「……ごふっ」 着いた瞬間に地面に転がって酔いを醒ます。本当、この体質どうにかならないかな? ただ、慣れろと言われても絶対に慣れないだろうけど。 サクラ、アケビ、ツバキ、カエデの四人とパートナー三匹は同時に着き、グロッキーな俺を心配してくれたがそれよりもここを調べてくれと伝え、散り散りになって行く。幸いここもセーフティエリアなのでモンスターが出る事はない。 だが、それでも【腐骨蛇の復活】の時や鬼神の事もあるので念の為にとリトシーとリークが俺の傍にいる。……まぁ、この二匹は仲が大変によろしくて俺の周りを跳びはねまくって振動が発生し、酔い醒めの進行速度が下がっている。 その様子を遠くから見ていたらしいサクラによって二匹は探索係へと異動し、代わりにそのままサクラが傍にいる事になった。サクラは先の二匹と違って騒ぐ事はしないので、これで回復に専念出来る。「…………」「…………」「……あの」「ん?」 大方回復して来た所で、サクラが声を掛けてくる。「……こんな時にって思うかもしれないんですけどちょっと、訊きたい事があるんです」「何だ?」 上体だけを起こしてサクラの方を見る。目は泳いでおらず、真っ直ぐと俺に向けられている。「……………………僕と、オウカさんって」 長い為の後に、サクラが口を開く。「駄目だ! 何も見付かんない!」 それと同時にサクラの後ろの方からツバキが走ってこちらに近付いてくるのが見えた。ツバキの声にサクラは反射的に振り返り、直ぐに俺の後ろにしゃがんで隠れる。「いやはや、こんなだだっ広い場所駆け回ってても何も無いな」「お前は犬か」 そう言えば、ツバキはずっと走っていたのが視界に入ってたな。そんなんできちんと調べられるのか? と思ったがツバキは【観察眼】のスキル持ちだ。他のプレイヤーよりも効率よく異変を見付けられるので走って行った方が時間の短縮にもなるんだろうな。「犬は俺じゃなくてきまいらじゃないか?」 ツバキは嫌そうな顔一つせずに後ろで同様に走り回っているきまいらを指差す。確かに、フォルム的にもきまいらの方が……ないな。「いや、あいつに犬のパーツないから。大体が猫のパーツだから」 正確にはライオンだが、もう幼くなった見た目が猫にしか見えないので敢えてそう言う。「そこは気にすんな」「気にするよ」 けらけらと笑うツバキは「所で」と言ってからまるでおちょくるかのような笑みに変えていく。「お二人はなぼがぁ⁉」 最後まで言えずに、そのまま勢いよく前方に倒れて顔面を強打した。「はい、茶々入れない」 どうやらカエデのドロップキックが炸裂したようで、彼女は現在両足でツバキの肩甲骨辺りを踏み締めて立っている。因みに、カエデの表情は少し怒っているように見える。「いや……別に茶々入れた訳じゃ」「そうじゃないにしても、明らかにお邪魔したようにしか見えなかったけど?」「…………えっと、あの、その」「ツバキだって、そう言うの嫌いでしょ? 人がやられて嫌な事をしない」「…………はい」 何か、段々とツバキが小さくなっていってカエデの声は終始冷たかった。一体何があったんだ? 俺には全く分からない。「悪いと思うんなら、サクラに謝る」「御免なさい」 ツバキはカエデに踏まれながらサクラにだけ謝った。どうやらサクラの人見知りを発動させてしまった事に対してカエデは怒ったようだ。多分。でもそれなら茶々を入れるって表現になるか? ……分からん。「い、いえ……気にしないで、下さい」 サクラは首を横に振る。サクラは気にしていないようだ。「これ、どう言う状況?」 と、アケビと四匹もこちらにやってきた。この状況が分からないらしく、アケビは小首を傾げている。「ツバキが走って近付いてサクラの人見知りを発動させてカエデがそれに怒ってドロップキックかまして、ツバキがその事に謝ったって状況」 俺は簡単に状況説明をする。「「え?」」 が、どうしてだかツバキとカエデは目を点にして同時にそんな声を漏らした。何だ? 違ったのか?「……オウカ、お前」「……気付いてない?」 ツバキとカエデは有り得ないような目で俺を見てくる。「何がだ?」「「はぁ」」 で、溜息も吐かれた。本当、何なんだよ一体?「まぁ、大体分かった」 アケビは今ので何なのか悟ったようだ。俺は分からないままなんだが。そしてリトシー達もなんだか俺を見る目が憐れみを帯びているような気がする。いや、サクラを見る目か。「……で、アケビ達はどうだったんだ?」 兎にも角にも完全に酔いが回復した俺は戻ってきたアケビ達に訊いてみる。「いや」「何にも」 しかし、ツバキと同様に成果は無かったようだ。リトシー達も一様に首を横に振る。「……となると、一旦水晶玉の事は頭の隅に置いた方がいいか」 水晶玉に関してはこの跡地以外で関係しそうな場所がないので、ここで何も手掛かりが無ければ一時的に置いておくしかない。「すると、禁術の発動場所とか贄が何なのか考える?」 アケビの言葉に全員が首を縦に振る。「禁術の発動場所ってのはあの映像から光の射さない暗い場所だと思うけど、そんなの何処にある?」 で、最初にアケビが発言する。まだ【妖精の十晶石】に魔力が残っていた時に表示されたモニターに鬼神と【十晶石の幻塊】が映っていたが、そこは幻塊の放つ光は存在せず、暗かった。それ以外の視覚的な情報はなく、現段階だとそこが何処かまでは分からない。「分からん」「ですよね」 しずしずと手を下げて一歩下がったアケビ。そんなアケビの足元にきまいらが擦り寄って行ったのが何か微笑ましい。「だったら贄が何なのか考えるか?」 次にツバキが手を上げて発言する。「今分かってるのは魔力が無いって事と、あと恐らく結構な人数が必要って事だ。セイリー族全員が贄にされかけたんだから多分そうだろ」 ツバキの後半の言葉は憶測でしかないが、確かにその可能性はある。大人数いなければもしかしたら禁術の発動に支障が出てしまうのかもしれない。「でも、もう贄の準備は出来てるんでしょ? しかも、セイリー族じゃない」「そうなるな」「確か、普通のNPCも魔力は持ってるから贄にはならないよね」 カエデが俺の知らない情報をさらっと口にする。「そうなのか?」「サモテの世界設定的に、NPCでも修練すれば魔法が使えるらしいから、多分そこからの推測だと思う」 隣りにいるアケビに訊いてみると、そのような答えが返ってきた。……そうなのか。知らなかった。まぁ、その推測が正しいのなら、NPCは贄になれないと言う事になる。「NPCが贄にならないとなると……う~~ん」 話題を提供したツバキだが、そこから先は分からずに腕を組んで首を捻るばかりだ。他に考えられたのはハビニーだが、女王が補助魔法を発動出来るのであの種族にも魔力があると思うので除外だ。「あ、あの」 と、ここで俺の背に隠れたままのサクラが俺の肩越しに顔を出して小さく手を上げる。「贄って、人じゃないと、駄目、なんでしょうか?」「……あぁ、成程。モンスターの可能性もあるのか」 その疑問に、その可能性を忘れていたとツバキが眼を瞬かせる。そう言えば、別に贄は魔力が無いと言う条件しかなく、セイリー族だとか、人だとかの制限は言ってなかったな。「でも、モンスターにも魔力はあるんじゃないか?」「ある種類と無い種類が存在してる。この森で言えばホッピー、アギャー、トレンキ、ダヴォル、クォール、セレリル、アングールは魔力持ちでイワザルとバッドットは魔力を持たない」 俺の疑問にカエデが答えてくれる。あぁ、そう言えばウィキにもモンスターのステータス載ってたな。誰がわざわざ調べたのか分からないがカエデが言うまで忘れていた。「つまり、モンスターを贄にするならイワザルかバッドット…………」 と、ここまで言って俺はまさかと思ってしまう。ふと顔を上げて見るとアケビ、ツバキ、カエデも思い至ったようで、軽く目を見開いている。サクラも肩越しに小さく「あっ」と気付いたような声を上げる。 贄は魔力を持たず、恐らくかなりの数を必要とする。 そんな条件をクリアしているものがある。 ……あのボボナの実に群がってるイワザルの群れだ。「「「「「…………」」」」」 俺達は無言で【鳥のオカリナ】で鳥を呼び、未だにマーカーをつけているイワザルが群がっているボボナの実が生っている場所へと向かった。


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