喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

78

 目を開ければ、ソファに横になっていた。 で、更に言えば目の前に横から覗きこんでくるサクラの顔があった。「……近い」 俺の顔とサクラの顔の間に手を入れ、額を押して退かそうとする。「…………」 しかし、サクラは反抗して顔を退けようとしない。「……何なん」 と、言い掛けて、止める。 そう言えば……結局サクラにもアケビにもメッセージ送ってなかったな。 その影響か、泣き顔ではなく、怒り顔だった。もう二回目だからな。夜中に勝手に抜け出すの。そして、約束事(報告、連絡、相談)を完全に守らなかったので俺に怒りが湧いているのだろう。「…………えっと、すまん」 謝罪を言った瞬間に、説教タイムが始まった。 最初はサクラ、次に実は横に控えていたアケビによるダブルアタック。その後にリトシー、フレニア、きまいらによるジト目攻撃。結構精神に来るな。「本当、すまん」「全然反省しているようには見えない」 これでも反省はしてるんだけどな。ソファに顔を埋めるようにして土下座もしている訳だし。床に降りられないのは「その場で正座」と言うアケビの言葉に従ったからなんだが。それとも、俺の現在の行為じゃなくて同じ過ちを二度も行っている事に対してか? あ、そう言えば疑問に思っていた事があった。 俺はそろそろと顔を上げ、二人の様子を窺いながら質問しても大丈夫だと思い、口にする。「所で、どうして俺はフチの家にいるんだ?」「カエデさんが運んできました」 と、サクラが答えてくれる。そうか、あの後カエデが運んで来てくれたのか。きちんと礼を言わないとな。 ……ん? と言う事は、だ。「カエデから訊いたか?」「オウカ君が緊急クエストに行ってやられそうになったって訊いた」 かなり省略されているが、間違ってないな。まぁ、それでも俺が何処に行ってたのかってのもカエデに訊いたからその件については何も質問されなかったのかもしれない。「……で」「で?」「オウカ君はどうして私達に何も言わずに出て行ったの?」 アケビが真っ直ぐと俺を見下ろしている。言い訳、と言うかきちんとした理由があったからそれを伝えるとする。「そりゃ、夜遅かったし、全員寝ていたから起こすのは忍びないと思ったからだ」「メッセージも送らなかったのは?」「メッセージの受信時に出るウィンドウで起きるかもしれなかったし、あと終わって直ぐに戻れば大丈夫かと」「…………はぁ」 何故か、アケビに溜息を吐かれた。「あのね」 アケビが俺の眉間に人差し指をぐりぐりと押し付ける。「オウカ君は、人の為を想って行動していると思う。けど、それがその人にとっていいと思える行動になってない場合があるの。よかれと思ってやっているんだと思うけど、その行動の所為でオウカ君を心配する人がいるのを知っておいて。今回のがそれに当たるから」 眉間から指を離し、腕を組むアケビは少しだけ目を細める。「友人がいきなりいなくなって、そして連絡もつかなくなったら心配するよ。私も、サクラちゃんも。いくらゲームの中の世界だとしてもね」 アケビは顔をサクラに向ける。サクラは俺の方を見てアケビの言葉を肯定するようにゆっくりと頷く。「……悪かった」 俺は深々と頭を下げる。 さっきまでの謝罪とは違い、心配を掛けさせてしまった事に対して謝る。「……分かればよろしい」 アケビはそう言うと、俺の横に腰掛けてくる。「…………」 サクラもそっと、アケビとは反対の方に座ってくる。 もう顔を上げていいと言われたので、顔を上げる。するとそれぞれの膝にパートナーと召喚獣が乗っかってくる。リトシーにも心配を掛けてしまったので頭を撫でる。 それと同時に、メッセージが届いたのでリトシーの頭を撫でながら確認する。
『送信者:Summoner&Tamer Online運営  件名:途中経過ランキング(第六回) 』
 運営からの第六回のランキングについてのものだったので、直ぐに開いてみる。
『※このメッセージはイベントに参加しているプレイヤーの皆様に一斉送信しております。
 ソロイベント、パーティーイベントの上位5位までの途中経過ランキングをお伝えします。

 ソロイベント途中経過ランキング(第六回) 1位 カンナギ   Point 2789 2位 リース    Point 2778 3位 琥太郎    Point 2776 4位 KOTOHA Point 2500 5位 マーガレット Point 2498
 パーティーイベント途中経過ランキング(第六回) 1位 エール(PL)     Point 1276 2位 機甲鎧魔法騎士団アーマードマジカルナイツ    Point 1232 3位 ギーグ(PL)     Point 1114  4位 オウカ(PL)     Point 1108 5位 召喚戦隊サモレンジャー Point 1101
 ※パーティーネームを設定していないパーティーにつきましてはPL様のプレイヤーネームのみを表示しています。

 ご意見、ご質問等がございましたら、随時運営までご連絡下さい。』
 緊急クエストに参加した御蔭で四位になった。あともう少しで目標の三位に届く。 ふと、メニューに表示されているゲーム内時間を確認する。今の今まで現在の時間が分からなかったのでな。窓の方を見ても外はもう明るいから、とっくに朝を迎えているのは分かっているが。 現時刻は午前の七時三十分。説教タイムに三十分くらい使ったから、俺が眼を覚ましたのは七時くらいか。「ん?」 と、ここでフチがこの場にいない事に気付いた。そう言えば、説教の時もいなかったな。どうしたのだろう? 辺りを見渡しても何処にもいない。「フチは何処だ?」「もう神殿に行ってる」「神殿に?」「二時間くらい前に神殿の人が来て、フチさんを連れて行きました。何でも【妖精の十晶石】の輝きが更に増したそうです」 アケビとサクラが交互に答えてくれる。 また【妖精の十晶石】に異変が起きたのか。……もしかして、【十晶石の幻塊】のクエストを達成したからか? 達成時に揺らいでいた幻塊は【妖精の十晶石】そのものにしか見えないくらいに安定していた。 もしかしたら、【十晶石の幻塊】と【妖精の十晶石】はリンクしているのかもしれない。【十晶石の幻塊】に溜められた力が【妖精の十晶石】に流れ込んで行っていると仮定すれば、【妖精の十晶石】の輝きが増した事について説明は付きそうだ。 そう考えると、あのローブの目的は何なのだろう? 跡地で水晶玉の中に黒い靄を生じさせ、【十晶石の幻片】を持っているプレイヤーを幻人と戦わせた。後者に関しては原理は分からないけど【十晶石の幻塊】に力を溜める為だったと分かるが、前者については今でも分からない。「オウカ君?」 わざわざサモレンジャーの【オーロラブレイク】の直撃を受けないように遠くに捨てたのだから、重要なものと言う事は分かるが、何に使うのかが見当もつかない。 そして、シェイプシフターが姿を変えたあのセイリー族の女性はローブにとって何なのか? ただ、ローブは女性自身を怖がっていたのではなく、女性の向ける視線に恐怖していた。「オウカさん? どうしました?」 考えられるのは、あの女性はローブにとって特別な存在なのかもしれないと言う事か。君までそんな目で見ないでくれと言っていたので、ローブはあのような目を他人に向けられていたのだろう。女性だけが、冷たい目でローブを見ていなかった、と。 ……ん? 何か引っかかるな。 何だろう……もう少しで見えてきそうなんだが。「オウカさんっ」「オウカ君っ」「うおっ」 至近距離でサクラとアケビが大きな声で俺の名前を呼ぶ。その所為で、何が引っ掛かっていたのか余計に分からなくなってしまった。「な、何だよ?」 耳を抑えながら二人に尋ねると、代表してかアケビが呆れたように口を開ける。「急に黙り込んだから、どうしたのかと思った」「あぁ、悪い。少し考え事をしてた」「考え事?」「今まで受けていた緊急クエストにつ」 俺が最後まで言う前に、物凄い地響きが襲い掛かってくる。余りの衝撃に、ソファに座っていた俺達三人は宙へと放り出され、顔面から床にダイブしてしまう。俺の上にリトシーときまいら、フレニアの順で降り注いでくる、どうして俺の上にこいつ等が降って来るのか疑問だったが、それよりも現れたウィンドウに目が向く。
『緊急クエストが全て達成された事により【秘宝の異変】の進行度が一定値に達しました。 これにより、全パーティーに最終クエスト【鬼神の願いと神子の望み】が発生します。 緊急クエストを受ける意思のあるプレイヤーはクエスト発生からゲーム内時間で30分が経過するまでに神殿内部にお集まり下さい。』
 最終クエスト【鬼神の願いと神子の望み】。 鬼神。百年前のスケアリーアングールの襲撃で先陣を切って戦った者。生まれながらに魔力を持たず、同族に馬鹿にされ続けた。 そんな鬼神を唯一馬鹿にしなかったのが神子。自らの命を持って、百年前の襲撃を終わりへと導いた。 フチから語られた昔話で、俺はその事を知った。 先程引っ掛かっていたものは、ローブの正体だと分かった。 そして、その正体についてもクエストのタイトルとイベントで集まった情報がガチッと噛み合い、導き出された。 ローブは、鬼神だ。


「喚んで、育てて、冒険しよう。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く