喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

another 04

 暗く、光の射さない場所だった。 現在は完成された【十晶石の幻塊】の光によって照らし出されている。「はっ、はっ、はっ」 胸を手で抑え、膝を床について荒い呼吸をする者がいる。「はっ、はっ、はっ、違、うっ」 頭を振り、先程の光景を否定する。「あれは、違うっ。あいつ、じゃないっ」 シェイプシフターが変化した存在だという事までは分かっていないが、あの冷たい目を向けてきたのが本人ではないと一番分かっている。 しかし、そうだとしても同じ姿であのような目を向けられれば、動揺をしてしまう。「分かってるっ、分かってるんだっ」 床に何度も拳を打ち付け、痛みによって理性を取り戻していく。「……そうだよ、あいつは、俺の見てる中で……」 荒い呼吸は収まり、辛い記憶を呼び覚ましていく。「……だから、俺は……私は……」 落ち着きを取り戻していき、口調も素から無理矢理変えたものへと変わっていく。「私は、君を取り戻す為に、長い年月を費やした」 ゆっくりと立ち上がり、光り輝く【十晶石の幻塊】へと視線を向ける。「その為の準備も、もう整った」 一歩一歩踏み締め、少し遠くに転がっている球体を拾う。 拾った球体は二つ。 一つは、中に黒い靄で満たされた水晶玉。 もう一つは、【十晶石の幻塊】と同じような十色の輝きを内包している珠。「……さぁ」 二つの球体を持ち、それを同時に【十晶石の幻塊】へと投げる。それらは跳ね返る事無く、中へと入り込む。そして、ゆっくりと【十晶石の幻塊】の中心部へと上昇していく。「……もう直ぐ、私と君の願いが叶うよ」 ほくそ笑みながら、【十晶石の幻塊】を見続ける。「だから、もう少しだけ待っていてくれ…………フラト」 中央に移動した十色の輝きを内包した珠は、制止を試みるように明滅するも【十晶石の幻塊】の光に遮られ、誰の眼にも届く事はない。


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