喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

62

 もやもやを解消する為、少しばかり自棄を起こしてみた。 アンデッドを包丁と蹴りで一掃しながら一度蛇行して後ろに下がり、体力が全快したのを確認するとそのままプレイヤーやパートナーモンスターのいないアンデッドの群れの中に入って行きスキルアーツ【圧殺パン】をお見舞いする。 体力満タン状態の【圧殺パン】は範囲も威力も最大値をマークしている。「くらえっ」 巨大化したフライパンをそのまま振り下ろし、手には様々な大きさ、そして微妙な柔らかさを伴う感触がフライパンを伝って俺の手の触覚に訴えてくる。 正直、気持ち悪いとしか言えない感触を一度に凝縮したようで手を離したい衝動に駆られるが、ここで話すとスキルキャンセル扱いになりかねないのできっちりと最後まで振り下ろす。 体力が一気に0になり、その場に倒れ込む。フライパンの大きさも元に戻り、取り敢えずフライパンが当たったアンデッドは光となって消滅したようだ。視界に上へと昇って行く光が入る。 このまま倒れ込んでいたらアンデッドに襲われるだろう。自棄を起こしたとはいえ、もう少し計画的にやればよかったな。まぁ、人的被害がないだろう場所を選んだ理性くらいは残っていたが。……まぁ、絶対にいないとは言い切れないけどポイントが減っていないので大丈夫だろう。多分。 取り敢えず、少しでもアンデッドの餌食にならないように芋虫のようには地面を這って後退する。傍から見れば無様にしか見えないだろうが、今の俺は気怠さ全開で自力で立つ事が出来ない。なので、こうやって進むしかないのだ。ただ、それでも進行速度はかなり遅いが。 そうやって行きながらも体力が自然回復していき、また恐らくサクラだろうが俺に料理アイテムを使用して体力が、生命薬を使用して生命力が回復。一分くらいで全快したので即座に立ち上がってそのまままたアンデッドの群れを見付けて躍り出る。 蹴って叩いて蹴って蹴って切ってスキルアーツ叩いて叩いて切ってスキルアーツ切って叩いて蹴ってスキルアーツをお見舞いする。倒しても倒しても出て来るのでもう攻撃あるのみ。「ふっ」 蹴りを入れてアンデッドホッピーを遠くに蹴り飛ばすと、地面が急に光り出す。「何だ?」 その光は柱となり、アンデッドとプレイヤーを呑み込んでいく。思わず目を瞑り、光が弱まるのを待つ。
『緊急クエスト【腐骨蛇の復活】を達成しました。 これにより、エリア【クルルの森】でボイスチャットが使用可能になりました。 これにより、【セイリー族の集落】で購入可能アイテムの種類が増加しました。』
『【中級小刀術】のスキルアーツ【乱れ切り】を覚えた。 【中級小鎚術】のスキルアーツ【ショックハンマー】を覚えた。 【中級蹴術】のスキルアーツ【蹴流星】を覚えた。      』

『Point 272』
 目を閉じていてもコマンドウィンドウのようにクエスト達成の旨が伝えられてくる。 瞼をトウカしてくる光が完全に無くなったのを確認し、目を開けると、そこにはプレイヤーとパートナーモンスターがいるだけで、アンデッドもスケアリーアングールが出した煙も存在していない。 ……あぁ、クリアしたんだな。ただ、そんな実感これっぽっちも無いんだが。 その原因はあのアングールを倒せなかった事にあるんだろうな。あれだけ大きくて、このクエストの難所のように見えるあいつを倒せなかったのが……もやもやする。少しでも倒すのに貢献出来ていればこんな事にはならなかったんじゃなかろうか? ……折角のゲームの中であんなにデカいモンスターと相対で来たって言うのに。「ピー!」 そんな俺の首根っこを呼んでもいないのに降り立ってきた鳥が摘まんでそのまま背中へと放り投げる。「しー!」 既にリトシーが乗っており、俺に頬擦りしてくる。頭を撫でてやり、鳥の背中にしがみつく。 何時も通りに凄まじいスピードで上へと向かい、発着地点に到達。そこからは例の如く酔いを醒ます為に転がり落ちて俯せになる。その際にリトシーを後頭部に置いて鳥の突っ突き攻撃を防ぐ。流石にリトシーが乗っていればしてこないだろう。「……オウカ、何やってんだ?」 と、誰かが俺に声を掛けてくる。声の質からして……多分ツバキだろう。「…………」 俺は事情を説明するのは回復してからと決め、そのまま無言を貫く。声を出すのも辛いので。「ツバキ、その子がリークを保護してくれたって人?」 と、別の声が聞こえてくる。高いから女性だろうな。「そうだよ」「……この子の頭に乗ってるのはリークじゃないようだけど」「そりゃ、このリトシーはオウカのパートナーだからだろ」「でも、だったら何で俯せのパートナーの頭の上に乗ってるの?」「……さぁ? 知らない」「と言うか、生きてるの?」「いや生きてるだろ。死に戻りしてたらここじゃなくて神殿に行くし」「それもそっか」 そんな会話が俺の頭上で繰り広げられている。「ねぇ、そこの頭に乗ってる君、どうしてこの子がここで俯せになってるか教えてくれない?」「しー……しー……」 と、女性らしき声の持ち主がリトシーにそんな事を訊いている。ただ、リトシーは人語を話す事が出来ないので身振り手振りとなるが、まず酔っているというのは身振り手振りで伝わる事はないだろう。リトシーも俺の頭の上で動く気配も無くただ鳴くだけだし。「成程、鳥に乗って酔った、と」 何でリトシーの言っている事が分かった?「酔ったのか……」「どうやらこの子は物凄く酔いやすい質で、初めてここに来た時はかなりグロッキーになってたみたい」「あれだけ動けるのに、三半規管弱いのか?」「それは本人に訊いて」「しー!」 と、リトシーの声が頭上からではなく遠くから聞こえてくる。と言う事はギザ葉、もといリークがツバキを発見したか? 酔いも回復してきたので、リトシーを両手で持って頭から退かし、顔を上げる。「リーク!」「しー!」 丁度リークがツバキの胸へと跳んで行き、ツバキが両手でキャッチする瞬間が見えた。「オウカ君発見」 リークが跳んできた方向に目をやると、アケビときまいらが先導し、アケビの背中に隠れるようにしているサクラの横にしっかりと張り付いたフレニアがこちらに向かってくる。「お疲れ様」「お、お疲れ様、です」 緊急クエストを終えての労いの言葉を投げ掛けてくるパーティーメンバー。「……おぅ、サクラもアケビも、お疲れ」 俺はやや目を細めてしまう。この言葉でクエスト達成したのだと再確認され、あのアングールを倒せなかったのもやもやがまた表に出て来る。「どうしたの?」「……何でもない」「そう? でも不貞腐れてない?」「てない」 アケビはどうやら俺が不貞腐れているように見えるらしい。別にもやもやがあるだけで不貞腐れてなんかいない。断じてない。「そう言うならいいけど。そっちの迷子が跳びついて行ったのがパートナー?」 と、アケビは視線を俺からツバキとリークの方に向けている。何か、リークは滝のような涙を流していて、ツバキが必死にあやしている。そこまで会いたかったのか。そして会えないのがつらかったのか。よかったな、会えて。「そう。名前はツバキ」「隣りの人は?」「隣りは……」 俺はツバキの隣りにいるプレイヤーに初めて視線を向ける。 暗赤色の髪を項辺りで二つに纏めてツインテールにしており、背がツバキよりもやや高い。ツバキ同様の水色の目は狐のように細められている。初期装備の服装の他には背中に長弓と矢筒を背負っている。所謂アーチャーって奴だろう。「初めまして。わたしはカエデ。ツバキのリーク――リトシーを保護して下さってありがとうございます」 女性――カエデは俺達の方を向くと流れるような動きで頭を下げて礼を述べる。「初めまして。私はアケビ。この子はきまいら」「さ、サクラ……で、す。この、子はフレ、ニア」 女子二人も自己紹介をする。「でも、実際に保護したのはこのオウカ君とリトシーで、私達はそこまで関与していません」 俺が名乗る前に、アケビが俺の名前を言って俺の背中を押して前の方に出してくる。「ありがとうございます」「オウカ、サンキュな」 カエデと、そしてある程度リークをあやし終わったツバキが改めて礼を述べてくる。
『Point 302』
「ん?」 どうしてだが、いきなりポイントが30も入ったんだが? どうしてだ?
『メッセージを受信しました』 そしてこのタイミングでメッセージを受信。だが、今は開く雰囲気ではないと分かっているので無視する。「どうした?」「いや、何でもない」 軽く頭を振って、俺は改めてツバキとカエデの方へと目を向ける。そう言えば、カエデの近くにパートナーがいないな? 【サモナー】か?「あ、オウカのパーティーに自己紹介してなかった。俺はツバキ。【テイマー】の刀使いだ」 と言う俺の疑問を余所にツバキはリークをゆっくりと地面に降ろしたのち、背筋を伸ばして軽く自己紹介をする。「で、オウカと……そしてオウカのパーティーの皆に何か礼をしたいんだけど」 その言葉にカエデも同意して頷く。そう言えば、緊急クエストの時もそんな事言っていたな。「こっちもリークに助けられた場面があるから、気にするな」 ハビニーを助ける際にはリークの援護がなければ危うかった。なのでその件も加えるとプラスマイナスゼロになるだろうから礼は要らないと勝手に判断した。一応サクラとアケビにも目を向けて確認を取ると、二人とも頷いていた。「……でもなぁ、そっちが気にするなって言っても俺は納得出来ないんだけど」 ツバキは、そしてカエデの方も眉間に皺を寄せている。「……ん~~」 云々唸るツバキ。だから、気にする必要はないって言ってるのに。「だったら」 と、ここでアケビが提案をする。「一つ、クエストを達成するのを手伝ってくれませんか? 一つ、私達だけではどうしても達成出来そうにないものがありまして」 そんなのあったか? と腕を組んで記憶を掘り起こす。あ、ボボナの実を手に入れる必要のあるアレか。あれはイワザルが多過ぎて断念したままだったな。パーティーの総力をもってすれば倒し切れる事が出来なくもない気はするが、それでも戦力は少しでも多い方がいいだろうな。ナイスだアケビ。「分かった。恩人の手助けさせて貰うよ。と言うか是非に手伝わせてくれ」 即ツバキは首肯する。カエデも頷いている。「あ、あと互いに敬語は無しでよくないか? 見た所同年代っぽいし」 と、ツバキがそんな提案をする。確かに、見た目だけならば全員十代半ばと言った外見をしている。ゲーム内なので実年齢はどうだか分からないが、確かに敬語で話すよりは自然に見えるな。ツバキは最初から敬語ではなかったが。あと俺もだけど。「分かった」 アケビは早速順応。その後ろでサクラは未だに隠れている。……あ、アケビの提案はサクラに取ってキツイものだったか。だが、今更やっぱりなしでと言う雰囲気でもないからなぁ。なるべく打ち解けて貰うようにゆっくり話し掛けて貰うようにするか、もしくは極端な話サクラの視界に二人を入れないようにするか、か。「取り敢えず、神殿に行かない? 色々と訊く事もあるだろうし」 と、こちらも敬語をやめたカエデが促す。周りを見れば、誰も彼も神殿へと向かっている。「そうだな。行くか」 と言う訳で、一度俺達は神殿へと向かう。道中に互いにフレンド登録を済ませておいた。これで何時でも連絡が可能だ。 ……そう言えば、リースから来たメッセージ開けてないな。まぁ、一度落ち着いてから見るとしよう。


「喚んで、育てて、冒険しよう。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く