喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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「……デカいな」 先程まで結構な数を相手にしていたチルアングールよりも十倍以上の巨体を誇る蛇がそこにいた。流石にスケアリーアングールよりは小さいが、それでも俺よりも遥かに長い体長だ。「アングールかよ」 大剣使いがげんなりとしながら呟く。「これがアングール……がアンデッド化した奴なのか?」「多分そうだろう。チルアングールよりもデカい蛇なんてアングール以外に知らん」 アングールは体を盛大にくねらせ、周りにいるプレイヤーを薙ぎ払っていく。巨体の割に動きが素早く、吹き飛ばされた者、難とか薙ぎ払いを避けた者に向けて避ける暇もなく何人かのプレイヤーが呑み込まれて死に戻りされた。「こいつは北の森に出現する大型エネミーなんだよ。……こいつに何度死に戻りさせられた事やら」 どうやら大剣使いが来たの森を突破出来ずにいる理由はこの大蛇にあるようだ。 そして、このまま放置してしまえばかなり被害が出てしまうな。巨体から放たれる薙ぎ払いだけでなく、呑み込みと言う即死技も使ってくるので突破されたら一気に終わりかねない。「兎にも角にも、こいつを倒さないとな」「あ、オイ!」 結構なプレイヤーが群がっている中、俺も包丁とフライパンを握り締めて突撃して行く。 手始めにフライパンで殴打するが、何と弾かれてしまった。「くっ」 続いて包丁で攻撃するが、鱗が硬すぎてこちらも弾かれる。どろどろねちゃねちゃした外見に似合わず耐久がかなりあるな。もう一発お見舞いすると、今度は弾かれなかったが粘液でずるっと滑る。 アングールが体をくねらせ始めたので即座に撤退。大きな顎を開けてこちらを一呑みにしようとしてきたのでぎりぎりまで引きつけて横に跳び回避する。軽く前転して即座に立ち上がって体勢を立て直す。「お、来たか」 回避した先にツバキが突っ立っていた。刀の峰を肩に当ててアンデッド化したアングールを見ている。「ツバキは戦わないのか?」「いや、戦うよ? 今は様子見してるだけ」「様子見?」「攻撃のパターンとか、寸前の行動で対処出来るように見てる」「成程」 アングールは北の森に出現するモンスターとの事なので、雪原まで行っているツバキはパターンを知っていると思われる。が、それは通常の個体であり、アンデッド化したモンスターとは遭遇していないだろう。 現に、イワザルとホッピーの攻撃パターンが通常とアンデッドで変わっていた。イワザルはホラーゲームよろしくしがみ付いて噛み付き攻撃、ホッピーは目からドロッとした溶解性のある液体を噴出、と絶対に当たりたくない攻撃を仕掛けて来るようになっていた。 なので、こうして攻撃パターンを見極めるのは大切だろう。 俺もツバキの隣に立って、果敢に攻めていくプレイヤー達の攻撃を受けてもビクともしないアンデッドアングールに目を向ける。「この蛇、攻撃効いてるのか?」「こいつ、基本的に物理攻撃が効きにくいんだよな」「なら、魔法主体で相手した方がいいのか?」「そうしたいんだけどねぇ」 またアングールが体をくねらせプレイヤーを弾き飛ばし、丸呑みにしようと大口を開ける。「ここら一帯、何時の間にか魔法が使えなくなってんの」 ツバキが溜息交じりにそんな事を言う。「あと、メッセージも使用不可。チャットは森の中だからそもそも使えない」 メッセージも使えなくなってんのか。チャットに関してはもう気にしてないが。指揮プレイヤーが使えるボイスチャットはどうしてだか例外なんだよな。まぁ、出来る御蔭で情報を習得しやすいんだが。「更に、離脱して直接情報を伝えようとしたプレイヤーもいたけど、ボス戦のように見えない壁に阻まれて出る事は出来ない。ここに来る事は出来るんだけどね」 つまり、俺達は閉じ込められてしまっている訳、か。「と言う訳で、こいつへの有効手段は大剣とかの重装備でのゴリ押し……になりそうだけど、生憎とここにいるプレイヤーの大半は重装備じゃないからなぁ、結構な火力不足なんだよ。」 重装備は両手を使うので盾や【二刀術】が使えなくなるが、一撃の威力は他よりも断然上だ。だが、その代償として装備の大半に器用と敏捷のステータス下降補正が付いてしまっている。何でもパーセンテージでのマイナス補正らしいので、いくらステータスを上げてもそれ相応に低くなってしまうそうだ。「と言う訳で、少しでも有効打を与える為に、俺達でお前をサポートするから」 と、ツバキが後ろを振り返る。俺もそちらに首を向けると、あのトレンキ相手に防戦一方になっていた大剣使いがげんなりとした顔で俺達を見ていた。「俺かよ……」「言っとくと、他のプレイヤーも大方そうしてるぞ。重装備プレイヤーをサポートしながら攻撃の誘導を行ってる」 ツバキの言葉に俺は改めてアングール付近にいるプレイヤーに目をやる。よくよく見れば数人で組んでおり、重装備のプレイヤーが比較的安全に攻撃が出来るように動き回ったり攻撃を仕掛けて意識を逸らさせたりしている。「そうだったのか」「あぁ。誰も無闇に切り掛かっていったりしてないぞ」「…………」 俺は加勢しなくてはと無闇に突っ込んで行ったんだが……もう少し状況を把握するようにしないといけないか。一人で突っ走ってもいい事なんてないし。「と言う訳で、期待しとるよ」「……わぁったよ」 大剣使いの方へと歩み、肩に手を回すツバキ。大剣使いは軽く息を吐く。 そう言えば、こいつってアングールに何度もやられたって言ってなかったか? それはつまりその大剣でも倒し切れなかった事を意味している。「でも、お前ってあれに何度も死に戻りされてんだろ? 大丈夫なのか?」「あ、そうなの?」 俺の言葉にツバキが意外そうな表情を作って大剣使いを見やる。大剣使いは顔を顰めながら言葉を漏らし始める。「そりゃ、俺のパーティーは全員重装備だからだよ。バランス悪いってのは分かってるが、どうしても身内でやってると好きな武器で戦いたいって事になってなぁ」「重装備ばっかだと恰好の獲物だわな」 どうやら大剣使いはリアルでの知り合いとだけパーティーを組んでいるようだ。そして偏りが出て来ても本人達が楽しめればそれでいい、と言うスタンスのようだ。一撃の威力は計り知れないが、その分素早い敵が相手だと苦戦してしまいそうだな。 まぁ、その分を耐久と魔法耐久を上げて防御性能をよくすればある程度は解決するか。ただ、そうするとツバキの言う通りアングールやセレリルと言った即死技を使ってくるモンスターへの解決策にはならないが。「さて、今比較的余裕があるから訊くけど、名前は?」 余裕……とは言っても目の前では戦闘を繰り広げられていて俺達が蚊帳の外で傍観しているだけなのだが、まぁ、そこは気にしないでおこう。パターンを見る為だしな。「ゴダイだ」 やや納得がいかないと言いそうな表情を作っている大剣使いはそれでも名乗る。「そっかゴダイね、俺達の名前は訊いてただろうから省いてもいいよな?」 ツバキの言葉にゴダイは頷く。「で、【サモナー】? それとも【テイマー】?」「【テイマー】だ」「おぉっ。ここに三人の【テイマー】が集結したな」 確かに三人いるが、別にそこまで珍しい事でもないだろうに。プレイヤーは【サモナー】か【テイマー】の二択なんだし。「因みに、パートナーは?」「カギネズミだ」「あぁ、あの罠探知能力が凄いモンスターがパートナーなんだ」 俺はカギネズミがどんなのか分からないので頭に疑問符を浮かべる。何だ? 鍵の形をした鼠とか? それか鍵状の尻尾になっている? 鍵を所持している……? いろいろ想像しても結局それ等は正解ではないだろうと思い、考えるのをやめる。「一応言っとくが、あいつは後衛にいるからな? スケアリーアングール見た瞬間に泡吹いて気絶した」「まぁ、捕食する側と捕食される側だから、仕方ないよね」 そこは俺にも分かる事だった。俺もツバキ同様にうんうんと頷く。「で、そろそろ動かないのか? 正直、これ以上観察していても成果があるとは思えないのだが。あと、生命力と体力の方も減っていくぞ」「ん~、そうだね。今の所アンデッドアングールの攻撃は大まかに分けて二つの行動しかしてないし」 会話中もずっとアングールから目を離さなかったツバキがゴダイの肩から手を離し、首を軽く回す。「一定回数――三十二回攻撃を受けると体をくねらせて弾き飛ばし、丸呑みを始める。くねらせる際はまず円を描くようにその場で回ってから体を震わせ、蛇行してく。あとそれ以外だと頭を振ったり尻尾振ったりしての攻撃だけだね。通常のアングールと違って攻撃の手数が少ないのは救いかな」 確かに攻撃の種類は少なかったな。俺も見ていてこれは分かった。「あと、アングールは攻撃後は〇・三秒硬直する。攻撃を受ければしてきたプレイヤーに向けてカウンターで五割頭で、二割尻尾で攻撃する。残った三割は無視。その際の見分け方は……これは遠目からじゃないと分からないけどほんの僅かに胴体を上げると頭、下げると尻尾。あれくらい大きいと近くからの判断は難しいかな」 いや、何で秒数分かるんだよ?「【観察眼】のスキル持ちか?」「そうそう。これ習得する前と後でかなり変わってさぁ。SL200消費ってのが痛いけど」 ゴダイの問いにツバキは頷いて肯定する。どうやらスキルの力らしい。「さて、観察結果を二人に言ったから、これである程度は攻撃に対処出来るんじゃない?」「いや、三十二回の攻撃とか、俺達以外にも攻撃してんだからアングールの近くにいたら分からねぇだろ」 それには同意だ。アングールを目の前にしていたら視界の外で攻撃を加えているプレイヤーの存在に気付かない。それに僅かに胴体が上がるだとか下がるとか分かるか。「まぁ、ここまで言っといてなんだけど、要はヒットアンドウェイでいいんじゃない? 俺とオウカがゴダイに普通の攻撃いかないように搖動でもすればOK。ゴダイも攻撃したら即座に後退してカウンターと即死技に備える。ぶっちゃけ、そうしてれば問題なしな気がする」「【観察眼】使ってまで観察した意味あったか?」 ゴダイがそう突っ込むと、ツバキは口笛を吹いて顔を逸らす。…………意味は、あまりなかったのか? まぁ、俺としては攻撃の種類と即死攻撃の動きが分かっただけでも儲けものだろうな。あるとないとでは僅かな差だとしても勝手が違ってくるし。「まぁ、深く気にしても仕方ないから、レッツゴー!」 とツバキは俺の右手首を掴むとそのままアンデッドアングールへと向けて駆け出していく。その後をゴダイがついて行く。 確かに、気にしてもいられないな。早く倒して、少しでも楽な状態に戻すとしよう。 と思った矢先に、だ。「……あ」「ってあれ?」「……おいおい」 俺達は立ち止まり、呆然とする事に。 何せ、目の前のアングールが光となって消滅していったのだから。「「「…………」」」 暫し、無言になる俺、ツバキ、ゴダイ。「「「「「倒したぞーっ!」」」」」  反対に歓喜の雄叫びを上げる他のプレイヤー。俺達との温度差がかなりある。「さ、さて。またアンデッド狩りでもしますかね」 と、ツバキがそんな事を言ってそそくさとその場を後にする。「……そうだな」 ゴダイも何やら諦めたように進み始める。 俺もこの場を去ってアンデッドを倒しに行く。 …………何だろう、このもやもやは?

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