喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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 緊急クエスト。臨時クエストとは違い、受託クエスト数にはカウントされないそうで既に十個受けていても受託可能らしい。 集落に戻った俺達は急いで神殿へと向かった。フチに報告するも兼ねて緊急クエストを受ける為だ。俺達の他にも意欲あるプレイヤー達が次々と神殿へと向かって行くので、このままだと入りきらないんじゃないか? と思えてしまう。「皆さん!」 神殿に入るとフチが俺達の方へと飛んでくる。流石にプレイヤーがひしめき合っているので掻き分けるよりも効率はいいか。ただ、例によってこっちに突撃してこないで欲しいなと切に願う。「御苦労様です! そして、大変な事になってしまいました!」「あの蛇が出て来たってのはもう知ってるのか?」「知っているというよりは、感知したという方が正しいです。暴走状態にあるとは言え【妖精の十晶石】には範囲内にいるモンスターを知る機能が備わっていますから」 と、フチは十晶石に視線をやる。あの腐敗した蛇の顔が【妖精の十晶石】に映っている。一種のスクリーンか? あと、その下にクルルの森の地図が表示され、先程までいた場所に赤く点滅しているマーカーがついている。「本来は地図が表示されてモンスターのいる位置にマーカーが付くだけなんですが、暴走状態にある今回は映像を映す事が出来るらしいです」「そうか」 さっきっから背中に張り付いてくるサクラを気にしながらも映像の方へと視線を向ける。
『緊急クエスト発生からゲーム内時間で30分が経過しました。 これより緊急クエスト【腐骨蛇の復活】を開始します。  』
 この神殿にいるプレイヤー全員に伝えるように、【妖精の十晶石】の目の前に巨大なウィンドウが表示される。「フしュァァああアアああああアアアアアアアアアああああアアアアアああアアアアアアッ‼」 ウィンドウが直ぐ様閉じると、大蛇が咆哮を上げる。映像越しでもその大音声は思わず耳を塞いでしまう程だ。そして大蛇の体から煙のようなものがもうもうと発生している。「うわぁ……」 それは誰が漏らした声だろう。いや、多分声に出さずともここにいるプレイヤーの大半は同じような事を思っただろう。 大口を開けた腐った大蛇。ドロドロとしたとても気持ちの悪い緑と茶色とその他諸々を合わせたような色の液体を口から滝になるくらいの量と勢いで流し続けている。ついでにいれば、眼球の無い穴からも、そして肉が腐り落ちた所からも絶賛垂れ流されてる。 正直、見ていて気分のいいものではない。「うぷっ」 少なからず、こういった映像が駄目な人もいる訳で、ちらりと横目で周りを見ると口元に手を当てて吐くのを我慢しているような仕草をしているプレイヤーが何人か散見される。まぁ、VRだから吐く事も無いのだが。 と言うか運営よ。これって全年齢対象ゲームだよな? そんなんで普通に見る人によってはグロい映像を流していいのかよ? そこの所は考慮しとけよ。 と、冷静に突っ込みを入れている俺の背後でサクラが口元を押さえ、フレニアが胸鰭でサクラの視界を遮る。あと、アケビは表情こそ変えてはいなかったが顔色が少し青くなっていた。特に女性陣にはショックな映像だろうな。「……ん?」 と、取り敢えずそのグロい映像に目を戻したら、嫌な物が見えた。 気味の悪い色をした液体から、次々とモンスターが出て来る。いや、生まれて来ているとでも言った方がいいのだろうか? 液体と同じ色をして、皮膚がずるずるに爛れた生き物……と呼べるかどうかは分からない。何せ、どう見ても生きているようには見えない。 虚ろな眼孔の奥には闇しか見えず、動きもパニック映画やホラーゲームのゾンビにみたいに緩慢でふらふらと体幹がぶれまくっている動き。 因みに、種類は豊富だ。あの大蛇と同じ蛇や、セレリルのような蛙、ダヴォルのような狼、イワザルのような猿、トレンキのような木……と、ぶっちゃけて言えば姿がこのクルルの森でエンカウントするモンスターのそれに酷似し過ぎている。 よくよく見れば骨もあって、やはり肉の無い所から露出している。あの液体から骨まで生成されるのか、とどうでもいい事を思ってしまう。また、背中に皮膜の破れた蝙蝠のような翼を備えている。つまり、下手をすれば飛行能力も備えている事になるな。 ……ばたっ。「ん?」 何事かと後ろを見れば、サクラが倒れていた。しゃがんで頬を軽く叩いたり抓って見る。……反応なし。意識がないな。どうやらサクラはこのようなショッキング映像に耐性が無いようだ。 あと、他にも……特に女性プレイヤーでサクラ同様に倒れている人もいれば、足の力が無くなってしまったのか、そのまますとんと床にへたり込む人もいる。あと、男性のプレイヤーでも耐性が無ければ同様だが、男女比でいえば1:5くらいか。 これって、本当に全年齢対象? そろそろ対象年齢制限でもつけた方がいいだろう運営よ。今度姉貴に進言してみるとするか。 で、そのゾンビのように見えるモンスター軍団はのろのろと歩き始めている。映像の下の地図にはおびただしいまでの数の赤い斑点が動いているのが見える。数は百なんてものじゃない。下手をすると五百――いや、千は超えているだろう。 なんか、この緊急クエストの趣旨が分かったような気がする。「これって、まさか……」 フチが驚愕のあまり目を見開き、そしてカタカタと震え始めている。まぁ、これだけのグロテスクな大群はそう見ないしな。 そして、地図に表示されている赤い斑点は遅いながらも、集落へと向けて進行している。「神殿に集まっている人間の皆さん」 と、十晶石の前に白い髭を蓄えた、蝶の翅を背中に生やしたかなりの高齢の男性が立つ。フチのような服を身に纏っているが、それとは違い全体的に気品のある作りとなっていてフチよりも高位なのだろうと予想させる。 老人はしゃがれた声で、この神殿内にいる全ての者に聞こえるように大きな声を出す。その声が通るように、神殿内は静寂に包まれる。「あの映像に映っている大蛇は、百年も昔に我々の集落を襲ったモンスター――スケアリーアングール。その成れの果てだ。どういう訳か亡骸に命が吹きこまれアンデッド化し、配下のモンスターも呼び戻して再びここへと襲撃を仕掛けようとしている」 一息吐き、首を回して俺達プレイヤーを見る。「我々だけではあの数、対処しきれるとは到底思えない。どうか、力を貸していただけないだろうか?」 深く深く、頭を下げる。「無論、既に【妖精の十晶石】の件で迷惑をかけているのは重々承知の上。厚かましいと思われるかもしれないが、一族の危機を救う為、どうか手を貸して欲しい」 老人の言葉は静まり返っている神殿内に響く。「任せて貰おう!」 と、あるプレイヤーが声を上げる。訊いた事のある声だな。 とそちらを向けば、サモレッド含むサモレンジャーの面々がいた。服装は初期装備だが、それに加えて以前見た顔を隠すコスチュームは身に着けている。あれってステータスが上がらない装備だったのか。「助けを呼ぶ声が聞こえれば、何処へでも馳せ参じる!」「どんな不幸に見舞われても、必ず手を差し伸べ助け出す!」「人の笑顔を守る為、戦い続ける!」「それが!」「……我々」「「「「「召喚戦隊! サモレンジャー!」」」」」 ポージングも決め、沈黙をいとも容易く変な空気でぶち壊してくれるサモレンジャー。それがいい事なのか悪い事なのか俺には判別つかないが。 ただ、これをきっかけにちらほらと他のプレイヤーからも「そうだな」「やるか」「あの子の笑顔は俺が守ってやる!」等の声が上がっていく。 イベントだから、ゲームだからと言うのも勿論あるのだろう。それでも助けようという意思がある事には変わりない。現実と同じような仮想空間において、悍ましい相手と戦うとなると惰性だけでは、どうしても出来ない事だろうし。「申し訳ない。感謝する」 顔を上げた老人は涙を流し、また深く頭を下げる。「で、具体的に俺達はどうすればいい?」 サモレッドが皆を代表して老人に尋ねる。老人は涙を拭きながら説明を始める。「まず、我々はスケアリーアングールとその配下を今一度死に戻す秘術を発動する為、神殿にて準備を行う。準備には時間が掛かってしまう故、貴殿らには配下のモンスターの足止めを頼みたい。幸い、スケアリーアングールは体の大部分を埋められているので身動きが出来ずにいる」 つまり、この緊急クエストは防衛戦となる訳だ。制限時間までに倒し尽くすのではなく、進行を妨げればいい。だが、相手の数が数なだけにかなり骨の折れる戦闘になるのは間違いないな。親玉が動けなければ、その分の戦力を他に回せるのが救いだな。「アンデッド化したモンスターは太陽の下では動けない。故に弱点は光、炎属性の攻撃となっている。動きは緩慢だが、力は生前よりも強化されているので注意して貰いたい」 アンデッド系モンスターのお約束か。太陽の下では動けないとあるが、あのスケアリーアングールの出した煙と森という立地上太陽光は完全に遮断されていると見ていいだろう。また、下手に攻撃を喰らうとそれだけで危ない訳か。耐久が低いプレイヤーはヒットアンドウェイで攻撃していった方がいいのかもな。「そして、出来れば戦闘での指揮は貴殿らの中で代表者を決めて任せたい。こちらは神殿内で秘術の発動に集中せねばならなず、また遠方より指示を飛ばすより現場の者の発言の方がその場の戦況に応じやすいだろうという考えの下だ。重ね重ね申し訳ないが」 まぁ、所謂戦争をするのだから、指揮官がいなければ、ただの乱戦となり収拾がつかなくなってしまう可能性がある。ただ、そのような戦闘経験がある者がいるかと言うのが問題で、素直に従うのかと言うのもある。技量、そしてカリスマなどが無ければ叶わない事だ。 投げやりにされていると言われればそうなのだろうが、仕方がないと言えば仕方がないか?「それでは、我々は直ぐに秘術の発動の準備を始める。…………どうか、頼む」 こうして緊急クエストが幕を開ける。


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