喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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「で、そのリトシーは迷子、と」「そうだ」 無事にアケビ達と合流した俺はリトシーが二匹いる事を説明をした。「……迷子になるんだ」「なるらしいな」 アケビが顎に手を当てて俺の後ろを見る。後ろではギザ葉を取り囲んでリトシーとフレニア、きまいら、そしてサクラが慰めている。ギザ葉は自分に危害を加える気配がない事を分かっているが、緊張か何かで身を固くしてしまっている。 それは置いておくとして、だ。 俺はアケビに向き直る。「まぁ、兎に角蜂蜜を手に入れる事に専念しよう。運営には連絡済みだからな」 アケビ曰くこの場所から数分で辿り着ける場所にある蜂の巣へと向かい、臨時クエスト達成に必要な蜂蜜を手に入れるのが目的だ。迷子にばかり構ってられないのが現状だ。時間は有限であるし。「さて、蜂蜜を手に入れる際に蜂をどうにかしないといけない訳だが、結局どうするんだ?」「雀蜂だけを一掃」「やっぱりか?」「うん」 蜂蜜をゲットする際にいくつか作戦の候補を挙げていたが、その中でもアケビは蜜蜂を助ける形で蜂蜜を手に入れる事を選ぶようだ。まぁ、作戦を話し合っている際にアケビが蜜蜂に出来るだけ被害の無いような形にと言う事を言っていたので予想はしていたが。「因みに、蜜蜂ごと一掃ってのは有り得ないよな?」「有り得ない」 即答だった。まぁ、俺も一掃は有り得ないと考えているが。何せ、そうすると雀蜂以外に蜜蜂とも戦わなければならない。 戦力が限られているのでなるべく戦う相手は少なくした方がいいと言う案の下、雀蜂に加担するか蜜蜂に加担するか、二種に構わず蜂蜜だけ奪取……と色々出た。 雀蜂に加担するとなると蜜蜂と戦う事になり、全滅させた後に空になった巣から蜂蜜を手に入れると言う事になるが、蜜蜂よりも凶暴な雀蜂が果たして俺達の行動を黙って見ているかと言う保証がなく、結局雀蜂ともバトルを繰り広げてしまう可能性が浮上。 逆に戦いに参加せずに隠密行動で蜂蜜を奪取するのは運がよければこちらとしては無傷で目的の物を手に入れる事が出来るメリットがあるが、それよりも二種に見付かって結局は乱戦に巻き込まれると言うデメリットが存在している。 で、蜜蜂に加担するとなると、まぁ、ゲームなのでないとは言い切れないが雀蜂を追い払うのを手伝えばその礼として蜂蜜を分けてくれるのではないか? と言う可能性と、雀蜂よりも凶暴ではなく基本的にこちらから何かをしなければ害はないというのが安定している……との事。アケビ談。何やらアケビは蜜蜂に対して思い入れがあるような……そんな感じがする。「じゃあ、雀蜂だけを一掃する流れで」「うん」 作戦の内容は事前に話し合いで決めているが、それはあの時その場にいた俺、アケビ、きまいらしかまだ知らない。「作戦はサクラに言ってあるか?」「言ってる。だから直ぐに行ける」 既に言っていたのか。もうアケビの中では蜜蜂を助ける前提で進んでいたらしい。まぁ、いいけど。「サクラ」「は、はい」 ギザ葉を囲んでいた一人と三匹は俺の言葉で体を俺に向けてくる。「今から蜂蜜を取りに行くから、フレニアと共に後方から援護頼むぞ」「分かりましたっ」「れにー」「リトシーも現地に着いたら魔法で補助をしてくれ。前衛は俺とアケビ、きまいらだ」「しー」 結局は何時も通りの戦闘と同じように前衛と後衛を決めて雀蜂を撃退すると言うものだ。ただ、何時も前衛にいるフレニアは今回後衛に回り、代わりに常に召喚状態となっているきまいらを前衛に配置。 俺とアケビ、きまいらで雀蜂を直接攻撃し、後方でサクラとフレニアが魔法と固有技による遠距離攻撃。リトシーには雀蜂の動きを封じる為に魔法で補助を行って貰う。 多分、これで大丈夫な筈だろう。 おっと、忘れる所だった。「あと、お前は大人しくしてろよ」 ギザ葉にそう忠告しておく。まぁ、蜂との合戦の際はリトシーの隣にいて貰う事にしよう。何か、さっきからずっとリトシーの傍から離れないし。「行くぞ」 伝える事は伝えたし、生命力、体力、精神力も満タンだ。準備万端で俺達は蜂の巣へと向かう。 アケビの言った通り、数分歩く。その間にモンスターとエンカウントしなかったのは運がよかったな。アケビを先頭に大きな木を目指して進み、開けた空間に出ると蜂と蜂の戦いが繰り広げられていた。 片方は大きく、顎がデカくて凶悪な目をしている。片方は小さく、体格差から数匹で相手している。個々の大きさ同士の比較はそうだが、今の俺で換算すると雀蜂は俺の胴体ほど、蜜蜂は俺の頭くらいだ。 まさに雀蜂と蜜蜂の戦い、と言えばいいのか。現実とは違うかもしれないが、開けた空間の地面と中空で戦闘が繰り広げられている。 空間の奥の方――大きな木には穴が開いており、そこに誰も立ち入らせないように蜜蜂の群れがいる。それを突破しようと雀蜂が次々と蜜蜂を一匹ずつ引きはがし、その顎で噛み付いて命を刈り取っていっている。 先に偵察をしていたアケビ曰く五分五分の戦いをしていたと言っていたが、現状を見るに雀蜂の方が有利に働いているように見える。雀蜂はその強力な顎で蜜蜂の体に喰らい付けたならそれだけで蜜蜂を殺す事が出来る。反面蜜蜂は尻の針だけで応戦しているが、雀蜂の体にダメージをあまり与えられていないように見受けられる。 数の差では蜜蜂が有利であるが、決定打としては雀蜂の方がある、か。また双方共に死ぬとモンスターと同じように死骸は残らずに光となって昇天していく。その数も、蜜蜂の方が多い。 草の陰に身を潜めながら様子を窺っていたが、これならば逸早く参戦した方がいいだろうな。「さて、蜜蜂を助けに行くか」「うん」「ぐるらぅ!」 アケビが先陣を切る形で、俺達は蜜蜂と雀蜂の合戦へと乱入していく。 まず、駆けていくアケビが次々と雀蜂だけを短剣で切り付け、自分に意識を向くようにする。その間にきまいらが爪で切り伏せ、俺が包丁とフライパン、蹴りで止めを刺す。レベルが1となっていても流石にイベント仕様なので雀蜂相手でも充分に戦えている。 だが、流石は蜂と言うだけあってか動きがすばしっこい。その上飛ぶ事が出来るので攻撃範囲外に行かれる場合もあり、一気に倒す事が困難だ。「こういう時に【威圧】のスキルが欲しい、か」 威圧があれば暫くの間相手の動きを制限出来るので初っ端から有利に物事を運べるが、あれは必要なSLが60とかなりあるので今の俺は習得していない。今ないものをねだっても仕方がないので雀蜂を包丁で切り伏せていく。 雀蜂のみを倒すと言う作戦上高範囲攻撃技の専用スキルアーツ【圧殺パン】は無差別すぎて使えない。それ以前に消費体力が馬鹿にならないので、こういった乱戦の最初に使う技でもないから出番はなし。「ふっ」 包丁で雀蜂を切り付け、顎の攻撃はフライパンで防御する。しっかりと防御すれば生命力の減りもぐっと下がる、耐久があまりない俺にとっては有り難いが、その分直撃してしまったら危ないだろうな。「えい」 アケビは仕留める事念頭におかず、蜜蜂から自分に意識を逸らす事だけを考えている。その御蔭で蜜蜂の被害は無くなってきているがアケビに集中砲火されている。「ぐるらぅ!」 アケビを警護するようにきまいらが闇魔法や爪で雀蜂を次々と撃墜していく。キマイラの一撃一撃は俺の攻撃よりも威力があるのでほぼ一撃で仕留めている。 ただ、それでも圧倒的に数の差があり全部を一度に相手取る事が出来ずにアケビときまいらは攻撃を喰らいそうになるがその都度リトシーの【初級木魔法・補助】で木のドームを作り即席の障壁を作り、それに雀蜂が群がっている間にアケビの【ウォーターシュート】やフレニアの固有技【炎の舞】で撃ち落としていく。「そらっ」 サクラ達の方へと行きそうになった雀蜂に【シュートハンマー】を喰らわせて光に変える。その間に包丁で雀蜂を相手取る。スキルアーツの再現練習をした時に分かったのだが、どうやら体力があればスキルアーツと並行して通常の攻撃も出来るらしい。ただし、スキルアーツのモーションを阻害しない程度、と言う制約が付いているが、これがあるのとないのとでは勝手が違う。モンスターの攻撃によって中断されにくくもなるし、何よりダメージ量が増える。 ただ、現在俺がスキルアーツと通常攻撃を併用出来るのは【シュートハンマー】のみで、【小乱れ】と【蹴舞】は動きの関係上、【圧殺パン】と【捌きの一太刀】は消費体力の関係上無理だ。 雀蜂に囲まれながらも、攻撃を喰らわないように上体をずらしたりフライパンで防御したりして包丁と蹴りで撃墜させていく。「蜜蜂も俺達を敵と認識してきた場合はこの作戦は成り立たないんだが」 瞬時に周りを見るが俺の周りには蜜蜂は一匹もいない。「向こうは、敵の敵は味方って思ってるようだな」 どうやらアケビが率先して雀蜂を引きつけている御蔭か、蜜蜂は俺達を敵とみなしておらずこちらに襲い掛かっては来ない。逆に手が空いた蜜蜂は仲間の援護へと向かい数の暴力と言うのが相応しい群れで一匹の雀蜂を相手するようになった。当初の目的通り、雀蜂だけを倒す事が出来そうだ。 襲い掛かってくる雀蜂を切り伏せ叩き伏せ、時折こちらにもサクラとフレニアの援護が入る。顎で食らいつかれて生命力がごっそりと減ったらリトシーが【生命の種】で回復してくる。「そろそろ終わりか?」 何十匹も倒し、動き続けて体力も二割を切った頃には、雀蜂の数が最初の頃よりもかなり減っている。今俺が相手しているのは三匹でアケビが引きつけているのは十五匹、蜜蜂が群れを成して相手をしているのは七匹だ。もう直ぐ雀蜂を一掃出来るだろう。 そう思った時、アケビときまいらの頭上を大きな影が掠めていった。 アケビときまいらはその際に直ぐに身体を屈めた。そうしなければ、あの強烈な顎で頭を齧られ、尻の毒針で胴を貫かれていた事だろう。「……親玉登場、か」 先程までいなかった巨大な雀蜂。今まで相手していた個体の優に三倍はあり、俺達よりもデカい。「こいつを倒せれば、いいか」 今のアケビときまいらには荷が重すぎる。また、サクラとリトシーは精神力が0になったようで魔法が放てず、フレニアは固有技の使い過ぎでバテてしまっているので相手が出来ない。俺は即座に周りの三匹を倒し、親玉に向かってこの戦闘二回目の【シュートハンマー】を繰り出す。 が、俺の攻撃に気が付いた親玉はフライパンを避ける。動きが通常個体よりも速い。避けた親玉は目標を俺に設定したらしくそのままこっちに毒針を俺に向けながら飛んでくる。 俺は避けずに自分の元に戻ってきたフライパンでそれを即座に受け止める。【シュートハンマー】を放った事で体力が一割を切り、避ける動作で更に消費させては一気にジリ貧になってしまうと思い防御を選択した。 体力を回復させる料理アイテムを用意出来なかったツケがここにきて出たな。所持金が100ネルで買えるものが無かったと言うのもあるし、モンスターを狩っても食材アイテムを落とさなかったと言うのも大きいな。 フライパンで防御している間に包丁や蹴りで攻撃していくが、親玉はいとも容易く回避してしまう。その都度顎や毒針で攻撃してくるのでフライパンで防御をするしかない。じりじりと生命力と体力が減っていってしまう。 このままだと、親玉を倒し切る前に体力が0になって動けなくなってしまう。 何か打開策はないか? と思考を巡らせようとした時、唐突に親玉が動きを止めた。 今し方俺の放った包丁の一撃を喰らった訳ではない。それは普通に避けられた。ただ、それを避けた御蔭で地面から突き出された木の槍に貫かれてしまったのだ。 木の槍は親玉の胴体を突き抜け縫い止めているが息の根を止めてはおらず、ギチギチと顎を開閉させながらもがいている。 リトシーは攻撃魔法を覚えていないのでこのような芸当は出来ない。やるとしても木の根で拘束をするくらいだ。では、一体誰が? と俺は辺りに視線を向ける。「しー!」 リトシーの隣――ギザ葉の下に魔方陣が描かれている。つまり、この木の槍はギザ葉が作り出した事になる。 大人しくしているようにと忠告しておいたのだが、ギザ葉はそれを破ったようだ。 ただ、その御蔭でこの親玉の身動きが封じられた訳だが。「まぁ、礼はきちんと言おう」 俺はギリギリの体力で、【捌きの一太刀】を発動させる。普通の攻撃で倒してもいいのだが、この親玉は特別な敵でこの機会を逃せば二度と出逢わないかもしれないと思い、このスキルアーツを選択する。「くらえっ」 包丁を逆手に持ち直し、そのまま真っ直ぐに親玉に向かい、すれ違い様に流れるように一太刀を浴びせる。 体力が0になり、倦怠感が襲い掛かる中後ろを振り返り、親玉が光となって消えていくのを確かめて安堵の息を漏らす。 そのまま倒れた俺は顔を上げて息を調わせながら戦場を一瞥する。 アケビときまいらも自分達の相手をしていた雀蜂を全滅させてその場に倒れ込み、蜜蜂の方も何時の間にか杖を片手に振り回しているサクラと一緒になって雀蜂を撃退する事に成功していた。 この場から、雀蜂は一匹もいなくなった。 取り敢えず、目的は一つ達成されたな。


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