喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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 昨日はあれから適当にモンスターを狩ってログアウト。レベルは3上がった。手に入れたSPで敏捷と体力、あと生命力の数値もそろそろあげた方がいいと思いそちらに振った。 サクラとアケビは終始変わらずに接していたのが怖かったが、本人達は無意識だったので俺は何も口を挟まなかった。 昨日の主な討伐対象はトレンキだった。食材アイテムを手に入れようと手を伸ばせばそれが全てトレンキで、俺だけが腹に木の根がぶち当たり吹っ飛ばされ、ファッピーが火を吹いて殲滅した。 他はバッドット、イワザルを相手した。アケビが要注意と言っていたセレリル、ダヴォル、クォールには遭遇しなかった。 本日は俺とリトシーだけで森へとやってきている。サクラは薬の調合をする為に街におり、アケビはサクラの指南と武器作成をしている。ファッピーは薬作りと武器作りのアシストとして向こうに残っている。 アケビには俺が持っていてもどうしようもない『四不象の角』を昨日のログアウト間際に渡しておいた。渡した瞬間に目をきょとんとしていたが、直ぐに「明日これ使って武器を作る」と意気込んでいた。 どんな武器が出来るのやら。俺としてはイベントに向けてサクラとアケビの専用武器を作るだろうと予測する。今の所二人は武器を扱う為のスキルを所持していないが、昨日今日でSPは必要数に達するだろうから何かしら習得するだろう。 サクラはファッピーと水魔法、アケビには召喚獣がいるが、それらに頼れない状況と言うのが出て来る可能性はゼロではない。それ以外にもスキルアーツが必要になってくるので、その事は二人とも分かっていると思う。 ただ、サクラは……確か、初日の事から推測して武器の扱いには難がありそうだがないよりはマシだろうな。スキルアーツは体を強制的にその動きをさせるものなので身体能力は関係ない。 アケビは怪盗を追えるくらい身体能力があるので大丈夫だとは思う。あと、俺みたいにスキルアーツで酔ったりする事はないだろう。 そんな事を思いながら俺は主にどうしてだか分からないが十割の確率でぶち当たるトレンキを主に倒していっている。俺としてはそろそろ食材アイテムの赤い木の実を採取したいとは思っているのだが、どうして俺が木の実を取ろうとする木は全部トレンキなのだろうか? 運の値が低いからか? いや、運はクリティカルヒットにしか意味をなさない数値だしな……。 そのトレンキ相手に、俺はリトシーの【初級木魔法・補助】で動きを止めて貰っている間に包丁と蹴りを指定の動きをつけて攻撃して行っている。 指定の動きと言うのはスキルアーツ【小乱れ】と【蹴舞】の動きだ。決してそれらのスキルアーツを発動せず、一度自由を奪われる形で体感している動きだけを再現している。【蹴舞】に関しては連撃の繋ぎが難しく、途中で動きを止めてしまうが【小乱れ】の方は連撃の数も少なく、ほぼそのままの動きが出来る程になっている。 何故スキルアーツの動きを真似ているかと言えば、縦横無尽に動くスキルアーツで酔わないようにする為だ。 自分で動く分には酔わないが、勝手に動かされると酔ってしまう。それを少しでも解消出来ないかと思い、もしかしたら動きを体に覚えさせていたら大丈夫かもしれないと言う考えに思い至った次第だ。 体の自由が利かなくなっても、何処かを動かそうとする意志は出せる。ただそれが反映されないだけだ。ならば勝手に動く体の動きに合わせて動く意思を出していけば、結果として自分の意思で動かしているのと変わりなく酔う事はないのではないか、と。 スキルアーツは体力を消費する分、通常の攻撃より威力がある。しかし、俺は五つ収得しているスキルアーツの内フライパンを用いる技と【捌きの一太刀】しか体質上使えないでいる。 しかも、【シュートハンマー】の威力は通常攻撃と変わりなく、【圧殺パン】は高威力を出せるが燃費が悪過ぎる。【捌きの一太刀】はそのまま真っ直ぐに向かって行って切り付けるだけで、【シュートハンマー】と同じで通常攻撃と変わりないが消費体力は【圧殺パン】と同じで連続して使えない。 当初は別に【小乱れ】と【蹴舞】のスキルアーツは使えなくとも問題ないと思っていたが、一昨日アケビに言われて必要性を感じた。 その必要性とは後日行われるイベント中にモンスターをスキルアーツで倒すとポイントが通常よりも多く手に入ると言うものだ。今回のイベントに参加する理由はランキング上位で貰えるアイテムを入手する事。その為にはポイントを多く稼がないといけない。 ポイントはモンスターの討伐以外にも入手する事が出来るが、少しでも多く集められるようにしておいた方がランキングに食い込みやすいだろう。 その為には、モンスターをスキルアーツで止めを刺していく必要がある。それだけなら【シュートハンマー】を連発すれば済む話なのだが、生憎とこのSTOでは同じスキルアーツを連続して使用出来ない。 スキルアーツにはディレイタイムが存在しており、コマンドウィンドウの枠に灰色のゲージが表示される。それが全て消えない限りそのスキルアーツを発動出来ない仕様となってる。 また、STOでは敵モンスターの生命力が表示されない為、ギリギリまで生命力を削ってからスキルアーツをぶち込む、と言うのが難しい。 それならば連撃のスキルアーツをある程度生命力を減らしたモンスターに繰り出した方がスキルアーツで止めを刺しやすい。これならばギリギリまで削る必要もなく、またいちいちどのくらい相手に攻撃して、どのくらい生命力が減っているかと言う計算もそこまで正確にする必要が無い。 故に、俺は【小乱れ】と【蹴舞】を普通に使えるように動きを体に染み込ませている最中だ。 トレンキを倒し、トレンキを倒し、バッドットを倒し、トレンキを倒し、イワザルを倒し……。トレンキばかりで言えば本日だけで通算十体は倒した事になる。 二時間ぶっ通しでモンスターを狩ってもレベルは1しか上がっていない。昨日はパーティーメンバー全員でのモンスター狩りであったし、それに俺とリトシーだけよりも瞬殺の敵が多かったので倒した数も今の軽く倍はある。 レベルが上がり難いのはやはりパーティーメンバーが増える事によって一人あたりの経験値取得数が減っているのが原因だろうな。その分、スキルを多く使う事となるのでスキル経験値の方は鰻登りで上がっていく事となる。
『トレンキを倒した。 経験値を31手に入れた。 魔素の実×1を手に入れた。 トレンキの皮×1を手に入れた。 スキル【初級小刀術】が【中級小刀術】にスキルアップした。 スキル【初級蹴術】が【中級蹴術】にスキルアップした。 レベルが上がった。                   』
 御蔭様で【初級小刀術】と【初級蹴術】はスキルアップした。これによってそれぞれに対応した攻撃をする際に威力が初級の頃よりも上がり、より強力なスキルアーツが習得可能となった。 レベルも上がり、現在のレベルは16だ。ここ数日で急激に上がったな。今回習得したSPは筋力の方に全部消費した。SLを確認すれば25溜まっており、これなら何かしらのスキルは習得出来るだろうと思い、スキル一覧を見てみる事にした。 流石に【初級~術】は必要SLが30で無理だったが、補助スキルである【遠視】は必要SL20で習得可能であった。森の中でなくとも遠くの敵を早急に発見出来ればその分対処しやすいから習得していてもいいかもしれない。 他に有用そうなものが無いかスキル一覧を下まで確認するが、現在のSLで習得可能の中では【遠視】以外なかった。有用そうなものがあっても25よりも多く必要となっていたので断念する。 ならば今回は【遠視】を習得しようと思い、スキル一覧をスクロールさせようとして、指が止まる。 ……隠れスキル、あるだろうか? 俺は先日二つの隠れスキルを習得したのでもう無いとは思うが、もしかしたらここ数日で習得条件をクリアした可能性もある。なので、一応と思い、一番下までスクロールする事にした。「…………あ」 長い長い空白の果て。そこに一つのスキルが表示されていた。 名前は【AMチェンジ】。ただ、これだけではどんな効果があるのか分からないので選択して説明文を表示させる。「……は?」 一瞬、目を疑った。
『【AMチェンジ】:スキルアーツをオートからマニュアルに変更する。 ※【AMチェンジ】装備時にスキルアーツを行う場合はプレイヤー自身でその動きを再現しなければいけません。途中で中断、もしくは再現されなかった場合は失敗となり体力を全消費、生命力を残存量20%消費します。全ての動作を再現すると、連撃系の場合に限り最後の一撃の威力が五倍となります』
 オートからマニュアルに変更……。これは俺にとってとても有り難いスキルではないか。 説明文を見る限り、このスキルを装備した状態でスキルアーツを発動すると自動で動く事は無くなり、自分で再現しなくてはならないようだが自分の意思で動く事が出来るようになる。 再現出来なければそれ相応のペナルティが発生するが、自分で動く分、俺は酔いに悩まされる事がなくなる。しかも、最後まで再現出来れば最後の一撃に限り威力が増す。 普通の人にとってはノーリスクノーリターンかハイリスクハイリターンの選択が出来るようになるが、俺にとっては酔わずにスキルアーツを発動出来るようになるだけスキルだ。まぁ、動きを覚えなければいけないと言う制約は存在するが、今の所あってないようなものだ。【小乱れ】と【蹴舞】はほぼ完璧に再現出来るだろうし、他三つのスキルアーツの動きは単純な物なので少し練習すれば大丈夫だろう。 この隠れスキルが表示されるようになったのは、恐らく今日行っていた事――つまりはスキルアーツの動きを体に染み込ませるように何度も同じ動きをしていたからだろうと推測する。それ以外にこのスキルが表示されるような条件が当て嵌まらないからな。動きを染み込ませていた目的は違っていたが、結果として染み込ませていた動きは有効活用出来るようだ。 必要SLを見れば、意外と少なく【遠視】と同じ20だった。 これは習得しておいて損はない。今回は【遠視】を諦めて【AMチェンジ】を選択する。これで俺の所持スキルは9となった。 また、どうやら【AMチェンジ】に限り、習得スキルが10未満でも装備するかしないかを選べるようだった。これは好きな時にオートとマニュアルを変更出来るようにする為の配慮だろう。 さて、だったら試しに一度スキルアーツを発動してみよう。「しー!」 と、辺りを警戒してくれていたリトシーが声を上げる。何事かとメニューを消して前を向けば辛酸を舐めさせられた単眼蛙ことセレリルがいるではないか。「ゲゴォ」 いきなりセレリルは舌を伸ばしてリトシーを絡め取ろうとするが、今回は俺がリトシーを抱えて横に跳び退り、そこらに生えている木を陰に動き回り舌の追撃を回避する。「ゲゴォ……」 セレリルは諦めて舌を戻す。その隙に俺は抱えていたリトシーを降ろす。「リトシー、あいつの動きを止めてくれ」「しーっ!」 俺の言葉にリトシーは地面に魔方陣を描き出し、【初級木魔法・補助】を発動。それによって木のドームを出現させセレリルを包み込む。「ゲゴォ!」 が、中で暴れるセレリルの一撃でヒビが入り、二撃目で崩れ、三撃目で完全に崩壊した。あまり拘束は出来なかったが、その間にセレリルの背後へと移動する事が出来た。 セレリルの死角にいる今こそ、スキルアーツを試す絶好の機会だ。 俺はコマンド入力を表示させ、【小乱れ】を選択する。
『スキルアーツ【小乱れ】の動きを再現して下さい。 00:00:10               』
 今までにないウィンドウが表示され、制限時間までも現れる。時間終了までにスキルアーツを終えないと再現出来なかった時と同様に失敗と見なされる可能性があるな。 俺は慌てず、【小乱れ】の動きを再現していく。 左手に持った包丁で右から左に切り払い、逆手に持ち替えて体を回転させながら一撃をかまし、もう一度回転をした後に斜め上に切り上げ、最後に順手に持ち直して振り下ろして再現を終了させる。オートの時は一瞬の動きだったが、流石に自分で全ての動きをしなければならなかったので時間が掛かってしまった。それでも残り時間は五秒残ったが。
『スキルアーツの再現に成功しました』
 最後の一撃を繰り出す寸前にウィンドウが表示され、繰り出された斬撃のエフェクトに変化があった。それを行う時にだけ包丁の刀身が光り輝き、セレリルへと切り付けた際にも軌跡が残るように白く光る。「ゲゴォ!」 スキルアーツの再現に成功したが、これだけではセレリルを倒し切れなかった。それどころか包丁の耐久度が0になってしまい、大破してしまう。 残りはフライパンと蹴りで仕留めるしかないな。 だとしたら折角だ。【蹴舞】も試してみよう。「ゲゴぶっ」 セレリルが溶解液を吐いてきたのでそれを左に跳んで避ける。それと同時にまた木のドームに包まれるセレリル。どうやらリトシーがまた【初級木魔法・補助】を発動してくれたようだ。 これで少しばかりの余裕が出来たので今度はセレリルの側面へと移動し、コマンドウィンドウを表示させて【蹴舞】を選択する。「ゲゴォ!」
『スキルアーツ【蹴舞】の動きを再現して下さい。 00:00:20              』
 再現時間が【小乱れ】よりも増えているのは連撃数が多い事と動きがより複雑だからだろう。俺は時間に急かされる事無く、【蹴舞】の動きを再現していく。 セレリルの脇腹に蹴りを食らわし、離さずに密着している足の甲を支点とし、勢いを殺さぬままセレリルの後ろへと回り込み踵で蹴り上げ、その場で空中前転をする。着地時に足ではなく両の手を使い、弓弦から解き放たれた矢のように両足の底をセレリルの尻に当てる。また宙に浮き、その場で捻ってから前転をし、遠心力を得た踵落としを繰り出す。 その後、一度セレリルの上で飛び跳ねて地面に着地して身を屈めて、両手を地面に着き、それだけで体を支えて相手の足を狙うかのように両足をぴったりと揃えた状態で一撃を喰らわせる。足を引き戻し、今度はバック転を行いながら両の爪先で蹴って打ち上げる。 巨体でもスキルアーツの仕様上か宙に浮いたセレリル目掛けて着地した瞬間にそのまま跳び上がり、跳び蹴りをかます。
『スキルアーツの再現に成功しました』
 以前自分では出来ないと思っていた動きの再現に成功し、足に光が宿る。セレリルに直撃した部分に足跡が白く輝き、更に宙へと打ち上げられて光となって消え去った。
『セレリルを倒した。 経験値を75手に入れた。 セレリルの舌×1を手に入れた。』
『クエストをクリアしました』
 辛酸を舐められた因縁のセレリルを倒し、二つウィンドウが表示された。 ……そう言えば、セレリルの討伐クエストを受けていたのをすっかり忘れていた。


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