喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

22

 クエスト選択画面に表示されているクエストは全部で七つ。多分その中でも簡単にやれそうなのが最初の二つだろう。 薬草の採取はゲームにおいて定番中の定番。初心者でも安心して受けられるクエストだろう。そして鉱石の採掘も場所さえ分かればツルハシで叩いて岩盤を砕いて行けば手に入るだろう。 ただ、薬草の採取には【採取】のスキルが。そして鉱石の採掘には【採掘】のスキルが必要となってくる。このクエストの為だけにそれら二つのスキルを習得するのは無駄が生じるが、これらのスキルは今後とも必要になって来るだろう。【採取】と【採掘】によって得られるアイテムは素材アイテムなので、金に換えたり薬や装備の素となるので、あって損はない。 この二つのスキルを習得する為のSLはそれぞれ15となっている。今現在俺は38貯まっているので、両方とも習得可能だ。 なので、この二つを受けた方がいいのかもしれない。 それとは反対に他のクエストの内、調査と討伐は今回は止めた方がいいだろう。 クルルの森の調査とは、恐らく北門から出た一本道を真っ直ぐ行った先にあるあの森を調べるのだろう。あの森には一度も踏み入れた事が無いので、どのようなモンスターが出現するのかも定かではない。 それに、今の俺では太刀打ち出来るレベルの相手かどうかも分からないのだ。死に戻り前提で動けば問題はないだろうが、流石にそこまでして調査する気にはなれない。一度下見に行ったりして幾分かの余裕を持ってからの方が無難だろう。 同様に討伐も俺が太刀打ち出来ないモンスターならばやっても意味がない。討伐は二つあるが、その両方とも出逢った事のないモンスター名だ。草むらにはいないモンスターかもしれない。それならばそこにいるモンスターよりもレベルが高いだろう。 それに、先程立ち聞きした会話の中に蛇型のモンスターの討伐を受けようとしているパーティーがいた。それがセレリルとアングールのどちらか定かではないが、プレイヤー四人とパートナー三匹(恐らく一人は【サモナー】だろう)で一度返り討ちにあっているらしい。それに装備を見るに俺よりも耐久に攻撃力も上だろう。そんなパーティーで勝てないのなら俺では無理だ。 残りの二つにしても、護衛任務は厳しいだろうな。勿論内容にもよるだろうが、俺のレベルで大丈夫かどうか……。と言うか場所も何処だろうか?「クエストの内容は確認しないの?」 眉根を寄せながらウィンドウと睨めっこをしている所に、女性NPCが首を少し傾げながらそう言ってきた。「確認?」「そう。クエストを一回選択すると説明が表示されるのよ」 確認出来るのか。 ……まぁ、内容が分からないと受けようにも無いからな。それも当然だろう。試しに護衛任務をタップして選択する。
『護衛任務:クルルの森へと向かう研究者の護衛。 達成条件:研究員を無事にクルルの森へと送り、その後シンセの街に連れて戻る。   報酬:3000ネル、ココルの種                    』
 説明には達成条件と報酬の情報も開示されるのか。確かに達成条件とか報酬も分かった方がどれをやるべきかと言う指標にもなるか。 と言うか、このクエストもクルルの森まで行くのか。それも結構中にまで入りそうだな。護衛対象が研究者だし。そうなるとやっぱり今の俺一人では無理そうだな。この護衛任務も今回はパスだ。 となると、だ。採取か採掘か、それか怪盗からの挑戦状……か。と言うかこれだけチェインクエストになっているのか。 チェインクエストは複数のクエストをクリアして初めてクエスト限定のアイテムを入手する事が出来る。複数のクエストをクリアしていかなければならないが、その分アイテムは性能がよい装備であったり、召喚具であったりする。戦力の増強をしたいなら、やるべきだな。その代わり、クリアすると二度と受ける事が出来なくなる。何度もクリアして貴重なアイテムを複数所持出来ないようにしてバランスを取っているのだろう。 戦力の増強はしておいてもなんら問題はないので、怪盗からの挑戦状の説明を確認する。
『怪盗からの挑戦状:シンセ博物館で怪盗から宝を守る。     達成条件:一定時間が経過するまで宝を守り切る。       報酬:2000ネル            』
 とてもシンプルな内容だな。シンセ博物館って……この街には博物館もあるのか。もしかしてこのクエストの為だけに設けられた場所とかか? 博物館と言うくらいなので、大きい建物だろう。今の所この役場よりも大きな建物は見ていないから、恐らくもう少し西に行った所にあるのだろうな。 報酬にアイテムが記載されていないのは、これが最初のチェインクエストだからだろう。最後のチェインクエストなら入手アイテムもきちんと表示される事だろう。 一応、シンセの街の中でのクエストなので、今の自分でも大丈夫なような気がする。その怪盗って言うのがどの程度の動きをするのか未知数だが、少なくとも死に戻りする事はないだろう。わざわざ挑戦状なんて送りつけて来るんだ。殺しに掛かってくる訳ではないだろう。 となると、今回は採取、採掘、挑戦状の三つの中から二つ選んでそれをやるとするか。 クエストは同時に二つまで受ける事が出来るので、一度受けておけば好きなタイミングで勧めていく事が出来る。 おっと、薬草の採取とシント鉱石の採掘の説明を見てなかったな。何処で採取、採掘すればいいのか分からないのでまずは確認しておかないとな。 薬草採取と鉱石採掘の説明を見てみる。
『薬草の採取:クルル平原、クルルの森で薬草を採取して役場へと持っていく。  達成条件:薬草を10束以上採取。    報酬:500ネル、生命薬×2、薬草(余剰分)          』
『シント鉱石の採掘:クルルの横穴でシント鉱石を採取して役場へと持っていく。     達成条件:シント鉱石を10個以上採掘。       報酬:700ネル、砥石×2、シント鉱石(余剰分)      』
 クルル平原はレベル上げに繰り出しているあの草むらがある場所の事だ。薬草はそこと森の方で手に入るらしい。反面、クルルの横穴が何処にあるのか分からないので鉱石の採掘は出来そうにないな。 となると、今やれるのは薬草の採取と怪盗からの挑戦状か。採取をするとまた外に出る事になるが、まぁいいだろう。 今回は薬草の採取と怪盗からの挑戦状の二つのクエストを受ける事にしよう。 ……で、クエストを受けるにはどうすればいいんだ? 一回タップしただけだと説明が表示されるだけだし、そこには受ける受けないのコマンドがない。「……クエスト受けるにはど」「受けたいクエストを二回選択すると受けるかどうかの確認が出来るわ」 素直にNPCに質問すると、俺の声を遮りながら教えてくれた。 俺は頭を下げて礼をして、該当するクエストのうち、まず薬草採取を二回タップする。
『以下のクエストを受けますか? ・薬草の採取 はい いいえ           』
 俺は『はい』をタップする。
『薬草の採取のクエストを受けました。 他にクエストを受けますか? はい いいえ              』
 一個だけ受ける事も出来るように、このように訊いて来るのか。俺は怪盗からの挑戦状も受ける為、『はい』を選択し、クエスト選択画面へと戻る。そして怪盗からの挑戦状も『はい』を選び終える。 すると、『怪盗からの挑戦状のクエストを受けました』と表示が変わり、ウィンドウが消えていった。「それでは、行ってらっしゃい」 女性NPCが手を振ってくる。俺は軽く会釈してから反転し、そして俺の所為で時間を食ってしまった他のプレイヤーにも謝罪の意を込めて頭を下げて列から抜け出す。 取り敢えず、薬草採取から始めるとするか。生命薬手に入るし。 俺は邪魔にならない壁際まで移動し、そこでメニューを呼び出してスキル【採取】を習得する。これで残りのSLは23となり、薬草等を採取出来るようになった。 また、メニューにクエストの項目が増えていた。そこを選択すると今現在自分が受けているクエストの内容及び進行度が表示された。どうすればいいか忘れてしまった時や、目標数までどのくらいかを確認するのに手間取らないな。 さて、準備も整ったのでさっそく街の外に出て薬草を取りに行くか。 役場から出ると先程までと違う外の景色が目に映ってきた。 雨が降っている。路面は濡れていて、外に出ているプレイヤーやNPCは雨に当たらないように傘を広げていたり、近くの建物の屋根の下で雨宿りをしている。他には傘もささずに全力で駆け抜け、滑って転んで後頭部を打っているプレイヤーもいた。雨になるべく当たりたくないからと言っても、そうやって急ぐのは得策ではないだろうに。 雲が厚かったから降るかもしれないとは思っていたが、このタイミングで降り出してくるとはな。 強くではないが、しっかりと降っているのでそのまま外に出てしまえば瞬く間にずぶ濡れだろう。ゲーム内で風邪を引くなんて事はないだろうが、リアルを再現しているので水の冷たさはそのまま伝わってくるだろうし、外の人を見るからに衣服や髪に水が染み込んでいるのが分かる。濡れた状態でいるのは嫌だな。俺は傘を持っていないので、このまま外に出ればずぶ濡れ間違いなしだ。フライパンでは頭しか隠せないし。 今日は薬草採取は諦めるとしよう。 途中で傘を入手して街の外に出れば被害は最小限に抑えられるが、外なので普通にモンスターと遭遇する。モンスターとの戦闘では傘は邪魔で、相手の攻撃を避けたりする際にもこちらから攻撃する際にもキツイものがある。そうすると傘からはみ出たり、笠を仕舞ったりする事になるので結局は身体が濡れてしまう。 となると、今日出来るのは怪盗からの挑戦状だな。 マップを開いて西南の方角を確認して歩いて行く。 屋根の下を通るようにして雨に当たるのを最小限にとどめているが、リトシーは濡れるのを構わず雨の中を飛び跳ねて移動する。「しー♪」 笑顔を作ってとても嬉しそうにしている。植物だから雨が嬉しいのだろうか? でもあまり当たり過ぎても毒なのだが、そこはモンスターだから気にしないのか?「あまり飛び跳ねるなよ。他人に水が跳ねるぞ」 水溜りもきちんと再現されているので、リトシーがばちゃばちゃと飛び跳ねる度に水飛沫が上がる。近くを人が歩いていないからいいものを、跳ねた水を被ってしまったら迷惑になるだろう。「しー♪」 分かってくれたようで、リトシーはぴょんぴょんと先程よりも小さく跳ねて……いや、これ全然意味ない。結局水跳ねてるし。それも小刻みに跳ねるもんだから高さは無いけど回数として多いから下手するとこっちの方が被害大きいかもしれない。 そうだよ。リトシーは基本的に飛び跳ねて移動するんだよ。二つの足を交互に前に出して歩く姿を一度も見てないぞ。まぁ、足首から下しかないから、それも辛いものがあるから跳んでいるのだろう。でも、そうなると雨の日は無意識に被害を撒き散らす困ったちゃんになってしまうな。悪気はないとは言え、リトシーをちょっとした悪者にはしたくない。「リトシーもこっち来い」「しーっ」 俺が屈んでリトシーを掴み上げると、珍しくじたばたと暴れ出した。そこまで雨に当たりたいのか。でも、ここで手を離してしまえば他プレイヤーやNPCに被害が出てしまい、リトシーが非難を浴びてしまう。それだけは阻止だ阻止。「しー……」 暫くじたばたしていたが、観念したのか目を少し伏せながら弱々しく鳴いた。街の外だったら迷惑にもならないので自由にさせてもいいんだけどな。今日は外――クルル平原に行く気はないし。 俺はリトシーを抱いて屋根の下を移動する。リトシーの体は当然濡れていて、服に水が染み込んでいく。やっぱり水の冷たさも再現されていて、引っ付いた服の袖の一部分だけ温度が下がる。「……しー♪」 と、俺の腕の中で大人しく抱かれていたリトシーが急に暴れ出して俺の手の中から抜け出す。まさか俺が油断するのを待っていて隙をついて雨の中を飛び跳ねる気でいたとかか?「しー」 だが、俺の予想は外れて、リトシーが大きく跳んで俺の頭の上に飛び乗ってくる。「しぃー!」 頭の上でもバランスを崩す事無くきちんと乗っかっているリトシーは大きな声を出す。如何せん頭の上での出来事で、しかも上を見ようと頭を動かしてしまえばリトシーを落としてしまうので目だけを必死で上に向ける。 すると、視界の上に何やら緑色の物体が見えた。気になったのでそれを触ってみれば、感触は葉っぱだった。半円状のそれが二つ合わさって出来た葉っぱは俺が丸々隠れる程の直径をしている。葉の内側を伝って行けば、中央に茎があって、更にそれを触って下降するとリトシーの頭に触った。 えっと、つまりこれはリトシーのあの双葉だったのか? それが肥大化して、俺を隠す程になった、と。 で、リトシーが俺の頭の上に乗ってわざわざ葉っぱを大きくした理由ってのは、雨に当たりたいからだろうな。こうする事によってリトシーの葉っぱが傘代わりとなり、俺が屋根の下から出ても雨に当たらなくなる。そしてリトシーは葉っぱだけとは言え雨に当たる事が出来る。 そうまでして雨に当たりたいのか? まぁ、屋根の下を行くのも建物によっては幅が狭く行きにくかったので、俺にとっても悪い事ではないので雨の下を歩くとしよう。「しー♪」 俺が屋根の下から出ると、雨に当たったリトシーが嬉しそうに鳴いた。 本当、雨好きなのな。


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