喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

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 戦闘が終了し、生命薬とリトシーの【生命の種】を使用して生命力を回復していく。【生命の種】は今回もハズレを引く事無く、俺の体力を回復した。 今日の戦闘ではリトシーもファッピーもダメージを負ってしまったな。あんな数相手にすれば無傷での勝利は難しいか。やはりこれからの戦闘でも被害を最小限に抑えるためにはきちんと状況把握しながら戦いに臨まないとな。「すみませんでした」 全員の生命力を回復し終えた所で、サクラが俺とリトシー、ファッピーに頭を下げてくる。「いや、サクラは悪くない」 俺は手を横に振る。「俺がロッカードと戦うって言ったのが悪いんだろ。だからサクラが謝る必要はない」 もう少しサクラの心情を考えてから行動に移すべきだったと深く反省する。結果としてはどうしてだか分からないがサクラはロッカードに対する恐怖を乗り越えたからいいのだが、それに至るまでの過程で色々と問題があった。もう少し慎重に行くべきだったな。「だから、謝るのは俺の方だ。すまない」 俺もサクラと同様に頭を下げて謝る。 が、サクラは俺の言葉を否定するように首を大きく横に振る。「いえ、僕がもっと早くしていれば、ファッピー、リトシー、それにオウカさんに迷惑をかける事もありませんでした……。ですから、御免なさい」 この場合の迷惑と言うのは、モンスターにやられそうになったと言う事だろう。俺はあと一撃で死に戻り。リトシーとファッピーは俺程直ぐにではないにしろ、あのままでは確実に街へと死に戻っていただろう。 確かにサクラの言う通り、サクラが早めにロッカードに水魔法【ウォーターシュート】を繰り出していれば俺達にダメージは無かった。が、これは結果論だろう。サクラだってロッカードに恐怖していたのだから、いくら直接相手をしなくても体が竦み、思うようにいかなくなる。現にそうなってしまったのだから。 リトシーとファッピーに視線を向ければ、二匹とも特に気にしてはいないと言った顔をしている。リトシーとファッピーもあれは不可抗力だったと認識しているのだろう。そうだそうだ、もっと早く魔法を発動してれば怪我する事も無かったのに、と責め立てる事なんてしない。人間の言葉を発する事は出来なくても、表情がそう物語っている。お前等、優しいな。 俺としては、サクラの心情を顧みなかった俺が悪いと思っているのだが、サクラは早く水魔法で攻撃しなかった自分が悪いと思っている。 この場合、どうすれば丸く収まるのか? 互いが自分が原因だと言い張っているような状況。俺としても引きたくはないし、サクラもこの感じからして同様だろう。 …………仕方ない。妥協をするか。 俺はサクラに互いに悪かったから、謝るのは無しにしようと告げる。俺が悪いと言ってもサクラは譲る気が無いのだから、サクラの言葉を否定せず、それで俺の言葉も否定しない方法を取るしかなかった。所謂お互い様。大変に不本意だが、こうでも言わない限り延々と終わりが見えないような気がした。なので、妥協。 サクラは何か物言いたげな顔をして口を開けかけたが、俺と同じようにこのままだと平行線になってしまうと思ったのだろう。物凄く渋々と言った表情で頷いた。「じゃあ、この件はこれで終わりにするとして、もう少しモンスターを狩るか?」「……いえ、もう時間なので、今日はここまでにします」 サクラがメニューを開き、そこに何気なく表示されている時刻を確認する。 そう言えば、今日は急にリアルの方で予定が入ってしまったから早めに切り上げると合流する前のボイスチャットで言っていた……ような気がする。「そうか。分かった」 となると、今日のパーティー組んでの行動はこれで終わりか。「では、オウカさん。また」「またな」 サクラがメニューからログアウトを選び、ファッピーと共に光となって空へと消えて行った。サクラが立っていた場所に『Log Out』の文字が浮かび上がる。どうやらログアウトすれば強制だろうが自発的にだろうがこの文字が現れるようだ。 と言うか、だ。 今更ながら思ったが、こんなに直ぐにログアウトするなら今日は無理してSTOをやらなくてもよかったのではないか? と思う。メニューを開いて確認をして見れば時間にして一時間くらいか。確かに昨日約束はしたが、ここまで切羽詰まってやるよりは、明日とか明後日とか多く時間を取れる日に変更しても俺はなんら問題はなかったが。 まぁ、サクラはどうしても今日やりたかったのだろう。多分、水魔法を。だから一時間だけでもSTOに来た。……なのだろうか? 深く考えても答えなんて出る訳がないので、早々に思考を切り替える事にする。「さて、どうするか」 と暫し考え、もう少しだけモンスターを狩る事にした。理由としては覚えたスキルアーツ【小乱れ】を使ってみたほうがいいと思ったからだ。説明では一瞬で四連撃を繰り出すと書いてあったが、それをどのような姿勢で行うのかまでは明記されてない。早めに知っておかないと【蹴舞】のような大惨事になりかねないしな。 適当に草むらを歩いてホッピー二体と遭遇。一体をフライパンと蹴りで倒し、残った相手に【小乱れ】を試す。 スキルアーツ特有の感覚を味わいながら左手に持った包丁で右から左に切り払い、一撃。逆手に持ち替えて体を回転させながら、一撃。もう一度回転をした後に斜め上に切り上げて、一撃。最後に順手に持ち直して振り下ろして、一撃。計四撃の斬撃一瞬のうちにを受けたホッピーは光となって消えた。 ……自動行動で、しかも高速で二回も回ったから、少し酔った。足元もふらつく。早めに知れてよかった。【蹴舞】よりは大丈夫だが、これも俺にとっては使いづらい技だな。「しー……」 リトシーが心配そうに見上げてくる。大丈夫だと言う意思を伝えながら頭を撫でるが、足元がおぼつかず、撫でる位置が頬へとずれてしまう。 この状態でモンスターと戦うのはやめた方がいいな。返り討ちに合う確率が高い。「…………街に戻るか」 酔いが解けるまで昨日より時間は掛からないだろうが、今日はもうモンスターと戦うのはやめにして、街に戻って何かするとしよう。まだゲームを初めて一時間と少しだから、まだSTOの世界にいられる。 ふらつきながらも難とか道に戻り、おぼつかない足取りでシンセの街へと歩いて行く。時折リトシーが道から外れそうになった俺に軽く頭突きを食らわして道へと戻すと言う荒業を繰り出した。痛くはないが、もう少し穏便な方法を取って欲しいと思う。 あと、道行くプレイヤーから奇異の眼差しを向けられる。俺だって好きでこんな状態になってるんじゃないんだから、ふらつくのは仕方ないので特に他人の目なぞ気にしないが。 酔いも粗方覚めた所で、丁度よくシンセの街の北門を潜る俺。空を見上げれば、先程よりも雲が厚く、そして暗い。もしかしたら一雨来るのかもしれない。それを考えると、街で何かやるにしても建物の中で何か出来るものの方がいいだろう。店の手伝いをして金を稼いだり、丁度いいクエストを受けてみたり。「……そう言えば、クエストは未だに受けた事が無いな」 今更になって気が付いた。ゲームを初めて三日目だが、クエストには一切手を出していなかったな。クエストでは店の手伝いとは違い、金だけではなく特定のアイテムも入手出来る。モンスターを倒したりすれば手に入るものもあれば、クエストでのみ手に入るアイテムもあるのでやっておいて損はない。 折角だから、一つくらい今日受けてもいいかもしれない。酔いからも大分回復した訳だしな。「受けてみるか?」「しー」 リトシーに訊いてみると、やってみたいとばかりに頷いた後、大きく飛び跳ねる。なら、やってみるか。 俺はクエストを受けるべく歩を早めたが、直ぐ様その場に立ち止まる。「……どうやって受けるんだ?」 クエストを受ける方法は説明書に書いてあった気がするが、スキルアーツの発動方法と同様に忘却の彼方へと流れてしまったようだ。……俺の記憶力は鶏レベルか。「一応、掲示板とかを探してみるか」 ゲームでは特定の建物や掲示板でクエストを受けたりする。STOも多分それらと同様にしてクエストを受けて開始するようにしてあるだろう。多分。きっと。絶対。 東、東南、南、北東、北の箇所は武器屋や雑貨屋を捜す為に歩いて回ったが、そこには掲示板は無かったように思える。それ以外のエリアを探してみるとしよう。 取り敢えず。北エリアから西へと向かい、辺りを確認するが、掲示板のようなものは見当たらない。もしかすると中央広場の何処かにあるのかもしれない。中央広場は結構広いからそこも全体を確認していない。プレイヤーが集中する場所に設置した方が何かと反感を喰らわないか? と考えを馳せながらも辺りを調べる。 西エリアに入って直ぐ、一つ気になる建物が目に入ってきた。「…………役場、か」 二階建てで他の建物と然程変わらない高さだが、横幅が十倍くらいあるそこにはきちんと役場と表示された看板が取り付けられていた。横幅が長い分、出入り口となる場所は四つ存在している。「役場ってゲームでどんな役割を果たしているんだ?」 そもそも、リアルの役場と同じような機能を持っているならば、必要はない気がする。リアルに近付ける為とは言っても……えっと、住民票とかだったか? あと、年金とか福祉助成金? の事をゲーム内でやっても需要があるとは思えない。だとしたら、どうして役場なんてあるのだろうか? と、ここで一つの仮説が浮かび上がる。「……もしかして、ここでクエストを受けるとかか?」 何気なく四つある出入り口を観察していると、役場に入っていくプレイヤーと意気揚々と、または慌ただしく出て行くプレイヤーが結構いる。「取り敢えず、入ってみるか」 可能性としてはあるので、俺とリトシーは役場に入っていく。 中は壁での仕切りは無くだだっ広い空間だった。板張りの床に天井に照明が吊り下げられている。中央一番奥に螺旋階段が見えて、そこから二階へと向かうようだ。 また、中で列が出来ていた。長蛇……とまではいかないが階段脇に見える六つあるカウンターと同数の列が立ち並んでいる。誰も彼もがプレイヤー。傍らにパートナーがいる奴もいれば、いない奴もいる。 現実の役場だと、立って並ぶんじゃなくて椅子に座って待つのだが、そうすると余計にスペースを取ってしまうのだろう。少しでも多く人が入るように敢えて椅子は撤廃されているのかもしれない。 それとなく耳を傾けて、近くにいるプレイヤーの会話を拾う。
「で、今日はどうするよ?」「薬草採取をさせてくれ。もう少しで【初級調合】が【中級調合】にスキルアップしそうなんだ」「分かった。ならついでに討伐も受けていいか? 同じ場所なら一つだけするより二つクエスト受けた方が効率いいだろ?」「あぁ」
「今日こそあの蛇野郎を討伐するぞ!」「「「おぅ!」」」「そして、クエスト達成のアイテムを必ず手に入れるぞ!」「「「おぅ!」」」
「チェインクエストも今回で最後かぁ」「結構しんどかったわね」「だね。でも、これさえ無事に終われば、漸く念願の召喚具が手に入るよ」「あー、カーバンクルに早く会いたいわ。そして、あのもふもふを撫でまくって愛でてやるっ!」
 会話からここでクエストを受けるるようだと言う事が窺えた。で、この列はクエストを受領する為の列、と。俺の仮説は当たったな。別に仮設を立てなくてもきちんと説明書の内容を覚えていれば変な不安を抱かずにいられたのだが。今日は寝る前にもう一度説明書を読むとしよう。 と、そんな事を思いながら近くの列に並ぶ。流れはスムーズで、平均して十秒立ち止まっては前に進むと言うのを繰り返す。 三分くらいで俺の番となった。 カウンターの奥には縁のない眼鏡を掛けた女性のNPCが座って両手を重ねるようにカウンターの上に置いている。格好としてはカウンター越しの関係上、上半身しか見えないが黒のロングヘアにボタン付きの余裕のある衣類を身に纏っている事は分かった。その上に水色に少し灰色を足したような色の大き目のカーディガンを羽織っている。少しゆったりしたファッションをしているが、切れ長の目と細い眉、張りのある唇。そして泣き黒子ぼくろがビシッとした大人な女性と言う印象を与えてきて、服装との間に妙なアンバランス感を生み出している。「こんにちは」 俺がカウンターの前に立つと、女性NPCは微笑みながら一礼をしてくる。俺もつられて頭を下げる。「あなた、クエストを受けるの初めて?」 女性の質問に俺は頷いて肯定する。「だったら、今あなたが受けられるクエストはこれね」 重ねていた両手を解き、女性NPCが右の人差し指で何もない中空を弾く。すると俺の目の前にウィンドウが表示された。
『クエストレベル:1 ・薬草の採取 ・シント鉱石の採掘 ・クルルの森の調査 ・セレリルの討伐 ・アングールの討伐 ・怪盗からの挑戦状チェインクエスト ・護衛任務              』
 どうやら、最初に選べるのはこの七つのようだ。 さて、どれをやってみるとするか。


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