喚んで、育てて、冒険しよう。

島地 雷夢

14

 さて、街の外に出たので当初の目的通りにモンスターを倒してレベルを上げようとは思うのだが……。「…………っ……」 リトシーをぎゅっと抱き締めてその場に蹲って震えているサクラを見ると、やめたほうがいいのかもしれない。で、サクラは先程のコート女にされた事が相当堪えたようだ。あれは人見知り関係なく、嫌な人は本当に嫌な接し方だっただろう。 こんな状態のサクラは一緒に連れてはいけないな。人見知りに新たなトラウマが刻まれてしまったな。このまま昨日みたいに街に戻って気晴らし……なんて事は出来ない。街に戻ったらコート女に見付かる可能性が出て来る。そうなると、また恐怖でいいように触られてしまうだろう。 なら俺の取る行動は一つ。 蹲るサクラを無理矢理立たせて、近くに生えている木の影に隠す。 そして未だにリトシーを抱き締めているサクラに一言。「じゃあ、俺は一人でモンスター倒してるから」 俺だけがモンスターを狩って経験値を溜めていく事だ。パーティーメンバーがログインしてれば経験値は入る筈だし、ここで別行動を取ってモンスターを倒しても問題はないだろう。 それに、少しでもサクラのレベルを上げておかないと、自力であの変態コート女を引き剥せない事だし。何時も俺が近くにいるとは限らないからな。ファッピーも今回みたいな事になってしまったら助ける事が出来ないし。 護衛としてリトシーは近くにいて貰うようにするし、攻撃要員はファッピーがいるので何かあっても大丈夫だろう。ホッピーくらいなら返り討ち。単眼岩なら逃げるだけの時間稼ぎになる。「リトシー、ファッピー、頼むな」「しーっ⁉」「ふぁー⁉」 二匹に後を任せて俺は走り出す。 さてさて、一気に狩りを始めようか。 取り敢えず、本日中にレベル5に――つまりあと四つ程は上げておきたいものだな。 草原へと走り出し、アイテム欄を開いて生命薬を二回選択して二個消費。生命力を九割まで回復させて適当に徘徊する。これくらいあれば何かトラブルが起きても死に戻りはしにくくなる筈だ。「ぶぎゅー」「ぶぎゅー」 ホッピー二匹が俺の前に躍り出てきた。 俺は走った勢いのまま目の前の一匹に跳び蹴りを食らわす。「ぶぎゅっ⁉」 一匹が吹っ飛んだので、二匹に注意を割かなくてもいいような状況になり、腰のフライパンを抜いてそのまま脳天に目掛けて振り下ろす。「ぶぎゅっ!」 で、地面に叩き付けたホッピーを全体重を掛けて踏み潰し、吹き飛ばしたもう一匹が跳躍してこちらに攻撃を仕掛けて来たので、包丁を抜き、そのまま切っ先を奴に向ける。「ぶっ」 ホッピーは空中での移動が出来ないタイプのモンスターなので、自ら包丁に刺さりに行き、眉間に切っ先が吸い込まれていった。深々と刺さり、柄にまで到達すると、そのまま光となって消え去る。その後すぐに踏み潰している一匹の背中に深々と突き刺し、先の一匹と同じ運命を辿らせる。
『ホッピーを二体倒した。 経験値を22手に入れた。 ホッピーの尻尾×1を手に入れた。 レベルが上がった。       』
 レベルが上がり、これで2になった。 一応周りを見渡してモンスターがいない事を確認し、メニューのステータス画面を表示させる。 手に入れたSPは6、SLは3となっていた。俺はSPを体力に3、器用に3使用してまた走り始める。「ぶぎゅー」「ぶぎゅー」「ぶごぉ」 今度はホッピー二体に単眼岩が一体横から現れてきた。げ……あいつがいるのか。 少し欲を出して、出てきたホッピーだけを倒そう。単眼岩は無視だ無視。 取り敢えず、真っ先に動きを封じる為に単眼岩の目に包丁を突き刺す。「ぶごぉ⁉」 目を閉じて悶え苦しむ単眼岩。それを尻目に同時に飛掛かってきたホッピー二体に包丁とフライパンで応戦する。包丁は先程と同じように切っ先を向け、フライパンは防ぐように底面を立てる。「ぶぎゅっ」「ぶぎゅっ⁉」 包丁に突き刺された奴はさっきと同様にそのまま光となって消え、フライパンの底面に直撃した奴は目を回してそのまま地面に落下した。「ぶごぉ……」「っと」「ぶごぉ⁉」 単眼岩の視界が復活したので、奴の目玉に向けて爪先を打ち込む。すると再び悶え始めた。「せいっ」「ぶぎゅっ⁉」「ぶごぉ!」 地面に落ちて目を回しているホッピーを蹴り飛ばして単眼岩へとシュート。ホッピーはびたんと単眼岩に張り付き、ずるずると草の上へと滑り落ちていく。 そこを逃さずに踏みつけて倒す。 で、逃げ出す。道目掛けて全力で駆け出し、単眼岩から距離を開ける。未だに悶えていたので昨日のように追い掛けられる事も無く比較的余裕を持って逃げる事に成功した。やはり、周りを意識していればきちんと対応出来るな。 走っている間にも体力はどんどんと減っていき、三割を下回る。
『ホッピーを二体倒した。 ロッカードから逃走した。 経験値を22手に入れた。 ホッピーの尻尾×1を手に入れた。』
 道に入ると例のウィンドウが現れ、逃走成功の旨も浮かび上がる。成程、あの単眼岩はロッカードと言うのか。ロッカーってついてるが別に中に収納があるようには見えないが、そのロッカーではなく岩から来ているのだろう。 で、素材アイテムをホッピー相手から入手した。先程のも合わせるとこれで二つだ。どのような素材なのか知り合たかったので確認をする。もしかしたら食材としてカウントされているかもしれないからな。そうなると試しにそれを使って料理してみようと思う。
『ホッピーの尻尾×2:ホッピーのふさふさの尻尾。手触りがいい。防具の素材となるアイテム』
 別に食材ではなかった。まぁ、そうでもなくても売却出来るからな。これで金が増える。そうでなくともサクラのスキル上げの糧となるので、儲けものであるのに変わりはない。 折角アイテム欄を開いているので、詫びの品として手に入れた角の説明も確認してみる事にする。どうせ道にいるのでモンスターの襲撃が無いので。
『四不象の角×2:召喚獣――四不象の鹿のような角。これを持つ者には守りの加護が与えられると言う。武器、防具、薬の素材となるアイテム』
 って、まさかの薬にもなる四不象の角。え? 角って薬にもなるの? それは知らなかった。現実でも角って薬の材料になるのか? まさかな。 ……一応、現実に戻ったら調べてみるとしよう。 まぁ、四不象本人が言っていたように、これは武器や防具にした方がいいだろう。薬だと一時しか効果はないが、武器、防具は壊れない限りそのまま力を有して使用する事が出来るからな。製作はサクラに任せるとしても、あいつのスキルが上がってからだな。 そうだ。念の為に武器の耐久度を確認しておかないとな。戦闘中に壊れて使用不能になるのは御免被るからな。
『包丁:普通の包丁。【小刀術】スキルがあれば武器として使用可能。筋力+1 耐久度4/25』
『フライパン:普通のフライパン。【小槌術】スキルがあれば武器として使用可能。筋力+2 耐久度32/35』
 何故か包丁の耐久度が異様に減っているのだが? 昨日確認した時点でまだ21はあった筈なのだが。もしかして突き刺すとその分負荷が掛かって耐久度の減りが早くなるとかか? ……いや、これはあの変態コート女を突き刺したからか? 今思えばあいつはコートを着ていた。あのコートが防具である筈で、肘関節に向けて突き刺した包丁は当然コートにも突き刺さった。コートの耐久度も下がった筈だが、それよりも耐久力がずば抜けていて、普通の包丁は普通以上に負荷が掛かってしまったのだろう。くそっ、耐久度がここまで減るんだったらフライパンであの変態コート女の顔面をぶっ叩いておけばよかった。 まぁ、今更悔やんでも仕方ないが。いや、別に悔やんではいないしあの時の行動を後悔していない。あの時はあれが最善の行動だっただろう。サクラから変態コート女を引き剥すと言う一刻を争う状況ならな。 さて、体力も七割まで回復したので、また草原に入るとしよう。歩いていれば体力は減らず、更にゆっくりとならば立ち止まっている時よりも少ないが回復していくので時間の節約にもなる。「ぶぎゅー」「あぎゃー」 とホッピーと新たなモンスターが一体ずつ出現した。 見た目は鳥だな。ただし、キウイみたいに羽が退化して地上を走るのに特化したタイプ。鋭い嘴にまるっとした眼。頭と首、胴体がボンキュッボンとしていて瓢箪のようなシルエットとなっている。足はダチョウのようで、力強く地面を踏み締めている。 取り敢えず、普通に羽毛があるのでロッカートのように固いと言う訳ではないだろう。油断せずに落ち着いて相手の動きを見るとしよう。「ぶぎゅー!」 まずホッピーが俺の顔面目掛けて突進してきた。それを俺は右足の蹴りで払い除ける。今思えば体の柔軟性が現実の自分とは違う可能性もあったのでこの行動は得策ではなかったかもしれないが、結果としてゲーム内の自分の体の柔らかさは現実とさして変化がなかったので結果オーライだ。 包丁を使わなかったのは耐久度の減少をこれ以上はさせたくなかったからだ。なので包丁は今現在鞘に収められた状態となっていて、手にはフライパンしか握られていない。そのフライパンを使用しなかったのは、どのような行動をしてくるか未知数の鳥み対処する為だ。ホッピー相手なら蹴りだけでも充分であるとSTO最初の戦闘で経験済みであるし。「ぶぎゅ~……」 ホッピーは左方へと吹っ飛ばされていった。これで暫くは戻ってこないだろう。これでこの鳥に集中して身構える事が出来る。「あぎゃー」 鳥も俺を警戒してか、身を低くし、距離を一定の間隔を保っている。 俺が近付いてみても鳥はその分後退り、移動で円を描いてみれば鳥も同様に円を描く。俺と鳥の睨み合いは十秒は続いた。「ぶぎゃー!」 拮抗をぶち破ったのは俺が蹴り飛ばしたホッピーだ。ホッピーは目を怒らせながら戻ってきて再び体当たりをかましてきた。「あぎゃー!」 それに便乗するように鳥が走り出してくる。 俺は鳥目掛けてフライパンを振り抜き、ホッピー目掛けて蹴りを放った。「ぶぎゅっ!」 ホッピーは再び遠くへと蹴り飛ばされたが、鳥はフライパンに当たらなかった。いや、正確にはフライパンの軌道を読んで横に跳躍して避けたのだ。マジか。「あぎゃーっ!」 着地するとそのまま地面を蹴って跳び、俺に向けて鋭い嘴を突き刺しに掛かってくる。俺は避けようと体を捩るが、如何せん動きがスローに思える。やはり現実の体との動きの齟齬が生じて想定していた動きが再現出来ていない。これならばさっきのレベルアップで敏捷の数値を上げればよかったな。「ぐっ」 完全に避ける事は出来ず、横腹を鳥の嘴が掠めていく。その際に視界の端に存在する生命力のゲージが少し減少する。一割以下の減少なので致命傷ではないが、あの程度の攻撃を避けきれなかった自分に苛立ちを覚える。 が。「ふっ」「あぎゃっ⁉」 すれ違いざまに引き戻したフライパンを下から上に振り上げて鳥の喉仏にクリーンヒットさせる。こういう事がイメージ通りに行えたので、器用を上げておいてよかったとも思う。だが、今度上げるとしたら敏捷は確定だが。 俺は即座にフライパンを腰に佩きながら鳥の真下へと赴き身を屈め、逆立ちの要領で体を両手で支え、肘を曲げて力を溜めそれを解き放ち空へと跳び、自由になった両足で宙を舞う鳥の腹部と頭部を狙う。「あぎゃばっ!」 蹴りが当たると鳥は変な鳴き声を発し、そのまままた宙を舞う。その後に空中で身を捻って二本足で着地した俺はフライパンを手に取り、また襲い掛かってきたホッピーを地面に叩き落とす。「ぶぎゅぅ」 更に踵落としを二回行い、命を刈り取る。そのまま視線を上に戻して最後に鳥を打ち上げるようにフライパンを振り上げる。 三回同じ事をすると、鳥も光となって消滅した。
『ホッピーを一体倒した。 アギャーを一体倒した。 経験値を29手に入れた。【初級小鎚術】のスキルアーツ【シュートハンマー】を覚えた。【初級蹴術】のスキルアーツ【蹴舞】を覚えた。 アギャーの胸肉×1を手に入れた。            』
 今回の戦闘ではレベルは上がらなかったが、スキルアーツを覚える事が出来た。 スキルアーツとは戦闘系スキルの経験値が一定の値まで貯まると自動的に習得されるものであり、体力を消費して通常の攻撃よりも強力な攻撃を放てるというものである。今回は【初級小槌術】と【初級蹴術】のスキルアーツを覚えたので、次の戦闘で使ってみるとしよう。 そして、あの鳥はアギャーと言うのか。鳴き声をそのまんま名前にしただけではないか、という突っ込みはしない。現実にもカッコウとか確か鳴き声でそう名付けられた筈だから、安易だなとは思わない。 で、そのアギャーの胸肉はもしかして食材アイテムか? 周りに気を配りながら確認する。
『アギャーの胸肉×1:アギャーの胸の肉。少し固い。料理の食材となるアイテム』
 予想通りの食材アイテムだ。これをそのまま換金してもいいが、俺の【初級料理】の経験値上げに利用してもいいな。 とか思いながらも俺は草むらを歩いてエンカウントを待つ。レベル5まであと三つ上げよう。


「喚んで、育てて、冒険しよう。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く