ラストフェアリーズ〜妖精幼女は前途多難〜

ななせぶん

第十三話「契約」

 
 ベッドの上で、ヒューヒューと細くて小さいい寝息を立て眠るマリン。
 エミィは、俺とある取り引きをする事でマリンのこの症状を快癒する事が出来ると言う。

「取り引き?」
「はい」

 エミィが言うには、このマリンの症状はいわゆる呪いに近いようなものだという。
 だが、呪いに近いというだけで、厳密には呪いでは無いので対処法はあると。

 しかし、治癒魔術のようにチョチョイと治せるようなものではなく、それなりに準備が必要であるらしい。
 なので、タダでやるわけにはいかない。
 対価は不要だが、代償は必要なのだ。

「で、その取引をすれば本当にマリンは助かるのか?」
「はい。どうやらこのままでは私も困る事になりそうでシュので」
「ん?どういう事だ?」

 またわけのわからん事を。
 どうもマリンのこの今の状態は自分にとっても都合が悪いらしい。
 だから俺と取引が必要なのだと。
 なるほど、わからん。
 一体どういう事だ。
 色々と展開早過ぎるだろオイ。
 俺にもわかるように説明してくれ。

「どうやら、そちらの女性は私と近い存在のようなのでシュ」
「近い存在?」

 聞けば聞くほどわからなくなってくる。説明する気あんのかな。

「えっと、要するに?」
「要するに、彼女も妖精族の末裔なのでシュ」
「え?」

 いきなりすごい事を言いやがった。
 え、なに?実はマリンは妖精族だったって!?
 それ本気で言ってんのか?
 いや、嘘や冗談に聞こえないが……。
 なんかもう、そろそろついていけないんですが。

「マリンが妖精族?」
「いえ、彼女は人族でシュ。ただ、妖精族の血も少し入っているようなのでシュ」

 妖精族であるエミィが目覚めた事で、妖精族の血を引くマリンになんらかの影響が出てしまい、こんな事になってしまったのだと。
 で、マリンを助けるためには、エミィと取引をする必要がある。

 要するになんだ、マリンの命を救いたければ自分と取引をしろという事か。

 マリンは人質というわけか?
 まったく、可愛い顔してえげつない事をいいやがる。

「わかった。でも、その取引の内容にもよるぞ」
「あ、ありがとうございまシュ」

 俺が素直に取引に応じる構えを見せると、エミィは満面の笑みで礼を言い、頭を下げた。

「で、そっちの要望は?」
「私に力を貸して欲しいのでシュ。ご主人シャまと、そちらの女性に」
「俺とマリンに?」

 俺は眉をひそめた。

 要するに、マリンを助けたあと、俺とマリンがエミィの為に何か協力しなければならないと。
 ここでその何か言わないあたり、怪しさ満開な訳だが……。
 しかし、交渉の真っ最中で自分の情報を小出しにするのは取り引きの常套手段だ。
 この可愛らしい見た目につい騙されそうになってしまうが、エミィの中身は100歳オーバーなのだ。
 ただの子供のおねだりではない。

 俺は少し考えて、そして決断した。

「いいだろう」
「おお!」

 おそらくだか、エミィにとってもマリンが死ぬのは困るのだ。
 俺とマリンの力が必要になるような何かを抱えているのだろう。
 それが何なのかは俺にも全く予想ができないが、俺もマリンを死なせたくはないので、その点だけで言えば意見は合致する。

 俺とマリンのどんな力を必要としているのかわからないが、まあいいだろう。
 どのみち選択肢はなさそうだ。力を貸してやろうじゃないか。

「で、具体的に何をすればいい」
「はい。私と契約をしてもらいまシュ」
「契約?」

 契約ってなんだ?
 その契約自体が取り引きの内容なのか、それとも取り引きをする為に必要な契約なのか。
 あるいは、契約を交わしてこの取り引きを確実なものにしたいとかなのか?
 一体エミィは俺にどんな契約をさせようとしているんだ?

「はい、奴隷契約でシュ」
「奴隷契約!?」

 またしてもとんでもないことを言い出した。
 奴隷契約と言えば、相手の全ての権利を奪うとんでもない契約だ。
 この国では大きな罪を犯した者が犯罪奴隷として扱われたり、巨額の負債を抱えた者が奴隷として身売りする事もあるが、理由もなく個人でそんな契約をする事なんてまず無い。

 マリンの命がかかっているとはいえあまりにも無茶な提案だ。
 さっきまで俺の事をご主人様とか言ってたくせに、その俺を奴隷にしようとするなんて、とんだサディスティック幼女だ。
 いや、中身は120歳なんだっけ。なら仕方ないのか。
 仕方ないのか!?

「お、俺を奴隷にしてどうする気だ」
「違いまシュ。エミィが奴隷になるんでシュ」
「…………はぁ?」

 おい、だれか。
 この状況を理解できる奴が居たら出て来い。代わってやる。

「ちょっと意味がわからないんだけど…」
「??」

 くそ、なんでお前が首を傾げてるんだよ。
 お前の言った事だろ?なんで「おかしなこと言いましたか?」って顔してんだよ。
 おかしな事だらけだよ!もうお腹いっぱいだよ!

「エミィが俺の奴隷になるのか?」
「はい」

 はいって。

「俺がエミィの奴隷になるんじゃなくて?」
「はい。それじゃ意味がないでシュから」

 うーん、じゃあエミィが俺の奴隷になる事には何か意味があると言うことか。

「いやあ、でもだからって奴隷ってのはさすがになぁ……。何か他に方法はないのか?」
「うーん。まあ、無くもないのでシュが……」

 エミィはやや困ったような表情をさせてそう言うと、俺の顔を見て、はにかむように苦笑した。
 やっぱり他の方法があるらしい。

「あるのかよ!?だったら」
「いや、でもそれはさすがにダメなのでシュ。ご主人シャまに恩を仇で返すようなものなのでシュ」
「え?」
「なんて言うか、そんな事をさせるのは申し訳ないというか、恐れ多いというか……。やはり、ご主人シャまの為にも奴隷が一番穏便に済む方法だと思うのでシュ」

 おいおい、奴隷が一番穏便だと思えるような方法って一体どんな方法だよ。
 エミィが躊躇するくらいだからよっぽど酷い方法なんだろうけど。
 しかもその方法を取った場合、主に酷い目に会うのはどうやら俺っぽい。
 超気になるけど、たぶんこれは聞いたら駄目なパターンのやつだ。流石に俺でもこのやばそうな流れは読める。
 伊達に『強運』スキルに振り回されては居ないのだ。

 まあ、この現状が既にそのスキルに振り回された結果とも言えなくもないのだが。

「うーん。じゃあ仮にその奴隷契約をしたとして、具体的に何がどうなるんだ?」
「はい。そちらの女性の命が助かりまシュ」

 いや、その過程を教えろって言ってんだけど。

「その過程で、エミィがご主人シャまの奴隷になりまシュ」

 くそ、言葉のキャッチボールがこれほど難しいとは。

 というか、こいつにとって奴隷になる事はもののついでなのか。
 そんな軽いノリで本当に俺の奴隷なんかになってもいいと思ってるのか?

「大丈夫でシュ。拘束力のない下僕が拘束力のある奴隷になるだけの事なのでシュ」

 いや、下僕にしたつもりも無いんだけど。






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