ラストフェアリーズ〜妖精幼女は前途多難〜

ななせぶん

第八話「眠り姫」

 
「さて、どうしたものか。」
「どうすんの?あれからもう3日も経ってるわよ」

 俺とマリンは、相変わらず眠り続ける少女を前に、すっかり困り果てていた。

 この子が妖精族だと判明したあの日から3日。

 彼女はまだ目を覚まさない。

「どうすんのって言われてもなあ。ルビーさんは全くアテにならないし」
「そうね。完全にノータッチを決め込んでるものね」
「なんか最近変なんだよな、ルビーさん」


 ◇


 俺はあの日、成り行きとはいえ絶滅種である妖精族の少女を拾って来てしまった。
 マリンの『識別眼』での見立てによれば、少女のレベルは9。
 わりと高めだ。マリンよりも高い。少なくともただの幼女ではない。
 もしも、目を覚ました少女と友好的な関係を構築出来なかった場合は、ちょっと面倒な事になるかもしれない。
 そうなった時のために、少女の持つスキルやギフトをマリンの『識別眼』で調べてもらおうと思ったが、そこまではわからないと言われてしまった。
 同種である人族ならともかく、それ以外の種族の場合、個体によっては識別できる情報が極端に制限されてしまうらしい。
 マリン曰く、「レアなわりに微妙に使えないギフトだ」と、なかなかの低評価だ。
 だが、それは単にマリンのレベルがまだ低いか、この少女が特殊な個体かのどちからであって、どちらにしてもレベルが上がればその制限も緩和されて行くはずだ。
 実際、セイブウルフ戦の時はとても役に立ったし、俺はかなり有能なギフトだと思っている。

 ちなみに、セイブウルフ戦の時に俺が『識別眼』を使えたのは、俺の持つ『技能模擬』というギフトスキルを使って一時的にマリンのスキルを借りていたからだ。

 この『技能模擬』は、対象の持っているスキルを一時的に模倣し、使えるようにするというもの。
 特殊系スキルの中でも特に珍しいタイプのスキルだ。
 ただし、発動条件は少し面倒で、使うにはいくつかの条件をクリアする必要がある。

 その条件とは、正確なスキル名を知っている事と、そのスキルの効果をある程度理解している事。
 そして、そのスキルの持ち主への接触だ。
 また、一度の接触につき一度しか使えない。

 しかし、一度接触して『技能模擬』を発動させておけば、その後それはいつ使ってもいい。接触中ならば使い放題だ。

 ちなみに正確なスキル名とは、ギフトカードに表示されるスキル名の事だ。
 よって、『技能模擬』を発動させるには、相手にそのスキル名を教えてもらうか、『識別眼』などの情報系スキルを使って読み取るしかない。
 俺には情報系スキルがないので、この『技能模擬』というギフトスキルをイマイチ上手く使いこなせていないでいた。
 現状、いざという時にマリンが常に側にいなければ、わりと役に立たなくなるスキルだ。

「試しに、サフィアも見てみる?」

 マリンはそう言って手を出してきた。
 基本的に、模倣したスキルはオリジナルよりも劣化してしまうので、マリンに見えないのであれば、多分俺にも見えない。
 レベル補正の分を考慮しても、見える物はマリンとたいして変わらないだろう。
 しかも、マリンと違ってこっちは魔力を消費するうえに、わりと疲れるので、普段はマリンに見てもらうようにしている。

 とは言え、せっかくなので試しに俺も『識別眼』で見て見る事にする。
 マリンの出した手を握り、『識別眼』を発動させる。
 たが、やはり少女のギフトについてはわからなかった。
 その代わり、少女の今の状態については色々とわかった。
 まず、彼女の今の状態が〈昏倒〉というものになっていた。
 普段、俺たちが夜に寝ている時になる〈睡眠〉とは別の状態のようだ。
 次に、彼女の怪我や魔力の枯渇に関しては、それは屋敷に来た時にマリンからも言われていた通り、すっかり完調しているようだ。
 やはり『識別眼』で見る限り特別変わったところはなく、いつ目を覚ましてもおかしくない状態だ。


 ◇


 俺が少女を連れ帰って来たあの日、ルビーさんは何食わぬ顔で帰って来た。
 居間でわたわたしている俺とマリン、そして俺に抱えられた少女には一通り目をやっただけで、特に表情を変えることもなく、何も言わずに自室へと戻っていった。

 取り敢えず、この子をここに連れて来た事に関しては特別何かを言うつもりはないようだが、その代わり自分は一切関与しないというスタンスらしい。

 でも、だからって無言で自室に戻るのはどうなんだろう。
 もっと何かあっても良いんじゃないのか?
 自分も当事者の一人なんだからさ。

 ちなみに、ルビーさんが俺とヴァンパイアに「任せる」と言って全部丸投げしたあの後、森の奥の方で日が暮れるまでデーモンとスパーリングをしていたようだ。
 デーモンとはよっぽど気が合うらしい。
 まあ、いいけど。

 そしてその夜、俺はマリンと共にルビーさんの部屋を訪れる事にした。

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