ラストフェアリーズ〜妖精幼女は前途多難〜

ななせぶん

第六話「ヴァンパイア」

 
 デーモンの怪力で放たれる様々な攻撃を、ルビーさんはその手の剣で見事に全部受け流していた。

 あんなのをどうやったら全部剣で受け流せるのか、さっぱり意味がわからない。
 というか、この二人の戦いにどう混ざれと。

 ……ん?

 そんな、自分の剣の師匠でもあるルビーさんの変人っぷりに改めて関心しながらも、俺はその場に異変がある事にようやく気が付いた。

「あ、なるほど、そういう事」

 俺はそう言って立ち上がり、戦闘中のルビーさんとデーモンの真横を通り過ぎて、橋脚から少し離れた見晴らしのいい場所で立ち止まった。

「別にそこでも構わんが、ここが村の中だという事は忘れるなよ」

 後ろの方から聞こえるルビーさんの忠告に、俺はコクリと頷いて返事をする。
 そして、先程渡された業物っぽい剣を鞘から抜き、体の前で構えた。

「さあ、出て来いよ。殺気や気配は消せても魔物臭さが消せてないぞ。ちゃんとやれ」

 そう。実はそこにはデーモン以外の別の魔物も潜んでいたのだ。
 まあ、ルビーさんはともかく、俺にすらバレてしまうようでは、全く潜めていなかったと言ってもいいだろう。
 魔物の生息する森の中であれば、ひょっとしたら気づかなかったかもしれないが…
 いや、ないか。
 頭悪そうだし。

「貴様、私を馬鹿にしているな!?」

 俺の目の前の何もないところから突然声がして来た。
 なるほど。そこにいるのね。どうりで魔物臭いわけだ。
 おそらく不可視か幻影の魔術で姿を隠していたようだが、匂いまでは隠せなかったようだ。

「でも、そもそも隠れてるなら、喋っちゃダメだと思うなぁ」
「あ!!」

 魔物がアホで助かった。
 魔物の位置を把握した俺は、一瞬で間合いを詰め、下段に構えた剣を素早く振り上げ、襲いかかった。
 が、あまり手応えは感じられず、魔物は後方に飛んで避けられてしまった。

「やっぱり無理か。お馬鹿なのと戦闘能力が高いのとは関係ないって事か」
「この、好きに言わせておけば……」

 殺してしまっても構わないくらいのつもりで本気で攻撃をしかけたが、あっさり躱されてしまった。

 やっぱり、コイツも高ランクモンスターのようだ。

「しかし、わりとやるじゃないか、少年」

 俺の目の前には、黒いローブを身に纏った長身長髪の凄い美形の男が立っていた。
 思わず俺は後方へ跳びのき、距離を取った。

 おそらく、この魔物が着けているローブが姿を消すための魔道具だったのだろう。一部が大きく切られ、その効果を果たせなくなっていた。
 俺は、可視となった魔物をじっと見つめて情報を探る。

「へえ、ヴァンパイアなのか。しかもAランク!?どうりで強いわけだ!」
「……何故わかる。そうか、ギフトか」
「まあ、そんなとこ。借り物だけどね」

 そう言えば、この魔物は喋れるんだな。
 人族の言語を理解して話すことができるって事は、かなり知能の高い魔物のはずだ。
 なるほど。さすがAランクといったところか。

 しかし、身を隠すのは上手くなかったな。
 気配を断つのを忘れるなんて、お粗末すぎる。
 ルビーさんなんて意味もなく気配を断ったりしてるのに。
 あれビックリするからマジやめて欲しいんだけどね。

 ああ、あれか。
 勉強の出来る馬鹿。って奴か。
 もしくは天然系?
 ふむ、天然系美男子か。一定の需要はありそうだな。特に腐った女子の方々には。どうせオレ様系の美男子とのカップリングであれやこれやと……。


「貴様……!」

 あれ?なんか超怒ってる。
 顔真っ赤にして凄い形相だ。
 おーこわ。
 ……て、あれ?

「なあお前、もしかして今、俺の心読んでたりしない?」
「何をいまさら!」

 何故かさらに怒ったヴァンパイアの魔物は、身に纏った黒いマントを大きく広げ、その場に無数のコウモリを召喚した。

「我が眷属達よ、目の前にいる人間の血を残らず全て吸い付くせ!」

 ヴァンパイアはそう叫ぶと、周りにいた無数のコウモリ達を俺一直線に飛ばして来た。
 流れから察するに、どうやらそれは吸血コウモリのようだ。

 しかし、予想以上の数に驚きはしたが、戦ってみると吸血コウモリ自体の戦闘力はほぼ皆無に等しく、周りをうじゃうじゃ飛び回るうっとおしいだけの存在に過ぎなかった。
 とは言え、黙って血を吸われてやる道理もないので全て撃ち落とす事にする。
 さすがにコレ全部から血を吸われたら死んじゃうしね。

 結果、俺は剣は使わずに格闘術で全てのコウモリ達を撃ち落とした。
 剣でもやれなくはなかったが、両手両足を使える格闘術の方が断然効率がよかったのだ。

「こら、剣を使わんか。剣を。修行にならんだろ」

 後ろの方から何か聞こえるけど無視だ。
 別にこれ、修行じゃないし。

 撃ち落とされた吸血コウモリたちは地面の上で体をピクピクとさせていた。
 思いの外、力加減が難しかったが、一匹も殺さずに済んだようだ。
 よかった。死体の後始末とかはしないで済みそうだ。
 森の中なら放置でも他の魔物の餌になるからいいけど、ここじゃそういうわけにもいかない。
 剣で斬るなんて以ての外だ。散らかるわ汚れるわでいいとこなしだ。
 と、いうわけで、もれなく綺麗に持ち帰っていただきたい。

「おい、ガキ」
「なんだ、馬鹿ヴァンパイア」

 いきなりガキとは失礼な。
 これでも俺は19歳だ。
 ガキと呼ばれる筋合いはない。
 まあ、ちょっとばかし成長が止まるのが早かったから?ちょっと身長はイマイチあれのは認めるが……。
 仕方ないじゃないか……成長期に食えない時期を過ごしてたんだし……。
 まぁ、言い訳なのはわかってるけどさ……。

「おお……なんかスマン」
「いや、勝手に人の心読んで同情とかやめて。俺まで悲しくなるから」

 この魔物、実はちょっといい奴なのかもしれない。
 戦う前に少し話をして見よう。

「なあ、ヴァンパイア。一つ聞かせろよ」
「……? なんだ」
「俺達を襲ったわりには、殺気がまるで無いのはどういう事だ?あと、なぜ魔物が森から出て村の中まで入り込んでいる?」
「それは…」

 ヴァンパイアは俺の問いに対し、難しい顔をしてじっと見つめて来た。
 何か言いたくない事でもあるのだろうか。

「……一つ聞かせろとか言いながら二つも質問しているようだが?」

 そこに引っかかるのかよ。

「あーわるい。二つだ。で、どうなんだ?」
「うむ」

 ヴァンパイアはそう言って少し考え込んだ後、俺の顔を真っ直ぐに見つめながら言った。

「その問いに答える前に、私からも聞きたいことが一つある」
「ん?」

 ヴァンパイアは俺の問いに対し、問いを返して来た。

「貴様の方こそ殺意がなかったようだが、どう言うことだ?あと、後ろにいるそれをどうするつもりだ」

 お前も一つとか言いながら二つ聞いてくるんかい。

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