ラストフェアリーズ〜妖精幼女は前途多難〜

ななせぶん

第三話「魔力の修行」

 
 魔操術。

 それは、体内の魔力を自在に操り、あらゆるスキルをより効率的に、より高作用で発動するようさせる為の技術だ。


 まず、スキルには大きく分けて4つの種類が存在する。

 攻撃系・付与系・情報系・特殊系の4つだ。

 攻撃系とは、その名の通り、主に直接攻撃をする為のスキル。
『ファイアボール』や『アイスウォール』などの『属性魔術』が有名だ。

 ただ、魔力を物体や現象へ変化させ、それを飛ばしてぶつけたりするだけではなく、盾のように壁を作って身を守ったりさせるのもこの系統に含まれるらしく、厳密には具現化操作系スキルと言うのが正しいらしい。

 つぎに、付与系。
 これもその名の通り、対象に何らかの効果を付与させるスキルだ。
『肉体強化』や『鈍化』などの強化あるいは弱化させるスキルがそれにあたる。
 また、『麻痺解除』や俺の持つ『順応消去』などの、付与や状態を打ち消すスキルも、付与系に属している。

 そして、情報系。
 この系統のスキルはレアスキルと呼ばれ、情報系のギフトを持つ者はかなり少ないとされている。
 ちなみにマリンの使う『識別眼』がそれにあたる。
 他にも、『千里眼』や『読心術』などといったものも存在するらしい。

 最後に、特殊系。
 先の3つの系統に属さない、特殊なスキルがここに入る。
 もちろん、これもレアスキルと呼ばれ、情報系のギフトよりも持つものは少ない。
 俺の持つ『治癒魔術』や『強運』、『才能模擬』がこの系統に入る。

 超レアスキルと呼ばれる特殊系ギフトを複数も所持している俺を、ルビーさんが特殊な異端児扱いするのも納得である。

 さて、どうしてわざわざこんな説明から入ったかと言うと、魔力の鍛錬はそれぞれの系統に対してそれぞれの鍛錬方法があるらしい。という事がわかったからだ。

 攻撃系は、魔力の瞬発力を。
 付与系は、魔力の濃縮度を。
 情報系は、魔力の燃焼力を。

 ちなみに、特殊系はスキルごとに必要な物が違うので、そのスキルに合った鍛錬が必要らしい。
 ただ、大抵の場合は各系統の複合技である事が多いので、結局3つの鍛錬全てを修練する事になる。

「結局、全部やれって事じゃないか」

 だったら最初からそう書いておけよな、回りくどい。と思ったが、実は、そうではない。

 この【ギフト】と呼ばれるスキルは、普通、一人に1つなのだそうだ。
 だから、レアスキルでもある特殊系でない限り、鍛錬はその系統のものだけをやっていればいいらしい。
 マリンの場合は、『識別眼』が情報系なので、魔力の燃焼の鍛錬が必要で、他の鍛錬は必要ないと言うことになる。

 ごく稀に、複数のギフトを持つ者が現れるらしいが、それは本当に稀で、しかもその場合でもギフトは2つまでらしい。
 どうやら、俺の4つというのは根本的におかしいみたいだ。

 なるほど、ルビーさんが教えてくれないわけだ。
 こんなイレギュラーな俺に対して、何をどう教えればいいのかわかるわけがない。
 教本でも読んで勝手にやれと言いたくなるわけだな。


「さて、どうしたものか」


 とりあえずスキルの系統については理解したが、問題は鍛錬方法だ。
 この本を読んでわかったことは、

『とにかく使いまくって体で覚えろ』

 という、とてもシンプルでわかりやすいものだった。

 ならば、今までの御託は一体何だったのかと問い詰めたくなったが、どうやら魔力の鍛錬は、スキルを実際に発動させたその瞬間にしか出来ないのだそうだ。
 スキルが発動する瞬間の魔力の流れを感じ、それをコントロールするために、何度も撃って身体に慣れさせて制御出来るようにする。
 そうすれば、威力や魔力効率が向上し、連続使用も可能になるという事らしい。

「なるほど、だがしかし……」

 概ね理解した。
 しかし、という事はあれか、攻撃系統以外の系統を鍛錬する場合は、スキルを受ける対象が必要だという事じゃないのか?

 自室で瞑想して魔力を練る、みたいな鍛錬じゃ駄目なんだろうか。
 まあ、この本で全く触れられていない所をみると、効果はないのだろう。
 あったとしても、恐ろしく効率が悪いとか、何もしないよりはマシとかいうレベルなのだろう。

「参ったな。修行相手が必要とは」

 しかも、修行相手とは名ばかりな、ほとんど実験台というかサンドバッグのような役割だ。そんなの誰が受けてくれるというのか。
 俺なら絶対にお断りだ。

 こんなのルビーさんが受けてくれるわけがないし、万一受けてもらえたとしてもその後が怖過ぎるのでこちらから願い下げだ。
 かと言ってマリンに頼むわけにもいかない。
 マリンの場合、文句を言いながらも引き受けそうだから怖い。
 冗談でも言うのはやめとこう。

 あとはそうなると、魔物を相手に撃ちまくるってのが一番楽というか、むしろこれしかない感じなのだが…。

 うん、そうだな。仕方がないな。

 そうだ。これは仕方のない事なのだ。

 そう、それならば、仕方あるまい。



 俺は自分にそう言い聞かせ、渋々ながらに足取り軽く屋敷を出た。



 ◇



 で、ノコノコと森なんかに行こうものなら、俺は救いようのない馬鹿だ。

 さすがに俺も学習した。

 森には行っちゃダメだ。おこられる。

 たぶん、めっちゃおこられる。


「仕方ない。ならばその辺の動物で間に合わせるか」


 森にはいけないので、その辺の犬猫あたりを攫ってきて魔物の代用とする事にした。

 幸いな事に、俺のギフトには対象を傷付けるようなスキルはない。
 なので、俺に選ばれた幸運者は、安心して俺のモルモットになってほしい。



 ◇



 とは言ったものの、そんなに簡単に事が進むはずがなかった。

「どこにいるんだ、俺のモル吉は!」

 鍛錬している時間よりも動物を探している時間の方が圧倒的に長い。
 せっかくモル吉という名前まで考えてやったというのに、野良犬も野良猫も全く見つけられなかった。見かけるのはカラスかコウモリくらいのものだ。
 仕方がないので、試しにカラス相手にスキルを使って見たが、一回試しただけで逃げられてしまった。

 もう、効率が悪いとか言うレベルじゃない。

 スキルを使うのが30分から1時間に一回というペースだ。魔力の鍛錬よりも動物を探す方が目的になっている時点で、この鍛錬方法は失敗だ。

「もう疲れたよ……」

 それでも挫けずに、しばらくその辺を探して見て回ったが、モル吉候補はどこにも見当たらなかった。
 普段はわりと見かけてた気がするんだけど、いざ探すとなると案外見つからないもんだ。

「よし、諦めよう」

 歩き疲れたというよりは、心が折れたという感じだ。
 まさかスタートラインに立つ前に頓挫するとは予想もしていなかっただけに、精神的に疲れてしまったのだ。
 とかなんとかいろいろ長々と説明してみたが、要するにアレだ、飽きたのだ。

「ちょっと休憩……」

 どっと疲れてしまった俺は、近くの茶屋で小休憩する事にした。

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