複垢調査官 飛騨亜礼

坂崎文明

ネットカフェ

「舞さん、このネットカフェからのアクセスしてるアカウントなんですが、全部、BANしちゃいましょう」

 Skype越しに、飛騨亜礼ひだあれいはこともなげに言い放った。

「いや、それはいくらなんでもやりすぎよ。何の根拠があってそれが複垢だと断定できるの?」

 某巨大小説投稿サイトの運営スタッフの神楽舞かぐらまいは、困惑した表情でモニターに映った飛騨を見返した。

「よく考えてみて下さい。このアカウントの持ち主は、いつもネットカフェからアクセスしてるんですよ。何故、家からパソコンとか、スマホや携帯でアクセスしないんですか? この人、今時、スマホどころか、携帯もパソコンも持ってないということですよね? そんな人がいると思いますか?」

 飛騨君、いつもながら確かにいいとこ突いてくるわ。

「飛騨君、最近、パソコン持ってない人は多いのよ。たぶん、この人は派遣社員でいつもネットカフェに泊まってるのよ。お金がないからスマホは持てないし、携帯も通話のみなのよ。そんな人のささやかな楽しみを奪う訳にいかないと思うの」

 無駄だと分かっているけど、とりあえず、反論してみた。
 我ながら素晴らしい論理展開である。
 しかし、私は何故、複垢疑惑のあるアカウントを擁護しているのか、自分でも意味が分からない。

「それと、このプロキシサーバー経由のアクセス、何でいつもプロキシでアクセスするんですか? 『作家でたまごごはん』はいつから有害サイトになったんですか?」

 飛騨の追及は今日も厳しい。
 ちなみに『作家でたまごごはん』は舞が勤務している巨大小説投稿サイトの正式名称である。
 作家のたまごと、作家でごはんをかけてみただけなのだが。

「たぶん、そのユーザーは用心深いのよ。ほら、たぶん、未成年だからプロキシサーバー経由のフィルタリング機能つきのやつでアクセスしてるのよ。そうに違いないわ」

 我ながら苦しい言い訳なのは分かっているが、とりあえず、反論してみた。
 
「未成年がどうして、ボスニア・ヘルツェゴビナとか、ベラルーシのプロシキ―サーバを経由するんですか?」

 ダメ押しである。

「うううっ………」

 ちょっと言葉につまる。

「とりあえず、『作家でたまごごはん』の規約変更して、ネットカフェとプロキシサーバー経由のアクセスアカウントは違反にしちゃいましょう」

 飛騨亜礼は冷酷に言い放つ。
 神楽舞はしぶしぶ飛騨の提案に従って規約を書き替えはじめた。

 まだ、三月初旬である。
 春のBAN祭りははじまったばかりである。
 
 



(あとがき)

 この物語がフィクションです。
 こんなやりとりあるはずない(笑)

 第三話は「小説」というタイトルの予定です。

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