安倍晴明と安東総理のやり直し転生譚
亀の試練、丹の湖の水を全部抜け! 島原の乱!!
「さて、着いた。が、今回の勾玉の民の長はだらしない」
月読命は気絶している安東要を見下ろしながら、小言をひとつ吐く。
「でもね。こう見えて、結構しぶといのが、かなめっちよ」
月読波奈は御先祖様に反論する。
神沢優は無言である。
そこは真紅の波が立つ湖のようだった。
湖の一面が風によって小波が立って揺れている。
その中心に巨大な玄武が浮かんでいた。
おそらく、古代の<丹の湖>だと思うが、そうだとすると時間を遡ったことになる。
月読命、当然といえば当然なのだが、時を支配する神なんだろう。
「これが丹の湖か。湖の底には何があるのかな? 竜宮城か古代遺跡か、はたまた……」
神沢優はピンクのサイバーグラス越しに湖底を覗き込むが、紅い水が深過ぎて魚の影さえ見えない。
「昔話通りなら、竜宮城かな? あれ!?」
波奈はブスっぽい厚底メガネで湖底を見る。
彼女の目には、はっきりとは分からないが、何か巨大なものの影が見えた。
「なるほど、そういうことか」
神沢優はその正体について大体、察しがついているような口ぶりである。
「お姉さま、やっぱり、あれですかね」
「たぶん、あれよ。水を抜いてみれば、いずれ分かるわ」
神沢優と波奈は二人にしか解らないテレパシーのような会話をしている。
「さて、そろそろ、こやつを起こすか」
月読命は紅い湖の水を、腰に付けていた竹の水筒ですくって勢いよく安東要の顔にかけた。
「はあっ」
さすがの安東要も声を上げて目を覚ます。
ゆっくりと体を起こすと、呆けたような顔で波奈たちに気づいた。
「月読命さま、ここは一体?」
「古代の丹の湖じゃよ。これからそなたには、ある者たちから依頼を受けてもらう。それが亀の試練となる」
「それは、どんな依頼ですか?」
「行けば分かる」
月読命は一言いうと、大亀をゆっくりと動かして、湖の向こうの船着き場のような入り江を目指した。
近づいていくと、小さな桟橋が見える。
そこに数十人の村の民がひそひそと囁きながらこちらを見ていた。
村人の顔は誰も暗く、必死で祈るような表情で大亀の到着を待っている。
「――少彦名命様、その方が大国主命様ですか?」
村人の長らしき白髪の古老が月読命に話しかけてきた。
いや、少彦名命、大国主命、この老人は何を言ってるんだ?
要は一瞬、思考停止になって、その意味を少しづつ理解していった。
「そうじゃ。この方こそが、大国主命様じゃ。もう安心せい。丹の湖の水を抜いて、そなた達を水害からお救い下さる」
「え?」
安東要はついに亀の試練の意味を知った。
そして、自分が大国主命に間違えられていることも理解した。
だが、それと同時に、これは『間違いではないのかもしれない』と思い始めていた。
大国主命は須佐之男命の娘である須勢理毘売命と婚姻の後に、少彦名命と協力して諸国を巡り、国造りをしたと伝えられている。
大国主命は須佐之男命の息子に違いないのだが、正確には実の息子ではなく、養子である。
ならば、月読命が少彦名命と呼ばれているなら、要が大国主命であっても、何ら問題ないのだ。
大国主命の素性は謎に包まれていて、須勢理毘売命の夫であるとしか分かってはないのだ。
「これは神話呪術ね」
神沢優は月読命が少彦名命と呼ばれていて、何をしようとしているのか、正確に見抜いているようだった。
「たぶん、そう」
月読波奈も同意して表情を曇らせている。
「神話呪術?」
要が尋ねる。
「古代の神話には<型>があり、それに嵌ってしまうと、自動的に神話呪術が発動してしまうのよ。有名な話としてはイザナギが黄泉の国から脱出する際に、妻のイザナミに投げつけた呪物があるわ。髪飾り、櫛の歯、桃を投げることによってイザナギの逃走は成功する。呪的逃走と呼ばれる型よ。日本の昔話には<三枚のお札>というエピソードも数多くあるけど、これも呪的逃走という<神話呪術>の型よ。つまり、かなめっちは大国主命となって、月読命改め、少彦名命と共に国造りをすることになる」
神沢優が説明を加えた。
「つまり、僕が丹の湖の水を抜いて、村人を水害から救わないといけないということか。もし、できなけば?」
要には答えは何となく分かっていたが、一応、訊いてみた。
(できなければ、死あるのみ)
少彦名命が思考通信で冷酷に答えた。
†
「夜桜、ガトリング砲って、この時代にあったっけ?」
メガネは<ファイブドラゴンハインドPR>を左右に蛇行させながら、連射式のガトリング砲の銃弾を巧みに避けていた。
「いや、確か、なかったと思う」
夜桜が自信なさげに答える。
ネットゲー<刀剣ロボットバトルパラダイス>のやりすぎで歴史教科の成績は芳しくなかった。
彼は漆黒の機体<ニンジャハインドGR>をトリッキーなブレードローラーのステップで操作して、敵陣に肉薄している。
「私の記憶では、1861年にアメリカ合衆国の発明家リチャード・ジョーダン・ガトリングによって開発された最初期の機関銃だったと思うよ」
ハネケは学年の成績はトップクラスなので、たぶん、正確な知識であると思われるが、そんなことをのたまった。
ハネケはもちろん、純白の<ボトムドール>を駆っている。
華奢な美少女型の<ボトムストライカー>なのだが、元々<ねじまき姫>から貰った特殊な機体であり、今ではハネケの愛機になっている。
そこはカリスマ的リーダーである天草四郎(本名、益田四郎時貞)が起こした、キリシタンたちの一斉蜂起である<島原の乱>の激戦地、原城の前面である。
島原はキリシタン大名の有馬晴信の所領でキリスト教信仰も盛んであったが、慶長19年(1614年)に有馬氏が転封となり、その代わりに大和五条から松倉重政が入封した。
寛永14年10月25日(1637年12月11日)に勃発した<島原の乱>は、肥後天草諸島の領民の百姓が過重な年貢に窮し、キリシタンの迫害などもあいまって起こった一揆、反乱である。
板倉重昌に率いられた九州諸藩による討伐軍は原城を包囲して再三攻め寄せ、12月10日に総攻撃を行うが、この時代にないはずの<ガトリング砲>によって壊滅していた。
事態を重く見た幕府では、老中・松平信綱を大将とする九州諸侯の増援も含む12万以上の討伐軍を編成して派遣したが苦戦していた。
そこに、この時代には死んでいるはずの真田幸村率いる人型機動兵器隊数機が参戦したという成り行きになっている。
しかも、備後福山藩の名将、水野勝成(当時75歳)の軍勢5600の指揮下に入っている。
大坂の陣では、真田信繁隊(幸村)が家康の旗本へ攻め込んで家康を追い詰めた時、救援に駆けつけて、真田隊を壊滅させた軍勢のひとつだというのは皮肉な話である。
「とりあえず、おいらが先に突っ込みます」
心之助は<流星剣>を抜刀して、<ニンジャハインド ブラックソード>を加速させる。
ガトリング砲の一斉射撃を浴びるが、高速機動でかわして、<流星剣>を一太刀浴びせた。
だが、甲高い音を響かせて、剣が跳ね返されてしまう。
「<薔薇十字騎士団>、只今、見参! 団長リカルド・バウアーである! 私が来たからには、この戦の勝利は間違いない!」
深紅の機体に両肩に銀色に輝く十字架がみえる人形機動兵器から、甲高い声が戦場に鳴り響いた。
空からベアトリスナイトの友軍機体が100機ほど降下してきて、原城の前面に勢揃いした。
原城に籠城しているキリシタンから、天使が現れたと歓喜の叫び声が上がる。
「また、ややこしい奴が来たな」
真田幸村は聖刀<真田丸>を解放して、堅牢な前線砦を構築している。
砦の上からボトムストライカー<ニンジャハインド クリムゾンソード>に搭乗して戦況を見つめていた。
「まあ、予想された戦力投入ですがね」
幸村の隣には、石田三成が白色の愛機<ホワイトナイト ドローンマスター>ですっくと立っていた。
「あれがベアトリスナイトかあ。ネメシスやれそうか?」
その隣には明治維新を見ることもなく不遇の死を遂げたはずの坂本龍馬がいた。
愛機は<スナイパーアレイ>、大規模殲滅戦用の特殊戦略機体である。
まさに、一騎当千の新戦力と言えた。
「このネメシスに不可能はないわ!」
妖精のような人工知能ネメシスが自信満々で答えた。
(あとがき)
久しぶりの更新なのですが、今年は亀と鶴の試練を片付けて、島原の乱の完結までは行きたいですね。
スナイパーアレイの初代搭乗者は坂本龍馬ですが、彼の存在がネメシスをどう変えたか、「刀撃スナイパー」の中で、おいおい分かってくると思います。
この作品は実質、初の長編なんですが、普通だと、夏休みの思い出みたいなタイムスリップ物として、一年ぐらいで終わる予定でした。内容的にも15~20万字ぐらいの本二冊ぐらいの分量になるはずですが、あまりの遅筆のために、4年以上コツコツ書いてます。
最終話、最終決戦のストーリーは決まってるのに、なかなかそこまでたどり着かない感じで、まだまだ波乱がありそうです。生きているうちに書き終えたいが、さていつまでかかりますかね。
刀撃スナイパー~十二聖刀物語外伝~ 作者 坂崎文明
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月読命は気絶している安東要を見下ろしながら、小言をひとつ吐く。
「でもね。こう見えて、結構しぶといのが、かなめっちよ」
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そこは真紅の波が立つ湖のようだった。
湖の一面が風によって小波が立って揺れている。
その中心に巨大な玄武が浮かんでいた。
おそらく、古代の<丹の湖>だと思うが、そうだとすると時間を遡ったことになる。
月読命、当然といえば当然なのだが、時を支配する神なんだろう。
「これが丹の湖か。湖の底には何があるのかな? 竜宮城か古代遺跡か、はたまた……」
神沢優はピンクのサイバーグラス越しに湖底を覗き込むが、紅い水が深過ぎて魚の影さえ見えない。
「昔話通りなら、竜宮城かな? あれ!?」
波奈はブスっぽい厚底メガネで湖底を見る。
彼女の目には、はっきりとは分からないが、何か巨大なものの影が見えた。
「なるほど、そういうことか」
神沢優はその正体について大体、察しがついているような口ぶりである。
「お姉さま、やっぱり、あれですかね」
「たぶん、あれよ。水を抜いてみれば、いずれ分かるわ」
神沢優と波奈は二人にしか解らないテレパシーのような会話をしている。
「さて、そろそろ、こやつを起こすか」
月読命は紅い湖の水を、腰に付けていた竹の水筒ですくって勢いよく安東要の顔にかけた。
「はあっ」
さすがの安東要も声を上げて目を覚ます。
ゆっくりと体を起こすと、呆けたような顔で波奈たちに気づいた。
「月読命さま、ここは一体?」
「古代の丹の湖じゃよ。これからそなたには、ある者たちから依頼を受けてもらう。それが亀の試練となる」
「それは、どんな依頼ですか?」
「行けば分かる」
月読命は一言いうと、大亀をゆっくりと動かして、湖の向こうの船着き場のような入り江を目指した。
近づいていくと、小さな桟橋が見える。
そこに数十人の村の民がひそひそと囁きながらこちらを見ていた。
村人の顔は誰も暗く、必死で祈るような表情で大亀の到着を待っている。
「――少彦名命様、その方が大国主命様ですか?」
村人の長らしき白髪の古老が月読命に話しかけてきた。
いや、少彦名命、大国主命、この老人は何を言ってるんだ?
要は一瞬、思考停止になって、その意味を少しづつ理解していった。
「そうじゃ。この方こそが、大国主命様じゃ。もう安心せい。丹の湖の水を抜いて、そなた達を水害からお救い下さる」
「え?」
安東要はついに亀の試練の意味を知った。
そして、自分が大国主命に間違えられていることも理解した。
だが、それと同時に、これは『間違いではないのかもしれない』と思い始めていた。
大国主命は須佐之男命の娘である須勢理毘売命と婚姻の後に、少彦名命と協力して諸国を巡り、国造りをしたと伝えられている。
大国主命は須佐之男命の息子に違いないのだが、正確には実の息子ではなく、養子である。
ならば、月読命が少彦名命と呼ばれているなら、要が大国主命であっても、何ら問題ないのだ。
大国主命の素性は謎に包まれていて、須勢理毘売命の夫であるとしか分かってはないのだ。
「これは神話呪術ね」
神沢優は月読命が少彦名命と呼ばれていて、何をしようとしているのか、正確に見抜いているようだった。
「たぶん、そう」
月読波奈も同意して表情を曇らせている。
「神話呪術?」
要が尋ねる。
「古代の神話には<型>があり、それに嵌ってしまうと、自動的に神話呪術が発動してしまうのよ。有名な話としてはイザナギが黄泉の国から脱出する際に、妻のイザナミに投げつけた呪物があるわ。髪飾り、櫛の歯、桃を投げることによってイザナギの逃走は成功する。呪的逃走と呼ばれる型よ。日本の昔話には<三枚のお札>というエピソードも数多くあるけど、これも呪的逃走という<神話呪術>の型よ。つまり、かなめっちは大国主命となって、月読命改め、少彦名命と共に国造りをすることになる」
神沢優が説明を加えた。
「つまり、僕が丹の湖の水を抜いて、村人を水害から救わないといけないということか。もし、できなけば?」
要には答えは何となく分かっていたが、一応、訊いてみた。
(できなければ、死あるのみ)
少彦名命が思考通信で冷酷に答えた。
†
「夜桜、ガトリング砲って、この時代にあったっけ?」
メガネは<ファイブドラゴンハインドPR>を左右に蛇行させながら、連射式のガトリング砲の銃弾を巧みに避けていた。
「いや、確か、なかったと思う」
夜桜が自信なさげに答える。
ネットゲー<刀剣ロボットバトルパラダイス>のやりすぎで歴史教科の成績は芳しくなかった。
彼は漆黒の機体<ニンジャハインドGR>をトリッキーなブレードローラーのステップで操作して、敵陣に肉薄している。
「私の記憶では、1861年にアメリカ合衆国の発明家リチャード・ジョーダン・ガトリングによって開発された最初期の機関銃だったと思うよ」
ハネケは学年の成績はトップクラスなので、たぶん、正確な知識であると思われるが、そんなことをのたまった。
ハネケはもちろん、純白の<ボトムドール>を駆っている。
華奢な美少女型の<ボトムストライカー>なのだが、元々<ねじまき姫>から貰った特殊な機体であり、今ではハネケの愛機になっている。
そこはカリスマ的リーダーである天草四郎(本名、益田四郎時貞)が起こした、キリシタンたちの一斉蜂起である<島原の乱>の激戦地、原城の前面である。
島原はキリシタン大名の有馬晴信の所領でキリスト教信仰も盛んであったが、慶長19年(1614年)に有馬氏が転封となり、その代わりに大和五条から松倉重政が入封した。
寛永14年10月25日(1637年12月11日)に勃発した<島原の乱>は、肥後天草諸島の領民の百姓が過重な年貢に窮し、キリシタンの迫害などもあいまって起こった一揆、反乱である。
板倉重昌に率いられた九州諸藩による討伐軍は原城を包囲して再三攻め寄せ、12月10日に総攻撃を行うが、この時代にないはずの<ガトリング砲>によって壊滅していた。
事態を重く見た幕府では、老中・松平信綱を大将とする九州諸侯の増援も含む12万以上の討伐軍を編成して派遣したが苦戦していた。
そこに、この時代には死んでいるはずの真田幸村率いる人型機動兵器隊数機が参戦したという成り行きになっている。
しかも、備後福山藩の名将、水野勝成(当時75歳)の軍勢5600の指揮下に入っている。
大坂の陣では、真田信繁隊(幸村)が家康の旗本へ攻め込んで家康を追い詰めた時、救援に駆けつけて、真田隊を壊滅させた軍勢のひとつだというのは皮肉な話である。
「とりあえず、おいらが先に突っ込みます」
心之助は<流星剣>を抜刀して、<ニンジャハインド ブラックソード>を加速させる。
ガトリング砲の一斉射撃を浴びるが、高速機動でかわして、<流星剣>を一太刀浴びせた。
だが、甲高い音を響かせて、剣が跳ね返されてしまう。
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「まあ、予想された戦力投入ですがね」
幸村の隣には、石田三成が白色の愛機<ホワイトナイト ドローンマスター>ですっくと立っていた。
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(あとがき)
久しぶりの更新なのですが、今年は亀と鶴の試練を片付けて、島原の乱の完結までは行きたいですね。
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この作品は実質、初の長編なんですが、普通だと、夏休みの思い出みたいなタイムスリップ物として、一年ぐらいで終わる予定でした。内容的にも15~20万字ぐらいの本二冊ぐらいの分量になるはずですが、あまりの遅筆のために、4年以上コツコツ書いてます。
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