安倍晴明と安東総理のやり直し転生譚

坂崎文明

魔女ランダ VS 西郷隆盛軍団

「まったく、私のかわいいゾンビちゃんをどんどん殺してくれるわね」

 黒髪で赤い瞳の魔女ランダは14歳ぐらいの少女の姿で空中を浮遊している。
 その身体は黒いマントにすっぽりと覆われていた。
 西郷隆盛の<天牛>部隊を睨みつけている。
 
「といわれても、薩摩ん兵は強かでな」

 西郷は豪快に笑いながら答える。

「こんな可愛い女の子をいじめるなんて、西郷殿は酷いなあ」

 作戦を変えたのか、ちょっと可愛いこぶりっこになっている。

「すまんのう」

 西郷が素直に謝る。
 人が良すぎる。

「仕方ない、あれ、呼んじゃうかな」

「あれだと?」

 西郷は釣られて訊いてしまう。

「黒騎士ゾンビ13サーティーン!」

 魔女ランダは高らかに宣言した。
 黒騎士は確か一体しかいないはずなのに、13体の黒騎士が現れた。
 そのまま<天牛>部隊に襲いかかる。
 黄金色に輝く重機動ボトムストライカー<天牛>が、盾を揃えて十三機の黒騎士の剣戟けんげきを防ぎ切る。
 白銀色に輝く高速ボトムストライカー<天狼>がその隙間から躍り出て抜刀攻撃を仕掛ける。
 その中でも桐野利秋こと人斬り半次郎の動きは凄まじく、神速の機動力で黒騎士に斬撃を叩き込んでいく。
 
「一丁あがり」

 桐野がつぶやくと、一体の黒騎士が膝を折って崩れ落ちた。
 装甲はボロボロになっていて、桐野の白銀の聖刀<黒霧くろきり>の前に切り刻まれていた。
 
「不死身の騎士か。厄介ね」

 ゾンビマスター魔女ランダでも苦手なものはあるらしい。

「魔女殿、そろそろ降参してはどげんけ?」

 西郷がとぼけた口調でいう。

「黒騎士ちゃんを全部倒してからいいなさい」

 魔女ランダはちょっとイラっとしていう。

「まあ。時間ん問題じゃっどんね」

 のんきな薩摩弁が魔女ランダの感情をかえって逆撫でしている。
 だが、西郷の言うことももっともだった。
 <天牛>の鉄壁の防御、<天狼>の攻撃力、そして不死身であることを考え合わせると、黒騎士ゾンビであっても倒されるのは時間の問題だった。

「さて、そろそろ私が決着をつけるかな」

 そして、ここで更なる戦力が投入されることになる。
 ハネケの純白の<ボトムドール>である。
 華奢な美少女型の<ボトムストライカー>なのだが、元々<ねじまき姫>から貰った特殊な機体であり、今ではハネケの愛機になっている。

 ハネケは背中の聖刀をゆっくりと抜き去った。
 銀色に輝く聖刀の名は<オリハルコン>という。
 十二聖刀のひとつで、古代ギリシャの哲学者プラトンによれば、伝説の古代アトランティス大陸にあったという幻の金属の名前に由来する。

「攻城刀技<グレートソード>!」

 ハネケの聖刀<オリハルコン>が黄金色に輝き、巨大な光に包まれた。
 エネルギーが膨張して巨大化した聖刀を一気に横にいだ。
 残り十二機の黒騎士が上下に見事に両断されて、爆炎につつまれていく。
 あまりのエネルギー量に分断された機体が一瞬で蒸発した。

「一体、なに?」

 魔女ランダが一瞬、何が起こったのか把握できないでいる。
 数千年の時を生きていた彼女にしても滅多にないことである。 

「嘘じゃろ?」

 西郷もさすがに開いた口がふさがらない。

「十二丁あがり、かしらね」

 ハネケは久々に気分がすっきりしているようだ。

「凄かおなごがおっもんだ」

 いつもクールな桐野もあまりの出来事に薩摩弁が出てしまっていた。

「……まあ、仕方ないか。時間は十分稼げたし、この勝負、次回に持ち越しね」

 魔女ランダは負け惜しみ言いながら、瞬間移動テレポーテーションで姿をかき消す。
 遥か数十キロ先に徳川家康軍団と<ブラックナイト>が撤退していく姿が見えていた。
 もう追いつきそうになかった。
 その時、旗艦<天龍>に<ブラックナイト>からの通信が入った。

「信長殿、今回は引き分けに終わったが、鉄壁の要塞『小田原城』で待っている。また会おう!」

 一方的にそう言い放つのはベアトリスナイトのリカウド・バウアーだった。

「バウアー殿、また会えるのを楽しみにしている」

 信長も余裕の笑みで答える。
 お互いに被害は甚大なのだが、そこは大人のやり取りであった。
 通信が切れると、流石の信長も胸を撫で下ろした。
 それほど薄氷の引き分けであった。
 
 ここに関ケ原の戦いは決着した。
 意外な伏兵、ハネケの聖刀<オリハルコン>の豪刀伝説は信長たちの西軍で長く語り継がれることになる。
 その実情がグタグタのドローだとしても、信長軍団の被害も甚大で追撃する余力がなかったのだ。
 その晩は金髪のオランダ人美少女ハネケを囲んで、信長、真田幸村たち戦国武将たちが酒宴で隠し芸など繰り出して賞賛したのは言うまでもないことであった。

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