わたしと出会ってみませんか?

KUROKA

01夜:その日は唐突に。

「ここ、だよな。××って...」
憂蘭はマンションを出た後、何度か女性と連絡をとり目的の場所についた。
そこは、昼2時過ぎの太陽の日差しが完全に遮られた薄暗い裏路地。
(な...なんか怖...)
憂蘭は先程まで感じていた蒸し暑さとこの場所の温度差に不気味さを感じた。
(か...帰ろうかな...)

ピコンッ。

「うわ!び、びっくりしたぁ...」
この薄暗い細道を進むべきか、来た道を戻るべきか迷っていた憂蘭のスマホが通知音を鳴らした。
ポケットから取り出して見ると、案の定女性からのメッセージが来ていた。
女性【来てくれましたか?今どこですか?】
(...本当に会えるんだよな)
場所が場所で少し疑心になる憂蘭。
(でも、本当に会えるならこんな機会逃すわけには...)
...揺らぐ煩悩。
そんなブレブレな憂蘭の心は次の瞬間に修正された。

「あ、いた。タケさーん!」

「......え......あ....」
暗がりから、憂蘭がよく出会い系サイトで使うネームを呼ぶ少女の声。
その距離数メートル。幻想じゃない。
憂蘭の目の前には間違いなく、少女がいる。
薄暗い中でもそのシルエットや声で瞬時に可愛い子だと判断できた。
そう、この子こそーー
「リ...リアンさん??」
憂蘭にそう呼ばれた少女は、薄暗くてあまりわからないが少し笑みを浮かべているようだ。
「はい。そうですよ〜!」
そして、彼女からゆっくり歩み寄って来た。
徐々に少女の姿が見えてくる。
(わー!写真どおりの美人じゃんか!!)
黒髪の前下がりショート、色白の肌、それに天使のような笑顔。憂蘭はもう彼女の虜になっていた。
憂蘭の側にまで来た少女。
女子特有の甘い匂いに童貞憂蘭はもう言葉も出ない。
「会えて嬉しいです。タケさん」
トドメの至近距離、天使の笑顔。
(反則級だろぉおおお!!)
こんな美少女に“会えて嬉しい”なんて言われたら、モテる男はなんて返すのか...なんて事を考える憂蘭。
頭を高速回転させた結果出た言葉はーー
「...や...やぁ...」
「...?」
(やっちまったー!リアンさんめっちゃ首傾げたー!)
伊佐美憂蘭。所詮、童貞だった。
(俺ぇええ!おい俺ぇえ!?さっきまでの威勢はどうしたー!ここに来る間にいくつの口説き文句練習したんだよー!)
憂蘭はもう1度、目の前の少女を見る。
少女はまだ首を傾げていた。
(キョドってるのバレたってー!絶対バレたってぇええ!!)
少女は眉間にしわを寄せ、不思議そうな顔で憂蘭を見る。
「んんんー??」
そしてさらに至近距離から憂蘭を見始めた。
(ち...近い...めちゃくちゃいい匂いが...)
少し後ろに下がる憂蘭。

「へぇ〜。なにもしないんだ」

少女が怪訝そうにそう言った。
ちょっと考えただけで彼女が何を言ってるのかが憂蘭にはわかった。
(な...何もって......そういう事だよね!?)
「そ、それはそうだよ!まだ何も話してないし...」
身振り手振りで何もしない事を必死で示す憂蘭。
「...........へぇ」
とたん、少女の目が先程とは打って変わって冷たくなった。
(...な、なんか悪いこと言ったかな!?)
「リ、リアンさん...?」
怖いくらい冷めた目で憂蘭を見る少女は一歩後ろに下がると右手を横に広げた。
「...リアンさん?」
何かわからない。何かはわからないが、憂蘭は危険を感じた。ーー命の危険を。
(こ、これが殺気てやつか...ははっ、厨二か俺は...)
後ずさりする憂蘭。
少女はまるで獲物を捕らえた肉食動物のように憂蘭から目を離さない。
「アンタは“奴ら”の中でもだいぶ変わり者なのね」
淡々と話す少女。
その口調や雰囲気はもう先程の少女とは全然違う。
(奴ら?奴らってなんだよ...)
異様な空気を感じとった憂蘭は走って逃げる事を決意した。
そんな憂蘭を他所に少女の口は止まらない。
「それに、襲うこともできないなんて...弱すぎね」
プチッ...童貞の心が傷つくと同時に火がついた。
「そ、そんなことない!ど、童貞舐めるな!」

ピリッ。

憂蘭の誤算。
出会い系サイトで会う女性なんてみんな下ネタに耐性があるものと思っていた。
だから目の前の少女の空気がさらに冷たくなったのを感じ取った憂蘭は、今までにないくらいの絶望感を感じた。
「そういう...話をしてるんじゃない...もういいわ」
少女の方がワナワナと震えている。そしてーー

「死ね。下等な化け物」

憂蘭はどこかでわかっていた。
目の前の少女が本気で殺そうとしていて、自分は今すぐに走って逃げないと命がない事を。
自分の思考より先に身体が動いた。
憂蘭はもう少女を背にして走り出していた。

バァァアアン!!ビリビリビリ...!

途端、耳をつんざくような音が憂蘭を襲う。
(......は?)
疑問より先に後ろからの風圧に背中を押されて前のめりに倒れる憂蘭。
「痛っ...!何がーー」

ザクッ。

「...かはっ」
急激な痛み。自分の腹部の冷たさと口から止まらず出てくる自身の血が死の恐怖を掻き立てる。
視界が霞む中、目の前に綺麗な女性の足が見えた。
その足の数からどうやら1人でないことはわかった。

「りぃ!この人、人間...」
「に...人間ですって!?嘘よ!そんなはず...」
「どうしましょう...」
「くっ...だい..ぶ...ワ..が、なんとか..る...」
「そ...は!ダ..よ...りぃ!!」

意識が遠のく憂蘭。
女性が2人何か話すのが聞こえたが、もうそれどころではなかった。
(足綺麗だなぁ...死にたくないなぁ...)
目の前が暗くなった。
...違う。誰かの膝が視界を覆っているのだ。
どうやら誰かが憂蘭の目の前に座ってるみたいだ。
(あ...パンツ...)
ハッキリとは見えないが、それは間違いなく女の子のパンツだった。
(最期にこんな景色で死ねるなら...もういいや...)
まぶたが自然と落ちていく憂蘭。

「ワタシの異能力アルテミス。この男を後継人アポロンにするわ」

伊佐美憂蘭、20歳。
人生最期の景色は女の子のパンティと、眩い光だった。

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