すばらしき竜生!
第46話 初戦
『さぁ、魔剣祭初日も終盤となりました! 初日にも関わらず素晴らしい戦いを見せてくれた生徒達のラストを飾るのは――こいつらだ!』
片方のゲートから魔術師のローブを羽織った男性が出てくる。 そのローブもそこら辺で売っているような物ではなく、所々に装飾が施されているのでそこそこの階級なのだろうとわかる。
『先に出てきたのはレイラノブ・カザライノウト君だ! 彼は高等部最高学年で実力は申し分なく、得意な魔法では教授からも評判が良いとのこと。今日はどのような魔法が見られるのか楽しみだ!』
観客席から盛大な拍手がおくられる。レイラノブの友人や知り合いからは一際大きな声援が飛び交い、相当期待されているのだとわかる。
それとは逆に反対側のゲートから出てきたのは見るからにやる気なさそうな青年。厳つい目線で周囲をうっとおしそうに見回しながら、だるそうに首を回している。黒く統一された服と相なって良い印象はない。
『反対側から出てきたのはロード君! 彼は今年度から新たに入った新入生で、相手が最高学年というのはやや気が引けるだろうが、是非とも頑張って欲しいです!』
観客席からはチラホラとしか拍手が来ない。応援しているのはただ二人を除いて誰も居ない。
「うぉおおおお! 頑張れー! ロード頑張れー!」
「兄貴ー! そんな相手、すぐに捻り潰してやってくださいよー!」
その二人――シエルとカリムのテンションが凄くて、周りの観客は若干引いている。 シエル達のテンションに引いているのは観客だけではない。今まさに戦おうとしているロードにも声は届いており、引いているというよりもシエル達のテンションはロードを呆れさせる。
「何をやってんだあいつらは」
いっそこのまま直にうるさいと言いに行ってやろうか。そう思っていたら目の前のレイラノブから苛立った声がかかる。
「おい、目の前の相手を無視して観客に注目しているとか……少しばかり先輩に失礼じゃないか?」
「あ゛? …………ふんっ」
気にかけたのは一瞬。あとはどうでもいいとばかりにシエル達に注目するロード。その態度はレイラノブを怒らせるには十分で、
「良いだろう……生意気な後輩に厳しさを教えてやるのも先輩の務め。泣いて詫びるが良い!」
ようやくレイラノブの言葉に反応したロード。今さら怖気づいたかと思ったレイラノブは次の言葉に憤怒することになる。
「そういうこと言う人間って……大抵雑魚ですよね」
「――き、貴様ぁ!」
「あちゃー。ロードったら初っ端から楽しんでるよ」
必死に応援していたシエルは化物のような聴覚でロードと対戦相手の会話を聞いていた。
「姉さん? 俺が見るからには楽しんでいる素振りは見えないのですが。……どちらかというとやる気が一切見えない感じが……」
カリムはもう一度目を凝らしてロードを見る。憧れの人の姿は全体的にダラリとしていて、やる気なさそうにこちらを見て引き笑いをしている。
「おお、完全に相手を歯牙にもかけてないっすねー」
「あれはロードの作戦よ」
「ぇ……あれが作戦なんすか?」
カリムが目を丸くして再度ロードを見るが、どう見てもあれがいつものロードとしか思えない。シエルはその様子を見て笑いながら呆れたように説明した。
「ロード曰く、激怒した相手は面白いくらいに限界を超えた行動をしてくるらしいよ。そして、相手が本当の限界を迎えるまで戦って潰すのが最高の楽しみなんだってさ」
「それは何とも……酷いっすね」
「でしょ? 性格クソ過ぎるでしょって思ったけど、それに乗っちゃう私も私なんだよねー」
やっぱり私達は似た者同士なのかもねー、と諦めたように笑う。シエルはロードのことを極度な戦闘狂だと思っているが、かくいう自分も戦闘狂だと理解している。 どうせ戦うなら何の縛りもなく、自分のやりたいように互角かそれ以上の相手と戦いたい。そうでなければ面白くない。
今も闘技会でロードと戦うことを何よりの楽しみとしていて、いっそのことショートカット出来たらいいのにと無理なことさえ考えてしまう。
(前はロードが戦っている姿が怖いって思ってたのにね……)
いつの間に自分もロード流に染まってしまったのだろう。だからって悔やんではいない。ロードと一緒にいる時、それがシエルの一番の幸せなのだから。
「ほら、始まるわよ」
◆◇◆
「両者位置に…………それでは――始め!」
「雷獅子よ天を貫き、その牙を持って敵を穿て――獅子の雷撃!」
開始の合図と共に動いたのはレイラノブ。 早口に唱えた魔法はその名の通り獅子を型取り、凄まじいスパークと速度を持って無防備なロードへと襲いかかり、ロードを中心に砂埃が巻き起こる。
『おおっと! これはレイラノブ君。いきなり中級魔法だ! これにはロード君も流石に反応出来ない!』
「あの実況、私の時も思ったけど馬鹿ね」
「しょうがないっすよ。ああいうのは戦闘向きの奴らじゃなくて他専門のやつがやったほうが良いらしいですよ」
「ちゃんと間違いなく実況してほしいけどねぇ」
巻き起こる砂煙を見ながら頬杖をついて心底つまらなそうに見ているシエル。やがて砂煙が薄れていくと、そこには何事もなく立っているロードの姿が。 レイラノブは決まったと思っていたのか、最初と何も変わらない姿で立っているロードを見てわかりやすく狼狽している。
「ほら、やっぱりわざと避けないでいた」
シエルの早撃ちでさえ反応してみせるロードがあんな鈍い雷撃を躱せないはずがない。
レイラノブは見るからに焦った様子で口早に様々な魔法を撃ち込む。それは炎だったり雷だったり、はたまた合成魔法で限界を超えた威力をロードに向けて放つ。 ロードはそれをただ受けるだけではなく、時には手で弾いたり避けたりして一歩一歩確実にレイラノブに近づいていく。
「う――――うわぁあああああ!?」
最初の威勢は何だったのか。レイラノブの表情は恐怖を見るそれとなっている。とうに残りの魔力は限界を迎えているのに魔法を撃ち込んでいる。顔は真っ青になっており、誰が見ても危険な状態なのだが試合中なので割り込むことも出来ない。
ゆっくりと歩いていたロードがようやくレイラノブの目の前までたどり着く。
「よう、先輩。ひっでぇ顔だが、何かあったのか?」
「――ヒッ、クソが――――ァアァアアア!?」
レイラノブは混乱してロードに殴りかかるが、それを軽々と掴んだロードはそのまま握り潰す。会場に響き渡る断末魔が観客達を恐怖に突き落とす。
「ストップ! 勝者はロード。これで試合は終わりだ! 君、手を放しなさい!」
見るに耐えなくなった審判が強制的に割り込んで終了宣言をする。面白い表情を見れたが全然満足出来なかったロードは舌打ちを一つ、そのままレイラノブを投げ捨てて出口に向かって歩き出す。
もちろん、勝者に対する賞賛も歓声も一切ない。あるのはただの沈黙のみで、唯一応援していたシエルとカリム、そしてずっと静かに試合を見ていたツバキはすでにその場にはいなかった。
「あー、強え奴と戦いてぇ。満足出来ねぇ」
「ホント、それについては同感だわ」
ロードは一人廊下を歩きながら不意に呟いた一言。それに応える声がしたほうを見ると、勝ち気な目をした吸血姫が立っていた。
「ああ、シエルか。どうだったよさっきの試合」
「どうって……つまらなかったわ。唯一満足したのは最後の表情だけね」
「だよなぁ……これで相手が強かったんなら最高だったのになぁ……」
当然のように隣を歩くシエルに何も言わず、いつも通りの会話をしながら歩く規格外の二人組。うち一人はつい先程まで悪魔のようなことをしたというのに気にした様子もなく気だるげに歩いている。 それを後ろから見ていたツバキとカリム。
「「絶対におかしいわぁ……」」
二人の言葉に肯定の意を示す者はその場にはいなかった。
片方のゲートから魔術師のローブを羽織った男性が出てくる。 そのローブもそこら辺で売っているような物ではなく、所々に装飾が施されているのでそこそこの階級なのだろうとわかる。
『先に出てきたのはレイラノブ・カザライノウト君だ! 彼は高等部最高学年で実力は申し分なく、得意な魔法では教授からも評判が良いとのこと。今日はどのような魔法が見られるのか楽しみだ!』
観客席から盛大な拍手がおくられる。レイラノブの友人や知り合いからは一際大きな声援が飛び交い、相当期待されているのだとわかる。
それとは逆に反対側のゲートから出てきたのは見るからにやる気なさそうな青年。厳つい目線で周囲をうっとおしそうに見回しながら、だるそうに首を回している。黒く統一された服と相なって良い印象はない。
『反対側から出てきたのはロード君! 彼は今年度から新たに入った新入生で、相手が最高学年というのはやや気が引けるだろうが、是非とも頑張って欲しいです!』
観客席からはチラホラとしか拍手が来ない。応援しているのはただ二人を除いて誰も居ない。
「うぉおおおお! 頑張れー! ロード頑張れー!」
「兄貴ー! そんな相手、すぐに捻り潰してやってくださいよー!」
その二人――シエルとカリムのテンションが凄くて、周りの観客は若干引いている。 シエル達のテンションに引いているのは観客だけではない。今まさに戦おうとしているロードにも声は届いており、引いているというよりもシエル達のテンションはロードを呆れさせる。
「何をやってんだあいつらは」
いっそこのまま直にうるさいと言いに行ってやろうか。そう思っていたら目の前のレイラノブから苛立った声がかかる。
「おい、目の前の相手を無視して観客に注目しているとか……少しばかり先輩に失礼じゃないか?」
「あ゛? …………ふんっ」
気にかけたのは一瞬。あとはどうでもいいとばかりにシエル達に注目するロード。その態度はレイラノブを怒らせるには十分で、
「良いだろう……生意気な後輩に厳しさを教えてやるのも先輩の務め。泣いて詫びるが良い!」
ようやくレイラノブの言葉に反応したロード。今さら怖気づいたかと思ったレイラノブは次の言葉に憤怒することになる。
「そういうこと言う人間って……大抵雑魚ですよね」
「――き、貴様ぁ!」
「あちゃー。ロードったら初っ端から楽しんでるよ」
必死に応援していたシエルは化物のような聴覚でロードと対戦相手の会話を聞いていた。
「姉さん? 俺が見るからには楽しんでいる素振りは見えないのですが。……どちらかというとやる気が一切見えない感じが……」
カリムはもう一度目を凝らしてロードを見る。憧れの人の姿は全体的にダラリとしていて、やる気なさそうにこちらを見て引き笑いをしている。
「おお、完全に相手を歯牙にもかけてないっすねー」
「あれはロードの作戦よ」
「ぇ……あれが作戦なんすか?」
カリムが目を丸くして再度ロードを見るが、どう見てもあれがいつものロードとしか思えない。シエルはその様子を見て笑いながら呆れたように説明した。
「ロード曰く、激怒した相手は面白いくらいに限界を超えた行動をしてくるらしいよ。そして、相手が本当の限界を迎えるまで戦って潰すのが最高の楽しみなんだってさ」
「それは何とも……酷いっすね」
「でしょ? 性格クソ過ぎるでしょって思ったけど、それに乗っちゃう私も私なんだよねー」
やっぱり私達は似た者同士なのかもねー、と諦めたように笑う。シエルはロードのことを極度な戦闘狂だと思っているが、かくいう自分も戦闘狂だと理解している。 どうせ戦うなら何の縛りもなく、自分のやりたいように互角かそれ以上の相手と戦いたい。そうでなければ面白くない。
今も闘技会でロードと戦うことを何よりの楽しみとしていて、いっそのことショートカット出来たらいいのにと無理なことさえ考えてしまう。
(前はロードが戦っている姿が怖いって思ってたのにね……)
いつの間に自分もロード流に染まってしまったのだろう。だからって悔やんではいない。ロードと一緒にいる時、それがシエルの一番の幸せなのだから。
「ほら、始まるわよ」
◆◇◆
「両者位置に…………それでは――始め!」
「雷獅子よ天を貫き、その牙を持って敵を穿て――獅子の雷撃!」
開始の合図と共に動いたのはレイラノブ。 早口に唱えた魔法はその名の通り獅子を型取り、凄まじいスパークと速度を持って無防備なロードへと襲いかかり、ロードを中心に砂埃が巻き起こる。
『おおっと! これはレイラノブ君。いきなり中級魔法だ! これにはロード君も流石に反応出来ない!』
「あの実況、私の時も思ったけど馬鹿ね」
「しょうがないっすよ。ああいうのは戦闘向きの奴らじゃなくて他専門のやつがやったほうが良いらしいですよ」
「ちゃんと間違いなく実況してほしいけどねぇ」
巻き起こる砂煙を見ながら頬杖をついて心底つまらなそうに見ているシエル。やがて砂煙が薄れていくと、そこには何事もなく立っているロードの姿が。 レイラノブは決まったと思っていたのか、最初と何も変わらない姿で立っているロードを見てわかりやすく狼狽している。
「ほら、やっぱりわざと避けないでいた」
シエルの早撃ちでさえ反応してみせるロードがあんな鈍い雷撃を躱せないはずがない。
レイラノブは見るからに焦った様子で口早に様々な魔法を撃ち込む。それは炎だったり雷だったり、はたまた合成魔法で限界を超えた威力をロードに向けて放つ。 ロードはそれをただ受けるだけではなく、時には手で弾いたり避けたりして一歩一歩確実にレイラノブに近づいていく。
「う――――うわぁあああああ!?」
最初の威勢は何だったのか。レイラノブの表情は恐怖を見るそれとなっている。とうに残りの魔力は限界を迎えているのに魔法を撃ち込んでいる。顔は真っ青になっており、誰が見ても危険な状態なのだが試合中なので割り込むことも出来ない。
ゆっくりと歩いていたロードがようやくレイラノブの目の前までたどり着く。
「よう、先輩。ひっでぇ顔だが、何かあったのか?」
「――ヒッ、クソが――――ァアァアアア!?」
レイラノブは混乱してロードに殴りかかるが、それを軽々と掴んだロードはそのまま握り潰す。会場に響き渡る断末魔が観客達を恐怖に突き落とす。
「ストップ! 勝者はロード。これで試合は終わりだ! 君、手を放しなさい!」
見るに耐えなくなった審判が強制的に割り込んで終了宣言をする。面白い表情を見れたが全然満足出来なかったロードは舌打ちを一つ、そのままレイラノブを投げ捨てて出口に向かって歩き出す。
もちろん、勝者に対する賞賛も歓声も一切ない。あるのはただの沈黙のみで、唯一応援していたシエルとカリム、そしてずっと静かに試合を見ていたツバキはすでにその場にはいなかった。
「あー、強え奴と戦いてぇ。満足出来ねぇ」
「ホント、それについては同感だわ」
ロードは一人廊下を歩きながら不意に呟いた一言。それに応える声がしたほうを見ると、勝ち気な目をした吸血姫が立っていた。
「ああ、シエルか。どうだったよさっきの試合」
「どうって……つまらなかったわ。唯一満足したのは最後の表情だけね」
「だよなぁ……これで相手が強かったんなら最高だったのになぁ……」
当然のように隣を歩くシエルに何も言わず、いつも通りの会話をしながら歩く規格外の二人組。うち一人はつい先程まで悪魔のようなことをしたというのに気にした様子もなく気だるげに歩いている。 それを後ろから見ていたツバキとカリム。
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