すばらしき竜生!

白波ハクア

第42話 それぞれの休日

「うーん、贈り物って何が良いんだろう?」
 ロードが休日なのにも関わらず自宅で呑気に寝ている間にシエルとアイ、マイのメイド二人は竜王国の商店区に買物に来ていた。
 目的はシエルがロードに感謝の印として渡す贈り物を探すためだ。 ただでさえ深夜の件でも気を使わせてしまったので、シエルも何かしなくてはと思ったのが贈り物だ。
「やはり、ロード様といえど男です。カッコいい物とかどうですか?」「……例えば?」「アクセサリー……はつけてますし、服とかどうでしょう?」「服はロードが鱗を自由自在に変換させて作れるって言ってた」
 アイが提案をするが、却下される。 竜が使う『人化』は自由に服を変えることが出来るので、今思うと女子にとっては羨ましすぎる魔法だ。
「男らしく武器を贈るってのはどうなのです?」「ロードに武器を使わないの? って聞いたら『武器はつまんねえ』って言ってた」「「…………」」
 早速、三人は詰んだ。なにせロードの好む物が一切思い浮かばない。
「……とりあえず歩いていたら何か見つかるかもしれませんね」「そうね、時間はあるから適当に歩きましょ」
 商店区は人で賑わっている。店も沢山並んでいて、欲しい物のほとんどをここで買う事が出来るのだが、シエルが思うロードの好む物が見当たらない。
「お? シエラとメイドさんじゃねぇか、こんな所で捜し物か?」
 声がしたほうを見るとカリムが食べ物を片手にシエル達の所まで歩いてきている。
「こんにちはカリム。実は、ロードに贈り物をしたいんだけど、あいつって何が欲しいのか分からなくて」「兄貴が欲しい物……なんだろうなぁ」
 カリムとロードは知り合いらしいので何か分からないかと思ったのだが、カリムも分からないらしく腕を組んで悩んでいる。
「…………強いやつ、とか?」「――却下」「だよなぁ、兄貴は喧嘩と金以外はほとんど無欲だからな。……と言っても金を贈るのもおかしいし……ゲーセンは無いしなぁ」「げーせん? なにそれ美味しいの?」「なんでシエラがそのネタを……っとそれはどうでもいいか。すまん俺じゃあ力になれないみたいだ」「気にしないで、私達も地道に探すわ」
 と言っても何も進んでいないのは事実。 カリムと別れて、深いため息をつきながら再び三人で商店区を歩き出す。
 そこでシエルは一つの看板に目が留まる。そこには『手作りレストラン』と書かれていて人も出入りしている事から人気の店だと分かる。
「手作り料理かぁ――やっぱり女子は料理をしたほうがウケが良いのかも……」「し、シエル様? 別に料理でなくともロード様は喜んで下さると思います」「そうなのです! どうせ贈るのなら形が残る物が良いと思うのです!」「そぅ? じゃあやめるか……何にしようかなぁ」
((ホッ…………))
 シエルに料理を作らせるなとロードにマジのお願いされているメイド二人は、なんとか任務を達成出来た事に胸を撫で下ろす。
「じゃあ何が良いんだろう……ん? あれは…………」
「ここのケーキは何度来ても飽きないのぉ。教えてくれたシエルに感謝じゃな」
 果実亭を横切る時、店内を見ていたシエルが目にしたのは美味しそうにケーキを頬張るツバキの姿だった。
 ツバキにアドバイスを貰えないかと思ったシエルは店内に入ってケーキの注文をしてからツバキが座っている席に近づく。 向こうも近づいてくるシエルに気づいて軽く手を挙げて挨拶をしてくれる。
「ここで会うとは奇遇じゃな、アイにマイもこんにちはじゃ」「こんにちはツバキ様」「こんにちはなのです」「うむ! それでシエル、ロードは一緒ではないのか?」「えっとねぇ……」
 シエルはカリムに説明したような事を話した。 すると、ツバキは少し悩んで一つの案を出す。
「贈り物ならば形が残る物が良いじゃろう」「形……ねぇ」「結局は贈る側の気持ち次第で変わる。……それと、逆転の発想でロードに似合わぬ物を贈るのも面白いかもしれぬな」
 微かに笑って提案してくるツバキに、シエルもそれは面白そうだと思う。 ロードが喜ぶ姿を見たいが、少し困っている姿を見たいとは前から思っていた。だけど、あのロードはほとんどの事で動揺をしないので半分諦めていた。
 運ばれてきたケーキを食べてからツバキに礼を言い店を出る。 カリムとツバキから貰ったアドバイスを元に様々な店を転々としながら物を探す。
「――おっ?」

         ◆◇◆

 ロードが連れてこられたのは竜王国の王――エルド・ライズ・ドラコーンと、その配下である側近しか入室する事が出来ない部屋だ。
 そこには長テーブルが置かれていて中に入った者から順番に椅子に座っている。 心なしか側近達の引き締まった顔が、部屋に入ってから穏やかになった気がするロード。
「ささっ、ロード殿もお座りください。……何かお飲み物はあるか?」「それなら今日は良い紅茶が入ったぜ。お客さんに出すには良い物何じゃねぇか?」「シバリは自分が紅茶を飲みたいだけだろ……」「シバリってば本当に紅茶好きね。人を見た目で判断しちゃダメって事よね」「おう? どういう事だコラ」
 王が親しみを込めた口調で側近にすぐに出せる飲み物を聞くと、側近の一人であるスキンヘッドの男性がこれまた親しげに答える。 そうして各々が自由に話し始めて場には和やかな雰囲気が漂い始める。
(…………なんだこれ)
 ロードは思った以上の雰囲気の変わりように思考が追いつけていなかった。一番驚いたのは側近が王にタメ口を言っていた事だ。 今まで思っていた王と側近の関係は信頼関係と忠誠心だと思っていたロードは、目の前にいる人達の親しすぎる間柄に自分の考えは間違っていたようだと思い知らされる。
「――っとすいませんロード殿。もう少しで紅茶の準備が出来ますのでお待ちを……」「……あー、うん。…………もういいや……」
 ロードは諦めた。 この人達はこういう信頼関係が築けている。仲が良いのは良い事だ、こういうスキンシップがあっても良いじゃないか、と無理矢理理解する。
「どうぞ……おかわりは遠慮無く言ってね」「……どうも」
 側近の一人である金髪の女性が優雅に紅茶をティーカップに淹れて差し出してくれる。 軽くお礼をしてティーカップの縁を口につけて飲む。
「……うまいな」「――だろ!? これはリフレイアって言う珍しい植物の葉を使っていて、飲むだけで身体のリフレッシュと若干の回復が出来るんだ。それと――――」「はいはーい、ロード君が引いてるの分からないの? ……ごめんねぇ、コイツってばこんなナリしてるのに紅茶には目が無くてね」「――テメッ! こんなナリってどういう意味だコラ!」「そのまんまの意味ですけどぉ!?」
 詰め寄って来るスキンヘッドを退かして、次はショートカットの女性が視界に入って来てスキンヘッドと口論になっている。
(……自由すぎるだろこいつら)
 一瞬、自分に気を使ってわざと和むような雰囲気を作っているのかなと思ったロードはコッソリと竜眼を使って心を覗き視する。 だが、視えてくるのは本当に楽しんでいる想いだけ。 今度こそロードは考えるのを諦めた。

「……そろそろここに連れてこられた理由を教えてほしいのだが……」「これはすまない。少々話が盛り上がってしまったな……そろそろ本題に入ろう」
 エルドが手を叩いて切り替えると、先程までのふざけた態度から一変して全員が真面目な顔をしてロードを見る。 ロードはようやくまともな話が出来ると安堵するが、そんなに注目されると流石に視線を外したくなる。
「では、ロード殿にお聞きします。――私達は何に視えていますか・・・・・・・・・?」「正直に言っちゃって良いんだな?」「……はい。貴方の眼で視えている真実をお願いします」
 ならば言ってやろうとロードは静かに己の眼で視えている事を述べる。
「――竜」

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