すばらしき竜生!

白波ハクア

第31話 アルバート学院

 日が昇り小鳥のさえずりが聞こえてくる気持ちが良い朝。人々が起きてきてそれぞれの朝の準備をしている。
「ロ……さ………さい!」「…………んぁ?」「ロード様! 早く起きないと学校初日に遅れますよ!」「……俺が本気を出せば一瞬で着く……だからあと三日」「それ本気出しても遅れるやつです!」
 何とも騒がしい朝になっているが、近所からは仲がいいと言われている。なので、このやり取りも近所には慣れたものだ。
「ロード様ー、お姉ちゃんー、朝ごはんの支度終わったのー………あ、シエル様おはようございますなの!」
 1階からマイの声が聞こえてくる。そしてシエルもちょうど起き上がって来たらしく、軽く挨拶をする声が聞こえた。
「あいつ、もう起きてんのか……」「シエル様は朝の四時から起きてましたよ。学校が楽しみで寝れなかったと仰っていて、目にクマを作っていたので無理矢理寝かしたんです」「学校に行くのと遠足に行くのは別だぞ。………そろそろ着替えたいんだが」「――ハッ!? 失礼しました! そ、それでは準備ができましたらリビングに!」
 アイがいつまでもロードの隣にいるので、それを指摘したら顔を真っ赤にさせて出ていった。 そこまで恥ずかしがるか? と思いながらも若い少女の心情は分からんと区切りをつけて服を変える。
 ロードの服は人化した時に鱗が変形してできるので、自由に変える事もできるし全く汚れない、しかも黒竜の鱗なのでとてつもないほど頑丈になっている。
(今思えば一瞬で服変わるからアイを追い出す意味無かったな……まぁ、いいや)
 ロードが部屋を出るとお腹を空かせる良い匂いが一階から漂ってくる。今日の朝食担当のマイは幼いにもかかわらず吸収が早くて、ロードが教えてあげた料理をほとんど覚えてしまっている。
 アイは屋敷や各部屋の掃除や衣類などの洗濯をほとんど1人でこなしてしまうし、マイは料理やアイのお手伝いをしっかりとやってくれている。 前にロードも何か手伝おうかと聞くのだが二人には「ロード様に手伝わせるなんて出来ません!」と力強く断られてしまった。
 ちなみにシエルも何もやらせてもらっていない。アイもマイもこの前のダークマター事件がまだ怖いらしい。
「………あ、ロードおはよー」「おう、おはよう」
 リビングに行くとソファにどっかりと腰を降ろして朝からくつろいでいるシエルがいた。格好だけ見ると、明らかに引きこもりのニートにしか見えない。
「ロード様。先程、マインからガイ様達が冒険者学校に行ったとありました」「ん、大丈夫かねあいつら」「マインは全員がキラキラした表情で出て行ったと言っていましたよ。やはり、あのプレゼントがまだ嬉しいのかと……」
 プレゼントとは、ロードがガイ達の冒険者学校入学祝いと村にいた頃に特訓の合格をした景品のことだ。 ……といっても、ロードの鱗を五枚重ねにしてそれを頑丈な糸で括り付けた簡単な物だったのだが、子供達は「カッコいい!」とか「綺麗……」と言って気に入ってくれていた。 それを渡していた時にシエルは「あれで合計金貨三十枚……豪華すぎるプレゼントね」と遠い目で言っていた。
「作った本人が言うのもおかしいが、あれのどこが嬉しいんだかねぇ」「ロード様の手作りというのが一番嬉しいんですよ」「………ふぅん」「朝食できたのですー」
 マイがお盆で料理を運んでくる。今日の朝食は焼きたてのパンだった。 学校に遅れそうなのでマイに礼を言い、それを早めに食いあげて準備を始める。……といっても今日は初日なので持っていく物はほとんど無い。あるとしたら己の武器だけだ。
「ロード! はーやーくー!」
 シエルがロードの服を引っ張りながら学校に行こうと急かす。どれだけ楽しみなのだろうか、凄い騒いでいる。
 ロードが持ってく物は一切無いので用意は終わっている。なのでシエルに引っ張られるまま玄関まで歩く。
「じゃあ行ってくる。留守は任せた」「はい、行ってらっしゃいませロード様、シエル様」「行ってらっしゃいませ!」
 アイとマイの二人が綺麗なお辞儀で見送りをしてくれる。これから毎日こんな感じで送り出してくれる生活が続くのも悪くないと思ってしまう。
「行ってきまーす! ロード早く早く!」「学校は逃げねぇぞー」「――時間は逃げるの!」

        ◆◇◆

 アルバート学院。 
 ここは三大学院と呼ばれており有名な学院で知られている。
 ここに通う生徒は冒険者となって多くの功績を残したい者、魔法を研究して新たな使い方を見つけたいと思う者、ただ単純に力を付けて王国親衛隊に入りたいと願う者と様々な目標を持った者がいる。
 テストに合格する、年齢が10歳以上というのが入学する条件になっている。テストは筆記と実技がある。配点は筆記が30点、実技が70点と実技が重要視されている。 テストを80点で合格した者は特別クラスに振り分けられ、自分の好きな講義を選ぶ権利が与えられる。中には講義にはほとんど参加せずに自身の研究に没頭する者もいる。
 筆記は簡単な知識を覚えておけば満点を出せる問題になっている。それでもシエルは分からないことが多かったのでロードが一夜漬けで過去問を暗記させた。その後、シエルは頭がパンクしてぶっ倒れたがスパルタのロードが休むのを許すはずが無く、半泣きしながらさらに知識を詰め込んでいた。
 実技は学院の教員と一対一で模擬戦をし、いい戦いになるほど高得点になる。教員を倒せば満点になるが、教員も本気で掛かって来るので倒すことは困難になる。だが、これに関してはロードとシエルも問題が無く、どちらも一撃で教員を沈めた。
 テストは1週間前に済んでいて、今日はクラス発表とクラスメイトとの顔合わせ、学院の自由見学となっている。
「シエルはテスト大丈夫だったのか?」「実技は満点確実だから、筆記で10点取れれば特別クラスに行けるわ。もちろん自信あるわよ!」
 どうにも心配なのだが、本人が大丈夫と言うのだから無理矢理にでも大丈夫と思っておいたほうがいいだろう。
 そうこうしているうちにアルバート学院が見えてきた。門をくぐった先には人が集まっており、そこがクラス発表の場所らしかった。
「俺は309番………お、あった。……当然だが、特別クラスだな」「私は531番、……うーん………あった! やったわよロード、私も特別クラスよ!」
 どうやら一夜漬けをした効果があったらしい。 シエルは本当に嬉しいようでピョンピョンと軽く飛びながらはしゃいでいる。
 その様子は周りにも見えていたらしく、いろんな人がシエルを見ていた。もともと特別クラスは人数制限があって本当のエリートしか入れないとされているので、それも相まって余計に注目されてしまっている。
「君凄いねぇ、特別クラスなんだって? そんなに高得点出せる秘訣とかってあるのかな? 良かったら近くのカ―――ハゥッ!」「ロード、早く行こ?」
 チャラ男が歩み寄ってシエルにナンパしようとしたところを、最後まで聞かずチャラ男の股関辺りにシエルが威力を最大限に絞った魔弾を放って学院の昇降口に入っていく。
「初めてのクラスメイト楽しみね!」「………おぐぅううあ……」
 その場にシエルの陽気な声とチャラ男の苦悶の声が合わさって変な空気が流れていた。

 さすがは三大学院と言われているだけあって中は広かった。特別クラスは学院の奥にあるのでそこに行くのも一苦労だ。
「………おや? おーい、君達ー」
 呼ばれた気がしたので振り向くと眼鏡をかけた細身の男性がこちらに走って来るのが見えた。 シエルは「またさっきみたいなチャラ男か!?」と警戒していたが、ロードの目からしたらどうやらそうではないらしい。
「いやぁ、呼び止めてしまってすまない。君達って実技試験の時に教員を一撃で倒したよね?」
 どうやらこの男性もここの職員らしく、実技の光景が目に焼き付いているのだそうだ。
「……えぇ、それがどうしたんですか?」「君達凄い強いんだね! 僕久しぶりに感動しちゃったよ。……成績から考えてやっぱり特別クラスになった?」「はい、今からその特別クラスに行くところです」「………あー、やっぱりか」
 男性職員は頬をポリポリと掻いて困ったように笑っている。
「感動させてくれたお礼に言うけど………特別クラスは変人が多いから気をつけてね。――それじゃあ、またどこかで!」
 大きく手を振って男性職員が廊下の角に消えていく。
 アドバイス的なのを貰ったのだが、特別クラスは変人が多いと言われてもロードもシエルもおかしいっていえばおかしい側にいるので今更感がある。

 先程の出会いから僅か一分で目的の場所に到着した。迷路みたいだったが学院内の見取り図を渡されていたのでなんとかなった。 なんならすぐにロードが一直線に開通してやろうかと考えたのだが、シエルに本気で止められて仕方が無く面倒な廊下を歩くことになった。
「特別クラスの『Sクラス』は……あった! ひゃっほーい!」「――あ、おい! 特別クラスは上級生も居るんだから静かにしろ」「大丈夫よ。私だって常識はあるのよ? まずは様子見にチラリと覗くだけ………」
 シエルが走っていくのをロードが追いかける。そのシエルは特別クラスの扉の取手に手を掛けて恐る恐る開けると、そこには………
「――ぁあ゛ぁん? だぁれだテメェは!?」
「…………間違えました……」
 何か別の生き物がいた気がするシエルはスッと扉を閉めてロードを見る。その顔は「どうしよう、ヤバいところに来ちゃった」と困惑している様子だった。
 そしてシエルの心配は他にもあった。先程、扉を開けた時に見えた厳つい男性とロードが会ったら絶対にヤバいと。 沸点が氷点下並に低いロードは間違いなく相手をブチ○しに行ってしまうだろう。それだけは阻止せねばとシエルの正義感が無意識に働いていた。
 当のロードはそんなの気にせずにシエルを後ろに立たせて、扉を開ける。 教室の中には例の不良と机に突っ伏して寝ている和服の少女の二人がいた。
「さっきからテメェら何なんだよゴラァ!」
 さっきから馬鹿みたいに威嚇してくる男は何なのだろうか? それが気になるロードだった。 そんなロードもこういう『ザ・不良』というものに慣れてしまっているので風が吹いているように涼しい顔で怒号を聞き流す。
(教室にいるのは二人だけか? 一席空いてるから今日は休みなのか。……にしても少なすぎじゃね?)
「オラ、さっさと名乗れや! ハッ倒すぞオラァ!」「――チッ…………えー、新しく特別クラスに来ることになったロードだ。よろしくなヤンキー」「し、シエラです……」
 すっかりビビってしまっているシエルはロードの背中の影から顔だけを出して挨拶をする。
「なんだ新入生だったのかよ! 最初から言えや――夜露死苦ゥ!」
 先程の雰囲気から一転して気の良さそうな笑みを浮かべる不良。 どうやら見た目悪でも中身は普通らしかった。ちゃんと挨拶もして「脅してすまねぇな!」と謝ってきた。
「いやぁ、時々Sクラスのやつと模擬戦したいって力試ししてくるアホが来るんでな。それを追っ払うための脅しだったんだよ」
 ホントにすまねぇな、と笑って頭を下げてくる。ロードは「……なるほど」と納得をし、シエルはまだ半笑いの状態で固まっている。
「……なんじゃ? なにやら今日は賑やかな声がするの―――ふあぁー」
 声がした方向を見ると、さっきまで机に突っ伏していた少女が欠伸をしながら起きてきていた。 非常にゆったりとした動作でこちらを振り向いき、ようやくロード達に気づいたようで眉を顰めている。
「おい、ツバキ。俺達のクラスに新入生だってよ!」「――ほう! 新入生とな? ……それでは妾も一国の姫としてしっかりと挨拶をせんとな」
 少女は驚くほど和服が似合っており古風な口調も合って幼い姿でも相手を魅了する雰囲気がある。 そのせいで少女の口から出た『一国の姫』という言葉にも納得ができてしまう。
「妾は鬼族の姫――ツバキと申す。どうぞよしなに」
 少女――ツバキは優雅にお辞儀をしてそう言った。

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