すばらしき竜生!

白波ハクア

第13話 告白

「う〜ん、弱かったのが悪いんじゃないのか?」
 唐突に知らない誰かの声が聞こえたので、必死に走っていたガルも思わず足を止めてしまう。 慌てて周囲を見回すが、木々に隠れているのか正体を見つける事は出来無い。
「弱かったとはなんだ!?」
 先程の声に質問するようにガルは声を荒げて叫ぶ。誰でもいいから答えてくれるのならば、どこで何を間違ったのかガルは知りたかったのだ。
「確かにお前らは普通の種族より遥かに強いよ。………だがな、強くなり過ぎて自分達が一番上だと思ってしまったのが悪い」
 相変わらず声が虚空から聞こえてくる。
「力を付けて我らが思い上がったのが悪いと言うのか!」「違う。力を付けるのも良い、思い上がるのも良い、それは別に悪い事じゃない」「ではどこが悪かったと言うのだ!」
「――調子に乗った事だ」
 その声は突如耳元から聞こえて来た。慌てて振り返りながら腕を振り回す。だが、当然当たるはずが無く空振りしてしまう。
「いきなり攻撃するなよ。ビックリするだろうが」
 そして、また後ろから声が聞こえたのですぐさま振り返ると、戯けた様子で声の主は姿を現した。こちらを完全に馬鹿にしている様な声で、こちらを一切脅威と見てない様子で1歩1歩ゆっくりと歩いて来た。
―――それはガルが一番見たくない人物で、オーク達の地獄を作り上げた張本人だった。
「何故貴様がここに居る! 我に追いつける筈が無い!」「いやいや、追いつける筈が無いって、現実見ろよ。俺はここに居るし、普通に追いついてるぞ」
(馬鹿な、我はオークで移動速度が一番速いのだぞ! それに我が部屋から逃げた時はまだ少女の側にいたはずだ。 まさかオークの生き残りが逆転して少女を殺し、男だけ逃げてきたのか?)
「いや、そんな訳無いだろ」「――な!? 貴様、心が読めるのか!」
 普通に言葉を返してしまったが、ロードも内心驚いていた。相手に集中して監視していると突然何かの声が聞こえてきたのだ。 その声は、オークやら少女の側にとか言っていたので、瞬時に目の前のオークの王だと理解出来た。 ちなみに簡単にだが、ステータスらしき物まで見ることができた。オークの王はこんな感じだった。

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 ガル・トルガ
種族:豚人族オーク
称号:豚人族の王オーク ロード
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(分かったのは名前、種族、称号か。正体が分かるだけでも便利な能力だな。そして心情も読める。 これも"竜眼"の能力だと思って良いのか? それならとんでもない能力だな、はい予想外の拾いものだ)
「一体何なのだ貴様ァ!」「……………村を通った、ただの一般人です」
 もちろん嘘だ。
「そんな訳あるかぁ!!」「じゃあミスター理不尽とでも呼んでくれ」「――ふざけるなぁ!」
 ふざけた答えに激昂したガルは、腰に装着していた大鉈を手に取りロードに斬り掛かる。だが、ロードは最小限の動きで軽々と避けてしまう。
「調子に乗って何が悪い! それに、弱者が強者に支配されるのは当然の摂理だ! 我々は間違ってなどいない!」
 叫びながらもガルの乱撃は止まらない。全ての攻撃に全力を振り絞って目の前の男を潰そうと必死になる。それに対しロードは掌を"硬化"し、軽々と攻撃を受け流している。 ガルの大鉈と、ロードの掌がぶつかると同時に風圧が周囲の木々を薙ぎ倒していく。
(なぜだ! なぜ攻撃が当たらん! クソッ、ここは一旦逃げて―――)
 大鉈で地面を思いっきり叩き、砂埃にて目隠しをしたガルは身を翻して逃走を図る。
「筒抜けだよ」「―――グゥウウアアア!!」
 後ろを見ずに一心不乱に逃げるガルの足に激痛が走り、バランスを取れずに転倒してしまう。 視界が砂埃で邪魔されたので"探知"を使い、ガルの足を"飛爪"で切り裂いた。
「――ァアアアアアア! 我の足ガァ!」
 激痛と立ち上がれない恐怖にガルは転げまわる。 ザッ、ザッ、っとロードが近づいて来る音が聞こえて、ガルは這いずりながら逃げようとする。
「我は……オークの為に………頑張って来たと言うのに、まだダメだったのか………足りなかったと言うのか」
 既にガルの意識は朦朧としており、その目は薄く淀んで視界がボヤけ始めていた。ただ虚空を見上げるガルが最後に見たのは、脚を振り上げるロードの姿だった。
「それと、あと一つあった。………相手が悪かったな」
(相手が悪かった、か。あぁ、ホントに理不尽だ―――)

        ◆◇◆

「………ぅう。――グスッ」
 そこでは一人の少女が膝を抱えて小さく泣いていた。 ただそれだけなら、どうしたんだろう? と不思議に思い声を掛けるのだが、少女の周りには異質と呼べる雰囲気が漂っていた。 首だけが無くなった死体、青白く萎んでミイラの様になった沢山の死体、ボロ雑巾の様になり心臓に穴が空いている数体の死体、と死体の山が広がっていた。
「…………うぅうう」
 それを踏まえてもう一度見てみると、死体の山の中心で悲しく泣いている少女が居る。 どう見てもおかしい光景だ。
「………何してるんだ?」
 そんな光景を見ても声を掛ける者がいた。―――ロードだ。
「……ぅううう………ロードぉ………!」「――うおっ! ホントにどうしたお前!」
 泣いている少女――シエラはロードを見た瞬間、駆け出してロードの懐に泣きついた。
「テンション上がって恥ずかしい姿見られたー! うわぁああああん!」「おー、よしよし大丈夫かー(棒)」「いつもは人間の血を飲んでたんだけど………グスンッ。ドラゴンの……ロードの血が美味しすぎて……ヒクッ。…………もう、お嫁に行けない―――ぶぇええええ……―――ックショイ!」
 説明して、盛大に泣いて、最後に盛大に―――くしゃみした。
「おまっ!? 鼻水思いっきり付いたじゃねぇか!」「責任取りなさいよぉ! 恥ずかしい姿を見た責任取りなさいよぉおおお!」「意味分かんねぇ! つーか離れろ! ――クソッ、離れねぇ! なんでそんなに腕力あるんだよお前!」
 結局、しばらくの間シエラに泣きつかれてしまった。既にロードの服は涙と鼻水でビショビショになってしまっている。
「………あ〜、シエラ? 別に戦闘中にテンションが上がるのは変な事じゃないぞ。俺だって強いのと戦えばテンション上がるだろうし……まだ父さんとシエラ以外にいないけど。 それに、いくらキャラが壊れてもお前は………その、なんだ………ああ! もういい、お前は可愛いんだから俺は気にしない!」「………本当?」「あぁ、本当だ」
 シエラを慰める為とは言え、本当にシエラは今まで出会った中で一番の美少女だと思っているので、ロードも恥ずかしくなって赤面してしまう。
「………わかった。もう大丈夫よ、ありがと♪ ロード♪」
 シエラはそれを聞くと、飛び上がって笑顔を見せた。その笑顔は無邪気で可愛らしく、いつものシエラに戻っていた。
「……相変わらず面倒な事で騒がせやがって」
 いつも通りに戻ったシエラを見て、ロードも軽口を叩きながら、フッと微かに笑う。
「酷い言いぐさね、お騒がせして悪うござんしたー」「ホントだよ、この馬鹿。ほら早く子供たちを救出するぞ」「そういえば王はどうなったの?」「あ? もちろん殺したよ」「……どうだった?」「ダメだな。確かに一層の奴より力も速度もあったが………足りない」
 そうこうしている間に、最下層の最奥まで二人は辿り着いた。ロードの"探知"による子供たちの反応もここから出ている。
「罠は………無いな、大丈夫みたいだ」「一応聞くけど、どうして分かるの?」「俺の眼のおかげだ」「………相変わらず万能ね」「俺もそう思うよ」
 扉を開いて中を確認すると、頑丈そうな鉄格子の中に子供たちが入っていた。全員が横たわっているが"探知"で反応がある限り、生きている事に変わりはない。何らかの魔法で全員眠らされているようだ。
(シエラと戦ったオークの中に魔法使いがいたな、多分そいつがやったのか)
「あの子達、大丈夫なの?」
 シエラは子供の状態が分からないので心配になりロードに安否を問うが、安心しろとでも言うようにロードはシエラの頭を軽く叩く。
 ロードはゆっくりと鉄格子に歩み寄り、柱をグイッ、と折り曲げる。
「おい、ガキ共。さっさと起きろ」
 ロードは鉄格子をガンガン蹴って、乱暴だが子供たちを起こす。小さな呻き声をあげながら段々と起きだす。
「お兄ちゃん達、だれ?」
 ロード達の存在にようやく気づいたのか、寝ぼけ眼で質問してくる。
「俺か? 俺は、正義の味方だ」
―――スパァン!
「嘘つけぃ!」
 ロードのふざけた答えに、シエラのビンタとツッコミが炸裂した。

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