すばらしき竜生!

白波ハクア

第1話 こんにちはドラゴンさん

『―――――――』『……―――――』
 クロトの意識が覚醒すると同時に聞きなれない言葉が聞こえてきた。クロトは目を閉じている状態なので声の主は分からないが、どうやら男性と女性の声のようだ。
 (地面が柔らかい……ベッドに寝かされているのか? それに言葉が分からないから異世界の言語は違うって事か。少し聞こえ方も違う気がするけど赤ちゃんだからか?  それに今聞こえている声が新しいお父さんとお母さんだよな)
『………―――?』『――――………。』
 クロトには異世界の言語は分からないがどうやら心配しているような感じが言葉のイントネーションから分かった。
 (あぁ、そうか。今の俺は赤ちゃんだから泣かないことに心配しているのかな? 少し恥ずかしいけどやっぱり「オギャアアアアア」って泣かないとダメだよな……よし)
 クロトは決意して少しずつ目に開けながら泣く振りをしようと思って………
「お………ギャアアアアアアア!?」
――――絶叫した。
 優しそうな男性と女性を想像して目を開けたら―――そこには最強の生物と呼ばれているドラゴンがいた。

        ◆◇◆

 その後、クロトは自分が竜種に生まれ変わったのだと理解した。 最初に感じた会話の聞こえ方の謎は竜種特有の念話魔法だと教えてもらった。竜種は言葉を理解するが口で話せないので"念話"を使って会話するのが基本だそうだ。 クロトは親にロード・ヴァン・アデルという名前を与えてもらった。
 ロードは産まれて自分で自由に行動できるようになってから、この世界の知識を調べようと思い、父親に『歴史の事が書いてあるものない?』と聞いたのだが、出てきたものは石版だったのでロードは『えっ!?』と驚いた。 よくよく考えてみれば竜が本なんか持ったらビリビリに破いてしまうということを聞いて少しだけ納得し、仕方がないので何重にもなっている石版を読んでいたら様々な事が分かった。
 竜種を統括しているのは七天竜と呼ばれる竜で、ちなみにその竜の数はこの世界の七属性と同じ数らしい。 その七天竜は火属性の赤竜、水属性の水竜、風属性の風竜、雷属性の雷竜、土属性の土竜、聖属性の白竜、闇属性の黒竜らしく、その中の黒竜代表の苗字がアデルだ。 すなわちクロト……もといロードは、かなり偉い地位に産まれてしまったらしい。
 黒竜と言われてるだけあってロードや父親、母親の鱗や毛は艶のある綺麗な黒だった。最初に湖で自分の姿を見たロードは……
(モン○ンのナルガ○ルガかよ)
 と思うほどに竜にしてはスリムで小柄だったが、肉体的な戦闘では、黒竜種が一番強く喧嘩強い。その代わり魔法適正は他の竜種より低いらしく、竜種が使える基本的な魔法しか使えない。
 ロード達が住んでいる黒竜種の集落のみんなも優しくて気軽に話が出来た。これも集落のみんなの親への信頼の証だとロードは思った。
 ……思ったのだが、なんか違う気がした。
(クソッ、あの神め……変に意気込んでたのはこういう事か。確かに「タフで喧嘩強いやつで」って言ったけど……神ってバカじゃね?)
 ロードは普通の人間に生まれ変わって、タフで喧嘩強い体に成長するように調整されると思っていたのだが、現実は全く異なっていた。 大体の状況が把握出来たロードは神が無駄に張り切っていたのを思い出して深いため息をついた。

        ◆◇◆

―――それから二年が経った。
『ハッハッハ! 本当にあの時はビックリしたな。産声をあげないから心配してたらいきなり絶叫だからな』『フフッ……えぇそうね。あの時は更に心配しちゃったわ』
 豪快に笑って話しているのがクロトの父親のバルトでお淑やかな声で懐かしそうに話しているのが母親のネイル。
『しっかり成長もして、石版でよく勉強してておとなしい子だと思ってたらいきなり戦い方を教えてほしいって言うんだからなぁ』『あなたったら、張り切って教えるのもいいですけど手加減をして下さい。白竜を呼ぶくらいボロボロにして……ロードが可哀想です』
 そう、ロードは自力で立てないくらいにバルトにボコボコにされ、回復魔法が得意な白竜を呼ぶという出来事があった。
 あの絶叫のご対面から二年が経ち大体の異世界の知識を覚えたロードは次に戦い方を覚えようと思いバルトに相談した。 バルトは頼られたのが嬉しかったらしく、とても張り切って実践で教えてくれたのだが速すぎて何も分からないまま押し倒されて殴られた。黒竜は細い身体なのにも関わらず力も凄まじくロードはピクリとも動けずに何回もボコられた。
『いやぁ、悪かったなロード。そういえば狩りに行ってないことを忘れてたぜ』『? 狩りで強くなれるの? それならそこから教えて欲しかったよ』『よし! それなら明日、狩りに行こう』
 ロード達が住んでいる森には少しばかり強い魔物がいるらしくそれを倒して食べるというのが基本的な狩りらしい。 本来魔物とは魔族が創り出した生物で体中が特殊な魔力で出来ている。普通は竜種以外の種族で、魔物を食べる=自殺行為とされているくらい危険で、魔物の特殊な魔力が体中を破壊しつくすらしい。
 だけど竜種は他の種族よりタフでその程度の痛みは少ししか影響がないと言う。そして魔物を食べた数に比例して、竜種は強くなる。 その為、竜種の身体の全てに魔力が溜まり、何かの素材として人種に重宝されている。そのせいで弱い竜種は人間に狩られる事態も発生しているらしく、竜種はそれに悩まされている。
『お前は俺の子なんだからすぐに強くなるさ。あと百年したら俺を超えるかもな』『ちゃんとロードに狩りの仕方を教えてくださいね? まだ産まれたばかりの子供なんですから』『いやいや母さん、もう二年経ってるんだから大丈夫だよ』
 竜種は時間に対して大変ルーズだ。竜種の中でも高位にいる竜は寿命が平均で五千年あると言われている。 そう考えたら確かに産まれて二年なんか赤ちゃんだと思われても仕方がない。
 という事で明日はロードの初狩りとなった。

        ◆◇◆

 狩りは結果から言うと楽だった。 バルトが獲物(魔物)を狩ってロードがそれを貰う、バルトの戦い方を見て覚える。これを永遠に繰り返す。。 魔物には色々な種類がいた。大きい狼の様な魔物や昆虫みたいな気持ち悪い魔物、水辺に行くと大きいカエルもいた。魔物はすぐに繁殖するので食料を無くすか、種を根絶やしにしない限り絶滅しないので狩り放題だった。 それに魔物は言ってしまえば形がある魔力なので味や食感はあるが腹は満たされないので何時までも食べる事ができる。
 食べていたのはロードだけで、バルトに『食べないの?』と聞いてみたところ『上限が来たから食べても変わんねぇんだよ』と言われた。 どうやら無限に強くなるのではなく、一定の強さまで到達すると限界があるらしい。上限も竜によって変わるらしいが、バルトは上限が来ても単なる肉弾戦では最強だと自慢していた。まぁ……魔法が関わると引き分けるっぽいので第七竜種族は全員同じ戦闘力という事だろう。
 バルトが狩ってはロードが食べるローテーションをひたすら繰り返していたら、いつの間にか朝に狩りに出掛けたのに、空を見ると若干赤み掛かってきていた。
『……そろそろ帰らなきゃネイルに怒られちまうな。続きはまた明日にするぞ』『はーい』
 ロードは今日の狩りで確かに力が増してる感覚があった。
 (これを百年続けたら確実に強くなれる……というより強くなりすぎる? まぁ、そんなに差は出ないだろ)
 ロードはそんな考えをしていたが。今回の狩りでバルトは張り切りすぎた。普通では考えられない量と強さの魔物をロードに与えたので、ロードと同世代の竜種では戦闘力の差が果てしなく開いてしまった。 それでもバルトの力の十分の一も行っていないのでツッコむ者はその場に居なかった。

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