世界を呪った鬼は願う

白波ハクア

第57話 村の問題と魔王の選択

「ふんふ〜ん♪」
 アカネ達が村へと到着したその日の夜。 久しぶりにゆっくりとお風呂に浸かれたアカネは、気分よく鼻歌を口ずさみながら廊下を歩いていた。
「お風呂ありが――っと…………」
 まだリビングで起きているであろう村長に、お礼を言おうとした時、ひそひそとした話し声が聞こえて反射的に身を隠す。
「一体どうすれば……」
 村長の声を聞くに、どうやら何かまずいことが起きているようだった。
「森に住み着いた凶悪な魔物……とてもではないが、村の者でなんとかできる相手ではない」
(……凶悪な魔物? 森って……すぐ近くにあるあそこよね)
 成人男性の村人は近くの森に行き、魔物等を狩って食料の足しにしているのだ、と村長が教えてくれた。
 今回も同じように狩りをしていたら、強い魔物が新たに住み着いているのを発見した。それで誰かが報告に来て、今に至る。 ざっとそんなところだろうとアカネは予想した。
「旅の方達ならば、もしかしたら……冒険者のようでしたし」
「……いや、彼女達でも難しいだろう。それに、わざわざ危険を侵して助けてくれるとは限らない」
「……それでは聖教国に依頼を?」
「それしかないだろう。資金は……ギリギリだな」
「皆には、少し苦労をかけることになりそうですね」
「……仕方ないだろう。きっと皆も理解してくれる」
 そう言って、諦めたように首を振る。
 若い者は皆、村から出て行ってしまった。ここに残っているのは村長のような老人、親を支えたいという若者、そして一人旅もできない小さな子供だけ。
 そうすることでしか安全策はないのだ。
「…………ん?」
 ふと、村長は顔を上げて廊下を見る。
「どうかしたのですか?」
「……いや、そこに誰かいた気がしたんだが」
 意識を向けた廊下。そこには誰もいなかった。
「誰もいませんが……」
「うん、気のせいだったようだ」


        ◆◇◆


 廊下を歩き、村長から借りた一室に、アカネはソッと入る。
「あ、おかえりなさーい」
 ベッドで寝そべっていたシルフィードが、声だけで出迎える。その横には、すでに夢の中へと行っているリーフィアの姿があった。
「おかえりなさい、アカネ様。ゆっくりお風呂に浸かれましたか?」
 部屋の端で刀の手入れをしていたコノハが、作業を中断して主人を出迎える。
「え、ええ……」
「……? 何かあったの?」
「……実はね…………」
 アカネは先程聞いた出来事を全て話した。
「…………ということなのよ」
「なるほどねぇ……それで? アカネはどうしたいの?」
 シルフィードはそんなことを聞くが、すでにアカネが何を言おうとしているのか予想はしているようだ。
「私は……やっぱり【魔王】らしくないのかもしれないわね」
 諦めたようにため息をつく。
「ここで恩を一つ作るのもいい。いい人という印象を埋め込めば、少しの融通なら聞いてくれるかもしれない。信頼させていざという時には盾にするのも…………はあ、止め止め。無理して理屈を並べても意味がないわよね。 私は――この村の人たちを無視したくない。そう思ったわ」
「…………もう、素直に助けたいって言えばいいのに」
「アカネ様はツンデレなのですか?」
「…………酷い言われようね」
 イヅナといい、コノハといい、なぜ自分の部下はこんなにも辛口なのか。それが気になって仕方がないアカネ。
「それでも優しいところが、アカネ様らしいです」
「むしろ、このまま任務を優先しようとしていたら、正気なのかと疑うわ」
「選択をミスしていたら、正気まで疑われるとはね…………それで、私についてきてくれるかしら?」
「アカネ、そんなの聞かなくてもわかってよ」
「ええ、シルフィードの言うとおりです」
 二人は微笑む。
「「もちろん、賛成よ(です)」」

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く