世界を呪った鬼は願う

白波ハクア

第11話 呪われた少女を救う方法

「…………さて、と。それじゃあリーフィアちゃん。足の部分を見せてもらうわね」
「はい……お願い、します……」
「ふふっ、痛くないからそんなに緊張しなくていいわよ」
 布団を捲る。 石化は腰の付け根から足の指先まで。
「これはいつから?」
「えっと……三年前、です」
「そう……今まで大変だったでしょう。よく頑張ったわね」
「私よりもお姉ちゃんのほうが苦労してきたんです。挫けてなんていられませんっ!」
「……いいお姉さんを持ったわね」
「はいっ! 自慢のお姉ちゃんです!」
「――――ッ! リフィぃ……」
 後ろで泣きそうな姉の声が聞こえるが、今は無視だ。
「それじゃあ――始めるわよ」
 石化した部分にソッと触れる。 リーフィアはビクッと震えるが、それは痛みからではなく、緊張からだろう。
 アカネは微笑んでもう一度、石化部分に視線を移す。
(【邪鬼眼】)
 アカネの瞳が紅く輝く。 真剣な表情でリーフィアの下半身を眺めて、やがて「ふぅ……」と力を抜く。
「…………やっぱりね」
「やっぱり……って、何がわかったの?」
「これは魔法やポーションでは絶対に治らない。ということよ」
「そんな! それじゃあ…………」
「落ち着きなさい。私は魔法やポーションでは、と言ったはずよ?」
 絶望に染まったシルフィードの顔に、光が蘇る。
「それじゃあこれは何なんですか?」
 リーフィアが心配そうに質問する。 絶対に治らないと聞いて、今にも泣きそうだ。
「これは『呪い』よ」
「の、ろい? それって……」
「呪いは魔法とは違う。 魔法は自身の体に流れている魔力を力として具現化するもの。呪いは……生物の怨みや苦しみが具現化して、それが力に変わったもの。 シルフィ、なんでリーフィアちゃんがこんなふうになったのか覚えてる?」
「えぇと……元々、私とリフィは冒険者としてパーティーを組んで活動していたの。それで…………」


 当時の二人は『双翼の風』と名乗り、Cランクとは考えられない活躍をしていた。 ある日、国の周辺にオークの群れが出たと知らせが出た。 その時、領主であるウォントから『双翼の風』に指名依頼が来た。
 オークは力は強いが、動きが単調で戦いやすいことから、そこそこ実力のある冒険者にとっては練習台のような魔物だ。 そうだとしてもオークの群れを二人だけ、というのは危ないのでは? という声もあった。 だが、当時のシルフィードとリーフィアならば問題はないと、二人は了承した。
 しっかりと準備を怠らずに向かった二人は、危なげなくオークを次々と倒していった。 このまま行けば日が落ちる前には帰れると思った時、それは現れたとシルフィードは言う。
「あいつの姿は二度と忘れないわ……」
 気色悪い爛れた灰色の肌を、悠然と揺らしながら現れた人間と同じサイズの蛙。大きく発達した目と脚。 見たこともない魔物に二人は驚いた。
 だが、落ち着いて話し合って、シルフィードは木の上から、リーフィアは草影から同時に奇襲を仕掛けることになった。
「けど……あの蛙はリーフィアの存在に気づいて、それで……」
 恐ろしく発達した脚で、高速でリーフィアの前に移動した蛙。 すると、その蛙は口からどす黒い液体を吐いて、リーフィアは何とか躱そうとしたが、下半身だけは液体を被ってしまった。
 その瞬間から、リーフィアの異変は起こった まず、リーフィアは下半身に妙な違和感を覚え、すぐに下半身を自由に動かせなくなった。
 異変にいち早く感じ取ったシルフィードは、リーフィアを抱えて敗走。 満身創痍で家に駆け込んだシルフィード達を、一部の冒険者が目撃。 事情を聞いた冒険者は血気立ち、武器を背負って例の場所に向かったが、巨大な蛙は忽然と姿を消していたという。
 その後、リーフィアの様態を確認したところ、下半身が石化していた。という訳だった。


 そこまで聞いたアカネは、顎に手を当てている。
「なるほど…………やはりそいつが」
「アカネはあの蛙を知っているの!?」
「ええ……その蛙は『呪い蛙バジリスク』。石化の呪いを含んだ液体を体内で生成して、それを吐き出す厄介な蛙よ」
 ここまで特徴が合っているのなら、そいつで間違いない。
(…………でも、おかしいわね。あれはにしか発生しないはず……なんで距離が離れているエール王国に? それに、突如発生したオークの群れというのも気になる。たとえ問題なくても、普通なら万が一のことを考えて三組のパーティーを向けるだろうに…………ギルドマスターが選択を間違えた? ……いや、それよりもタイミングよく領主の指名依頼が来るのがおかしい……これはもしかして…………)
「…………かね……。アカネさん!」
「――ハッ! ご、ごめんなさい。少し……じゃないか、結構考え込んじゃってたわね」
 とにかく、今はリーフィアの治療だ。
「奴の呪いは対象の魔力に反応して、体に異常を与えるわ。簡単に言ってしまうと、魔力の病気ね」
 呪いは複数の種類がある。 『呪い蛙バジリスク』のような魔力に反応する呪い。 アカネが使う、条件付きだが確実に相手を殺す呪い。
 どちらも相手にすれば厄介なものだろう。 しかし、厄介な呪いだからこそ対処法は存在する。
「回復魔法は体内の魔力を活性化させて、怪我した部分の補強をするの。一種の工事みたいなやつね。それじゃあ治る訳ないわ。工事は技能工事者、病気は医者ってね」
「う……ん?」
(ああ、わかってないわね……)
 どうにも説明に回ってしまうと反省をする。
(もういいや、始めちゃいましょう)
 アカネはリーフィアの顔を愛おしそうに触り、顔を近づけて…………
「…………失礼するわね」
「えっ……?」
 リーフィアの口を、アカネの口で塞いだ。
「――んっ!」
 可愛らしい顔が驚愕に包まれる。
「ん、んんんんっ!?」
 離れようとするリーフィアの顔を腕力で押さえつける。
「んむっ……おとなしく、んっ……しなさぁい…………」
「ふぁ……う、ん――ぷはっ……はぁ、はぁ…………んっ!? んぅ…………」
 リーフィアの唇を押し割って、アカネはぬるりと舌を侵入させる。
 まだ驚きつつも、力が抜けているのか抵抗する様子はない。
 ちなみに、姉のシルフィードは両手で顔を隠しながら、指の隙間からしっかりと二人を見ていた。
「ふふっ、そうよぉ……力を、ちゅ…………抜いてぇ……」
「は、はいぃぃぃ…………んぁっ、ちゅぱっ……ふあぁ…………」
 舌と舌を何度も絡ませる。
 室内にはピチャピチャと湿った音が静かに響き、時にリーフィアの儚げな声が聞こえる。
「んっ――ぷはぁ、息が、続かないわね――ちゅっ……ふふっ、可愛い……あむっ…………」
 舌を絡ませ、リーフィアの口内を磨くように舌が這いずりまわる。二人の混ざりあった唾液を吸い取り、時には顔の角度を変えて別の場所を攻める。
「はぁ……はぁ……んっ、ぷはっ……あんっ……!」
「ちゅぱ……ちゅ、そろそろね…………」
「な、なにが――んんんっ!? んあっ……あぅ……!」
 ラストスパートをかける。 先程よりも激しく、濃厚で深いキスを交わす。
 溢れ出る快楽に逃れようと足をジタバタ・・・・・・と動かすリーフィア。 だが、アカネは彼女の上に跨って逃がさない。
「ん! んんんっ〜〜〜ッ!」
 そして、リーフィアはギュッと拳を握り、足のつま先をピーンと伸ばして――果てた。
 脱力してぐったりとしたリーフィアの口から、コポリッと泡立った唾液が漏れる。
 アカネはそれを指でぬぐって。咥えた。
「あむっ…………んん、ごちそうさま」
 その顔はとても満足そうで、肌が潤っているようにも見えた。
「なん……で、はぁはぁ……これに、なんの意味、が…………」
「ん? まだ気づいていないの?」
 リーフィアはとろけた顔をしながら、なんのこと? と不思議そうに首を捻る。
「貴女の足――治ってるわよ」

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