世界を呪った鬼は願う

白波ハクア

第7話 初めての冒険者ギルド

 シルフィードの行動力は予想外だった。
 思い立った瞬間に即行動をして、アカネは困惑している間に手を引かれて、冒険者ギルドまで来ていた。
 ギルドの中は思ったよりも静かで、人も少なかった。
(まだ日が落ちる前だから、皆、依頼に行っているのかしら?)
 チラッ、とカウンターを見ていれば、依頼を完了して帰ってきた四人パーティーが魔物の素材を換金していた。
 アカネとシルフィードはその隣、暇そうにしているギルド職員のカウンター前に立った。
「こんにちはアニー。随分と暇そうね」
「――し、シルフィさん!?」
 アニーと呼ばれたギルド職員は、驚いたように立ち上がって身だしなみを整える。
「何かご用ですか? まさか……今から外に出るのは帰りが夜になっちゃうので危険ですよ?」
「違う違う。今日はもう出るつもりはないわよ。用があるのはこの人」
 そう言って指を指した先には、アカネがいた。
「この人は……って鬼族の方ですか。はわわっ、初めて見ました! あ、握手してくださいっ!」
「えっ……ああ、はい」
 咄嗟に握手をしてしまう。 すると、感極まったようにまたもや「はわわっ……」と声を漏らす。
「…………そろそろいいでしょうか?」
「――ハッ! も、申し訳ありません!」
 ――ゴツンッ!
 頭を思い切り下げてカウンターにぶつける。鈍く痛々しい音が響いて、ギルド内にいた冒険者達が気になったらしく、注目されてしまう。
(どうしよう……あまり目立ちたくなかったんだけど……)
 アカネは隣にいるシルフィードに視線で助けを求める。
 静かに首を振られた。もちろん横にだ。
 つまり、これは諦めろということらしい。
(こういう場合は多少強引に話を進めないとダメね……)
「感動なされているところすいません。今日は冒険者登録をしようかと思いまして、お手数ですが手続きの方お願いできないでしょうか?」
「かしこまりました! すぐに書類を持ってきますねっ!」
 どこぞの営業ウーマンのような口調になってしまったが、アニーはすぐに頭を切り替えて奥へと消えていった。
 そしてすぐに数枚の紙と、手鏡サイズの平べったい石のような物を持って現れる。
「お待たせしました! これが同意書で、この『鑑定石』に触れれば登録ができます」
 平べったい石は『鑑定石』という魔法具で、これに触れることで触れた対象のステータスを解析することができる。
「冒険者については紙にも書いてあるんですけど、話したほうがわかりやすいと思うので、さくっと説明しちゃいますねっ」
 アニーの説明を纏めると…………
 まず、冒険者はランク付けがされている。
 Dランク。 これが誰もが最初になるランクだ。 初心者なので、採取やゴブリン等の雑魚を相手にする依頼をおすすめされる。 上位の冒険者との同行が必須。
 Cランク。 Dランクから比較的すぐに上がれる。 この頃からパーティーを組み始める。 同じCランクでも力の差は大きく出始める。 人数比率は一番多い。
 Bランク。 CランクからBランクになるためには、冒険者ギルドから課せられた試験をクリアしなくてはならない。 その試練も結構厳しく、CランクとBランクでは実力の差が相当違くなってくる。 このランクから才能があれば、貴族から護衛の指名などが来ることもある。
 Aランク。 かなりの実力を持ったベテラン冒険者。 時には初心冒険者の先生を依頼されることもある。 パーティーを組む者、単独で狩りをする者で分かれ始める。 貴族からの勧誘が多くなり、時々宴会などにも呼ばれることがある。
 Sランク。 国に影響を与える実力を持つ。 もし、国と契約すれば、すぐさま主戦力になるほど。 よほど特別なことをしない限りなれることはできない。 現在のSランク保持者は十二名。
 別ランクの者とパーティーを組んでいる場合、その中の一番高いランクで呼ばれることになる。
 例えば、Cランクが一人、Bランクが二人、Aランクが一人、計四人のパーティーの場合、そのパーティーは『Aランクパーティー』となる。


 次に依頼について。
 通常はクエストボードに貼ってある依頼をカウンターに持っていき、依頼受注となる。 依頼にもランク付けがされていて、自分よりも高いランクの依頼は受けることができない。 依頼主との話し合いが必要な場合は、二階にある談話室を使う。
 稀に『指名依頼』というのがある。 信頼に足る実力がなければ指名依頼は来ないが、報酬は通常の依頼よりも多い。その分、失敗した時の損失は大きい。


 最後に冒険者のルールについて。
 冒険者同士の喧嘩は自己責任とする。 殺し合いは厳禁とする。 破った者は誰であろうと冒険者ギルドから永久追放する。


「……とまぁ、これが主な概要ですね。他に何か質問ありますか?」
「冒険者カードのことなのですが、何が表示されるのでしょうか?」
 おそらく、冒険者になるほとんどの者がどうでもいいと思うことだ。 だが、アカネにとってはとても重要なことだった。
「えっと……名前、階級、種族、職業、称号、最後に技能ですね」
 名前と種族は別にいい。 技能はオリジナルだが少し騒がれる程度だ。
 問題なのは称号。アカネは【魔王】という称号がある。それがバレてしまうと、とてもマズイ状況になってしまう。
 渋い顔になっているアカネ。 何かを感じ取ったアニーは助言をくれる。
「名前と階級以外なら他人に見えないようにすることもできますよ」
「本当ですかっ!?」
 グイッ、と距離を詰める。初めてアカネが興味を示したことにアニーは驚くが、そこはギルド職員、しっかりと説明をしてくれる。
「中には盗賊から足を洗って冒険者になる方や、元奴隷だったのを隠したい方がいるので、その処置として可能です」
「はぁ、よかった……」
 別に冒険者にならなくても通行料を払えばいいだけなのだが、アカネはなるべく無駄な金を消費したくなかった。
(今は沢山持っている金もいつかはなくなってしまう。少しでも楽なことで稼いでおかなくちゃね……)
 凶悪な魔物と毎日戦って命を張っている冒険者。 アカネにとっては楽できる仕事なのかもしれないが、他の人から考えると泣きたいくらい大変なのだ。
「…………ふむ、とりあえずはこれで大丈夫です。えぇと、これに触ればいいんですよね?」
「はいっ! 触った時に変な感触があるので、お気をつけて」
(なにそれ怖い)
 だからって尻込みしている訳にはいかない。 人気者のシルフィードとそれに負けない美貌を持つアカネの周りには、興味本位で人だかりができ始めている。 正直なところさっさと帰りたかった。
(……ああ、そういえば宿を借りなきゃ。さすがに野宿は嫌だしねぇ)
 そんな呑気なことを考えながら鑑定石を触る。
 鑑定石はアカネに反応して淡く光りだす。それと同時に何かを吸い取られるような感覚が…………
(――ヤバイッ!)
 咄嗟に周囲から魔力を集めて体の状態を安定に保つ。
「これは…………」
「ああ、魔力を吸収しているのよ。鑑定石はそれを分析してデータを作るのよ」
「そう、なんですね……(変な感触ってこれのことか)」
 危なかった。 普通の人にとっては変な感触で済むのかもしれないが、アカネは違う。
 何度も言うとおりアカネには魔力が一切ない。 普通の人間なら耐えられない鈍痛と目眩が永遠に続くのだが、彼女はそれを周囲の魔力を集めることで、ギリギリのラインを保ち続けている。
 なぜギリギリなのかというと、魔力をかき集めすぎると周りに影響が出てしまうからだ。 人間の国は魔法具が日常生活で至るところに使われている。 その分の魔力を集めるのはアカネでも気が引けた。
 そんな戦闘以外ではギリギリを保ち続けているアカネが、外部から魔力を吸われた時、激しい嘔吐感と全身を貫くような激痛に襲われる。
 気づくのが遅ければアカネであろうと気絶してしまうところだった。
 そんなアカネの焦りに気づくことなく、アニーは鑑定石から出たカードに魔法をかけていく。おそらく、アカネがお願いした箇所にぼかしを入れているのだろう。
「…………はい、これで登録は完了です」
 カードを手渡される。 そこに書かれていたのは…………


【 名前:カンナギ・アカネ  種族:鬼族  職業:妖術師/拳闘士  称号:復讐者/呪われし復讐鬼/魔王/     神に仇なす者/妖鬼妃/軍鬼/武芸者/     武を極めし者/群れの長/禁術使い  技能:妖術『式神招来/鬼火/言霊』/呪法/仙術/     武真『武闘脚/魔闘術/刀術/斧術/槍術/        剣術』/錬成術/眷属強化 】


 アカネは慌ててそれをしまった。

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