少女は二度目の舞台で復讐を誓う

白波ハクア

少女は地味な作業にため息を溢す

 私は国の外に避難して、ポツリと捨てられた廃屋に身を潜めていた。
 一度目の人生で私が偶然に見つけて、密会がある時はよく使っていた場所だ。 中はボロボロだが、周りは木に囲まれていて目立たない。屋根もちゃんとついているので、最低限の水準は満たしている。 なんなら住むことだって可能だ。虫とカビ臭さと時々沈む床を我慢すればの話だけど。
 その中に設置してあるベッド――そう呼べるのか不安になるほどボロボロ――の上に私は腕を組んで座っていた。
 ……さて、困った。
 状況は思ったよりも芳しくない。
 今頃、私はゴンドルによって指名手配されていることだろう。 あの場にいた兵士だけではなく、全ての勢力を持って私を殺しに来るはずだ。それに、奴ら……シャドウも間違いなく動いている。 これでは奴の収めている区間、ましてやアーガレス王国の中に入ることすら難しい。
 シャドウは一度目の人生で属していたから、皆の実力はよくわかる。
 今の私なら頑張れば対等に戦えるかもしれないけど、リーダーのガッシュさんには間違いなく勝てない。
 彼は何でもこなす。私の攻撃なんて臨機応変に対処されてしまうだろう。 今は手数の多さが圧倒的に足りない。
 だからまずは、スキルの取得から始めることにしよう。
 そう思ってやり始めたけど……
「……これは地味すぎる」
 今、私がやっているのは、糸を針の穴に通す作業。これは比喩ではなくて本当にやっていることだ。
 指先から伸びる半透明な魔力の糸。それをミリ単位の穴に通しては抜いて、別角度から通しては抜いてを繰り返す。正直、飽きる。
 何の意味があるのかと聞かれても、面倒なので察してほしいと思えるほど、凄まじく地味な作業。
「やっぱり、あの場で殺しておくべきだったかな?」
 ゴンドルは貴族の中でも『伯爵』という高い地位にいる。下手に行動をすることは、自殺行為に等しい。
 現にこうして地味な作業をしなければならない状況になっているし。
 …………いや、わかっている。 あの場で奴を殺したとしても、私の心が満たされることはなかっただろう。
 そうしてしまったら、ただの復讐になってしまう。 私は絶望を与える復讐をしなければならない。そうしなければ、果てしない憎しみでこっちが狂ってしまう。
 それとも私はすでに狂っているのか。
 ……どうでもいいことだったね。狂っていようが、そうでなかろうが、私のやることに変わりはない。
 今は無駄なことを考えないで集中するんだ。奴の周りの警備が、より一層強くなる前に…………


 …………どのくらいやっていたんだろう。
 明るかった外はすでに暗く、ランプの光がなければ暗すぎて何も見えない。 集中力が途切れてきたのか、針の穴に通る確率が若干下がってきた。
【スキル『精密操作』を取得しました】
「おっ?」
 待ちわびた天の声が聞こえたので、一度手を止める。
 天の声とは、レベルアップやスキル取得をした時に聞こえる謎の声のことだ。どこかの聖職者が「これは神の声だ」と言ってから、人々の間では『天の声』と呼ばれるようになっている。
「ふう……ステータス」


 ノア・レイリア 十歳 女 レベル1 筋力:130 魔力:300 体力:210 耐久:180 敏捷:250 固有技能:『操糸術』 固有スキル:『操糸Lv3』 通常スキル:『格闘術Lv1』『精密操作Lv1』


「よし、ちゃんと取得できた……」
 精神的に苦労したおかげで目的の『精密操作』を取得。ついでに『操糸』がLv3なっていた。
 スキルのレベルには熟練度がある。これは最大で10まであって、同じスキルを繰り返すことでレベルが上がっていく。
「これで次に進める……かな?」
 まだ『精密操作Lv1』なのが懸念されるけど、これからの作業を続けていれば勝手に上がってくれるだろう。


 次にやることは、糸で形を作ることだ。
 人、動物、家具、食べ物、形は何でもいい。ひたすら作るのみ。
 これも地味な作業と言われたら否定はできないけど、穴に糸を通すよりかは作りたい形を選べるだけ自由度が上がった……気がする。
 気分って大切だと思う。 うん、チョー大事。
 これは複雑な形になるほど、技術が必要になってくる。試しに兎を作ろうとしても、バランスがおかしくて気色悪い兎になってしまった。
 なんで兎なのか? 可愛いからに決まっているでしょう。これでも今の私は十歳の少女。生前では二十歳の乙女。可愛い物や甘い物には目がない。
「……って、現実逃避してても意味ないよね」
 パンッ、と軽く頬を叩く。
「よしっ、このまま頑張るぞ。オー」
 一人悲しく気合を入れたけど、右手に握られた兎を見たせいで、一気に悲壮感が襲いかかる。
「……当面の目的は、兎を綺麗に作ることかなぁ」
 まだまだ続く道のりを想像して、私は虚ろに深いため息を溢すのだった。

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