Q.最強の職業は何ですか? A.遊び人です

ノベルバユーザー225229

Q.突然の恋愛フラグはどうしますか? A.一杯飲んで流しましょう

「それじゃマコト殿、これから私に付き合ってもらうぞ」
 エリーヌが真に声を掛ける。
「今日は無いと思ったんだけどなぁ――って言うか、クエストに行くんだよな?」
 軽く溜息をついてから疑問を口にする真。 今を遡ること一週間前、ハマルを討伐した報酬として、多額の報酬を国王から貰い、更にそれを使って新しい仲間を手に入れた真達のパーティ。 しかしその代償は大きかった。 四億という多額の資金をカジノで使い、この街一番のハンターであるリュートをパーティに加えたのだ。 パーティに加わったリュートにお咎めはないが、その計画を遂行した本人、真にはパーティメンバーから一ヶ月間の無休クエストを命じられた。 今日はちょうど一週間目である。 メンバーとそれぞれ一回ずつクエストをこなし、二週目の折り返しに突入したわけだが、今日のコンビを組む相手を見て、真は疑問を口にしていた。
「何かあったのか? エリーヌ」
「ん? あぁ今日は確かテテの番だったな」
 一週目はテテ、エリーヌ、リュート、クリスの順番だったが、二週目はリュート、クリス、テテ、エリーヌの順番であった。 そのことを思い出し、テテではなくなぜ自分がここにいるかを答えるエリーヌ。
「いやまぁ、それもそうなんだが――」
 エリーヌの言葉で、そう言えばと思い出した真である。 順番は一週目が終わった際、くじ引きで決めていたようで、本日はテテの番のはずであるが、なぜか目の前にいるのはエリーヌであった。
「ふむ。一週間前にマコト殿と一緒に行ったクエストから、何やら様子がおかしいのだ。それで、本日は私と交換して欲しいと言われ、順番を変更したのだが――何か問題でもあるか?」
 真の反応に首を傾げて答えるエリーヌ。
「いや、問題はそこじゃなくて」
 真が今問題にしたいのはそこではない。
「そしたら何だろうか? 私としては早く出かけたいのだが――」
「いやいや、どうしてドレスなんか着てるんだ?」
 そうこれが今、真が問題にしたいことである。 なぜクエストに向かうのに、ドレスアップする必要があるのか。しかも、真もなぜかタキシード姿である。
「それは当然だろう。これから私とデートに行くのだからな」
「――――は?」
 真の予期していない答えがエリーヌの口から紡がれ、真が間抜けな声を上げる。
「いやだから、私とデートに行くのだ。不満かな?」
 腕を組んでエリーヌが真に聞き返す。
「不満と言うか――なんで?」
 クエストに行くと言っていたのにデートに行くと言われ、真がこの疑問を口にするのも当然かもしれない。 しかし、エリーヌは真が疑問を抱いていることを逆に不思議に思っているようだ。
「ん? 前に一度話したが――私とデートするときは、その服装で来てくれ――って頼んだはずだが?」
「いや、それは覚えてるんだが――今日これからか?」
 まさか今日突然、デートをしようと言われるとは思っていなかったようである。 しかも今はかなり遅い時間である。これからデートに行くのであれば、帰宅時間は相当遅くなる――下手をすると朝帰りになりかねないのだが
「大丈夫だ! マコト殿とそう言う関係にはならない――はずだ」
 今までジッと見つめていた真の目から視線を外し、顔を紅潮させてそう呟く。
「まぁ、そうかもしれないが――それで、どこに行く予定だ?」
 真としてもこんな表情をされて、何も思わない程鈍くはない。 このままでは意識が違うところに向いてしまうと感じたのか、言葉の最後で無理矢理に方向を転換させる。
「カジノにする予定だが――大丈夫だろうか?」
「あぁ! エリーヌさえ良ければ俺は全然問題ない。って言うか――良いのかそんなところで? デートって言うんだから、もう少し違う場所でも良いんだぞ」
 別にエリーヌを誘惑しているわけではないし、クリスを裏切るわけでもない。 ただ、「今夜デートをする」と言ってきたエリーヌの気持ちを汲み、そう持ち掛けたわけだが
「構わない。と言うよりも、元々カジノに用があるのだ」
 カジノに用があると告げた瞬間、エリーヌの瞳が真剣さを増す。
「――そうか」
 その空気を読んだのだろう、真も真剣な表情を作って答える。
「それよりもマコト殿! その、どうだろうか?」
 先ほど見せた真剣な表情はどこへやら。頬を赤く染め、俯きながら真に別の質問をしてくる。
「ん? 何がだ?」
 エリーヌの質問の意図が分からなかったのか、質問に質問で返す真。 真剣になった雰囲気には敏感だが、こういうところは鈍いのかもしれない。
「この恰好、おかしくはないだろうか?」
 そう言われて初めてエリーヌの意図が伝わり、改めて目の前の女性に視線を送る。 もともと凹凸のはっきりした身体が、肩紐の無い紫色のストラップレスドレスで、ラインが一層強調されている。 背中が大きく開き、肩から胸にかけて大人の女性の色香を纏っている。
「――エリーヌじゃないみたいだ」
「似合っていない――のか?」
 自分の来ているドレスを見下ろし、期待していた答えが得られなかったことに俯くエリーヌだが
「(このセリフ、前に俺が言った気がするな)――――いや、綺麗だ。とてもよく似合ってるよ」
 女性が着ていく服を見て欲しい場合、ほめて欲しいからに決まっている。 それは転生する前の地球でも同じことだろう。 真の反撃に、より一層顔を赤くさせ口元に手を当てる。恐らく言われた言葉が嬉しくてにやけているところを隠しているに違いない。口元は隠せても目が笑っている。
「そ、そうか――では、行こう」
 たっぷり五秒ほど真の言葉を堪能してから、いつもの表情に戻るが、言葉がまだ本調子には戻っていないのを真は見抜いていた。 そのエリーヌの様子を見てから調子に乗って
「そうだな」
 短く答えてから左ひじを軽く浮かせる。
「な、何をさせようと――」
「するのか?」とは言葉にせず、紅潮した顔を俯かせ、おとなしく真の腕に自分の腕を組むエリーヌ。 こうすると、柔らかくて危険な感触が直に伝わってくるのだが
「無理しなくても良いんだぞ」
 真がこういったのは、心を落ち着かせるためと、相手を挑発するための両方の理由があったのかもしれない。 いや、挑発する方が割合が高いだろう。何故なら、エリーヌの耳元で優しく囁いたからだ。 真の囁きに直撃され、急に背筋を伸ばしてから肩をすくめ、改めて真に向きなおり
「む、無理などしていない」
 半ば叫ぶように声を張る。
「そ、そうか?」
 その迫力に気圧されながら真が答える。
「そうだ! さ、行こう!」
 後ろにのけ反った真の腕を引き寄せ、グイグイとカジノまでの道を、エリーヌが引っ張っていく。
「(こういうのって、男の役割だと思うんだけどなぁ――)」
 道行く人の視線を受け、真は心に思うのである。


「お待ちしておりました、エリーヌ様」
 カジノに到着し、入口に立っていたカジノの係員に声を掛けられる。
「ん? エリーヌ、知り合いか?」
 係員がエリーヌを待っていた。 しかもの名前を知っているのだから、知り合いなのかを尋ねた真だが
「知り合いという程ではない。このカジノのオーナー、スティング氏だ」
「オーナー!?」
 エリーヌの告白に驚嘆の声を上げる。 さすがの真も、自分の仲間にカジノのオーナーがいるとは考えたこともなかっただろう。
「お初にお目にかかります。今ご紹介に預かりました通り、このカジノのオーナーをしております、ルヴェーン=スティングでございます。マコト様」
「え? どこかで会いましたっけ?」
 ルヴェーン=スティングと名乗ったオーナーは、なぜか真の名前まで知っていた。 どこかで会ったことがあるのだろうか、と自分の記憶をほじくり返す真であるが、その疑問の答えはすぐに帰ってきた。
「マコト様は有名ですから。本日はよろしくお願い致します」
 首をひねる真を見て、オーナーは名前を知っている経緯は、別の方法で知ったことを暗に示す。 確かに思い返せば、国王から勇者の称号をもらい、魔王討伐を依頼されたのだ。真の名前が知れ渡っていても不思議はない。 ただ意外だったのは、ハンターではなくカジノのオーナーが知っていたという事だ。 自分の名前が売れていることが、素直に嬉しくて表情筋が緩くなるが、オーナーが気になることを最後に発言したのを思い出し、エリーヌに向きなおり
「えっと――エリーヌ、お願いしますって、どういうことだ?」
 自分の引っ掛かったオーナーの発言をエリーヌに聞く。 真の質問を受けてから、エリーヌが短く嘆息し
「マコト殿はこのカジノに何をしに来たのだ?」
 当初の目的を忘れているであろう真に、念のための確認をするエリーヌだが
「そりゃ――えっと、ほら――遊びに、だよ」
「――――はぁ、あのなマコト殿。ここに来る前に話したと思うが、クエストに来たのだぞ」
 今度はかなり深いため息をつき、本来の目的を告げる。
「え? 遊びじゃないの?」
 予想外のエリーヌの返事に、間抜けな声を上げる真。
「最初に、クエストと言ったはずだが――」
「はぁ、ちょっと楽しみにしてたんだけどなぁ――」
 今度は真がエリーヌに苦言を呈す。
「そうだな。私も本当ならこの状況を楽しみたいところではある。しかし今はクエストの方が優先だ。早めに終わったらその――少し遊んでも良いかなと思うのだが、それではどうだろうか?」
 やや顔を赤くさせてエリーヌが言う。 その様子を全く気付いていない、というはずはないのだが
「本当か? よし早く終わらせて遊びに行こう!」
 真は既に遊ぶことで頭がいっぱいの様である。
「マコト殿はいつも遊ぶことで頭がいっぱいなのか?」
「ま、一応遊び人だからな! それで、クエストの内容を教えてくれないか?」
 真の態度に、冷ややかな視線を送ってからオーナーに向きなおり
「それでは説明を伺いたい」
 クエストの詳細を聞こうとするが
「エリーヌ様とマコト様は恋仲同士ではないのですか?」
「いや、私とマコト殿は――その、そう言う関係では、無い――というか、私はそう言う関係になりたいと――いや、私は何を言っているのだ? それよりもクエストの説明をお願いしたい」
 オーナーから思わぬ反撃を受け、慌てるエリーヌである。
「そうですか? それでは――事の始まりはこの世界に魔王が現れ、それを討伐する為、勇者が任命され始めた、その少し後の事です。この聖ゾディアック王国に窃盗団が出現し始めました。奴らの狙いは領主や大商人と言った、国の経済や治安に関わる箇所でした。その中には我々カジノも含まれております。狙われたところからは、魔王討伐に必要となる資金、武器、防具など様々なものが盗まれ、その所為で魔王の討伐が困難になったと言っても良いでしょう」
 訥々と現在の状況を語るオーナーだが、その窃盗団の被害が一度や二度ではない事が表情から見て取れる。 その窃盗団の影響で魔王討伐に支障が出ているのなら、それは野放しにしておくわけにはいかないはずである。
「それで、今回の狙いがこのカジノ――ってわけですか?」
 話の先を読むように、真が口をはさむ。
「その通りですマコト様。奴らは盗みに入る場所に、必ず予告状を送りつけます」
「(どの時代の義賊気取りだよ)随分自信がある奴らなんだな?」
 転生前の日本で、アニメやマンガではよくあるシチュエーションだが、実際に自分達がその状況に出くわすことになると、皮肉の一つも言いたくなるのかもしれない。
「今まで奴らは失敗したことがありません。予告状を出したものは必ず盗まれます」
 オーナーが悲痛な表情をしながら、必死に普通の声を出す。 恐らくは今までに何度も辛酸をなめさせられてきたのだろう。その表情が苦悶に歪んでいるのが二人には分かる。
「それで、今回予告状を受け取ったのがこのカジノだった――ってことですよね? 何を狙われているんですか?」
 オーナーの心情を考えると、真の言葉は無神経な発言だったのかもしれない。しかし、何を狙われているのかが分からなければ守りようがない。 そう思って口にした言葉であるが
「実は、狙われているのは我々ではなく、マコト様なのです」
「は?」
 突然のオーナーの言葉に間抜けな声を上げる真だが、隣にいるエリーヌは既に知っていたようである。
「つまりだ、マコト殿。今回私がこのクエストを受けた理由はこれなのだ。今回のクエストはギルドを介していない」
 ギルドを介さないという事は、つまり非公開クエストという事になる。 更に言えば、ハンターにクエストを依頼するのは、原則としてギルドを通すことになっていることから、ある意味ではルール違反という事になるのである。 それを承知でオーナーがクエストを依頼してきたのは、窃盗団の狙いがカジノではなく、真本人だからだという。
「なんで俺が狙われるわけ?」
 モンスターに狙われるならまだしも、人間に狙われる理由は現段階では真にはない。 そう思って質問したのだが
「恐らくですが、以前こちらにお越しになった際に、目星をつけられていたのではと思います。いえ、それよりももっと別の目的があるのかも――。いずれにしても、私たちにはわかりません」
 それならなぜカジノに予告状が届くのかという疑問も残るが
「ギルドの前で右往左往していたところを私が事情を聴いたのだ」
 真の疑問はエリーヌが解決してくれた。
「(確かにそう言う事ならギルドを介するのは気が引けるかも知れない)事情は分かりました。確かに私の事を狙っているなら、ギルドにハンター指名をしなくてはならないですしね。かといって、ギルドや俺が依頼を受けるかどうかは分からない――だからエリーヌに依頼した、ってことですよね?」
 ギルドには、ハンター指名と言う制度がある。 少し割高になるが、名の売れたハンターに確実に依頼をこなしてもらう、などの理由がある場合に限り、こういった依頼もギルドは受け付けるのだ。 しかし、狙いが指名したハンターの命となると、さすがにギルドも受け付けないかもしれない。 そう考えて、オーナーはギルドに依頼を出せないでいたのだ。
「その通りです」
 視線をそのまま二人に向け、オーナーは告げた。
「それで、俺の命と引き換えに何を条件にされてるんだ?」
「――――そこまでお分かりになりますか?」
「マコト殿、どういうことだ?」
 いかにも図星を突かれたような表情をするオーナーだが、エリーヌは真の発言の意味を理解していない様である。
「ん? 分からないか? 話は単純だ。予告状に書かれていたのが俺の命だった場合、それを受け取るのはオーナーじゃなくても問題ないはずってことだ。何せカジノには被害が及ばないんだからな。それなのに、なぜカジノのオーナーが予告状を受け取ったのか? それはきっと、オーナーにとって大切なものと引き換えになっているから、と俺は思うんだが――」
 指を一つ立ててエリーヌに説明し、最後にオーナーの方に向きなおって視線を送る。
「話には聞いておりましたが、マコト様の頭はどこまで先を読んでおられるのか――――今、マコト様の仰ったように、私の元に届いた、予告状という名の脅迫状には次のように書かれておりました。娘は預かった。勇者マコトと引き換えだ。と――」
「――――――」
 オーナーの衝撃的な告白に、顔を青くさせて言葉を失うエリーヌだが、その肩を軽くたたいて真が口を開く。
「大体予想は付いていた。そんなにショックを受けるほどのものじゃない。ただ、どうなんですかね? 俺と引き換えと言うのは、俺を差し出せばそれで済むんですかね?」
 真が口にしているのはこういうことだ。 娘と真が引き換えと言うのは、真自身が目当てなのか、それとも真の命と引き換えなのか、という事だ。
「いえ、それについては何とも――脅迫状には『勇者マコトと交換だ』とだけ書かれています」
「念のためですが、その脅迫状は今持ってますか?」
「え? あ、はい。これです」
 オーナーはそう言うと、懐から一通の封筒に入った手紙を取り出した。 オーナーから差し出された手紙を受け取り、中から手紙を取り出して一読してから「ふむ」と言ってからオーナーに手紙を返し
「確かに『俺と引き換え』とだけ書いてあるな。あと一時間後に倉庫に来い――か。何か裏がありそうだな」
 真が一言呟く。
「マコト殿、それはどういう事だろうか?」
 真の呟きに、エリーヌが首を傾げて意味を問いただす。
「それはまだわからない。ただ、窃盗団と言うからには何かを盗むわけだろう? それなのに今回は、何を盗むかが書かれていない。妙だとは思わないか?」
 真の発言に、そう言えばと言う表情を作るエリーヌとオーナー。
「まぁ、今は指定された時間に行くしかないな」
 ここで悩んでも結論は出ないと踏んだのだろう。指定された時間までエリーヌに休むよう伝え、マコトは倉庫の様子を見に行くのであった。



 一時間後、倉庫内は水銀灯に照らされているとはいえ、薄暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。
「もう間もなく――だな」
「マコト殿、今からでも遅くはない。ここは私に任せて、避難していても良いのだぞ」
「仲間を危険な目に合わせて、俺だけ安全な場所で高みの見物ってのは――性に合わないんだよ。それに――もう遅いぜ」
 そう言うと、視線を頭上に向けてそう言う。 エリーヌもそれにつられて頭上に視線を移すと、人の形をした影が十体落ちて来て、音もなく倉庫の地面に着地する。 その影はゆっくりと上体を起こすと
「あら? あなた、どうしてここにいるの?」
 真とエリーヌに話しかけてくる。 どうやらどちらかのことを知っている口ぶりである。 その言葉を聞いて、真が何かに気付く。
「(あれ? この声、どこかで)――――あんた、まさかとは思うが」
 真の記憶のどこかに引っかかる。いや、はっきりと記憶している。 この声は間違いない
「月光花の――――ウェイトレス」
 そう真の記憶にあるこの声の持ち主、それはこの世界に転生してきてから直ぐに、真たちを労働者へと追いやった張本人の声。
「その通りよ! よく覚えててくれたわね。嬉しいわぁ」
 高笑いと共に真を見る人物は、間違いなく月光花のウェイトレスである。
「何でこんなことをする? 魔王軍の関係者なのか?」
「冗談じゃないわ。 でもまぁ、魔王軍は利用させてもらってるけどね」
 魔王軍の関係者ではないというウェイトレスだが、利用はしているという。 その言葉にエリーヌが首を傾げるが
「なるほどな。そういう事か。それはギルドも関係してるのか?」
「いいえ。あくまでも私個人で動いてるのよ」
 ウェイトレスの言葉の意味に真はどうやら気付き、最後に発した言葉で真は全て理解したようである。
「マコト殿、どういうことか私に説明してもらえないだろうか」
 一方言葉の意味が分からないエリーヌは、真の方を見て説明を求める。
「つまりだ、こいつら盗賊団は魔王軍とは何の関係もない。ただ、その魔王軍を討伐する勇者の存在は邪魔なんだ」
「勇者が邪魔とはどういう事だろうか?」
 真の話を聞いてもすぐには理解できないエリーヌがさらに質問を続ける。
「こいつらはギルドの仕事が無くなるのと困るわけだ。ギルドの仕事ってのは、基本的に魔王軍の奴らとの戦闘だったりするわけだから、その魔王を勇者が倒してしまったら、無職のニート街道まっしぐら、ってことになる。そんなのはゴメンだ! ってことで国王から勇者に任命された奴の邪魔を影ながらしてたってわけだ」
「今の短い会話だけでそこまで分かるのはすごいわ。そこまで分かっているなら私の目的も分かるわよね?」
 真の読みが全て正解だったことをほのめかし、続けて自分の目的もわかっているだろうと問いかける。
「俺が魔王討伐をやめれば万事うまくいく――ってところだろ」
 真の言葉に首肯してから口を開き
「それだけじゃないわ。私のいう事を聞いてくれたらあなたたちに危害は加えないと約束するわ。それに」
 続けて艶めかしい笑みを湛えながら舌なめずりし、その豊満な体を両手で抱くようにして言葉を続ける。
「私の特別なサービスも付けるわよ」
 真を誘惑するようにその視線で真の目を射抜く。
「それはすごく魅力的な話だな。エリーヌ、魔王討伐やめても良いか?」
 鼻の下を伸ばして相手の思惑に乗ろうと言う真。しかし、そんなことは微塵も考えていないことは、発せられた言葉が全て棒読みだったことからも分かるだろう。 冗談半分に相手の誘惑に乗ろうとする真に
「マコト殿!」
 エリーヌが声を荒げて誘惑に乗りそうになる真を制止する。どうやらエリーヌは冗談とは受け取らなかったようである。
「ダメか? 俺的にはこのお姉さんとイイことしながら過ごすのも悪くない、って思ってるんだが」
 それでも食い下がろうとする真の手をエリーヌが掴み、二人の交錯する視線の間に割って入る。 その瞳は潤ませながら頬を紅潮させ、真の目を上目遣いに覗き込んで呟く。
「それなら、私がその――特別なサービスとやらをするのではだめか?」
「は? 何言ってるの?」
 突然発せられたエリーヌの言葉の意味が分からず、思考回路が停止する。
「だから、私がマコト殿の、その、欲望を叶えるのではだめか? と聞いている」
 歯切れの悪い言葉で真に訴えるエリーヌ。
「あのさ、前にも少し思ったんだけど、お前俺の事好きなの?」
 直球過ぎる真の挑発に顔を赤くしてエリーヌが俯き、握っていた手を放して真の腕にしがみつく。
「マコト殿の事は慕っている。クリス殿のようにはっきりと意思表示は出来ないが、それでもマコト殿の事は好きだ。あのメサルティムを倒した夜から」
 そこで一度言葉を区切り、俯いていた顔を上げて真の目をまっすぐに見つめ、続けて言う。
「マコト殿は私にとって英雄になった。マコト殿にはクリス殿がいる事は分かっている。しかし、一度思い始めたら止まらないのだ。だからせめて私なりに、私の英雄に尽くしたい。そう思ったのだ」
 強く、儚いエリーヌの想いは真の心に響き、一つの決心をさせるに十分な力を持っていた。
「そうか――ならその気持ちは裏切れないな」
 そう言うとエリーヌの頭を撫で、敵の方に視線を送る。
「どうするか決まったのかしら?」
「ま、今聞いた通りだ。あんたの申し出は受けられない」
「それなら、人質の命とあなたの命はここで私たちが貰っていくわ」
 先ほどの妖艶な笑みから冷たい殺意を孕んだ表情になり、腰から短剣を勢いよく二本抜いて構える。 抜剣する音が倉庫に響くと、周囲の盗賊団員たちも同じ様に短剣を構え、真達に殺意を向ける。
「私も含めてスカウトしたメンバーは元一流のハンター。勝てると思ってるわけ?」
 殺意に満ちた視線を真に向けて挑発する。しかし真は落ち着いた様子で口を開く。
「う~~ん、結論から言うともう俺たちの勝ち、なんだよね」
 その挑発に真が答える。既に勝負はついていると――。
「何ですって?」
「つまりもう詰んでるんだよ、この勝負は。ってことで――チェックメイト!」
 指を鳴らして相手の方を差すと、四方八方から細いロープが盗賊団を襲い身動きを奪う。 突然一塊に拘束され、盗賊団は全員呆気に取られていた。
「ちなみに言っておくけど、そいつは切れないぞ。魔法が掛かってるからな」
「くっ! でも良いのかしら? このままだと人質は助け出せないわよ。言っておくけど私たちは絶対に口を割らないし、あと数時間すれば人質は死ぬわよ」
 確かにその通りである。盗賊団の拘束に成功しても、人質はまだ助け出せていない。 このままでは依頼が達成出来ないのは明白である。こういう時は尋問や拷問にかけて白状させる、と言うのがセオリーである。 だが真が言われたように、盗賊団の口は堅そうである。それをあと数時間で白状させるのはなかなか困難のように思われるが
「だから言ったじゃん。もう勝負はついてるんだって!」
「何? どういうこと?」
 真が余裕の表情で先ほどと同じセリフを言う。それを聞いてさらに険しい視線と表情で真に問いかける。
「こういう事!」
 そう言うと倉庫内にある小さな扉の方に歩いて行き、掛かっている南京錠のカギを開ける。
「もう出てきても大丈夫だよ!」
 誰かに話しかけているのか、扉を開き声を掛ける真。 すると中から10歳ぐらいと思われる女の子が出てくる。
「マコト殿、まさか」
 エリーヌが驚愕の表情で真を見る。
「そ! オーナーの娘さん。さっきの仕掛けを作ってる時に偶然発見してさ、助け出してここに避難してもらってたわけ」
「どうしてわかった?」
 真の言葉に、盗賊団の女が怒りをあらわにした声で問いかける。
「ん? オーナーに出した手紙には『俺と交換』って書いてあっただろ? という事は指定時間には人質がいるはずだ。でも指定された時間まではそんなに余裕があったわけじゃない。ということはこの建物のどこかにいるって踏んだわけだ。倉庫内で発見できたのはラッキーだったけどな。それで助けた場合、交渉の時に戦闘になるかも知れないから、安全策をとって鍵の付いた部屋に避難してもらってたんだ。時間近くになっても俺たちに被害がなかったことから、俺がお前らの指示に従った時に開放するって手筈なんだと確信したわけだ。だから俺としては端から相手にはしてなかったんだよ。意外だったのは、盗賊団があんただったってことぐらいだ」
 淡々と真が説明し、所々エリーヌが驚きの表情を見せるが、言われている盗賊団たちは表情が歪み、その色は絶望で埋め尽くされていく。
「まったくマコト殿は――――」
 呆れと驚きの混じった表情でエリーヌが呟く。
「私たちは最初から貴様の掌の上だった、と言うわけか。殺せ」
 盗賊団の女は諦めた表情と声でそう呟き、がっくりと肩を落とす。
「は? 馬鹿なの? 何でお前らを殺さないといけないんだよ?」
 真がそう告げると呆気にとられた表情で女が顔を上げて口を開く。
「しかし、貴様が魔王を倒したら私たちは――――」
「だから、お前らの仕事はなくならねぇって! 世の中モンスターがたくさんいるんだ。中には魔王軍にも負けない奴らだっているだろ? そいつらの討伐依頼や護衛なんかもあるだろうが! それともギルドの仕事ってのは、魔王軍の奴ら相手限定で行われるものなのか?」
 真の問いかけに首を振って否定を示す女。
「なら、もうこういう事はやらなくなるな?」
「する理由もなくなったわけだ」
 今までやってきたことを全て否定され、完全に気力を失った女たちの前に真が歩み寄り
「じゃ、明日からギルドの仕事の幅を広める様に努力しろ!」
「は? でも私たちは」
 真の言葉の意味が分からず、間抜けな声を上げる女だが、次の瞬間
「よっと」
 さらに驚愕の表情を作ることになる。盗賊団を拘束するロープが断ち切られ、開放する。 真の行動はもはや意味不明である。自分たちに危害を加えようとしていた盗賊団を解放したのだ。
「――――なんで?」
 女が真に尋ねる。
「さっきお前はこう言った。盗賊団のようなことをする理由がなくなった。ってな。それなら俺もお前らを捉えておく理由もないわけだ」
 真の発言に女が言葉を失う。
「分かったらさっさとここから逃げろ! それでまた明日、俺たちに仕事をくれ」
 親指を立てながら真がそう告げると、女がゆっくりと立ち上がり
「あんた達、行くわよ! 明日からあんた達ハンターに戻りなさい。それでまたうちのギルドに来るといいわ」
 盗賊団のメンバーにそう告げる。 女の言葉を聞いた盗賊団たちは、音もなくその場から消える様に立ち去る。 何人かが去り際、真に頭を下げるのが見える。
「王様が言ってたように、あんたはどうやら今までの勇者達とは違うみたいだね」
 そう言うと倉庫の窓際までゆっくりと進み
「そこの騎士さんの気持ちが分かった気がするわ」
 そう言うと優しく微笑み、手を唇に当てた後真に向けて投げキッスをし、その場を立ち去ろうとしてから「そう言えば」と呟いて真の方を振り向き
「名乗ってなかったわね。私はソフィア、また明日ギルドでね」
 軽く片目を瞑って倉庫の窓から音もなく去って行ってしまった。


「さてと、これで依頼完了だな。報酬も入ったし、一杯飲んでから行くか?」
 カジノから出て来てエリーヌの方を振り向いて真が言う。、
「まったく、マコト殿は」
 その真を見て呆れた様に嘆息してエリーヌが言う。 しかし、何故かその表情は微笑んでいた。
「よし! 行こう! 私の気持ちも伝えたわけだから、とことん付き合ってもらうぞ!」
 そう言うと真と腕を組み、ガル爺の店までの道を早歩きで向かうエリーヌであった。
「ちょ、ちょっと待てよ! 歩くの早えーよ」
 エリーヌの速度にバランスを崩しながら真が言う。その真に
「マコト殿は、罪作りな男だな」
 聞こえない様に呟くエリーヌであった。

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