Q.最強の職業は何ですか? A.遊び人です

ノベルバユーザー225229

Q.大金を手に入れました。何に使いましょう? A.とりあえず遊びます!

 昨晩、王国に迫りくるモンスター軍の大将、メサルティムを討伐した真達のパーティは、ギルド「猫の足音」のマスター、ガル爺のおごりで飲んで騒ぎ
「起きろクリス! 寝坊だ!」
 盛大に寝坊していた。
「ん? あ! おはよマコト」
「おはよ、じゃねぇだろ。起きろ! 寝坊だ! 早くしないと開戦しちまうぞ」 昼近くの陽光を浴び、一瞬で目が覚めた真とは違い
「ん? 海鮮? あぁ私はウニとイクラが好きです」
 この女神はいまだ夢の中にいるようである。
「寝ぼけてんじゃねえぇ!」
 叫びながらクリスの肩を掴んで起こし、前後にガクガクと振り、無理矢理に覚醒させる。
「もう少しぐらい、寝かしてくれても――――――!」
 まだ寝足りないというクリスだが、その半開きの瞼をこすってから、真の顔を見て
「マコト! その、昨晩は――素敵だったよ!」
 頬を赤く染め、目の前の少年にそう話しかける。
「誤解を生むような発言するんじゃねえ! 俺とお前は、昨日何の関係も持ってねぇ!」
 昨晩、ガル爺の店で盛大に盛り上がり、初めての飲酒で眠ってしまったテテを残して、強制的に帰宅させられた真達四人である。 帰り道で酔っ払ったクリスが、誰も見ていないことを良いことに、胃の中から逆流してくる吐瀉物を、盛大にまき散らすという一幕もあった。 完全にダウンしたクリスを、お姫様抱っこで抱え上げていつもの馬小屋に帰ってきた真である。 当然そんな状況では良からぬことも起こるはずもなく、二人して藁の上に敷いている毛布の上にダイブし、夢の中に沈んだわけである。
「――あの後何もしなかったの?」
「(こいつ、俺が何かするとでも思ったのか?)するわけないだろ! 前も言ったが場所を考え――じゃなくて、寝坊だ! 早く準備しろ!」
 どうやらクリスは、何かしらの事を期待していたらしいが、以前に真が話したように、この場で何かそういう事が起きるという事は、ない。
「え? 今、何時?」
 まだ完全に覚醒していないのだろう。クリスは瞼をこすり、目の前の少年に何時かを問う。
「もう昼近くだ!」
「――――は?」
 真の発言に急激に頭が覚醒したのだろう。飛び起きて周りを見回し
「遅刻じゃん!」
「だからそう言ってるだろ! 急げ!」
 真がそう言いながら慌てて装備を整え、昨日入手した白羊の剣を手に取ってクリスを振り向くと
「わ! 馬鹿! こんなところで着替えるな!」
 クリスも装備品に着替えるため、身に着けていた服を脱ぎ、ほぼ全裸という状態になっていた。 その光景を直視してしまい、慌てて視線を背ける真だが
「別にいいわよ今更! マコトになら見られても!」
 当の本人はまったく気にしていない様子である。
「そういう問題じゃないだろ!」 
「な~に~? 興奮しちゃったの?」
 今まで何人もの女性と関係を持っている真である。今更目の前の女性が、一糸まとわぬ姿であっても、興奮するという事はない。 当然そう言う気持ちも起きない。
「くだらねぇこと言ってないで早くしろ! マジでヤバイ!」
 自分の裸が、くだらないと言われ
「何で? どうして? 私ってそんなに魅力無いの?」
 喚き立てるクリスに対し
「前にも言っただろ! とりあえず今は急げ!」
 装備を整え馬小屋から出て、自分達の考えを実行するべく、城外へと急ぐ真とクリス二人。 途中、エリーヌとテテとも合流し、軽く挨拶を交わした後、四人で向かうが
「(さっき会ったってことは――こいつらも寝坊したな)」
 胸中でそんなことを思っているのは、恐らく真だけではないだろう。


 ギルド「月光花」では既にハンターが多数集結し、これから始まるであろう魔王軍との戦いに備え、会議を行っていた。
「やはり国王だけでも逃げてください」
 一人のハンターが国王に逃げるよう言う。
「それは出来ん。国民を残し、儂だけ逃げるという事だけ何としても出来ん」
 国民を捨てるという選択肢は、国王には無いようである。 このような覚悟は、国民からすれば尊敬に値するし、だからこそ逃げて欲しいと思うのであろう。
「しかし、我らだけは時間稼ぎにすらなりません」
 ギルド内のハンターの数は、前日に召集されたハンターの数の半分ほどしかいない。 恐らくは命が惜しくなり逃げ出したのだろう。 ガル爺も言っていたが、国王であってもそれを責められる者はいないだろう。 ギルド内に沈鬱な空気が漂い、誰もが口を開かなくなった、その時
「国王様! 緊急事態です!」
 重い空気を一人のハンターの声が切り裂く。
「何事じゃ?」
 国王が突然の乱入者に厳しい声色を投げる。
「魔王軍が! 魔王軍が!」
 満を持して攻めてきたのだろうか。 緊急を告げるハンターの様子を見ると、良くないことが起きていることが分かる。
「とうとう攻めてきたか――やむを得ん。出撃じゃ!」
 後手に回ってしまっては被害が大きくなる。 そう思って指示を出した国王であるが
「いえ――その、引き上げていきます。魔王軍が」
「何じゃと!」
 驚くのも無理はないだろう。本来であれば既に戦闘が開始されていたもおかしくない。 それが今の今まで攻めてこないこと自体、不思議ではあった。 しかし、それが今度は撤退していくという。一体何があったというのか。その場にいる全員が理解できず、ただただ拍子抜けした表情を浮かべている。 そこに
「遅くなりましたー」
 報告をしてきたハンターの後ろから、軽薄な声がギルド内に響き渡る。 真達のパーティだ。 このギルドに顔を出すこと自体少ないため、そのメンツを知っている者は少ないが
「あれ? 確か、クリスさん――ですよね?」
 一人の女盗賊が覚えていた。 真が転生を果たした翌日、ギルド登録をしてから職業を選択した時、クリスの初期能力値が異常に高く、アークビショップを選んだ時にいた一人であろう。 真としては、自分たちが借金を背負うことになった原因の一人であり、あまり良い印象がない。 もっとも、この女盗賊がその日ここにいたかは不明であるが「えぇ――そうだけど」
「あ、僕は盗賊のリュートって言います。クリスさんがアークビショップになった日に、ここのギルドで一緒に朝まで飲み明かした――覚えてませんか?」
 やはり原因の一人であったようだ。 真の感じたことを、クリスは考えていないようで、顎に指を当てながら天井を仰ぎ見て、思い出そうとしているようである。
「う~~ん――ゴメン。思い出せないや」
 諦めた様に女盗賊を見てそう告げる。
「あの日はかなりデキ上がってましたからね。仕方ないです。それはそうと――どうして今頃到着したんですか? 今、戦況に変化があったんですが――」
 リュートと名乗った女盗賊が言う「変化」とは、魔王軍が引き上げていくことを指している。 そのことを真たちは知らないはずであるが
「知ってる! 俺たちがそうさせたからな」
 何と真は知っているという。 しかも魔王軍を退かせたのは自分達だというではないか。このことに驚いたのは、目の前で聞いたリュートだけではないだろう。 ギルド内がざわつき、「そんな馬鹿な」や「嘘を言うな」と言った言葉が飛び交う中
「なんと! そなたがあれだけの魔王軍を、撤退させたというのか? 一体どうやって?」
 国王が大きく目を見開いて尋ねる。 その国王の質問に、真が背中から剣を一本抜き、国王の前の床に突き立てる。
「これは!」
 その剣を見て国王が驚嘆の声を上げる。
「昨夜、ある・・イベントが発生した。それは――――」
 訥々と昨夜の出来事を語る真。 剣を手に入れた経緯、メサルティムの本当の狙い、何故首級みしるしではなく剣なのか、なぜ魔王軍は撤退していったのかといった、重要な要点を抜き出して真が報告する。 詳細を省いた理由は、魔王軍が撤退していった理由が、真のハッタリによるものだったからである。 真が魔王軍の前に立ち、発したハッタリは次のとおりである。 曰く、魔王軍の大将メサルティムは一騎打ちで真に大敗し、一人逃げて行った。 曰く、メサルティムは部下の命よりも、自分の命を優先した。 曰く、真がその気になればここにいるモンスター全員を殲滅する実力がある。
「――俄かには信じがたい話じゃが、こうして魔王軍が撤退していった事実を考えると、そなたたちの働きがあったのは間違いないようじゃ。今の話も信ずるに値する内容が多い」
「それじゃ信用してもらえるのですか?」
 国王の言葉を聞き、思わず顔がほころぶ
「信じよう」
「ありがとうございます」
「それはこちらのセリフじゃ。大儀であったぞ」
 国王から今回の活躍を称賛され、浮かれた表情をする真に
「して――そなたの名は何という? この国を救った英雄の名を教えてくれ」
 国王が自分の名前を聞いてくる。 国王に「英雄」と言われ、更に顔に締まりがなくなる真だが、表情筋を今できうる限り極限まで緊張させ、国王の質問に答える。
「は! 私の名はイチジョウ マコトと申します」
「何! そなたがマコトか?」
 名前を聞いた国王が驚嘆の表情を見せる。
「え? そうですが――何か?」
 そのことに訝し気な表情をする真であるが
「今より十日程前、天啓が下った。魔王を倒す勇者の名を告げる天啓じゃ。その天啓で告げられた勇者の名が、『マコト』であった。そなたは我が国に現れた、最後の希望。どうか我らに力を貸して欲しい」
 国王の言葉を聞き、表情を一変させる。
「(やっぱり俺って選ばれた勇者なんだ)」
「頼めるか?」
 言葉を失っている真に、国王が再度嘆願する。
「――わかりました。出来る限りではありますが、尽力いたします」
 国王からの言葉を聞き、それに了解の意を示す真。 しかし、「出来る限り」と付け加えているあたり、何か厄介なことが起きた場合の逃げ道を用意しているのが分かる。 既に真と付き合いの長いクリスは、そのことに気付いて真に冷たい視線を送る。 その視線に真が気付き、クリスの方を振り返ると、慌ててクリスが視線を背ける。
「(こいつ、さすがに見抜いたか――)」
 心の中でそう感じている真に
「おお! それでは早速ではあるが、そなたが討ったメサルティムの兄、ハマルを討伐してもらいたい。」
 国王が次の依頼をしてくる。
「メサルティムの――ちなみにどんな奴ですか? 兄というからには似ているのでしょうか?」
 メサルティムも確か、自分には兄がいると言っていたことを思い出しながら、国王に尋ねる真。
「うむ、似ておる。見ただけではほとんど見分けが付かんほどにな」
「(まぁ、モンスターだからな。見ただけじゃ違いなんて分からないだろう)――見分けがつかないとなると少々厄介ですね、メサルティムのような羊型のモンスターは、どの程度いるのですか?」
 見分けがつかないと言われ、メサルティムに似た奴を討伐しても意味がない、と考えての発言だったのだが
「奴の様に、三本角に三つ目という羊型モンスターは、奴以外にはハマルしかおらん」
 決定的な証言を得る。 忘れもしないし、忘れることも出来ない。 この世界に転生した初日、というよりも直後、真を追いかけまわした羊型モンスター。 必死に逃げた末、真の情け容赦ない攻撃を食らい、谷底に落ちたモンスター。 あの時のモンスターがハマルであるならば
「えっと――それならたぶん、この街より北に10kmほど行ったところのある山の中で、既に退治しましたが――」
「――今の話はまことか?」
 真の話を聞き、更に驚嘆の表情を作り、真の両肩を国王が掴みながら問う。
「え? えぇ。多分、私が谷底に落としたモンスターがハマルだと思いますよ」
 その国王の迫力に押され、若干後ろに退きながらそう答える。
「至急使いの者を出させて調べろ!」
 国王が振り向き様、護衛の兵士達に調査するよう命令する。 兵士達は短く「は!」と言い騎士礼をし、ギルドを出て馬を走らせて山を目指す。


 魔王軍が引き上げていき、その直後に国王からの討伐依頼を受けてから数時間後、ギルド「月光花」では
「ビールおかわり~」
「こっちにつまみ追加で~」
「マコトさ~ん、私も飲んでも良い~?」
 そこにいたハンター全員が、ぶっ壊れていた。 真からハマルを既に討伐しているとの報告を聞き、確認のため兵士を向かわせ、戻ってきた兵士達は
「マコト様のおっしゃる通りでした。魔王軍幹部ハマルは既に絶命しておりました」
 と言い、ハマルの首級みしるしを国王に差し出した。 真がハマルを倒していたことに再度、驚嘆の表情を見せる国王であったが、その場で真を勇者として迎え入れ、多額の報酬を渡したのだ。 転生した初日に、魔王幹部を倒せるのは、転生特典である幸運の所為かも知れない。 国王から報酬としてもらったその額、四億ルーク。一等地に豪邸が建てられる金額である。 その多額の報酬をもらった真達はというと
「今日は俺たちの奢りだ~!」
 とこうなったわけである。
「マコト殿! 私の酒が飲めないのか?」
「いや――もうマジで飲めない」
 真はそんなに酒が強い方ではない。地球でもアルバイト先で少しなめる程度であった。 そもそも未成年であり、居酒屋などに気軽に入れるわけではないため、アルコールに耐性がある方ではないのだ。 しかし、この世界ではそんな日本の法律はない。ゆえにアルコールの類を真が摂取しても、誰も止めないのだ。 自分の摂取可能なアルコールの量、それが分かっていない若者が往々にして陥るもの。 それは
「ゴメン、トイレ行ってくる――」
 とまぁこうなるわけである。 男性用のトイレで、ひとしきり胃の中のものを逆流させ、青い顔をしたまま席に戻ろうとする真に
「ねぇ君!」
 横から呼ばれ、その声のする方へ振り返る。
「えっと――確か、リュートさん――でしたっけ?」
 声を掛けてきたのは、数時間前に自分たちのギルド到着が遅いと発言した女盗賊だった。 軽くシャギーの入ったブラウンのショートカット。瞳は髪の色と同じ様に透き通るようなブラウン。盗賊という職業に相応しく、革製の胸当てにショートパンツを装備している。
 「呼び捨てで構わないよ! 僕もマコトって呼ばせてもらうから。それで、ちょっと良いかな?」
 そう言うとリュートは、真を店の外に出るよう促し、それに従う真。 店の外は既に日が落ち、辺りはすっかり暗くなっていた。 道行く人は少なく、遠くの方に松明で照らされた城が、幻想的に浮かび上がっているのを視界にとらえることが出来る。
「君、大丈夫?」
 その幻想的な夜景を前にして真は
「ダメ、また戻しそう」
 盛大に悪酔いしていた。
「背中擦ろうか?」
「いや、大丈――うえぇぇ!」
 全然大丈夫ではない。誰の目から見てもそれは明らかだ。ビールをジョッキで二杯、一気に飲んだ後、シャンパンのラッパ飲み、テキーラをショットグラスで七杯も飲んだ。 アルコールに慣れていないというのはこういう事である。ひとしきり胃の中のものをぶちまけてから
「それでリュート。俺に何の用だ?」
 本題に入る。
「えっとね――まずハマルを倒してくれてありがとう。僕の両親の仇だったから」
 真が本題を切り出したのを確認し、まずは両親の仇を倒してくれた礼を言う
「それで、君には申し訳ないんだけど、明日にはこの街から出て行ってもらいたい」
「――は?」
 リュートの発言に間抜けな返事をする真。その真にリュートが続ける
「この街は僕が生まれ育ちった街だ。両親は死んでしまったけど、大切な人がたくさんいる。君がハマルとメサルティムを倒したことはあっという間に広がるだろう。そうなった時、君がこの街にいると、再び危険な状況に陥るんだ。僕の言ってること、分かるよね?」
 つまり、魔王にたてつく勇者がこの街にいると、再び今回のようなことが起こるとも限らない。 今回は運良く防げたが、次回もそうとは限らない。 ならば、この街からその危険を呼び込む存在を排除すると、そう言っているのだ。
「――なるほど、そういう事か。まぁ俺一人なら良いけど、あいつらが何て言うか――」
「僕は君に・・出て行って欲しいと言ったんだ」
 他のパーティメンバーは構わない。真に出て行って欲しいと、そう告げるリュート。
「断ったら?」
「力ずくでも出て行ってもらうしかない。これでもギルド内でのハンターでは、ナンバーワンの座に着いてる」
 そう言うと手を腰の後ろに回し、短剣を二本抜いて構え、髪と同じ色の瞳は月の光を反射して鋭く光る。 真も短剣を日本抜いて構え、目の前のリュートを油断なく見つめる。 まさに一触即発。どちらかが動けば戦闘へと発展するのは、二人の間に流れる空気からも読み取れる。 だが
「うおえええぇぇぇ!」
 真が再び盛大に吐しゃ物を地面に吐く。胃の中にはもう何も入っていない。ただただ胃液のみを道端に吐き続ける。 その様子をリュートが見て
「ぷっ。あはははははは! 君、緊張感ってもんが無いの?」
 指をさして盛大に笑う。
「しょうがないだ――うおええぇぇ!!」
「あはははは。ダメ、お腹痛い!」
 まともに話すことも出来ない真を見て、目に涙を浮かべながら笑い続けるリュート。 ひとしきり笑ってから目の涙をぬぐい
「はぁはぁ――なんかこんなに笑ったの久しぶりだよ! 君って面白いね!」
「俺は全然面白くねぇ!」
 真はただ胃の中のものを逆流させていただけだ。その様子を見てリュートが勝手に笑っていただけである。 真の反応も当然と言えるだろう。
「なんか、決闘とかそんな雰囲気じゃなくなっちゃったね?」
 張り詰めた空気が、真の吐しゃ物によって払拭され、そんな気が無くなってしまったとリュートが話し
「元々俺はそんなつもりじゃねえからな!」
 自分には元々戦う気は無いと真が反論する。
「なんか君を見てると辛いこと全部忘れそうだよ! 僕ももうこの話はしないから、もうこの話はやめよ! その代わり僕と約束して!」
「何をだよ?」
 決闘する気力を奪われた代わりに、約束をしろとリュートが言う。
「この街は君が――いや、僕と君が何があっても守る! そう言ってくれないかな?」
 リュートの出した条件は、この街を守ることだった。
「そんなのは条件にならねぇよ。俺だってこの街には世話になってる。そんなのは当然のことだ」
 リュートの出した条件は、自分にとっては当たり前のことであると伝える真に
「そしたらもう一ついいかな?」
「内容次第だ」
「明日僕とデートしようよ!」
 リュートの出したもう一つの条件。それは明日リュートに付き合う事であった。
「なんでだ?」
 突然の申し出に疑問を持ち、その真意を真が聞く。
「そうだなぁ――君に興味を持った、じゃダメかな?」
「――クリスが何て言うか、今からでも想像つくぜ」
 今のリュートの発言を、現在寝食を共にしている頭の足らない女神が聞いたら、と思うと頭が痛くなってくる。 そう思っての言葉だったのだが
「大丈夫! そんなロマンチックな場所に行くわけじゃないから!」
 デートなのにロマンチックな場所には行かないという。それは既にデートとは言わないのではないだろうか。 そんな思いもあり
「どこに行くつもりだ?」
 二人で出かけるのにそんな場所があるのか、という含みも持たせて聞いてみる真である。
「この街にカジノがあるのは知ってるよね?」
「知らん」
「え? そうなの?」
「つい最近までずっと労働者だったからな」
 これは本当の事である。 クリスの所為で借金を抱え、その返済のために転生してから最近まで、ずっと日雇労働者をやっていたのだ。
「ぷっ! 労働者からいきなり勇者って、君どんだけ面白いんだよ!」
 リュートのこの反応も仕方のないことだろう。 真自身その自覚があるが、リュートに言われ、改めてすごい出世をしたことに笑顔になって答える。
「うるせぇな。こっちだって好きで労働者やってたんじゃねぇよ」
「まぁ、とりあえず明日はそこで遊ぼうよ! お金たくさんあるでしょ! せっかくだから増やそ!」
「なるほど――良い提案だ」
 この世界に転生する前は遊び人だった真である。 その遊びには女遊びの他、当然ギャンブルも含まれるわけで、一時期はギャンブラーを本気で目指そうか、と思ったこともあるくらいのめり込んでいた。 その真が、カジノがあるという情報を聞いて、それに手を出さないはずはない。
「それじゃ、明日の夕方にここで待ち合わせね! あ! 一応正装じゃないとまずいから、服装はちゃんとしたの着てきてね!」
「分かった」
 そう言うとリュートは家に、真は店に引き返してゆくのであった。


 翌日、リュートとの約束の時間の、ほんの少し前。真は防具屋いた。 昨日リュートに「正装で」と言われたためである。 パーティに着ていく服装は何が良いのか、という知識は地球で既に知っているが、自分がパーティに行くことは今までなかった。 その所為もあり、服選びを手伝ってもらうことにしたのだ。エリーヌに。
「これで良いのではないだろうか?」
 エリーヌが、城の舞踏会でも着られるようなタキシードを一着手に取り、真の体に当てて寸法を確認する。
「これって試着できるのか?」
 自分に当てられたタキシードを手に取り、店員に問いかける。
「試着ですね? かしこまりました。こちらへどうぞ」
 そう言うと店員は、店の奥に設置されている試着室へと二人を案内する。 エリーヌを外で待たせ、タキシードに着替えている最中
「なぁ、マコト殿」
「ん? 何だ?」
「どうしてクリス殿ではないのだ?」
 ここに一緒にいるのがなぜ自分なのかとエリーヌが聞いてくる。
「――あいつに今日のことを話したら、まず間違いなく発狂する」
 エリーヌには今日誰と何をするか話してある。 もし、クリスがそれを知ったらどうなるのかは、火を見るよりも明らかである。
「私がクリス殿に伝えるかもしれないぞ」
「そんなことしないと俺は信じてるけどな――」
 挑発するように真がそう発言すると
「その言い方は――ずるいのではないか」
 エリーヌが気まずそうに答える。
「別にイジワルするつもりはねぇよ――っと、どうだ? 似合うか?」
 そう言って試着室から真が出てくる。 シルバーグレーのタキシードは、真の体のシャープなラインを引き立て、よりエッジの立つシルエットを作り出していた。
「――――――」
「ん? どした? 顔が赤いぞエリーヌ」
 見惚れて言葉を失うというは、こういう時のことを言うのかもしれない。
「――いや、まるでマコト殿ではないようだ」
「似合ってないからか?」
「違う!」
 真が発した言葉を全力で否定してから「いや」と短く呟き、視線を合わせずに続ける。
「その――マコト殿が、そのような恰好をするのを、初めて見るが――その、すごく似合っているぞ」
 真の姿に見惚れて、顔を赤くしていたエリーヌが素直な感想を漏らす。
「惚れなおしたか?」
 真が悪戯っぽい笑みを浮かべてエリーヌに尋ねると
「うん、そうだな――――いや! 私とマコト殿はそう言う関係ではない!」
 最初はおもわず口から出てしまった肯定の言葉を、後に続ける言葉で全力否定してから、真の腕に自分の腕を巻き付け、「これを下さい」と早々に会計を済ませてしまった。
「俺が着るものだから、俺の金で買うのに」
 と真が呟くと
「気にすることは無い。その代わり――今度、私とデートするときにその服装で来てくれ」
 と言われれば財布を引っ込めざるを得なくなる。 店を出てエリーヌに別れを告げた後、「ん? 私と・・デートする時?」とエリーヌが言っていたことに疑問を持つ真であった。 首を傾げながら、リュートとの待ち合わせ場所である店の前に真が到着すると
「あ! 遅いよ君!」
 リュートが手を振って真を待っていた。
「悪い。ちょっと服を買うのにな――って――」
 リュートの姿を見て、真の思考回路が停止する。
「ん? どうしたの?」
「いや、昨日とは雰囲気が違うな――って」
 昨日は動きやすさ重視の装備品だったが、今のリュートが身に着けているのは、背中が大きく開いた真っ赤なドレスであった。
「あはは。そりゃそうだよ! だってカジノに行くんだよ! あんな恰好じゃ入れてもらえないよ!」
 確かにその通りである。そうでなければ真もタキシードなど着る必要はないのだから。 この世界のカジノは意外と面倒なんだな、と思いながらリュートを見ていると
「惚れた?」
 手を後ろに組み、真の顔を上目遣いに覗き込む。 その仕草に少し動揺するが、その動揺を隠すように真が答える。
「あぁ、昨日も思ったことだが、今のリュートはそれ以上に――綺麗だ」
「――真顔で言わないでよ! さすがに恥ずかしいよ」
 思わぬ真の反撃に、頬を赤く染めて視線を逸らし、俯きながらリュートが答える。
「ともあれ、これで今日は俺たちの勝ちだな!」
 その様子を楽しむように見て、真が言う。
「どうして?」
「勝利の女神がこんなに綺麗な俺の連れだからさ」
「――――チャラ!」
 軽口を叩き合いながら、真とリュートはカジノの中に入っていく。


 数時間後
「どうしよう――」
 下を向いて呟く赤いドレスの女性と
「右に同じく――」
 タキシード姿の男性がカジノから出てきたのである。

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