Q.最強の職業は何ですか? A.遊び人です

ノベルバユーザー225229

Q.新しい仲間がポンコツなんですが、どうしたら良いですか? A.ハーレムを作りましょう

 町外れの寂れたギルド「猫の足音」 普段なら誰もそこに足を運ぶことはしない。 しかし今日は違った。
「おはようエリーヌ。もういたのか? 早いな」
 最近常連になりつつある、真の挨拶が店内に響く。 実際は「おはよう」というほど早い時間ではない。 既に日は高く昇り、お昼間近である。 ただ、アルバイト生活が長いため、これから仕事を開始するときには、この挨拶が自然と出るのである。
「おはようマコト殿。クリス殿もおはよう」
 真の挨拶に返事をし、続けて後ろにいるクリスにも挨拶する。 昨日二人にあるクエストの依頼をし、予想以上の困難さから一時撤退をした女騎士エリーヌだ。 そしてきょうはその三人の他にもう一人
「おはようエリーヌ。それと――あなたがおじいさんに紹介された――」
 エリーヌの座っているカウンターの隣には、小柄な少女が座っていた。 年齢は恐らく真やクリスよりもかなり若く、14歳ぐらいだろうか。 肩ぐらいまである黒髪と漆黒の瞳。クリスも華奢な肢体だが目の前の少女の方は、どちらかといえば未成熟と表現したほうが正しい。 頭には特徴的な三角形の帽子と、右手に不思議な形をした杖。 ひと目で魔法使いと判断できる。 既にエリーヌとは言葉を交わしているようだが、真とクリスは初対面だ。
「初めまして。あたしテテといいます。アークメイジです」
 テテと名乗った少女は、やや緊張気味に二人に挨拶をする。
「私はクリス。アークビショップよ」
「俺は真。盗賊だ。ガル爺の紹介って聞いてるけど――」
 軽く自己紹介をし、目の前のアークメイジに真が話しかける。
「はい。祖父からお手伝いをするように言われました。今日はよろしくお願いします」
 確認の意味で質問した真だが
「祖父? っていうことはガル爺の孫?」
 衝撃の事実におもわず声が大きくなる。 知り合いを紹介すると言われていたが、まさか自分の身内を紹介するとは、思っていなかったからだ。 自分のパーティに、知り合いの親族がいるというのは、それだけで緊張するものだが
「そうなんだ? おじいさんのお孫さんなのね! 」
 しかしクリスは、ガル爺の孫ということにはなの抵抗もないようだ。 この頭の中が空っぽなところは、正直うらやましいが
「それで、今日は俺たちを手伝ってくれるってことだったけど」
「はい! 内容は詳しく聞いてませんが、お客さんの手伝いをして欲しいと頼まれました」
 どうやらガル爺は、クエストの詳細を孫に教えていないようだ。 それなりに危険なクエストなのだから、多少の情報は与えておいたほうが良いと思うのだが
「内容を聞いてないって――そこそこ危険だよ。大丈夫?」
 テテの発言を聞いて心配したのだろう。クリスが確認する。
「大丈夫です。これでもアークメイジですから。みなさんのお力になれるよう頑張ります!」
 やる気は十分のようだ。それはそれで嬉しいのだが
「えっとそれで、何か問題を抱えてるって、昨日ガル爺が言ってたけど――」
 昨日紹介をしてもらうに当たり、ガル爺は「ちょっと問題を抱えている」と言っていた。 しかし目の前の彼女からは、そんな様子はうかがい知ることができない。どういうことなのか知っておかないと、いざという時に対処できなくなる。 そう思って聞いた真だったのだが
「問題――ですか? 祖父はあたしのことをそんな風に言っていたんですね?」
 当の本人は、問題を抱えていないと思っているようだ。これは発言者本人に聞くしかない。 そう思って
「ガル爺は今どこにいるの?」
 紹介した本人が今どこにいるかを尋ねる真。
「ガルシア殿なら先ほど店を出て行かれたが――」
 ガル爺の不在をエリーヌが伝える。
「(おいおい、いくらなんでも不用心じゃないか? まぁ、ここじゃ悪さする奴もいないと思うが)そしたら、ガル爺が戻ってくるまで作戦会議といこうか!」
 昨日のグリーンスライムとの戦闘では、危うく命を落としかけた。 一体一体はそんなに強くはないが、集団で襲われると今の優先度では厳しいだろう。
「ふむ――それには私も同意だ。あれだけの数がいるとは思わなかった」
 自分で依頼しながら、想像以上の敵がいることにエリーヌ自身も驚いていた。 無策で挑むのは昨日の繰り返しになってしまう。 そう思って提案する真にエリーヌが賛成するが
「相手はグリーンスライムだけなんですよね? それでしたらあたしの魔法で一撃ですよ!」
「「「え?」」」
 そう答えたのはガル爺の孫、テテである。 自信に満ちたその答えを聞き、他の三人の声が完全にシンクロする。
「いや、でも尋常じゃない数がいるわよ」
「そうだぞ。あまり甘く見ない方が良い」
 クリスが昨日見たグリーンスライムの数について話し、エリーヌもそれに同意する。
「大丈夫です。あたしの得意な魔法は広範囲を攻撃する魔法ですから! グリーンスライムの百や二百、一撃で倒して見せますよ!」
「(なるほど、それならイケるかもしれない。しかしそうなると気になるのは、昨日ガル爺が言ってた言葉だよな)なぁ、アークメイジってやっぱり上級職だろ? 何が問題なんだ?」
 真がテテに聞こえないように、声を潜めてクリスに聞いてみる。
「そんなの分かるわけないじゃない」
 クリスも声を潜めて答える。
「確かこれから向かうところは水路でしたよね? 場所のことを考えて、発動する魔法は永久凍土魔法ニブルヘイムにする予定です。なのでなるべく温かい恰好をしてきてください」
 永久凍土というからには、敵を凍らせることを目的とした魔法なのだろう。ファンタジーの世界にある、水属性の最上級魔法であることは想像できる。
「温かい恰好――いや、このままで良いよ」
 クリスの装備している女神の衣はともかく、真の装備はと言えば、この世界に転生する前に着ていたシャツ一枚である。 温かい恰好をして来いと言われても、無一文であるため装備を揃えることは出来ない。 そのため今でも後でも何も変わることはない。 そう発言した真に
「いや、さすがにその恰好では――せめてもう一枚、防寒具のようなものが無いと、場合によっては凍死するぞ」
 エリーヌがアドバイスをする。
「とはいってもなぁ――無一文だから何も買えないんだよ」
 ここで見栄を張っても仕方がない。ない袖は振れないのだ。
「それならば報酬の前払いをしよう。それで装備を整えた方が良い」
「いいのか? まだクエストを達成していないけど」
「気にするな。私の依頼を達成してもらわないと、私自身も困るのだからな」
 依頼した仕事をクリアしてもらわなければ、自分が困るというエリーヌ。
「じゃお言葉に甘えようかな!」
 思わぬ提案に、喜々として答える真。踵を返してギルドを出ようとすると
「――それと」
 続けてエリーヌが口を開いて真を止める。 何か他に気になることでもあるのだろうか。
「マコト殿の職業は、確か盗賊だったな?」
「え? そうだけど」
「――別に構わないんだが、鞭は盗賊には向かないぞ」
 現在の主武器である鉄製の鞭は、盗賊の武器には向かないというエリーヌ。
「マジか!? そしたら武器も新しいのに変えるか――」
 エリーヌの思わぬ発言に、山で手に入れた鞭を買い替えようと決めかけた時
「マコト殿の鞭は多分ギルムタイト製だろう? それよりも破壊力の高い武器は、この街にはないぞ。それよりも職業を変更することをお勧めするが――」
 真の使っている鞭は鉄製ではなく、ギルムタイトと呼ばれる金属で出来た鞭の様だ。 説明を聞くとこの街より南にある、ギルムベルクという鉱山で僅かに採掘できる金属の様だ。 非常に硬い素材で、剣にすれば刃毀れすることはなく、防具にすれば大砲の弾すら通さないという。 そんな素材で作られた武器を序盤に入手出来たのは、もしかしたら真の幸運の所為かもしれない。 しかし
「とはいってもなぁ――確か俺がなれる職業って、盗賊以外だと遊び人しかないからなぁ――」
 そう、この世界に転生した翌日。ギルド登録と一緒に職業も決めたわけだが、その時に向いている職業が、今の盗賊と遊び人と言われたのである。 盗賊のスキルもまだ何も覚えていないのに、遊び人に転職するというのはいかがなものだろう。 頭の中に、再び自分の存在意義と自分を選んだ『運命星』とやらの人選に疑問を抱く。
「今の盗賊よりかは鞭の扱いに長けているから、遊び人でもいいのではないか? 優先度が上がれば転職も出来るし、今はクエストの達成が最優先ではないか?」
 そんな真の胸中を察したわけでは無いだろうが、エリーヌが優しい言葉を掛けてくる。
「(確かにそれもそうか。しかし――)あのギルドに行くのはさすがになぁ――」
 例のお金騒動の時以来、そのギルドには行っていない。 別に入っても問題はないのだろうが、何となく気が引けるのだ。
「それならここで転職の手続きを獲れば良いのではないですか?」
 エリーヌの横に座っていたテテが話しかけてくる。
「ここでも出来るのか?」
 テテの思わぬ提案に疑問を抱く真だが、そう言った後に、そう言えばここも一応はギルドだったな、と思い返す。
「出来ますよ! ステータスルームはちょっと古いですけど、役割はちゃんと果たしてくれる――はずです」
 最後はどこか自信なさげの発言である。 その言葉に不安を覚え
「――本当に大丈夫なのか?」
 入り口近くのステータスルームを確認して指を差し、カウンターの方を振り向いてテテに話しかける。 大丈夫だと言っていたが、やはりこの言葉を発せずにはいられないだろう。 どこからどう見ても数年は使用されていない。 傾いた扉とほこりの張り付いた壁、誰が見ても壊れていてもおかしくないと、そう判断できるだろう。
「大丈夫じゃ! ちゃんと使えるわい」
 不安をあらわにする真の背中に、突然しわがれた老人の声が掛かる。 その声にハッとして再び後ろを振り返る。
「ガル爺――」
 真に投げられた声の主であるガル爺が、店の入り口に立っていた。
「って――孫に店番やらしていなくなるって、不用心すぎやしないか?」
「ふん。もともと今は開店しておらん。おぬしら以外誰も来んわ」
 そう言えばここの開店は夕方からだったな。昨日も今日も昼からいたから気付かなかった。 真が「あぁ」と言ってそう思い出す。
「それで、転職するのか?」
 その真にガル爺が話しかける。
「――そうだな。でも遊び人かぁ――」
 自分のなれる職業のもう一つを思い返し、改めてがっくりとうなだれる真であるが
「盗賊も遊び人もそんなに変わらん」
 案内係の女性から言われたことよりも、さらに深く真にダメージを与えたのはガル爺であった。
「じゃあ――転職する。どうすればいいんだ?」
 心に受けたダメージを顔に出さずにそう言い、ガル爺に問いかける真。
「中に入ってカードを置く。あとは目の前に現れる説明書きを読めば分かる」
 それだけを伝え、ガル爺がステータスルームを指さす。
「分かった」
 真も短く答え、傾いている扉を強引に開けて中に入り、中途半端に扉を閉める。 中は前のギルドと同じようなつくりになっていたが、明らかに誰も使っていないのが分かるほど古い。 本当に動くのかどうか疑問に思いながらカードを台座に置く。 目の前の掲示板に、以前見たものと同じものが刻まれるのを確認し、続けて「転職する」と書かれている表示を発見する。
「これに触れればいいのか?」
 念のためにガル爺に確認すると
「そうじゃ――ただ、ちょっと問題があるがの」
「は?」
 ガル爺が言った時には既に真が触れた後だった。 カードの情報が書き換えられ、職業が盗賊から遊び人に変更されるのを確認し、ほっと一息つく。
「なぁ、問題ってなんだよ?」
 ステータスルームから出てきた真がガル爺に聞く。
「いや古いからの、運が悪いと転職どころじゃなく、頭の中が空っぽになることも考えられたんじゃが」
 衝撃的なガル爺の告白に
「そういうことは早く言ってくれ! 何もなかったからよかったものの――ってあれ?」
 自分のギルドカードを見て真が怪訝な顔をする。
「なぁガル爺、職業を変更するとステータスって変化するのか?」
 そのカードを見ながらガル爺に質問する。
「何を言っとる! 職業が違っても中身が同じ人間なら変わらん。変わってくるのは、その職業で優先度が上がった時じゃ」
 優先度が初期状態であるならばスタート地点は同じ。就いた職業により、各ステータスの上昇の仕方が違う、とガル爺は言っているのだが
「そしたら何で俺のステータスは変化してるんだ?」
 そう言って真が自分のカードを差し出してくる。 その差し出されたカードをガル爺が見て眉根を寄せ
「ふむ。小僧の初期数値は分からんが、何やら異常な数字がいくつか見られるな」 そう言葉を漏らす。
 真は転職を選択し、盗賊から遊び人になった。 優先度が1から4へ上昇しているのは、先日のグリーンスライムを何匹か倒した事も影響しているのだろう。 しかし、問題はそこではない。
「幸運255+、スキルポイント255+――ってなんだこれ?」
 幸運が255で最高値だったのは覚えている。 しかし、その右上に「+」マークがついているのはどういう事だろう。 更に初めて見る言葉、「スキルポイント」が示す数値も最高値である。
「スキルポイントって何だ?」
 まずはスキルポイントについてガル爺に聞く真であるが、答えはガル爺ではなくテテから返ってきた。
「スキルポイントとは、スキルを取得するのに必要なものです。例えば私の永久凍土魔法ニブルヘイムを覚えるならば、50ポイントが必要になります。強いモンスターを倒せばそれだけ多く獲得できますが、普通は一匹のモンスターで1ポイントです」
 今の説明を聞く限りでは、一つの経験値のようなものかもしれない。 しかし、それにしても数値がおかしいのではないだろうか。 真はそんなにモンスターを倒した記憶はない。この表示されている数値が壊れているのだろうか? それともそれだけ経験値が多い敵を倒したということだろうか。 いずれにしても、こんなところでLUKの高さを活かせるとは、思いもよらなかった真であるが
「でも――『+』マークは私も始めてみました。じいちゃん知ってる?」
 真の見慣れないマーク『+』は、説明をしてくれたテテも初めて見る表示のようだ。
「ふむ、昔一度だけ見たことがある――が、スキルポイントはともかく、ステータスに『+』がついとるのは初めてじゃ」
「へぇ――とりあえず悪いことじゃないんだな? とりあえず無事に遊び人に転職完了ってことか?」
「そうじゃの。懸念していたことも発生しなかったようじゃしの」
 何の問題も転職が完了したようだが、ガル爺の言葉の最後に誠が疑問を抱く。
「懸念していたこと?」
「簡単に言うとじゃ、そのルームはやはり古いからの。場合によっては戦闘能力だけでなく、頭の中が空っぽになることも考えられたんじゃが――」
「そういうことは最初に言えよ! 危なく頭の中が空っぽになるところだっただろうが!」
 ガル爺の衝撃発言に食いつく真。
「まぁよいではないか。多分、小僧の『幸運+』も良い方向に働いた結果じゃろうて」
「そういう問題じゃないだろ! 頭がパァになったらどう責任とってくれるんだよ!」
 ガル爺の、全く悪びれない様子に思わず声が大きくなる真。
「まぁまぁ良いじゃない。真に何かあったら私が何とかしてあげるから」
 その様子を見かねたのか、クリスが優しく声をかける。
「そうだぞマコト殿。過ぎたことを言っても仕方ないではないか。今は良い方向になった。それだけで十分ではないか」
 クリスに続いて真の怒りをなだめるエリーヌ。 確かにエリーヌのいうことも一理ある。 二度三度深呼吸し、気持ちを落ち着かせてから
「わかったよ――で、このスキルポイントはどうやって使えばいいんだ?」
 その場にいる全員から、スキルについての説明や使い方をレクチャーされ、大量にあるスキルポイントで鞭スキルを全て習得する。
「それじゃ、行こうかエリーヌ。クリスとテテは一時間後、ここに再集合ってことで!」
 転職する前に話していた、防寒具を揃えるべく真がエリーヌと共に店を出る。


「――で、なんでお前も一緒なんだよ?」
 防寒具を購入するため、商店街を歩く真とエリーヌ、そしてクリス。
「え? だってやっぱりマコトも男の子だし、一緒にいるのが年上の美人だと、さすがに心配になるじゃない?」
 どうやらクリスは真がエリーヌにとられないか心配してきたようだ。
「ハハ。心配しなくても、私とマコト殿はそんなことにはならないさ」
 エリーヌが軽く笑ってクリスの心配を払しょくする。 その様子を見てクリスが続けて言う。
「エリーヌは知らないだろうけど、マコトってかなり遊び人なんだよ! 今まで何人の女の子を泣かしてきたか――」
「人聞きの悪いことを言うな! お前が俺の何を知って――いや良い。それで、防寒具はどこに売ってるんだ?」
 クリスの発言に異を唱えようとした真だが、地球でのことを全部知っていると思い返し、反論しないことにする。
「確か永久凍土魔法ニブルヘイムを使用すると言っていたな。そうなると少々値は張るが、あの店で揃えよう」
 そう言ってエリーヌが指差した先には、一軒の防具屋があった。 外には革製の鎧や盾が並び、中に入ると鋼鉄製の鎧などが視界一杯に広がる。
「ほえ~」
 クリスが驚嘆の声を上げ
「すげえ品揃えだな――」
 真がそれに続く。
「多分この街一番の品揃えだと思うぞ」
 エリーヌがその二人の顔を見て、この店の評価を口にする。 この世界の武具店というのは二人とも初めて入るが、エリーヌのその評価を聞くと恐らくはかなり大きい店であることが想像できる。
「五千ルーク! こっちは七千ルーク! おいおい、半日分の給料がいっぺんに無くなるぞ――エリーヌ、別のところにしないか?」
 提示されている金額を見て、別のところにしようと提案する真だが
「気にする必要はない。それに用があるのはここじゃなくて上の階だ」
 そう言うと、店の入り口付近にある階段を上っていくエリーヌ。 その後に真とクリスが続く。


 一時間後
「あの――さすがに重装備過ぎますよ」
 店の前で待っていたテテと合流し、用水路を進む真達であるが、その額には若干の汗をかいているようである。
「そうかな? 永久凍土魔法ニブルヘイムを使用すると聞いていたから、このくらいでも足らないと私は感じているのだが――」
 そう答えたのはエリーヌである。 使用する予定の魔法が最上級の魔法と聞き、問題のないように防寒具を選び、真とクリスに買い与えたわけだが
「やっぱりそうだよな? これさっきからちょっと暑いし――」
 与えられたマントを掴んでそう言うのは真だ。
「甘く見ない方が良い。アークメイジの魔力は、それだけで一国を落とすと聞いたことがある。」
「あの、さすがにあたしの魔力はそこまで強くないですよ」
 そのエリーヌの反応に謙遜するテテである。
「いや、しかしだな――」
 心配性なのだろうか、エリーヌが腕を組みながら考える仕草をする。
「仮に凍結しちゃっても、私が何とかしてあげるわよ! あまり深く考えすぎない方が良いわよ!」
 そのエリーヌの肩を叩き、クリスが話しかける。
「ふふ。それならクリスに期待しよう」
「任せて! それと――」
 緊張感が無いのか、女子トークを始めだす女性陣である。 その様子を背中で聞きながら、短く嘆息する真である。 三人の女性陣が、和気あいあいと女子トークを始めて30分程経過したころ
「おーい! そろそろ着くぞー!」
 昨日自分達を苦しめた、グリーンスライムの大群が生息する場所に辿り着き、真が後ろの三人に声を掛ける。 真の声を聞き、さっきまで笑い声が聞こえていた三人の表情が変化する。
「次の角を曲がったら奴らがいるはずだ」
 そう言って真が鞭を構え、続けてクリスがメイス、エリーヌが両手剣を構える。 三人がお互いの顔を見合わせ、最後に今回の戦闘の要となる、アークビショップの方を振り返る。
「準備はOKですね? では、永久凍土魔法ニブルヘイム発動まで詠唱に時間がかかります。その間の時間稼ぎをお願いします」
 最上級魔法を発動するのだから、そのぐらいのハンデはあるかもしれない。
「分かった。そしたら、前衛は俺とエリーヌが担当する。クリスはサポートに回ってくれ」
 騎士であるエリーヌはともかく、クリスは女の子だ。 基本的なステータスは真の方が低いのだが、本人は「戦闘は男の仕事」と考えているようだ。 そう考えての言葉だったのだが
「マコトの方が戦闘能力は低いでしょ! あんたこそ私の後ろでサポートしなさいよ!」
 どうやらバリバリに戦う気らしい。 多少は格好つけたかった真だが、こう言われたら従わざるを得ない。
「――分かった。但し二人とも、無理はするなよ!」
 一瞬の沈黙の後、二人に注意を促して後衛に回り、エリーヌとクリスを先頭に、次の角を曲がる。 角を曲がった四人の目の前に広がる光景。 昨日と同じように、水路一杯に広がるグリーンスライムの大群。 スライムどもは四人を発見すると、ゆっくりと距離を詰めてくる。
「テテ、詠唱準備だ! 戦闘開始!」
 エリーヌが叫び、グリーンスライムの大群に向かって突撃し、クリスもそれに続く。 二人の攻撃をかいくぐってきた敵を、真が鞭を叩き込み液体状へと還元する。
「くっ! 数が多すぎる!」
 エリーヌが後退しながら応戦し
「テテ! まだなの?」
 クリスが魔法発動がまだなのかテテに問う。 クリスの言葉を聞きながら真が鞭を振るい、敵を四体まとめて倒し、テテを振り向くと
「大気に満ちる水の精霊よ、非常の手を以て我が言葉に答えよ。全てを凍らせて忘却の真実を語り、今ひとたび形ある静寂を与えよ! 全てのものに等しく静寂を」
 テテの周りを、赤く光る幾何学模様の魔法陣が包み、その光が一際大きく輝いた時
「――永久凍土魔法ニブルヘイム!」
 テテが叫び、最上級の凍結魔法が――発動しなかった。
「熱っつ!」
「え? 何これ!?」
「これは――マグマだ! 離れろ!」
 真、クリス、エリーヌが次々と叫び、目の前に現れた紅蓮の液体――マグマから逃れるべくその場を離れる。 マグマはグリーンスライムの大群を飲み込み、次々と蒸発させていく。 飲みこまれるスライムからは時折、断末魔のような悲鳴が聞こえる。 全てのスライムを蒸発させるだけでなく、せき止められていた水路の水すらも蒸発させ、四人のいる場所の温度を急上昇させた。 発動している魔法を見つめ
「――焦熱地獄魔法ムスペルヘイム
 エリーヌがぼそりと呟く。
「「え?」」
 エリーヌの呟きに、真とクリスが反応する。
焦熱地獄魔法ムスペルヘイム永久凍土魔法ニブルヘイムと対になる、最上級の融解魔法です」
 反応した二人に、テテが自分の発動した魔法について解説する。
「へぇ――じゃなくって! 永久凍土魔法ニブルヘイムじゃなかったのかよ! この格好無駄じゃねぇか!」
 予定していた魔法と正反対の魔法発動に苦情を言う真。
「えっと――またやっちゃいました」
 その真の苦情を受け、テテが申し訳なさそうに俯きながら答える。
「「「また?」」」
 そしてテテの答えを聞いて、三人の声がシンクロする。
「――えっと――あたし魔力は高いんですけど、意図した魔法を発動する技術がなくて、その――毎回違う魔法が発動しちゃうんです」
 目の前のアークメイジは、両手の人差し指をくっつけてそう呟く。
「ガル爺の言っていた『問題』ってのはこのことか――」
 テテの告白に、ガル爺が言った言葉の意味が理解できた真と
「でも、良いんじゃない? 魔法を発動するのは変わらないわけだから」
 能天気な考えのクリス。それと
「クエストが達成できればその過程は問題ではない。と私は思うが――」
 今回の戦闘を総括するエリーヌであった。
「でも、稀に味方も巻き込んでしまうんですが――」
 使用する魔法の威力が高いだけに、周囲の味方にも被害が及ぶらしい。
「(そう言えば、得意な魔法は広範囲を攻撃する魔法だったな。マズイ。この魔法使いはダメな系だ)」
 その考えが表情に現れてしまった真の顔を見て
「あの――とりあえず帰りませんか?」
 テテがクエストを完了したので帰ろうと告げる。
「そうだな! 形はどうあれ、クエストは完了したからな。ガルシア殿のところに戻ろう」
 エリーヌがそれに同意し、ギルド「猫の足音」に戻る四人であった。


「さて、それじゃクエストの報酬を――と思うのだが」
「え? だってそれの前払いでこの装備を整えたんじゃ――」
「まぁそうなんだが、どちらかというとそれは必要経費だろう?」
「まぁ、そうだけど――」
 エリーヌが報酬の支払いについて、真と話している。 水路での戦闘のために、報酬の前払いとして今の装備を手に入れた真とクリス。 結果として全く役に立たなかったわけだが、既に報酬はもらっていると答える真に対し、それはクエスト達成のための必要経費だと諭すエリーヌ。 報酬の受け取りを真が渋っていると
「それでは、別の形で報酬を支払いたい! どうかな?」
「別の形?」
 金銭ではなく別の形で報酬を支払うというエリーヌ。 そのエリーヌの提案に怪訝な表情を浮かべ、真が聞き返す。
「うむ。実は私の入れてくれるパーティを探していてな。君たちのパーティに入れてくれないだろうか?」
「良いのか? 足を引っ張ることになるぞ!」
 先ほどの戦闘ではほとんど全て、エリーヌとテテの魔法でスライムを倒したのであり、自分達は役に立たないと伝える真だが
「気にする必要はない。もとより初めから見た時に決めていた!」
 真の手を握りそう答えるエリーヌ。その頬は紅潮し、瞳は何故か潤んでいた。
「えっと――エリーヌさん?」
 突然のことに動揺する真の言葉を聞いて
「――あ、すまん」
 そう言うと手を放して膝に戻し、俯いて話を続ける。
「実は、騎士という職業上、硬さと力には自信があるが素早さに欠けていて、攻撃を仕掛ける前に躱されてしまうのだ。攻撃を当てることが出来るのは、もっぱらスライムなどの動きの遅いモンスターばかりで――素早さのあるマコト殿となら、良いバランスになるのではないかと思ったのだ」
 エリーヌの告白を聞き、そう言えばと思い出す。 先ほどの戦闘でも、すぐ脇をスライムに通り抜けられたり、見え見えの攻撃に当たったりとどこかトロい印象があった。
「(マズイ。この騎士もダメな系だ)」
 真が胸中でそう思っていると
「エリーヌさんがパーティに入るなら、あたしも入れてもらえないだろうか?」
 テテが自分も仲間に入りたいと言ってくる。
「――なんで?」
 テテの申し出を断る理由を探すため、真が聞き返す。
「いや――既に知っていると思うんですけど、あたしは魔力は強いけど技術がない。そのため今までのパーティには見捨てられて――」
 テテの話を聞き、渋い顔をしていた真の顔がさらに渋くなっているところに
「いいじゃない! 仲間は多い方が楽しいし! ね!」
 クリスが真の考えを無視して、二人をパーティ入りを了承する。
「――まぁ待て待て」
 このままではまずいと思ったのか、真が口をはさみ
「これでも俺たちは魔王討伐をマジで目指してるんだ。そんな危険な旅に、女性陣を連れて行くわけには――」
 やんわりとパーティ入りを拒否する。 しかし
「相手が最強の敵なら、それだけで行く価値がある!」
「あたしの魔法の前に跪かせてくれよう!」
 有無を言わさずにパーティに入ると言ってくる。
「――――」
 その迫力に言葉を失う真に
「いいじゃない! 考えてみればこれはハーレムよ!」
 クリスが耳元でぼそりと呟く。
「(確かに考えてみればこれはハーレムだ。おいしいかも知れない。だがその場合)――クリス。こいつらがパーティに加入したら、お前とのイベントもお預けになるからな」
 クリスにそう呟き返す。 そのつぶやきを聞き、クリスが真の横で涙を浮かべて訴えてくるが
「じゃ、これからよろしく頼む!」
 クリスの反応を全く見ず、二人のパーティ加入を了承した真である。 ここに一つのポンコツパーティが誕生し、これからの事に少しだけ頭痛がした気がする真の耳に
「緊急クエストじゃ!」
 あわただしい様子で、ガル爺が叫びながらギルドに入ってきた。

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