Q.最強の職業は何ですか? A.遊び人です

ノベルバユーザー225229

Q.クエストがないときはどうすれば良いですか? A.アルバイトをしましょう

「疲れた~~」
 一日の労働を終え、帰路に付く人々は全員同じ気持ちだろう。
「ねぇマコト! 今日の夕飯は焼き肉が良いな!」
 労働を終えた後の楽しみと言ったら食事か睡眠しかないのは、独身者なら誰もが一度は感じたはずだ。 そしてそれは、種族を超えて女神でも同じである。
「焼き肉が良いな! じゃねぇだろ。俺の金だろ! お前に指定する権利はない!」
 一週間前、ギルド登録をした際のどんちゃん騒ぎで、高額の請求をされたクリスは、ウェイトレスの提案で日雇いの労働生活を送っていた。 請求金額の支払いを終えるまで、一切の給料が出ないため、再び真に泣きついて一緒の労働をしている。 真からしてみたら巻き添えを食らった形だ。
「大体何で俺が、お前と同じ生活をしなくちゃならないんだ? あの請求はお前に対する物だろ?」
 仕事を紹介されてから一週間、生活費の全ては真の日雇い賃金で賄われていた。
「それはそうなんだけど、でも仕方ないじゃない! ギルドにクエスト依頼が、ほとんどないって言うんだから」
 一週間前にギルドに登録し、その後の出来事云々はあったが、今はギルドにクエスト依頼が殆ど無いらしい。 それがなぜかは明かされていないが、ハンターとしては致命的なダメージである。 何せ職を失うのと同じだからだ。
「――なぁ、こう言うのもなんだが、お前が俺を転生させた理由って、確か魔王を討伐する為だよな?」
「――当り前じゃない! 何を今更言ってるの?」
「じゃあなぜ今俺たちは労働者になっている?」
 そう、問題はこれである。 確かこの世界に来る前にクリスは言っていた。魔王を倒して欲しいと。
「そうよ! 忘れてたわ! マコトが魔王を倒してくれないと、私落第しちゃうじゃない!」
「忘れてんじゃねぇ! お前がそれを忘れると、俺がこの世界に転生した理由が無くなるだろ! それに約束の事もあるしな」
 真がこの世界で魔王討伐を目指す理由、それはクリスと交わした一つの約束が動機である。
「約束?」
 頬に人差し指を当て、首を傾げてクリスが尋ねる。
「もしかして、忘れてる?」
 クリスのその反応に拳に力を込め、怒りの表情を真が見せる。
「大丈夫! 覚えてるわよ! 願いを叶えてあげるってやつでしょ! 覚えてるから、その手を引っ込めて!」
 そう、真の魔王討伐のモチベーションは全てそれに向けられている。
「忘れてたのか、それともとぼけてたのか――」
 真が呟きながら拳を引っ込める。
「やだな! 覚えてるに決まってるじゃない! 私女神なのよ。私が約束を破るわけないでしょ?」
 わざとらしくアハハと笑ってクリスが答える。
「でもそうすると、あまり時間がないのも確かよね。早くしないと私の落第が決定しちゃうし――」
「ちなみにだが、その猶予はあとどのくらいあるんだ?」
 クリスに与えられた時間は、そんなにないという事は既に聞いている。 しかし、具体的な期限を真は聞いていない。 今後の予定を立てるために聞いたのだが
「えっとね、人間の世界で換算すると、大体あと二千年ぐらいかな」
「――よし、時間はたっぷりあるな」
 二千年という猶予期間を聞き、一先ず自分には何の影響も及ぼさないことを確信する真であるが
「え? だってあと二千年しかないのよ!」
「いやいや、俺は二千年も生きないし――っていうかクリスって何歳?」
 二千年を「たった」と表現したクリス。 その発言に素朴な疑問を抱いて質問する真であるが
「女性に年齢を聞いちゃダメって教わらなかった?」
 やんわりと回答を拒否するクリスである。
「いや、俺にとっては重要なことだ。場合によっては魔王討伐を諦める」
「分かった分かった! えっとね、今年で二百十六万と千七十八歳よ」
 クリスの年齢を聞くため、卑怯な手段をとった真であるが、クリスの衝撃的な告白を聞いて
「――――ババァじゃねぇか!」
 容赦ない罵倒の言葉を投げる。
「失礼ね! 女性に向かってババァって、あんたデリカシーってもんがないの?」
「いやいや、そりゃそうなるだろ! 俺の何倍生きてるんだよ!」
「あのね、私たち女神が住んでいる次元は、あなたたちとは時間の流れ方が違うのよ」
「どのくらい違うんだ?」
「おおよそだけど、十二万倍かしら」
「十二万倍!?」
 今までクリスが生きてきた、女神たちが住まう世界は、真達人間が住んでいる世界の、十二万倍の速さで時間が経過するとクリスは告げる。
「そうすると、実質的には大体十八歳ぐらいなのか?」
 瞬間的にクリスの実質的な年齢を算出し、知力が高いことの片鱗を見せる真である。
「そんな計算良く出来るわね。でも人間の感覚で言うと、大体そのぐらいになるかしら。世界を管理するんだから、このぐらいの倍率じゃないといけないの」
 確かにそうなのかもしれない。 一つの世界を管理するというのは想像が出来ないが、仮に出来たとして、時間が流れる倍率が等倍であった時、その過ごす時間は途方もないことは容易に想像できる。 一瞬下がったモチベーションを再び上昇させ、改めて魔王討伐を決心する真である。 その真に
「ちなみにだけど、どんな願いを言うつもりなの?」
 魔王を討伐した後の願いについて、クリスが質問する。
「――今はまだ秘密かな。というよりも今は、魔王討伐より重要なことがあるだろ!」
「重要なこと?」
「あとどのくらい負債が残ってるか、だよ。今日で一応今の仕事は打ち切りだから、場合によっては、別の仕事を紹介してもらわないといけないだろ?」
 モチベーションが上がったのは良いが、魔王を討伐する前に、負債を全部返済しないと何も始まらない。 ギルドに登録して既に一週間が経過している。それはすなわち、返済を始めて一週間という事でもある。
「一日当たり一万二千ルークだから、もうかなり減ってるはずじゃないのか?」
 単純に計算すれば、残る負債は三万ルーク弱のはずである。 計算通りならば、この一週間で貯めた真のヘソクリで返済が可能となる。
「確かにそのはずよね! 一度ギルドに行って確認してみましょうか!」
 そう言ってギルドへの道を歩き出すクリスであった。



「はい、残りの金額は四万三千ルークです」
 笑顔で残りの負債残高を告げるウェイトレスの言葉に
「「え?」」
 二人して疑問をぶつける。 真の計算では残りは三万ルーク弱のはずだ。 それがまだ、三分の一以上も残っていることに真は驚いていた。 一方クリスはというと
「やったわねマコト! 今週頑張れば全額返済よ!」
 約三分の二の返済が終わっていることに喜んでいた。
「いやいや、お前は計算が出来ないのか?」
 提示された残高に、疑問を持たないクリスに苦言を呈し、続けて
「あの、おかしくないですか? 一日当たりの賃金は一万二千ルークのはずですよね?そしたら三万弱になっているはずなんですけど――」
 自分の計算と、かなりの差異があることを伝える真であるが
「はい、一日当たりの返済は一万二千ルークで頂いています」
「そしたら計算が――」
「マコトさん、世の中には利息というのがあるんですよ!」
 そう言うとウェイトレスは腕を組み、真に世の中の常識を叩きつける。
「――利息って、どのくらい?」
「うちでは一日当たり4%の利息を頂いてます」
「4%!! それって複利計算ですか?」
「はい、もちろんです!」
 提示されたその数字に、驚嘆の表情をする真であるが
「何をそんなに驚いてるの? 4%って大体四千ルーク強だし、そんなに大した利率じゃないでしょ?」
 負債の元凶であるクリスは、提示された数字がどのくらいなのかわかっていないようだ。
「お前は計算出来んのか!? 一日当たり4%って言ったら、年間に直すと600万%以上の利率になるんだぞ! そんな利息で払い続けてたら、一生労働者になるぞ!」
「600万%!!」
 その通りである。 年利4%ではなく一日4%、更に複利計算となると、年間の利率は約634万%を超える利率である。 闇金融も真っ青な暴利である。 日本なら貸金業法というものがあるが、この世界にそんなもの存在するはずはない。
「残り四万三千ルークですね? そしたら今全額返済します!」
 この一週間、もらった賃金からコツコツと貯めたヘソクリと、今日受け取った賃金ですべてを返済する旨を伝え、ウェイトレスに請求された金額を叩きつけてギルドを出る真。
「マコトォありがとうぅぅ。ありがとうぅぅ」
 負債の返済が無くなったクリスが、真に泣きながら感謝を伝える。
「所持金が一気に無くなったけど、背に腹は代えられない。全く、俺のヘソクリがなかったら本当にヤバかったぞ。これに懲りたらツケで飲食するのはやめような?」
「――そうする――でも、今日はどうするの? お金ないんでしょ?」
 負債を全額返済して反省をしたクリスが、今日の食事代という次の問題を真に尋ねる。
「う~~ん――方法は二つかな」
 指を二本立てて真が言う。
「二つ?」
 真の言葉に首を傾げてから続きを促す。
「一つはクリスが体を売る――」
「却下! いきなり何を言い出すの! 私、そんなに安い女じゃないわよ! それでもう一つは?」
 クリスの反論は当然と言えば当然である。 真のゲスな発言を速攻で却下し、もう一つの方法を尋ねる。
「食事を抜く」
「――――」
 提示されたもう一つの方法に絶句し、涙目で真に訴えかける。 何とかならないのか? その瞳がそう訴えているが分かる。しかし
「他に方法はない。どっちにするかはお前が決めろ」
 そのクリスに対する真の返事は冷たかった。いや、優しいのかもしれない。 どちらの方法を採用するかをクリスに委ね、どちらを選択しても付き合うと、そう言っているのだ。
「――分かった。私、頑張る」
 意を決したようにクリスが言う。
「どっちをだ?」
「最初の方」
「本気か?」
 クリスは衝撃的な決断をした。 今日の食事代を稼ぐために、自らの体を売るという決断をしたのだ。 その決断に驚く真であるが
「だって、そうしないと今日の夕飯抜きになるんでしょ?」
「――――」
 クリスの決断は真の思考を停止させるに十分であった。 もし自分が同じ状況なら――と考えた場合、真なら間違いなく後者を選択する。 そこまでして食べたいか? と問いたくもなるが
「お前がそれでいいなら構わないが、今日を凌いだとして明日はどうする? 明後日は? 一週間後はどうする? ずっと体を売り続けるのか?」
 クリスの決断を、今だけ凌いでも仕方がないと一刀両断する真。
「ちなみに、俺は嫌だぞ。現在寝食を共にしている奴が売春婦だなんて」
 続けて嫌悪感をあらわにしてクリスにそう言い放つ。 真は遠回しにクリスの決断を撤回させようとしているのだ。 その真の心中を察したわけではないだろうが
「そしたらどうしたら良いの?」
「(やっぱりちゃんと考えていなかったな)――はぁ」
 一つ溜息をつき、クリスの瞳を真が覗き込む。
「――いくつか俺と約束をしろ! そうしたら今日は何とかしてやる。その代わり、文句は言うなよ」
「え?――でも――」
 真を見つめ返す蒼い瞳は、戸惑いを色濃く映していた。 その瞳から視線を逸らし、真が続けて言う。
「さすがに今までずっと一緒にいる奴が、体を売るって言ってるんだ。何も感じないわけないだろ! その代わりこれから俺がいう事、全て守れるなら――の話だ」
「――うん、わかった。でもマコトとはその――Hなことはしないからね」
 そう返事をしたクリスの脳天に鉄拳を一発入れ、マコトがいくつかの条件を提示する。
「――全部守れるか?」
「――大丈夫」
 真の言葉にクリスが頭をさすりながら頷いて返事をする。
「よし! それじゃ行くぞ!」
 そう言うとクリスの手を取り、いつも寝泊まりしている、馬小屋とは反対の方向に向かって道を進みだす。


 クリスの手を引いて歩くこと約十分。二人は路地裏にある、いかにも寂れた雰囲気を醸し出している、崩れた看板に『猫の足音』と書かれている一軒の酒場の前に辿り着く。
「ねぇマコト、ここどこ?」
 今までアルバイト先と馬小屋の往復だったのだろう、真に連れてこられた場所に全く心当たりがない様だ。
「前に一度親方に連れてきてもらったんだ。昔はギルドだったらしくて、結構繁盛していたらしいぜ」
 真がそういって目の前の酒場の事を紹介していると
「何を言っとる! 今でも立派なギルドじゃ! ちゃんとステータスルームも備えてあるしの」
 突然二人の後ろから老人の声が聞こえる。 振り向くとそこには、顔のところどころに皺が刻まれ、髪も髭も真っ白になった、いかにも頑固そうな老人が立っている。 その老人は真の方に視線を送ると
「何じゃお前、また来たのか?」
「店はともかく、ここの飯は安くてうまいからな! それに今日は連れがいるんだから、あまり厳しいこと言わない方が良いんじゃないか? 常連になるかもしれない奴を逃すぜ」
「一言多いわ! ――まぁ良い」
 そう言うと老人は二人の間を通り抜けて扉の前に立ち、顎で中に入るよう促す。 老人を先頭に店の中に入ろうとした時
「ねぇねぇマコト――」
 クリスが真の服の袖を掴んで呼び止める。
「ん? どうした?」
「あのおじいさん恐くない?」
 確かに第一印象があれではそう思うのも無理はない。
「ん――まぁ、俺の時もあんな感じだったからなぁ――さ、入ろうぜ」
 少し考え込む仕草をしてから真がそう答える。どうやら真が親方に連れられて、初めて来た時も同じだったようだ。 この老人――恐らく店主だろう――の態度は、誰に対しても同じなのかもしれない。 真の言葉に少し安心し、真に続いて店の中に入るクリス。 店の中は夜という事もあってかなり薄暗く、照明もところどころ切れていて、室内全体を視認するのはなかなかに困難であった。 そんな中、比較的明るいカウンター席の隅に、両手剣を立てかけた女性客が一人いるのが確認できる。 その女性客は、店内に入ってきた真達の方に一度視線をやると、再び前を向いてロックグラスを傾け始めた。 店の入口を入ってすぐ左側にはクエスト掲示板があり、その隣に古びたステータスルームがある。 恐らく何年も使われていないのだろう、壁にはほこりが張り付き、扉が傾いている。その傾き具合から、本当に中に入れるのか若干疑問が残る。
「適当に座れ!」
 老人はそう言うと、女性客のいるカウンターの中へと入っていく。
「へぇ――確かに古くて汚いけど、雰囲気をは悪くないわね」
「穴場的な感じだろ?」
 自分が見つけたわけではないのだが、なぜか真がどや顔をする。
「それじゃ俺たちもカウンターに座るか?」
 カウンター席を指さしてクリスにそう伝え、老人の目の前の席に腰を下ろす。
「取りあえずビールを二つと、あとはガル爺のお勧めで!」
「マスターと言え! ふん、少し待っとれ」
 ガル爺と呼ばれたマスターは後ろの棚から、形も大きさも揃っていないジョッキを二つ掴むと、ビールサーバーの口からビールを注ぎ
「ほれ、小僧は食えないものは無かったな? そちらのお嬢さんは何が食いたい?」
 二人の前にビールを置いて乱暴に言うが、一度しか来ていない真の好みを覚えていたり、クリスの好みを聞くあたり、気の利く性格なのかもしれない。
「あ――えっと、マコトと同じので」
 どんなメニューがあるのかすらわからないクリスは、とりあえず真と同じ料理を注文する。 クリスの注文を聞いたガル爺は、カウンターの端にあるキッチンの方へ歩いて行くと、二人の食事を作り始めた。
「それじゃ、お疲れ!」
 真がそう言って目の前のビールを掴み、乾杯するためにジョッキをクリスに向けてくる。
「あ――うん。お疲れ」
 店の雰囲気と、テンションがいつもより高い真の態度に拍子抜けしていたのか、クリスは呆気にとられた表情でジョッキを掴むと、差し出された真のジョッキに自分のを軽く打ち合わせる。 真が自分のビールに口を付け、喉を鳴らして半分近くを流し込む。
「ぷはー! やっぱり仕事終わりはこれだな! ん?」
 労働者の決め台詞を言い、クリスの方に視線を移すと、ジョッキに口を付けないで下を向いているクリスに気付く。
「どうした? クリス。あれ、ひょっとしてビールダメだった?」
「ううん。大丈夫」
 首を二、三回振ってそう言うと、自分のジョッキを傾けて一口ビールを飲み、カウンターにジョッキを置いて口を開く。
「――そう言えばまだ言ってなかったわね? その――いろいろとゴメン」
 回転式の椅子を回して真に向きなおり、頭を下げてクリスが謝罪を伝える。
「ん? 何だ急に」
 突然の謝罪に真が怪訝な表情を浮かべる。
「だって、元はと言えば全部私の所為じゃない。真がこの世界に来たのも、お金のことも全部、私の所為――」
 今までの原因が全て自分にある事を謝罪し、その後に続けて呟く。
「それなのに――こうしてくれてる。だからその――」
 最後は口だけが動いており、一体何を言ったのか、目の前の真にも聞こえなかった。
「は? 聞こえねぇよ! 何て言ったんだよ?」
 クリスのはっきりしない呟きに苛立ちを覚え、思わず声が大きくなる。
「だから――ありがとうって言ったの! 一応これでも自覚してるから。その――マコトに迷惑掛けてること。だから、その――ありがとう」
「お、おう」
 謝罪からの感謝に言葉を失い、それだけ返事をしてから再びビールに口を付ける。 ジョッキの中身を七割程飲み干してからカウンターに置き
「感謝してるのは俺も同じだ」
 視線を前に固定したまま真が口を開く。
「え?」
「確かに苦労もした。でも本来なら俺は既に死んでるはずだろ? それなのにこうして生きてる。その事には感謝してる。サンキューな」
 本来なら一週間とちょっと前、真はその短い人生を終わらせていたはずである。 それが今こうして生きている。その事に感謝していることをクリスに伝える。
「まあ、生きているっていうか、転生だから一度死んでるのと同じだけどな」
「ふふ。まあね」
 そう言って二人は笑顔を交わす。
「ねぇ、ここに来る前に私が言ったこと覚えてる?」
 視線を真に預け、首を傾けてクリスが質問する。
「ん? 安い女じゃないってことか? それとも体を売るってことか?」
 クリスと同じ方向へ首を傾け、質問に答える。
「じゃなくて――ま、良いか」
「あ? 何だよはっきりしねぇな! 言いたいことがあるなら言えよ」
 こういう質問をされて打ち切られると、誰でもこう思うだろう。それは真も同じである。 煮え切らない態度に再び苛立ちを覚えるが
「うん、あのね――あの時はああ言ったけど、優しいしその――マコトなら良いかな、って――つまりその――」
「は? どの話の事だ?」
 クリスのどの発言に対して「マコトなら良い」と言っているのか理解できず、その答えを真が聞く。
「もう! 鈍い! あんた地球では女慣れしてるんでしょ? 少しは察してよ!」
 静かにそう叫んで頬を膨らませ、上目遣いで蒼い瞳を真に向けるクリス。 その態度と言葉に意味が分かったのか、「あぁ」と呟いて真が蒼い瞳を見つめ返す。
「マコト――」
 そう呟いて瞼を半分近く閉じたクリスが、いつもより妙に艶っぽく見えるのは、アルコールを摂取しているからだけではないかも知れない。
「――クリス」
 クリスの態度に真も反応し、同じように瞼を閉じかけたその時
「――二人の世界に入っているところすまんがの、飯が出来たぞ」
 いつの間にか食事が完成していたようだ。 ガル爺の言葉に驚き、二人が距離を取って前に向き直る。 二人の前にはライスとスープ、鰆に似た白身魚のホイル焼きが用意されていた。
「おいしそう」
 目の前の料理をみてクリスが呟く。
「こんなところだが、味は良いぜ」
「ふん! 一言余計じゃ! さっさと食え!」
 ガル爺に言われ、クリスがホイル焼きを一口食べる。
「ん~~おいしい!」
 そう言って目の前の料理にしばらく舌鼓を打つ。


 料理を食べ終わり、食後の果実酒を二人が飲んでいると
「それにしても小僧、お前さん独り身だと思ったが、可愛い奥さんを連れてるじゃないか」
 突然カウンターからガル爺が衝撃的な発言をする。
「「ぶっ!」」
 思わぬガル爺の発言に、二人が含んでいた酒を思わず吹き出す。
「汚いわい! 夫婦二人で何をしとるんじゃ!」
 ガル爺が汚れたカウンターを拭きながらそう答える。
「ガル爺が変なこと言うからだろ! 俺とクリスは夫婦じゃねぇぜ」
「そうよおじいさん。私とマコトはただの――仲間よ」
 仲間と答える前に、若干の間が空いた事にガル爺が一瞬視線を送るが、大して気にした様子も見せず話を続ける。
「ま、どちらでも良いがの。ところで小僧、この前話してた件だが、話を取り付けておいてやったぞ」
「本当かガル爺!」
「マスターと言え! 話は通しておいたわい」
 真の返事に訂正を入れ、何かの話を通したと答える。
「ねぇマコト。何の話?」
 一人蚊帳の外に置かれていたクリスが質問する。
「ん? あぁ、明日から俺たち無職だろ? だから何か適当なクエストがないか、ガル爺に聞いたんだ。そしたら俺たちでも出来るクエストを探して、その依頼主に紹介してくれたってことだ」
 詳しく話を聞くと、二、三日程前、仕事終わりに道端で偶然ガル爺と出会った真は、もう少しで仕事の契約が終わることを話したらしい。 そこで、自分達にも出来るクエストがないか、探してもらったとのことだ。 しかし、そのクエストの依頼主は気難しい性格で、知り合いの紹介でないとクエストを与えられないとのことである。
「いつの間にそんなことしてたの? マコトって意外と考えてるのね」
「お前と一緒にするな! それでガル爺、いつからどこに行けば良い?」
「じゃからマスターと呼べと言っておろうが! ほれ、ここじゃ」
 そう言うとガル爺はメモ書きを一枚真に手渡し
「明後日からお願いしたいと言っておったわ」
「さすがギルドマスター、話が早えな!」
 メモ書きを受け取り、真が場所を確認する。
「失礼の無い様にせえよ! 大事なお客様じゃ」
「分かった。それで今日はいくらだ?」
 今日の食事代を払うため、財布を取り出そうとした真を、ガル爺が手で制し
「今日で無職になるんじゃろ? 報酬が入ってから払いに来れば良い。クエストが完了するまで、うちに来れば飯ぐらいは出してやる」
「良いのか?」
「ただじゃないぞ。ツケじゃからな」
 ツケという言葉に、クリスが眉根を寄せるが
「安心せい。表通りのギルドみたいに利息は取らん。飯代だけじゃ」
 クリスの胸中を先読みしてガル爺がそう言うと
「おじいさん、ありがとう!」
 クリスが安堵の表情を浮かべて胸を撫で下ろして答える。
「お嬢さんも出来たらマスターと呼んでくれ。それじゃ小僧、もう寒くなってきたから風邪ひいて、依頼人のもとに行けないってことの無い様にな」
「分かった! それじゃまた明日な!」
「おやすみなさい」
 二人が手を上げてガル爺に別れを告げ、店を後にする。
「――――あの二人じゃ。最近では珍しい若者じゃろ?」
「ふふ。そうですね。さすがグランドマスターのガルシア殿。慧眼恐れ入ります」
「明後日から頼むぞ」
「こちらこそ」
 二人が帰った後、カウンターにいた女性客がガル爺と意味深な話をしていた。


 寂れたギルド「猫の足音」の帰り道、既に日が落ちて数時間が経過していたが、満月という事もあって外は意外と明るい。 二人の周りには人の気配がなく、月明かりが二人だけを優しく包んでいた。
「ねぇマコト」
 クリスが真の前に飛び出し、視線を合わせて名前を呼ぶ。
「ん? 何だ?」
「あのね――さっきの事、だけど――」
「あ、あぁ――」
 さっきの事とは、恐らく店での事を言っているのだろう。その事を思い出したのか、気まずそうに真が視線を外す。 その様子を見たクリスが、真とは反対に視線を下に落としながら言葉を続ける。
「その――マコトなら私――」
 クリスの顔が赤くなっているのが、月明かりの元でもはっきりと浮かび上がる。 その赤くなった顔を上げ、再び真と視線を合わせ
「私――」
「やめよう。今日は二人とも飲み過ぎた」
 言葉を遮り、真がクリスの横を通り過ぎる。 通り過ぎた真の背中を振り返り
「飲み過ぎたって――ビール一杯と果実酒しか飲んでないじゃん」
 クリスがそう呟くのである。

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