Q.最強の職業は何ですか? A.遊び人です

ノベルバユーザー225229

Q.人は死んだらどうなるんですか? A.異世界に転生します

 街中の人が大通りに集まっている。 大通りの左右は簡素な商店が立ち並び、その間を騎士たちが何かを担いで行進している。 騎士たちの目的地は大通りの先にある宮殿である。 宮殿に向かう騎士たちの顔は一様に暗く、それを見送る人々の顔も沈んでいる。
「これで何人目だ?」
「10人は超えただろう」
「魔王討伐を王様に命じれて何人もの若い人が亡くなった」
「もう私たちに希望はないのだろうか?」
 大海マグメルに浮かぶ5つの大陸を十字に見立てた国、聖ゾディアック王国。この世界を蹂躙し闇の国の住人達による統治をするべく、魔王ラプラスは12人の幹部を従えて人間世界に侵攻していく。 今まで異世界より召喚され、この世界を救うべく現れた若き勇者達。 その剣は大地を割り、海を斬るという奇跡を起こした。 しかし、その奇跡の力をもってしても、ラプラス率いる幹部たちには通用せず、また今日も一人その若い命を散らしたのである。
「あーぁ――今回の人も無理かぁ――どうしようかなぁ」
 満天の星空の下、暗い部屋に佇む一人の少女。 聖ゾディアック王国で、天命が尽きた人たちの魂が集まる場所ポラリス。そのポラリスに、先ほど亡くなった人の魂が訪れ、消える。 人が死んだというのにこの少女、全く緊張感というものが感じられない。
「はぁ、それじゃ次の運命星が導く人は――」 呟き、ポラリスから見える星海の中にひときわ強い輝きを放つ星、運命星を見上げる少女。
「あれ? 運命星が――消えた!? どういうこと?」


「んじゃ、お疲れーッス!」
 軽い挨拶と共に更衣室から少年が一人出てくる。 外はだんだんと気温が低くなり、少年が更衣室を出た夜10時になると、既に吐息が白く残る。 あと半月もすれば本格的な冬の到来になるであろう11月の中旬である。 カクテルバーでのアルバイトを終え、帰宅しようとしている少年の名は一条真。今年17歳になる高校を中退した人生の敗北者である。「うぅ~寒い~。さてと、今日は誰としようかなぁ」 そう言ってジーンズのポケットからスマホを取り出し、画面を下から上にスクロールして今日のお相手を決めようとしていた。 真は去年全国でも指折りの進学校にトップの成績で入学し、その後の人生も約束されていたはずであった。つい半年前までは
「あ、もしも~し! 由衣ちゃん? 今日これから会えない? そっかぁ、無理かぁ。じゃまた今度ね~」
「あ、オレオレ! 俺今バイト終わってこれから暇なんだ! 今から会えない? 無理かぁ、じゃまたね~」
「お~い! 俺だよ~今から会える? え? 親? 俺の親は半年前に交通事故で他界したよ~! え? 気にしてないよ~! いやいや気にしてる! だから今夜慰めて~」
 そう、真は半年前に親を亡くしているのだ。 もともと母子家庭という事と一人っ子という事もあり、母親が亡くなったと聞かされた時は茫然自失になった。 唯一の親族である叔父は海外赴任であるため、引き取りに難色を示した。父方の親族はお互いに擦り付けるのがはっきりと見てわかり、そのことに嫌気が差して一人で生きていくと決めたのだ。 心にそう決めて半年後の姿がこれである。 立て続けに3人に電話を掛け、最後の女性に甘えた口調で話しかける様は遊び人のようだ。 いや、性格だけではない。見た目も半年前と一変していた。 本来の黒髪は茶色く染色され、眉毛はかなり細く、耳にはピアスの穴が両耳で合計8つ空いている。 服装も同年代のそれとは違い、全体的に派手なシャツを好み、ネックレスやブレスレットなどの光り物が両手を飾っている。 遊び人の様ではなく、遊び人だ。 毎夜過ごす女性が変わり、女性の涙を見ることも両手の数では収まりきらない。「しっかし、自分でも思うけど俺って最低だなぁ」 そう呟きながら、冷たい風が吹く中を待ち合わせ場所に向かう真であった。 電話から約15分後
「――淳ちゃん遅いなぁ」
 今夜の相手が見つかった真は、相手がなかなか来ないことにイラついていた。
「これはちょっとHなお仕置きが必要になるかなぁ」
 そう呟きながらスマホをポケットから取り出し、連絡を取ろうと横断歩道を渡りながらアプリを起動させた時だった
「危ないっ!!」
 突如危険を促す男性の声が響く。 その声を聞き、左を振り返ると一台の車が真に向かって猛スピードで走ってくる。 視界が白く染まり、次いで光が急速に失われるのが感覚でわかる。 無重力に似た状態から、自分の体重を感じる感覚へと変化してゆく。 そして、ゆっくりと目を開け
「――ここは?」
 真が目を開けるとそこは真っ暗な空間で椅子に座っていた。 頭上は星の光で埋め尽くされ、左右は何もないただの真っ暗な空間が広がるばかりだ。 その中で自分の座っている場所だけが、スポットライトに照らされたように存在していた。
「えっと、星座がこれだけはっきり見えるってことは、少なくとも東京じゃないよな……でも星座の位置から判断すると東京近郊だな。埼玉とか千葉とか……その辺りか?」
 もともと成績自体は優秀であり、見える星座の位置から、自分のいる場所のおおよその見当ぐらいは付く真であるが
「それでもこんなにはっきり見えるところは知らないなぁ……。ここってどこだろう……」
 その見当がついても、現在自分がいる場所がどこなのかははっきりと分からない。 いや、そもそもなぜここに自分がいるのか? それすらも理解できていない真である。 腕を組み、どうしてここに自分がいるのかを考え込んでいる真に
「貴方は死んだのです」
 静寂の空間を鈴の音のような女性の声が響く。 顔を上げ、声のした方に視線を移すと真の頭上からゆっくりと一人の女性が降りてくる。 年齢は真と同じくらいだろうか。 肩が大きく開いた純白の衣で全身を包み、わずかに見える肩口の肌は、その衣に勝るとも劣らないほど透き通るような白。 腰まであるかと思われる長い髪は、後ろでポニーテールにまとめられて風になびき、その髪の色は白金を溶かしたように輝く銀色。 真を見つめる瞳は愁いを帯びて潤み、星の光に反射して海の様に蒼く輝いている。 純潔という言葉をそのまま表現したような、しかし衣からはみ出す肢体は、華奢ながら美しい曲線を描き、同年代とは思えない程完成されている。 今まで幾人もの女性を知ってきた真だが、その誰よりも、否、今まで見たことのある誰よりも美しい。 彼女の素肌は溶けて消えるかと思えるほど儚く可憐で、この世の全てが触れることを恐れていると納得できる雰囲気があった。 目の前に現れた美少女にしばし見とれていると
「あの、一条真さん?」
 その女性が真に向かって、銀鈴を鳴らしたような声で話しかけてくる。
「え? あ、は、はい! 何でしょうか?」
 女性に呼ばれ、慌てて返事をする。
「自己紹介が遅れました。私は死後の世界を管理する女神クリスです。一条真さん……短い人生でしたけど、あなたは死んだのです」
 クリスと名乗った女神は、潤んだ瞳で真を見つめ、衝撃の事実を告げた。
「――は?」
「いえ、ですから死んだのです。貴方は」
 目の前にいる女神と名乗った女性は何を言っているのだ? 俺が死んだ? そしたら今ここにいる俺は何なのだ? いや、確かこの女性は「死後の世界」と言っていた気がする。そしたらやっぱり俺は死んだのか? ん? でもそしたら何でこんなに意識がはっきりしてるんだ?
「えっとぉ……かなり混乱しているようですけど、話を進めてもよろしいですか?」
 頭を抱えて混乱している真に顔を近づけ、首を傾げて続きを話そうと口を開く。
「え? おわ!」
 混乱していたため、近づいていた気配に気付かず至近距離で蒼い双眸と視線が交差し、とっさの事に慌てて距離を取る。 混乱と突然の出来事に体は硬直しているが、心臓は破裂するかと思うほど激しく鼓動していた。 手も足も動かないなかで、無理矢理に口を開き目の前の美少女に語り掛ける。
「えと、も少し待って。えっと――いくつか確認したいことがあるんだけどいいかな?」
「? 何でしょうか?」
 首を傾げ、頬に人差し指を当てて真に尋ね返して来る。 その仕草にまた心臓が高鳴り、思考が2、3秒ほど停止する。
「えっと――俺が――死んだ――って?」
 つっかえながら言葉を紡ぎ、目の前の女性に話しかける。 その真の質問に短く「はい」と答えると、いつの間にか真の目の前に現れていた椅子に腰を掛け、続けて言葉を紡ぐ。
「貴方は渋谷の交差点で、居眠り運転していたトラックに撥ねられ短い人生を終えました」
「そしたら――ここは?」
「ここは死後の世界。貴方の様に若くして亡くなられた方の内、ある・・世界の命運に関わる魂が訪れる世界です」
「死後の――世界?」
 この人は何を言っているのだろう? そんなもの存在するはずはない。科学的に考えれば、人間は死んだら意思の無いタンパク質の塊になるだけだ。 あれ? でもそう考えると、人間の魂というべきものはどうなるんだろう? いやいや、それよりも確かに俺は渋谷の交差点を歩いていたはずだ。そこからここに瞬間移動するというのは現実的にありえない。 そうなると
「えっと――本当に俺は、死んだ――のか?」
 改めて確認せざるを得ない。こうして意識もはっきりしているのに、俺が死んだなんてどうしたって信じられない。
「はい。17年という短い人生でしたが、その天寿をまっとうされました」
「そんな馬鹿な! そしたら、今ここにいる俺はどうなる? どう説明が出来るんだ?」
 先ほどと同じ答えが返ってくるが、そのことを拒否するように声を荒げて反論する。
「えっと――なんと言ったら良いかわかりませんけど、あなた方の世界でいう『魂』が今のあなたの状態です」
『魂』の状態――なるほどこれが魂というものか。先ほど頭の中に浮かんだ疑問が、今こうして解答を得る。 また一つ知識が増えたな。 いやいや、問題はそこじゃない!
「そんな急に言われても――さすがに信じられないよ。俺が死んだって証拠でもあるの?」
「――そうですね、そしたら実際に見に行きましょうか!」
 そう言うと女神と名乗った少女は立ち上がって右手を差し出し、真に立つように促す。 その手を取って立ち上がり、少女の瞳を直視してしまい、その吸い込まれそうな蒼い瞳に再び思考が停止する。 身長は大体160cmぐらいだろうか? 俺の肩よりもやや高いところに頭がある。見上げるその瞳は見るもの全てを魅了するかと思えるほど深く澄んだ蒼。 そして髪の毛からほのかにさわやかないい匂いが――
「それじゃ行きますよ!」
「え? ちょ、ちょっと待って!」
 真の静止も聞かず、クリスが右手を天にかざすと今まで真達が立っていた部屋のそこが抜け、重力に従って落下する――。 はずが
「あれ?」
 宙に浮いている。足の下を見ると、東京と思われる文明の光がたくさん見える。 しかし、真の体は一向に落下する気配がない。
「これってどういう――」
「驚きましたか? 多分これでも十分な証拠になったと思うんですけど、見せたいのは別のものです。私の手を取ってください」
 そう言うとクリスは、先ほど天にかざした右手を真に向かって伸ばしてくる。
「――――――――――――――――――――――」
「じれったいですね! こっちです!」
 頭の中が混乱で埋め尽くされ、どうしたものか迷っている真の手を強引に引き寄せると、クリスは勢いそのままに眼下の光に向かって急降下してゆく。
「ちょ、ちょ、ちょっとおおおぉぉぉ」
 真の発した言葉が木霊となって宙に消えてゆく。


「着きました! ここです」
 どんな絶叫アトラクションよりも最恐クラスの重力を味わい、到着した場所は
「ここって――渋谷?」
 先ほど待ち合わせをして、相手がなかなか現れないことにイラつきを覚えた場所だ。
「そうです。ここがあなたが亡くなられた場所です。あちらを見てください」
 そういうとクリスはある方向を指さし、続けて言う。
「あなたはあそこでトラックに撥ねられて亡くなりました。その証拠に警察官が大勢いるのが見えます。それと、あの方々は親族の方でしょうか?」
 クリスが指をさしてそう告げた場所には花が置かれ、すぐ近くに真の母親が他界してから一度も見なかった親族の顔ぶれがある。 涙を流しているように見えるが、本心では全く悲しんでいないのが分かってしまう。 恐らく今後の葬式の費用などの方に頭が回っているに違いない。
「こういうのも失礼かと思いますが、あなたは出会う人にあまり恵まれていないように思えるのですが――」
 沈鬱な表情で申し訳なさそうにクリスがそう告げると、真は彼女の方を向いて「いや」と言い、続けて
「別に気にする必要はないさ。あいつらの心根は大体把握している。人間味がない奴らだってのはもうわかり切ってたことさ。しかし、いざ目の前でそうなるとやっぱり少しは寂しく思えるが――」
 そう言う真の顔は既に諦めを浮かべた表情である。
「ともあれ俺は本当に死んだんだな。よっくわかった」
「それでは元の場所まで戻りましょう」
 クリスがそう言って天に手をかざすと、先ほどまで二人がいた真っ暗な空間に舞い戻る。
「――さてと、俺が死んだのは分かった」
 腕組みをし、続けてクリスに向かって言う。
「あんたの言ってることが嘘じゃないのもわかった。ここが死後の世界だってのも――まぁ正直認めざるを得ないと思う。ついでに俺の親族が冷血人間の集まりだってのも確認できた」
 苦笑しながらそう言い、自分を指さしてさらに言葉を続ける。
「それで、俺はこれから天国――はないな、地獄に行くのか?」
 真の今までの行いを省みると、天国よりも地獄に堕ちるのが当然だ。それを見越しての質問だったのだが
「えっとですね――」
 そう言うとクリスは指を一つ立て、クルクルと宙を描く仕草を見せるクリス。
「とりあえず地獄という場所はありません。基本的には記憶を消して魂を別の器に入れる手続きをします。あなた方の世界でいう転生というやつですね。もちろんそれも手段の一つではあるのですが――まず今いるこの場所の説明をさせてもらいたいと思います」
 そう言ってからわざとらしくコホンと咳ばらいを一つしてから
「私たちが今いるこの場所はポラリスと言い、あなたの様に若くして亡くなった方の中で、ある・・世界の命運に関わる魂が訪れる場所です。これはさっき説明しましたね?」
ある・・世界?」
「そうです。あなたの住んでいた世界はいくつかある世界の内の一つで、同じ次元には別の発展した文明があり、あなたたちと同じように暮らしているのです」
「それはつまり、3次元で――という事?」
「そういう事です! あなたたちの言う3次元世界というのは、時の流れを同じくする世界の一つなのです。別の3次元の世界というのは、この世界の根源から派生した別の運命を歩んだ世界の事です」
「――えっと、元が同じで別の運命を歩んだ世界ってことは――簡単に言うと並行世界ってやつ?」
「簡単に表現するならばそういう事です。とはいえ同じなのは、3次元であり、同じように人間が暮らしているということぐらいですが――」
「その二つが同じならほとんど同じなんじゃないのか?」
「えっとですね――」
 真の突っ込みを受け、クリスは顎に手を当てて考える仕草をとって話を続ける。
「あなたの生きていた世界では科学の力が発展しました。これは物体へ干渉する力が物理を基本とした科学力が勝っていたからです。しかし別の世界では科学の力と精神の力が共存しているのです」
「精神の――力?」
「分かりやすく表現するなら魔法の力です」
「魔法!?」
 思わず声とリアクションが大きくなる。 魔法とは現代において、廃れた学問の一つであるとされている。錬金術をはじめとして、呪文を唱えたり魔法陣を描くことにより、超常的な現象を引き起こすものだ。 しかし、現実にそんなことはありえないとされており、真の生きていた時代でも魔法というものはゲームやアニメの世界での話である。 その魔法の力が発達した世界が存在する。それだけで真を驚かせるには十分であった。
「驚くのも無理はないですけど、とりあえず話を続けますから最後まで聞いてください。それでその魔法の力と科学の力共存している世界があるわけです。ある・・世界というのはその世界の事です」
「その世界の命運に関わる――でも俺死んでるんだぜ」
 そう。魔法の力が発展した世界が存在する。死後の世界で魂が集まる場所があるというのだから、そんな世界があっても不思議ではないかもしれない。 問題は真が既に死んでいるという事だ。その世界の命運に関わると言っても、死んでいては何も出来ないわけであり、それは揺るがない事実のはずだ。
「それは心配しなくても大丈夫です。通常ならば記憶を消去して転生の手続きに移る――つまり今こうして私と話すこともないのですが、あなたの場合は2つの選択肢が与えられます」
 そう言うと指を一つ立て
「一つはほかの人たちと同じように記憶を消去して同じ世界に転生する。この場合、あなたが歩む運命はランダムに決定されます。前回は――正直なところあまり運が良かったとは言えないのですが――」
 気まずそうにそう告げ、更にもう一本指を立てて続ける。
「もう一つは今の記憶をそのままに、さっき話した科学と魔法が共存している世界に転生する。それも一つだけ特別なものを持って行ける!」
「特別なもの?」
「例えば強力な武器だったり、誰にも負けない才能だったり! あ、もちろん持って行けるものは一応カードを引いてもらう事になるんだけど――」
 クリスはそういうと目の前にカードを12枚並べ、真に見えないように差し出す。
「さぁ! どちらにしますか? って聞くまでもないですよね!? 二つ目の方ですよね? ね?」
 先ほどまでの沈鬱な表情をがらりと変化させ、瞳を輝かせて真に二つ目を勧めてくる。
「――ぶっちゃけたところ言うとかなり怪しい。仮にその世界の命運に関わる云々ってのは本当だとしても、一つ目は完全に運任せなのに対し、もう一つの話が旨すぎる。これで怪しむなっていう方が無理がある。何かあるんじゃないか?」
「え? そ、そんなことないですよ」
 真の言葉を受け、いかにも図星を突かれたという態度を見せるクリス。
「はぁ――あのさ、隠すならもう少し上手に隠しなさいよ」
「――――わかりました正直に言います」
 そう言うと俯き、一つ大きなため息を吐き出して真実を語りだす。
「その世界は先ほども言ったように科学と魔法の力が共存している世界です。魔法が使える世界と言ったらファンタジーに欠かせない存在がいますよね?」
「おい、ちょっと待て。まさかとは思うが――」
 真の頭の中をとてつもなく嫌な予感が過る。 科学も魔法もある。それはすなわちRPGのようなファンタジーの世界。つまり、真が生きてきた世界でも存在した剣や槍などの武器の他、魔法による攻撃もあるという事。 そしてRPGにはオープニングとエンディングがあり、その両方に必ず登場する『悪』の存在。 つまり
「強大な力を持った魔王がいます! あなたは魔王を倒すための勇者に選ばれ――」
「元の世界に転生します」
 一番恐れていたことがはっきりと今、目の前で、クリスと名乗る女神が言の葉を紡いだ。
「あ! ちょっと待って! お願い最後まで聞いて!」
「嫌だよ! 何で別世界に転生するのに、わざわざそんな危険なことしなくちゃいけないんだ! 死にに行くようなもんだろ? 俺は基本的に面倒なことはやらない主義なの! 記憶を消去して新しい人生歩んだ方がマシだ!」
 もともと面倒なことが嫌いな性格であり、それゆえまともな職にも就かないで毎日を過ごしていたのだ。このように考えるのも無理はないことだろう。
「待って待って! だからそのために一つ好きなものを持って行けるんだから!」
「でも、それも何が持って行けるかは運次第だろ?」
「まぁ、それはそうだけど――」
「同じ運を使うなら新しい人生に使った方が良いと思うんだが、俺の考えおかしいかな?」
 真はクリスを責めるように問い詰め、更に言葉を続ける。
「それにこのポラリスに来る魂は俺と同じように『その世界の命運』とやらに関わる奴なんだろ? わざわざ俺が魔王を討伐しなくてもいいんじゃないのか? その世界に転生させた奴が魔王を倒せばいいんじゃないのか?」
 今までの話をまとめると、真以外にもその世界に転生した者はいるはずであり、強力な武器やら才能やらを持って行ったはずである。 それならば魔王討伐も、先人たちに任せておけば良い。それなのになぜ真が行かなければならないのか。そう思って発した言葉だったのだが
「――――わかりました白状します」
 真の発言に何も言い返せなくなったクリスは、諦めた様に語りだす。
「えっと、実はここポラリスに来たのはあなたが初めてではないの」
「それはわかる」
「それで、今まで同じようにその世界の命運に関わる人を、その世界に転生させてきたんだけど、みんな魔王に殺されちゃって――てへ!」
 もじもじと語り、最後はわざと可愛らしくテヘペロとするが、その話を聞いた真の反応は、火を見るよりも明らかだ。
「テヘペロしてんじゃねぇよ! 死んでんじゃねぇか! しかも転生させた奴一人残らず! それでその世界に俺を転生させるって――『あなた死んでくださ~い』って言ってるようなもんだぞ! ――いや言ってるな! とにかく冗談じゃない!」
 起きている事が事だけに、女性が相手でも胸倉を掴み、ガクガクと前後に揺らしながら怒鳴り声をあげる真。
「ま、待って! とりあえず最後まで聞いて!」
「なんだよ?」
「確かに魔王に殺されちゃった人たちは結果的にそうなっちゃったけど、また地球に転生するようになってるから! それに、こう言うのもなんだけど、あなたで最後のチャンスかもしれないの」
 そう言うと掴まれたままの真の手に視線を落とし、続けて言う。
「実は、あなたを含めてその世界に転生させた人は『運命星』の導きなの。それがあなたを最後に選定した後に消えてしまって――だから、多分あなたで最後。あなたで救えなかったら、その世界は滅亡してしまうと、そんな感じがするの」
「それでも俺が魔王を倒せるとは限らないし、そんな保証もないぞ」
「それは分かってる。でも私が管轄してきた世界が無くなっちゃうのは――やっぱり悲しい。あなたが最後の希望かも知れないの」
 視線を落とした真の手に光る滴が一滴落ちる。
「――分かった」
「え?」
 顔を上げて真の目を見つめる蒼い瞳。その瞳にはわずかに涙がにじんで見える。
「だから、その世界に転生すればいいんだろ?」
「やってくれるの?」
「女の子に泣かれたら男は断れないさ」
「本当に? ありがとう!」
「でも、魔王を倒せるかどうかは正直わからないからな。それだけは言っておく」
「うんうん! OKOK! それじゃカードを引いて!」
 先ほど浮かべた沈鬱な表情と、こぼした涙が嘘かと思えるほどの表情の変化だ。
「やっぱり行くのやめようかなぁ」
「え? え? どうして? そんなこと言わないでぇ!」
 そう言うとまた泣きそうな顔を作るが、先ほどの涙を浮かべた表情とは色合いが若干違って見えるのは明らかだ。
「あのさ、本当に俺が最後の希望なんだよな?」
「さっき言ったじゃん!」
 唇を尖らせて今度は拗ねたような表情を作るクリス。
「そしたら一つだけと言わず、全部渡してもいいんじゃないのか?」
 真自身、傲慢なことを言っている自覚はある。だが、もし本当に真が最後の希望かも知れないのであれば、この条件でも否とは言わないはずである。 しかし
「それは別にいいんだけど――」
「ん? 何か不都合なことでもあるのか?」
 真の提案に渋い表情を作って答えづらそうな雰囲気を作るクリス。 数秒考えてから再び口を開き
「ん~~そうじゃなくて、簡単に言うと持って行けるものっていうのは、若くして死んでしまったから、あと生きられたであろうと、推測される寿命を形にしたものなのね。だから全部持って行っちゃうと、転生した世界に行った瞬間に寿命が尽きて無くなっちゃうかもしれ――」
「よし分かった一つだけ選ぼう!」
 クリスの言葉を途中で遮り、目の前に差し出されたカードを睨みつける。
「なぁ、全部持っていくことが出来ないんだったら、せめてどのカードが何を持って行けるのか教えてくれてもいいんじゃないのか?」
 全部持っていくことが出来ないのであればと思って別の提案をする真。 しかし
「えっと――実はこれ、隠しているようで隠しているわけではないの」
「どういうこと?」
「こういう事」
 そう言うとカードをひっくり返して表を見せる。 そこには何も書いていない、白紙のカードが広げられていた。
「これって――」
「実は何が持って行けるのかは私もわからないの。カードを引くと、その人に合ったものが持って行けるようになっているの。つまり、最初から答えは決まってるんだけど、私もその答えが何なのかはわからないってわけ」
 つまり、どのカードを引いたら良いか悩んでも、出てくる答えは同じである。 それなら最初から何枚もカードを揃える必要はないのではないだろうか? とそんなことを真が感じていると
「とりあえず雰囲気作りのためにたくさん用意してるんだけど――」
「雰囲気を作る意味は?」
「特にないわよ」
「殴っていいか?」
「――――――」
 怒りを訴える真に再び涙目を見せるクリス。
「分かった分かった! とりあえず何を引いても同じなんだったら悩む必要はないってことだな。じゃあとりあえず――はい!」
 目の前に広げられた白紙のカードの中から適当に一枚を選ぶ。 カードに指が触れた瞬間、白紙だったはずのカードに見たことのない紋様が浮かび上がる。
「これは――読めない」
「そうですよね! ちゃんと転生する前にその世界の言語が読めるようにしますから安心してください。それで、今手にしているそれが『持って行けるもの』です。えっと――運――ですね」
「――運?」
「RPGで言うところのLUKで、これが高いと戦闘後に宝箱を手に入れる確率が高かったり、急所攻撃を防げたり――」
「そんなのは分かってる! え? 何? 俺がその世界に持って行けるのって『運』なの? 別に必要なくない?」
 正直なところRPGでLUKが高いからと言って、本当に運が良いかどうかは分からない。RPGを進めていく上で、一番不必要なステータスと言っても過言ではないはずである。 そのLUK――運が真には必要と判断されたのだろう。 確かに生前は運が悪かった。それは真自身が一番良く分かっている。 しかし、ここでこのカードを選んでしまう――否、選ばれてしまうのは、やはり運が悪いと言えるのではないだろうか。
「――それではそのカードの力を解放しますね! それと言語能力も付与しておきますね」
 ひきつった笑みを浮かべる。 自分の世界の運命を託す最後の希望、真の引いたカードの貧弱さにあきれているのだろう。 クリスが目を閉じて祈るような仕草をすると、カードに浮かび上がった紋様は表面から剥がれ、真の周りを回りながら徐々に体に吸い込まれていく。
「――これで力の解放は終わりました」
「ねぇ、人の話聞いてる?」
「一条真さん、御武運をお祈りしています」
「おい! クリスウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥ――――」
 クリスが手を振ると、真の体が光に包まれ上空へと浮かび上がり、その速度は徐々に加速し、あっという間に星の海の中に見えなくなってしまった。
「あの人、大丈夫かしら――」
 真を見送ったクリスが一人呟く。
「それならあなたもその世界に行けばよろしいのではなくて?」
 一人残ったクリスの後ろからもう一人金髪の女神が現れる。クリスより身長が高く、大人の色香を醸し出す女神は、クリスに見下した視線を送る。
「マリン! いつからそこにいたの?」
 棘のある声色でマリンと呼んだ女神に問いかける。
「先ほどの殿方がカードを引かれる少し前からですわ。あの殿方、ずいぶん頼りがいの無いように見えましたが、大丈夫でしょうか? このままでは管理成績が万年最下位のあなたの落第が目に見えてしまいますわ」
「相変わらず癇に障る言い方するわね! でも、確かにちょっと心配かも」
「それでしたらここの管理をわたくしに任せて――」
「絶対に嫌! 私が作った世界なのよ! 何であんたなんかに!」
 二人の女神の間を剣呑な空気が流れ、まさに一触即発となった時である
「それでしたら先輩がいない間は僕が見ておきますよ!」
 マリンとさらに後ろから青い髪の新たな女神が現れる。身長はクリスより若干低く、未成熟な体躯は触れれば折れてしまいそうに思えるほど華奢である。
「エイラ! あなた、自分の世界はどうするの?」
 クリスが心配そうな視線をエイラと呼んだ女神に向ける。
「心配しなくても僕の世界は安定期に入りました! あと千年は放っておいても発展してくれます」
「さすが優秀な女神は違いますわね。無能な先輩を持つと苦労しますわね」
「クリス先輩は無能じゃありません! 僕の目標です」
「あらあら、そうでしたわね」
「エイラ、頼むわね」
「僕に任せてください!」
「じゃあ――お願いするわ。マリン、あんたもさっさと自分の世界の管理に戻りなさいよ!」
「それではわたくしは失礼するわ」
「先輩! 用意は僕がしときました!」
 そう言うとエイラはクリスに1枚の白紙のカードを差し出す。
「ありがとう、助かるわ」
 差し出されたカードを奪うように受け取ると、真が消えて行った星の海へと飛んでいく。


「儂の責任だ。儂が魔王討伐を命じたばかりに、12人の若い命が散った。一体どうすれば――」
 討伐に赴いた勇者の葬儀が終わり、第17代目ゾディアック王は暗い表情を浮かべ、一人自室で頭を抱えていた。 そこに
「国王様! 国王様!」
 一人の騎士が部屋の扉を叩き、国王を呼ぶ声が城内に響き渡る。
「何事じゃ騒々しい!」
「啓示です!」
「啓示だと? ――しかし、儂はもうこの重責に耐え切れそうにない」
「しかし、今度の大神官が受けた啓示では、今までの者とは一線を画す能力を持っているとのこと。今度こそ我々の国を救ってくれる勇者かも知れませぬ。大神官の元へお急ぎください」
「――わかった。これで最後にしよう」
 そう言って騎士に続き城内の階段を駆け上がり、大神官の部屋へと王が駆け込む。
「大神官! 啓示の内容はまことか?」
「は! 確かに今までの者とは一線を画すとの啓示を受けました」
「まことか? それでどこに現れる?」
「それは今はまだわかりませぬ」
「まことか? では、勇者のまことの名は?」
「マコトです」
「は?」


 聖ゾディアック王国の首都から北へ10kmほど登った山の中。一本の大木の根元に、頭を抱えてうずくまる少年が一人いた。
「痛ってぇ~~ったく、少しは転生させる場所を選べってんだよ!」
 世界の管理者であるクリスに、救済を嘆願された少年が舞い降りていた。否、不時着していた。 この日、聖ゾディアック王国に最後の勇者、「イチジョウ マコト」がその転生を果たしたのである。

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