【旧】魔法の世界でプログラム

北きつね

領地改革.2

--- コンラート Side ---「え?アルノルト様!今、なんとおっしゃいましたか?」「ん?領地を頼んだだけだよ。そして、乗っ取りたくなったら、ノース街ごと乗っ取っていいよ」
はぁこの人は、わかってやっているのか、解らない所が、更に質が悪い。
「そこでは無くて・・・半年近く不在になる予定なのですか?」「う~ん。最低半年位は必要だと思うけど・・・任せて大丈夫だよね」「あの・・・ですね・・・王国・・・陛下も即位されたばかりで、基盤も安定していません。ノース街は、ある程度形になっているので、大丈夫だとは思いますが、それでも、半年以上の不在は少し問題になってきます」「そうか・・・」「はい。それに、ヒルデガルト様も一緒に行かれるのですよね?」「あぁそのつもりだ・・・と、思うよ」「それなら、余計に問題になってしまうと思います」「わかった、それなら、一つ攻略する毎に、戻ってくるって事なら大丈夫か?」「・・・そのくらいなら、なんとか・・・10日前後ですよね?」「今までの感じだと、その位だと思う」「でしたら、大丈夫だと思います」
妥協しなければならない部分だろう。元々、ノース街自体が、迷宮ダンジョンの恩恵で成り立っている街であり、ノース迷宮を攻略した事で、侯爵になったと思っている領民も多い。その為に、迷宮侯爵と呼ぶ者も居る。貴族の中では、表では言わないようだが、穴掘り侯爵と蔑んでいる者も居るらしいが、アルノルト様の権勢が強いと見ると、表立って言う者はいなくなった。
今までは、公にしていなかった事だが、マナベ商会とノース=ライムバッハ家の関係を明らかにした事で、商人や男爵家などが大量に擦り寄ってきた。アルノルト様の命令で、マナベ商会は、4店舗しか作られていない。ライムバッハ辺境伯領とヘーゲルヒ辺境伯領と王都とノース街だ。貴族としては、マナベ商会を自領に招き入れたい様子だったが、全部断ってしまっている。その理由が"面倒”だったのは、もう笑い話しにもならないレベルだ。
これで、領地経営に関心がなかったり、領地を蔑ろにするような人なら、本当に乗っ取るのだが、そんな事はない。領民の事を、考えてくれている事に、間違いはない。上下水道と言っていたが、領内の家なら、水が自由に使えるようになっている。その為の魔法を開発している上に、それを無料で設置している。排水など、王国だけではなく、帝国でも、共和国でも、流れる川に垂れ流しされている。その川が、貧困街やスラム街を産んでいるのだが、殆どの街は、しょうがない事だと割り切っている。下水道と呼ばれる仕組みを、各家庭や施設に設置して、匂いがしないようにした場所を作って、一般家庭では、ある程度の数をまとめられる程度の場所を作って、そこに集められてから、さらにそこから集められるような仕組みを作られている。そして、その場所には、大きな穴が掘られていて、中に迷宮ダンジョン産の、スライムが放たれている。スライムは、汚物などを食べて、成長する。この成長したスライムは、今経過観察中だが、ある程度大きくなった所で、討伐する事になっている。そんな施設を何回か通り抜けてから、川に合流させている。その時には、汚物の匂いなどがしない綺麗な状態になっている。また、合流前の穴では、スライムではなく、魚を住まわせていて、その魚が死んだら、川への合流は行わせないようになっている。そこまで徹底しているのは、”街の中が、臭いと嫌でしょ?”の一言だった。
そして、領内の全部の家ではないが、2割程度の家だが、”風呂”がついている。その為の魔道具も設置されている。これだけで、どれほどの価値になるのか、わからないようだ。動力となる。魔力は、迷宮ダンジョンからの提供らしいので、家から取り外して、他の街で使おうとしても使えないのだが、最初の頃は、そんな盗難騒ぎも発生していた。
しかし、他の街では使えない事や、ノース街なら入手は困難でない事から、盗難騒ぎは収まった。その代わり、少し離れた場所で、この魔道具を使った詐欺事件が発生していた。それは、ノース街とは関係ない事として処理されていた。
税金の改革も行われている。最終的には、人頭税を廃止して、”消費税”の導入を行う事になっている。今、その下準備を行っている。この税は、一見すると不平等の様に思えるが、人頭税よりも理にかなっている。街の魅力が上がって、そこで”消費”が行われれば、それだけ税の収入が増えていくのだ。計算が面倒だという話があるので、今は、ノース街の学校で、算学を教えている。アルノルト様は、算数と言っていたが、足し算・引き算・掛け算・割り算を覚えてもらっている。その後に、税金の計算や行政で必要になる事を、教えている。最初の頃は、教える者も少なかったが、難民の中に商売をしていた人たちがいたので、基礎が出来ている者達に覚えてもらって、教師役をおこなってもらっている。
あとは、この内戦で大量に発生した、難民や身寄りのない子供を、ノース街で預かって、学校に通わせている。学校では、基礎を教える。その後で、専門分野を教える事になっている。詰め込み式だと言っていた。単位制と言っていたが、定期的に行われる確認テストで合格したら、別のクラスに進む事が出来る。学友を作る事を目的とした学校ではなく、手に職を持つ事を目的とした学校になっている。上位クラスでは、学校の授業の一環で、実際に作った物を売ったり、商人の所に手伝いに行ったり、宿屋を手伝ったりして、お金を稼ぐ事も許されている。
幼年学校と同じ年齢の子には、”給食”が提供される。これは、全てノース=ライムバッハ家が提供している。子供の時の食事が身体を作る・・・とか、アルノルト様が言っていて、無条件で行われる。これで、親が家の手伝いをさせるよりも、学校に行かせたほうが、得だと思わせている。宿屋や商人だけではなく、農家や漁師にも、子供を学校に出している場合には、領主から、奴隷が貸し出される事になっている。勿論、アルノルト様の持ち物を傷つけたりしたら、大変な事になるのは、皆が認識していて、問題が発生する事はない。奴隷が子供の労働力の代わりをする事になっている。子供が学校から卒業した後で、家で奴隷を買い取るようなら、その交渉にも応じると明言されている。
それでも、まだアルノルト様が今回の内乱で得た奴隷の数は大量なのだ。奴隷たちにも、働きに出て、問題を起こしたら”死罪”か、"迷宮の掃除担当”という道しか残されていない。その為に、なんとかその家に気に入られようと必死に働くのだ。残されている奴隷達は、日々迷宮ダンジョンに潜ったり、ノース大森林に入って、資源を集めてきている。中には、ゴーレムとの相性が良い者も出てきて、ナーテ殿とは違うゴーレム隊が出来上がりつつある。
学校の方でも、ゴーレムに関する授業もあり、そこで適正を見出された子供は、ゴーレム隊に配属される事になる。
アルノルト様が、どこでそんな知識を得たのか解らないが、鍛冶だけではなく、農業の道具や、漁師の道具の開発も行われている。ノース大森林にある、ドワーフの里に、発注して作らせた物を、ノース街の鍛冶職人にレプリカを作らせて、販売している。ドワーフ産の質の良い物は、マナベ商店で取り扱っている。レプリカでも十分便利なので、商人がこぞって買いたがっていたが、アルノルト様は道具に関しては、慎重で、許可をなかなか出されない。許可が出た物から、商人ギルドが刻印をして売り出す徹底ぶりだ。
”ブランド化”とか言っていて、どうせ、一度道具を出してしまえば、真似してくる者は出てくるので、そこに値段で対抗してもしょうがない。だったら、ノース街”ブランド”の道具/魔道具は、高いけど質がいいと思わせるほうがいいという事だ。その為に、徹底的な管理をおこなって、作られたレプリカでも、検査を通さないと、刻印が押されない。押されない道具は、”偽物”だと思われるような自体にもなってきた。
アルノルト様が、迷宮ダンジョン探索に出かけてから、7日が経過した。攻略に取り掛かる前に、連絡を頂いてから、5日が経過している。早ければ、そろそろ攻略の知らせが届くかもしれない。
私が執務室で、ノース=ライムバッハ家の状態やノース街の事。城塞砦の事や、城壁の進行具合の書類に目を通していると、ドアがノックされた。
「コンラート様。今、お時間よろしいですか?」
妻のヨハナが面会を求めてきた。ヨハナとは、身分違いであった事から、ヘーゲルヒ街に居る時には、愛瀬の時も隠れていたが、アルノルト様に降った事で、その制約が外れて、晴れて妻に迎える事が出来た。実は、ノース街に来る事が決まった時に、アルノルト様から、借金の返済を”ちゃら”にさせて、奴隷身分からも開放された。その条件が、”俺に仕えろ”だったのだ。元々、そのつもりだったので、承諾を行うと、褒美だと言って、ヨハナを妻に迎える承諾をしてくれた。その上で、父であるヘーゲルヒ辺境伯との関係修復や今後の事も話された。おれは、もう別の話だ。
「あぁいいよ。どうした?」「はい。侯爵閣下から頂いた、チョコレートを使って、お菓子を作ってみたのですが・・・」「ありがとう。ちょうど一息入れようと思っていた所だよ」
アルノルト様は、道具だけではなく、食についてもいろいろ考えていらっしゃる
まずは、デザートだと言って、ノース大森林からエルフ族が持ってきた、カカオなる身を使った、チョコレートなる物を開発された。ソレだけではなく、”白根”と呼ばれていて、馬の餌になっていた、白くて太い根の植物を大量に買われて、煮立ったお湯に細かく刻んだ”白根”を放り込んで、石灰を入れたりして、何やら作っていたと思ったら、砂糖を生成されていた。南方で作られている砂糖は、王都では貴重な甘みとして、王家や大貴族でも時々しか入手できなかった。それを、馬の餌から作ってしまったのだ。それに、先程のチョコレートに混ぜ込んで作った菓子は、甘みと苦味がミックスして、すぐに評判になった。今、ヨハナが持ってきたものは、そのチョコレートを練り込んだパンだ。パンも、殆どの地域では、黒くて硬い物だが、ノース街では、白くて柔らかいパンが主流になっている。発酵させる事で、柔らかくなるとは言っていたが、原理は解らないが、作り方は、アルノルト様が公開しているので、作る事が出来る。一番肝になるであろう。酵母菌の作り方は、秘匿としていたが、教えてほしければ教えると笑っていた。
パンの話だけでも、もっともっとあるが、そのおしいいパンに菓子であるチョコレートを練り込んだ物を、作って欲しいと言われて、ヨハナやノース城の料理人達が、日夜研究していて、私もそのご相伴に預かる事があるのだ。
「ほぉこれが完成品?」「・・・いえ、まだ、侯爵閣下にはお出ししていません。十分美味しいとは思いますが、どうでしょうか?」
今までも何度か食べているが、本当にいつも感心する位に美味しいが、アルノルト様の要求が高いのか、合格点がもらえない。合格点がもらえなければ、客人や晩餐に出す事が出来ないのだ。
出されたパンを手に持って、半分にわろうとしたら・・・「あっ割らないで、そのまま食べて下さい」「ほぉ」
何やら仕掛けが有るようだ。出されたパンにそのままかぶりつく。
ほぉぉそういう事かパンの部分は、甘い感じが強い。何か、果物を練り込んでいるのかも知れない。二口目を食べると、その意味が解った。中には、少し溶けているチョコレートが出てきたのだ。甘みを抑えた物になっていて、パンの甘みとあいまって、すごく美味しい。
「どうでしょうか?」「うん!すごく美味しいよ。中のチョコレートの甘みを抑えているから、食事として出されてもいいね」「はい!良かったです。侯爵閣下に、前にお出ししたパンは、甘すぎて、"デザートになってしまう"と言われたので・・・」「あぁそうなのだね。前のも美味しかったけどな」「・・・ありがとうございます。でも、合格にはならなかったので・・・」「そうか・・・あっそうか、これもまだ少し改良するのだろう?」「はい。どうしても、最初の一口では、チョコレートまでいかないので、それを改良する予定です」「うん。楽しみにしているよ」
それだけいって、ヨハナは下がっていった。入れ替わりで侍女が、珈琲を持ってきた。これも、アルノルト様が気に入っている飲み物だ。今までは、砂糖が入手出来ない事もある、なかなか飲みにくい物だったが、アルノルト様が、砂糖を簡単に入手出来る環境を構築してくれたことから、珈琲に入れて飲むようになった。
そんな、いろいろな改革や技術革新と呼ぶべき事をおこなった。我らが主の、アルノルト・フォン・ノース・ライムバッハ侯爵閣下の問題点は、好きな事にしか興味がない事だ。あと、わざわざ大変な現場に乗り込んで解決したがる事だ。
今頃、我らが敬愛する侯爵閣下は、迷宮ダンジョン攻略を行っているのだろう。本当に、御自ら動かなくても、ゴーレム隊を動かして攻略すればいいのにとは思わないでもない。確かに、ノース街は、軌道に載っているし、ここまで出来上がった街なら誰が代官でも物事は上手く運べるだろう。ようするに、私が居なくなっても、誰でも代わりは務まるだろう。だが、それもトップである。アルノルト様が、居るからこそだという事を、認識にしてほしい。
無茶しないで欲しいけど、それがアルノルト様なのだろう。

「【旧】魔法の世界でプログラム」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く