【旧】魔法の世界でプログラム

北きつね

ヒルデガルドの準備

--- ライムバッハ領 Side ---「クヌート殿」「あぁルステオさん」
私がここに来てから、何度も顔を合わせている。ライムバッハ家の家令である。ルステオさんが、書類を持ってきてくれている。
今の私の身分は、少し微妙なのかもしれない。以前は、学校で教鞭を取っていたが、今は、ライムバッハ家にお世話になっている。
ここの人たちは、本当に気持ちがいい。それだけではなく、街にも活気がある。全部、ライムバッハ家が統治をしっかりしているからなのだろう。
先代があんな事になって、一時的には混乱もしたが、今では、落ち着いている。
王都での内乱が発生したという知らせが届いてから、定期的に、"迷宮ダンジョン"経由で、情報が送られてくる。この書類・・・・アルノルト君は、”しんぶん”と呼んでいたが、全部が真実ではないだろうが、それでも、情報源としてはありがたい。
前回の”しんぶん”では、王都の周りを守るように作られている、城塞街を、アルノルト君率いる”解放軍”が、攻略したと伝えられている。領内には、文字が読めない者もまだ多く、”しんぶん”では、情報伝達が出来ない。アルノルト君にそう伝えたら、領内の神殿で、読み聞かせをやって欲しいと言われた。教会勢力が良いかもしないかも知れないが、それでも、やらないよりは良いだろうと思い。神殿に問題があるか、聞きに行ったら、一切の問題も無く、許可された。神殿としても、加護の時だけではなく、常に人が来るようになって欲しいようで、”読み聞かせ”の様な行為は歓迎なのだと話していた。ルステオさんにお願いして、教会にも打診したが、”しんぶん”の内容が偏っているという判断で、許可が降りなかった。
話しがそれてしまったが、私達のところには、"しんぶん”で情報を知る前に、アルノルト君やギルベルト君から連絡が入る事が多い。今回も、その事で、ルステオさんが各所に連絡をしている。新たに、見つかった、”けいたいでんわ”がなければ、これほど早く物事が進まなかったであろう。
主要な領主や商人の手元に渡っている。勿論、条件として、ライムバッハ家に忠誠を誓っている事があるが、アルノルト君は別にそんな事を気にしないと言っていた。反乱の相談に使われたらどうするのか?その答えも明確だ。反乱するような連中は、”けいたいでんわ”が無くても反乱する。それなら、反乱出来ないような行政を行えばいい。と、すごくまっとうな事を言われてしまった。そして、”もし心配なら、携帯電話の会話は、全てアルノルトが聞ける”とでも言っておいて下さい。これなら、ライムバッハ辺境伯の評判は落ちないし、そんな物で反乱の相談をしようとは思わないでしょ。と、微妙な事を言い出していたが、それに乗っかる形で運営をおこなってみた。
これが便利でしょうがない。今までは、文でやり取りを数回行い。その間に、日程調整を行う。これだけでも、人数が多くなれば、大ごとになる。通常では、まずは1ヶ月位の調整期間を、領内で過ごしてもらいつつ、条件などを、すりあわせてから、一旦領内に持ち帰ってもらって、再度集まる事になる。移動や滞在だけでも、金が必要な上に、膨大な無駄な時間が必要になってしまう。それらが、ほとんどとは言わないが、ある程度の解決するのが”けいたいでんわ”という魔道具だ。領主カール辺境伯の名代として、私が領内の貴族や商人と交渉を行う。”けいたいでんわ”だけでも十分な利益供与になっているのだろう、かなり従順な態度を示している。それと、情報の伝達が早くなれば、それだけ領内で不足している物のやり取りが出来る事につながる。
そして、”しんぶん”を領内の街々に配って回れば、戦況を把握する事も出来る。各貴族や商人は、独自のルートで情報を得ているのだろうが、領民はそういうわけではない。その為に、最初の頃はそうでもなかった、神殿での読み聞かせも、回を追う毎に人が増えてきている。
王城の様子を伝えられたが、まだ暫くは、混乱が続くだろう事は想像できる。
「ルステオさん」「なんでしょうか?」「カール様は?」「まだお休みです」「そうですか・・・。解りました、後で、街に行きたいので、その時にカール様もご一緒させて下さい」
へんな言い回しだが、しょうがない。カール辺境伯は、まだ自分での長距離移動が出来ない幼児なのだ。でも、領民と触れ合うのは必要な事だろうと思っている。ルステオさん達も、なるべく街に連れ出している。そうする事で、私達も領内の様子が把握出来るようになっている。
今、ライムバッハ家やライムバッハ領は、微妙な立場になっている。カール辺境伯は、特例で認められているが、自治が出来るとわけではない。偽王と呼ばれている、王弟殿下がしっかりとした覇権を握られたりしたら、この領は取り壊しになるのは目に見えている。偽王がそれをやるわけではなく、偽王に寄って、宰相に命じられた、バルリング辺境伯がそうするのだろう。敵対する意思は無いのだが、潜在的な”敵”とみなされるのはわかりきっている。
なんとしても、ユリウス殿下やアルノルト君には、偽王を討伐して欲しい。その先の話がまだアルのだろうが・・・。
「クヌート殿。どう致しましょうか?侍女から、カール様ならいつでも大丈夫という連絡が来ています」「そうですか。解りました、ルステオさんはどうしますか?今日は、マナベ商会で商品を買ってから、孤児院に向かおうかと思っています。そこで、未来のライムバッハ辺境伯の腹心を見つけたいと思うのですがどうでしょうか?」「いいですね。是非、お供致します」
できれば、カール様には、私やルステオさんとは違う、もっともっと臣民に近い視線で、物事を考えられる腹心を持って欲しい。そして、できれば、ユリウス殿下とアルノルト君の様な、臣下ではなく”友”を作って欲しい。カール様は、困難なレールの上に乗せられてしまっている。それは間違いない。王国の三大・・辺境伯の一つを幼くして名乗っている。今行われている、内乱が収まれば、ユリウス陛下・・の誕生は間違いないだろう。偽王サイドに乗っかった貴族の大半が潰されるであろう事は、間違いなく行われるであろう。その後に、発生する事を考えると頭が痛くなりそうだ。
これから、安穏とした暮らしは難しいかもしれないが、停滞し廃退していくよりはいいだろう。騒がしくは有るだろうが・・・。
--- ヒルデガルド Side ---ライムバッハ領に居る、アルノルト様の先生から連絡を頂いた。支援物資の話でしたが、現在のライムバッハ領への支援は必要ないという事だ。アルノルト様とお兄様にも、その旨を伝えた。アルノルト様は、素直に喜んでいらしたが、お兄様は、無理させているのではないかと心配されていた。
そう思うのなら、さっさと豚と猿を排除して、自分が"至尊の冠"をかぶればいいのに・・・。
そんな報告が有ってから数日。膠着状態が続いていた、王都包囲作戦に動きが有ったようだ。
アルノルト様から、数日中に迎えに行く、いつでも出られる用意をしておいて欲しいと言われた。やっとなのか、もうなのか・・・いろんな事が考えられる。
お父様やお祖父様の仇を討つ。
後、あの気持ち悪い豚をさっさと殺してしまいたい。
ノース街の難民地区に住んでいる者達にも伝えられた。情報は、常に伝えている為に、皆それぞれの思いを持っているのだろう。ノース街に定住したいと考え始めている者も多いと聞く。
一度は、お兄様が難民地区に赴いて、深々と頭を下げた。そして、王都を取り返したあかつきには、ノース街に負けない街にすると誓われていた。
偽王は、いろんな事をしてくれた。ただひとつだけ功績をあげるとしたら、王都や王国に巣食っていた、既得権益で守られていた柵を潰してくれた事だ。そして、お兄様の治世に邪魔になる、貴族や商人や軍人達を道連れに死んでくれる事だ。多くの者達が死ぬことになるだろう。私の手も、お兄様の手も、多くの血で汚れるのだろう。でも、私達がそれを行わないと、次の世代が迷惑するだろう。
敢えて、私達は大量の貴族や商人・・・"多くの者達を粛清した王族"として歴史に名前が残るだろう。
「ヒルダ!」「なんでしょうか?陛下・・」「・・・おまえな・・・」「クスス。陛下・・も、ノース・・子爵・・夫人・・も、いい加減にしてくださいね。」
そうなのだ、ライムバッハ辺境伯との区別を付けるために、アルノルト様が、街に付けた名前での呼称が一般的になりつつある。
私は、まだ降嫁する予定の婚約者なので、正式には、ライムバッハ性を名乗られない。豚と猿の排除が終われば、婚姻の儀が執り行わられる。
その時に、ヒルデガルド・アーベントロート・フォン・ノース・ライムバッハが、正式な名前になる。分家扱いになってしまうが、アルノルト様は気にしないだろう。
「なんでしょうか?クリスティーネ妃」「そうきますか・・・。ユリウス様。ヒルダ。アルノルト様の話は聞いていますよね?」
アルノルト様のお話は、王都を不法占拠している豚を退治する話だ。
「あぁギルを後方に下がらせたところまで聞いている」「そうですか?ヒルダは?」「同じです。アルノルト様からは、いつでも出られるように準備しておいて欲しいと言われています」「そうですね。そのアルノルト様から、”西門と東門が、内部崩壊し始めているから、明日中央の門を開かせる”と、連絡がありました」「そうか・・・わかった。それで手順は?」「お兄様。何の手順ですか?アルノルト様が、ゲートで迎えに来られて、そのまま、中央門を通って、偽王が居る王城に向かうですよね?クリス姉様」「そうね。そこまでは、アルノルト様が手配してくれるでしょう。その後は、私とユリウス様とヒルダでやらなければならない事ですわよね?ハンスとギードを手伝わせるとしても、ギルベルト様やヘーゲルヒ辺境伯・・・アルノルト様を手伝わせては駄目ですからね」
そうだった。ギードさんやハンスさんは、お兄様の部下扱いだから問題ないが、アルノルト様やギルベルト様に王城に入ってもらうわけには行かないのだ。まして、ヘーゲルヒ辺境伯は絶対にダメだ。
「クスクス。ヒルダ。そんなに心配しなくていいわよ」「へ?」
顔に出てしまいましたか?
「アルノルト様から、ナーテリンデを、ヒルダに付けると連絡が来ています。ヒルダは、ゴーレム隊と一緒に王城に入ってちょうだい」「え?いいのですか?クリス姉様は?」「私は、ユリウス陛下・・に守ってもらいます」「(俺がか?そんな必要ないとおもうけどな)」「(お兄様。そう思っても、口に出さないで下さい)」「(あぁすまん)」
「お二人とも、何かいいたいのでしたら、はっきりとおっしゃって下さい」「なんでもない。な、ヒルダ」「えぇお兄様」
それから、アルノルト様が連れてこられた、エルフ族の方や、護衛の人たちと話をして、何人で行くのがいいのかを決めていく。
この後で、難民の皆さんにも挨拶をしていく事にした。
挨拶に赴いた時に、同行できないかというお願いがあった。最初は、危険だから待っていて欲しいと伝えた、それでも、引き下がらなかったので、紛争中である事から、命の保証は出来ない旨を伝えた。それでも、大丈夫なら代表者を数名に絞って、一緒に行く事になった。
街の様子を自分の目で、確かめたいという気持ちは解らないでもない。お兄様が折れる形で、落ち着いた。
お兄様とクリス姉様は、執務室に戻られると言ったので、私は神殿に顔を出して帰る事にした
「今日は、アンなのね?」「えぇそうですね。ねぇちーは、いいの?」「解らないけど、私は、それが一番だと思っている」「そう・・・わかった」「ねぇお願い。私が知らない。真兄の事を教えて!」「もちろんよ。どんな事が好きかなんかもね」「おね・・がい。もっと、もっと、もっと、いろいろ・・・ねぇ」「駄目だよ。ちーは泣き虫だな」「だって・・・(グスン)」「いいよ。解っている。でもね。もう決めたことだよ。ユリアンネも、ラウラも、カウラも・・・ね。ルトだけは、ちょっとだけ違うみたいだけどね」「そう・・・だね。うん。僕も・・・もう、泣かない」「うん。そうして!それで、真一の事の何が知りたいの?」「えぇーとね・・・高校の時の話かな・・・まずは!」「了解!あれはね・・・」
神殿で一晩過ごして、翌朝自分の部屋に戻ったら、クリス姉様がいらした「ヒルダ。アルノルト様がもうすぐ来られます。準備は大丈夫ですか?」
そう言われて、慌てて、湯浴みをおこなって、着替えをした。動きやすい格好だけど、王族として恥ずかしくない格好になった
廊下に出ると、ナーテリンデが待っていた「ヒルダ姉ちゃん。行こう!」
どこか散歩にでも出かけるような気楽な感じで、誘われてしまった。今から、死地に向かうのかも知れないのに・・・何故か、私の心は軽くなった。そして、「そうね。豚と猿を追い出して、皆でパーティしましょう」「うん!」
ナーテリンデと笑いながら、お兄様とクリス姉様が待つ部屋に向かった

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