【旧】魔法の世界でプログラム

北きつね

カルラの決意

--- カルラ Side ---ヘーゲルヒのマナベ商会にやってきた。アル様が使う事になっている、執務室だと話していたのを思い出した。
「ライムバッハ卿。どうする?妹達を先にするか?それとも、先に状況確認をするか?」「ザシャとディアナに会おう。そこから始めないと、進められない」「わかった。エルフ商会の方に居る」
これで、解ってしまった。ザシャとディアナはすでに死んでしまっている。立場的な事を言えば、"呼びに行く”が正しいだろう。それを、アル様が移動する事は、基本的におかしい。死んでいないまでも、重症で動けないのかも知れないが、それなら、先に理由を説明するだろう。
アル様の表情から、すでに解っているようにも取れる。
ロルフ殿を先頭に、一度屋敷を出て、違う建物に向かう。街の中は戦闘の後だろうか、破壊された場所も見受けられる。それでも、魔物は駆逐できているようだ。
「旦那様!」「ん?」「えぇ~と」「あっマナベ商会のヘーゲルヒ支店で受付の責任者をやっています。デニスといいます」「あっそうなの。それで?」「はい。アルノルト・フォン・ライムバッハ子爵が、ヘーゲルヒ街に来たら、渡して欲しいと、ヘーゲルヒ辺境伯から預かっております」「え?いつ?」「昨日です」「そう、ありがとう」
アル様は、そう言って書簡を受け取って、僕に渡してきた。
「アル様」「あぁ持っていてくれ」「え?あっはい。いいのですか?」「俺が持って、ステータス袋に仕舞ったら、読まない可能性が高い。でも、カルラに渡しておけば、必ず読まないとならないだろう?」「・・・そうですね。僕もいつまでも持っていたくないですからね」「だろう?」
ロルフ殿が、僕達のやり取りを見ている。
「おい。どうする?先に読むか?」「いや、いい。先に、ザシャとディアナと話をする」「そうか、もう一人同席させるがいいか?」「あぁロルフが決めてくれ」「ありがとう。助かるよ」
それから、もう一つの屋敷に入って、二階に上がった。
「この部屋だ。すまないが、入るのはライムバッハ卿だけにして欲しい」「あぁ解った。カルラ。すまないけど、ここで待っていてくれ」「・・・はい」「あぁそれから、これを持っていてくれ、何かあったら、ヒルダかクリスに連絡してくれ」「・・・解りました」
渡されたのは、アル様が普段使っている、携帯電話だ。皆に渡している形と少し違う。特別なものなのだろうか?
扉を開けて、中に入る。ひんやりした空気が流れてくる。暗くて、中は解らないが、その冷たい空気が、全てを物語っている。
”バタン”と、扉が閉じる音だけが、廊下に響いた。
それから、どのくらい時間が立ったのだろうか・・・30分・・・。いや・・・1時間位たっただろうか?
中から聞こえてきた、怒号や何かを叩く音が聞こえなくなった。ロルフ殿と二人で、廊下で待ち続ける、差し込んできた光が傾き始めた頃。一人の男性が部屋から出てきた。ロルフ殿と何か話してから、僕にも一礼して、屋敷の方に戻っていく。
「ロルフ殿?」「あぁザシャとディアナの・・・・最後の知らせを、持ってきた奴だ。本人の頼みで、アルノルト・フォン・ライムバッハに、渡してもらった。本人は、殺される覚悟をしていたようだが、そうならなかったようだな」「ロルフ殿。それでは、ザシャ殿とディアナ殿は?」「あぁそうだ。殺された。あの者の言っている事が本当なら、妖精の涙フェアリーティアのクラーラとかいう奴だ」「クラーラ?どっかで聞いた・・」「そうだろうな。そう言えば、カルラ殿は、いつから、アルノルト・フォン・ライムバッハについているのだ?」「え?僕が、アル様の事を知ったのは、この街の騒ぎのときです。実際にこうして従者の様な状態になったのは、エルブンガルドに向かう寸前位です」「そうか・・・それじゃ知らなくてもしょうがないよな」
「クラーラは、アルノルト・フォン・ライムバッハの父と母と妹と乳母と従者だったラウラとカウラを殺した、妖精の涙フェアリーティアの一人らしい。そして、アルノルト・フォン・ライムバッハが一番憎んでいる相手だろう」「え?」「知らないようだな。俺から、話していいのかわからんが・・・」「ロルフ殿から聞いた事は内緒にします。教えてください」「そうだな。ザシャも知っていた話だし、アルノルト・フォン・ライムバッハも隠していないようだからな・・・・クラーラは、エルマール・フォン・ライムバッハ辺境伯の食客として、ライムバッハ家に逗留していて、アルノルト・フォン・ライムバッハに、剣や戦い方の基礎を教えたそうだ」「え?師匠みたいな立場だった人・・・って事ですか?」「・・・そうなる。話を聞いていると、それだけではなかった様な感じだけどな」「・・・アル様」
扉をじっと見つめて、淡々と語ってくれる、ロルフ殿を横目で見ながら、僕もドアの中で何が行われているのか、どんな状況なのか・・・心が針で突かれているような痛みを感じる。僕には想像もできない。慕っていた人が、父と母と乳母を殺した。どういった事情があったのかは解らない。
僕とロルフ殿は、扉からアル様が出て来るのをじっと待つ事しかできなかった。

何時間、そうしていただろか・・・。僕が渡されている携帯電話が鳴った。アル様のではなく、僕が渡されている物が鳴ったのだ。表示されている名前を見ると、ヒルデガルドと出ている。ヒルダ様だ。ロルフ殿に目配せをすると、頷いてくれた。少し離れた所の部屋に案内された。
そこで電話に出る「奥様。お待たせしました。カルラです」「カルラ。アルノルト様は・・・」「・・・・電話を僕に渡されて、部屋に入っています」「そう・・・。ザシャとディアナが」「え?なぜ・・・」「アルノルト様と、貴女が助けに向かって、数日経っても連絡がないという事は・・・そういう事なのでしょ?」「・・・わかりません。僕は、まだお二人にお会いしていません」「そう・・・状況だけ教えて」「はい」
僕は、奥様に、エルブンガルドについてからの事を説明した。そして、半日近く、アルノルト様が出てこない事と、ザシャ殿とディアナ殿の最後を見たという人の事を伝えた。
「そう・・・わかった。こっちの状況も教えておくわね。多分、後半日したら、アルノルト様が出てこられると思う。その時に、こちらの情報がないと困るでしょう」「わかりました。精一杯覚えます」「うん。そうね。(え?ちょっと、テディどういう事?そんな事が出来るのなら、早く言ってよ!)」「・・・・」
なんか、向こうで話が違っているらしい。
「王都の様子は、近日中にわかると思うけど、それ以外の状況をわかっている限り、アルノルト様の携帯に情報を送信しておきます」「え?それは・・・」「アルノルト様の携帯だけ特殊な物で、テディから情報が送る事が出来るらしいのよ」「よくわかりませんが、わかりました。アルノルト様に渡せばいいのですね」「えぇそう言っているわ(え?なに?あぁそう言えばいいのね)」「・・・」「あのね。テディが、携帯電話をアルノルト様に渡す時に、”メールが読めなかったら、ノース迷宮の32盤端末に入ってくれれば読める”と、伝えて欲しいそうよ」「わかりました」「・・・うん。カルラ。アルノルト様をお願いね」「はい。奥様」
電話を切って、ロルフ殿の所に戻る。「何だったのだ?」「ヒルダ奥様からで、アルノルト様に、王都の状況を知らせるという連絡でした」「そうか、それなら、俺が改めて、アルノルト・フォン・ライムバッハに説明する必要はないな」「えぇそうです。ロルフ殿。一つお聞きしていいですか?」「なんだ?」「なんで、ロルフ殿も、ヒルダ奥様も、アルノルト様の現状を聞いて・・・それでも、アルノルト様が戻られる・・・と、思っているのですか?」「お前は、そう思わないのか?」「僕は・・・わかりません。僕は、父親と母親と兄ちゃんを目の前で殺されました。僕を逃がすためです。捕えられていた所を、アルノルト様に助けてもらいました」「・・・」「僕の家族を殺した人たちは、全員、アルノルト様達が捕えて、裁きを受けて、死刑になりました」「・・・」「でも、僕の家族は、誰一人帰ってきませんでした。当たり前ですよね。殺されたのですから・・・アルノルト様は、僕と同じような境遇の子全員を助けてくれました」「・・・」「そして、僕の事を家族だと言ってくれました。そのアルノルト様が・・・あの、優しく笑ってくれる、悪いことを思いついた時に、にやりと笑う・・・・」「あぁそうだな」「はい。仲間を・・・自分の危険を顧みないで救い出す・・・あのアルノルト様が・・・。あんな声で、あんな叫びで、あんな・・・」「そうだな。だから、俺は、アルノルト・フォン・ライムバッハは、戻ってくると思っている。ザシャだけじゃなく、いろんな人たちの"英雄”である奴が、こんな所で折れてはダメだ。復讐だろうと、私怨だろうと、前を向いて立ち上がるべきだ。少なくても、俺は、ザシャが惚れた相手が、こんな事で、終わるようなら、俺が奴の首を跳ね飛ばす。多分、ヒルデガルド嬢も、ユリアンネ嬢も同じ事を思うのではないか?」「・・・」「カウラ」「はい。解りました・・・僕には、その覚悟がありません。僕は、アルノルト様が正しいとだけ思っていました」「・・・それは違うな。奴も、お前と同じ人間だ。奴も悲しむし、悩む。やりたくない事も沢山あるだろう。でも、俺は・・・俺達がそれを許さない」「はい。そうですね。僕のやりたい事が解りました。アルノルト様と一緒に居る事ではなく、アルノルト様を利用して、僕の考える事を実現する事です。今は、まだ僕がやりたい事はわかりません。でも、アルノルト様と一緒に居れば、それが見つかると思います」「そうだな。奴を・・・アルノルト・フォン・ライムバッハを利用するか・・・面白いな。俺も、そうさせてもらう。ザシャの・・・ディアナ嬢の仇を、アルノルト・フォン・ライムバッハを利用してあぶり出して、殺す事を、俺の目標としよう。その為に、まずは、アルノルト・フォン・ライムバッハに戻ってもらわなくてはならないな」「そうですね」
それから、数時間。僕とロルフ殿は、先程までのような陰湿な感じではなく、何かを期待しながら待つ時間を過ごしていた。
朝方近くになって、アルノルト様が扉から出てきた。
「ロルフ。カルラ。悪かったな。話を聞きたい。いいか?」「休め」「アル様。一旦寝て下さい。お願いします」
昨日までと違う声で、疲れきった顔で出てきた。今にも倒れそうな状態だ。
「ダメだ。ザシャとディアナの仇を・・・」「それこそ、余計なお世話だ。アルノルト・フォン・ライムバッハ。お前は、俺の生きがいを奪うつもりか?」「でも、ザシャとディアナは、俺の・・・(バァン!)」
いきなり、ロルフ殿が持っていた剣の柄で、アル様の頬を殴り飛ばした。
「お前、何甘えた事を言っている!お前の責任だ!誰がそんな事を攻めた!ザシャ達が言ったか?違うだろう。勝手にお前がそう思っているだけだ!」「・・・ちが・・」「いいや、違わないよ。お前にわからないはずがない。ザシャとディアナの最後のセリフは、お前の恨み言か?違うだろう、”ありがとう”か”ごめん”のどちらかだろうな。違うか!アルノルト・フォン・ライムバッハ!答えろ!」
ロルフ殿は、アル様を、掴んで、怒鳴り散らす。
「・・・ロルフ・・・ありがとう。そうだな。俺らしくないな」「あぁそうだ。お前は、そんな事で落ち込んで悩むな。そんな事の為に、ザシャ達は死んだのではないぞ!お前の足かせになるために、死んだわけじゃない!」「・・・」「いいか!ザシャとディアナは、俺達のミスで死んだ。お前のミスでも、お前のせいでもない!」「・・・」「ザシャとディアナは、自分たちの力が足りなくて死んだのだ。お前が、二人の死まで背負うな。俺達に背負わせろ。お前には、ザシャとディアナの死の責任なぞ担がせてやらん。俺が二人の仇を取る。何年かかろうと、何十年かかろうと、必ずだ!」「わかった・・・俺は、こんな事をしでかした奴らを叩く。それでいいのだな」「そうだ。お前は、もっと、もっと、お前を頼りにしている奴らの為に”死ね”」「・・・わかった。ありがとう。カルラ!」
「はい」「ヘーゲルヒ辺境伯からの手紙は?」「持っています。それから、ヒルダ奥様からの伝言です。”携帯に、こちらの状況を送った”そうです。あと、テディ殿からの伝言で"メールが読めなかったら、ノース迷宮の32盤端末に入ってくれれば読める”だそうです」「わかった。ありがとう。ロルフ。俺は、マナベ商会の執務室にいく、先程の男と、マナベ商会とエルフ商会の代表を、後でよこしてくれ」「わかった。その前に、一度お前は寝ろ。過労で死んだら、ヴァルハラで待っている二人に殺されるぞ」「・・・そうだな。父と母と乳母にも見捨てられそうだな」
ロルフ殿が差し出した、手を握って、立ち上がった。そこには、僕がよく知っている、アルノルト・フォン・ライムバッハが立っていた。

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