【旧】魔法の世界でプログラム

北きつね

エルブンガルド

部屋に戻ってきて、まずは結界を作る事にした。
「カルラ。悪いけど、クリスかユリウスを呼んできてもらえないかな?」「ん。かしこまりました」「あぁいいよ。それ食べてからでも、急いでいないからね」
カルラは、ヒルダと一緒に、俺が作ったサンドウィッチを頬張っている。会議が終わって、戻ってきたら、緊張から開放されたのか、ヒルダが、小腹が減ったと訴えた。出来物でかまわないと言ったが、サンドウィッチ位なら簡単に作られるので、作って出した。
また可愛らしく、お腹を鳴らしたカルラにもテーブルに座らせて、サンドウィッチと、珈琲を甘々にしたセットを提供した。
それを頬張っている状況だ。
今は、新しく構築している、ポケコンを使わない結界プログラムを作っている。未完成だが、いざという時には十分役立つだろう。それとは別に、ポケコンも渡しておくことにする。起動時に、入力されたパラメータで、結界の範囲が決定出来るようにした物だ。
クリスとユリウスに、慌てて渡す必要も無ければ、説明する必要もない。個人用のポケコンを使わない結界と、場所を守るためのポケコンでの結界の2つを渡して、説明しようと思っている。
個人向けの結界は、まだまだ荒削りで、必ず防御出来る物ではない。プログラム的にも美しくない。if文を多用した物になってしまっている上に、処理速度も、個人の魔法制御能力に依存してしまう。今回の目的は、ユリウスとクリスの安全確保だから、汎用性は諦めている。汎用性は、必要になった時に作る事にする。
「アルノルト様。行ってまいります」
カルラが食べ終わって、片付けも終わったようだ。
「うん。頼む。できれば、二人がいいけど、難しければ、クリスだけでいい」「かしこまりました」「あぁそれから、カルラ。言葉遣い。辛ければ、身内だけの時には、気にしなくていいからね」「え?なんで・・」「だって、さっき、ヒルダと話している時には、結構砕けた話し方だっただろう?そっちが素なのだろう?」「・・・はい。申し訳ありません」「いいよ。俺よりも目上の人が居る時には、だめだけど、俺達だけなら問題ないよ。俺も気にしないからね」「あっありがとうございます」
カルラは、ちょこんと頭を下げた。目上の人って、ユリウスも該当するだろうけど、ユリウスは別にいいか・・・。「うん。それじゃ、お使い頼むね」「はい!」
それから、10分位して、クリスが部屋に入ってきた「アルノルト様。何か、御用ですか?」「あぁユリウスは、別にいいか・・・クリスにこれを渡しておく」「これは?」「結界を作る、魔道具だよ。使い方を説明する。ヒルダも聞いておいて」
クリスに、起動方法を教えた。その後で、クリスに、プライベートな結界も配置した。後日、ユリウスにも配置を行う事にした。
「クリス。それで、俺達はどうしたらいい?」「暫く、ここに留まってもらう事になる」「それは、いいのだけど、ノース街も気になるからな」「そうでしたわね。でも、アルノルト様。ユリアンネ様もいらっしゃるし、ラウラとカウラも居る、ギルベルト様も居るし、コンラート様もいらっしゃるのですよね?アルノルト様がいなくても、大丈夫じゃなくて?」「・・・そう言われれば、そうだけど、一応領主として・・・」「面倒事から逃げたい気持ちはわかりますが、もう少し王都に留まっていて下さい」「解った。自由にしていいのだよな?」「勿論です。でも、狙われるかも知れないので、注意してくださいね」「そうか、俺が一番狙いやすいのって事だな」
クリスは、頷いただけだ「カルラ。アルノルト様をお守りするのが、貴女の望みなのでしょう」「はい。クリスティーネ様」「アルノルト様の護衛役を勤め上げなさい」「もちろんです」
なんだか、俺が口出し手はダメな雰囲気がある。
それから、なぜか、俺がクリスの分の食事を作った。まぁ"おいしい”と言って食べてくれたので、"よし”としよう。
--- ヘーゲルヒ辺境伯 Side ---「お館様。どう致しましょうか?」「捨て置け」「よろしいのでしょうか?」「構わない。儂の代で、ヘーゲルヒが滅ぶのも、定めだろう。それに、もしかしたら、コンラート・・・。いや、考えないでおこう」「お館様」「そうだな。返事を書くのも、面倒だな。跡継ぎは、ライムバッハ子爵の所に居るコンラートにする・・・と、でも書いておけばいいか?」「お館様・・・」「冗談だ。確か、遠縁だが、姉の所に、孫がいたな。話をしてみてくれ」「かしこまりました。でも、よろしいのですか?たしか、まだ、3歳だったと思いますが・・・」「構わない。儂が、今死んだとして、そうしたら、ライムバッハ子爵に後見人を頼むさ。コンラートの事があるから、嫌とは言えないだろう。それに、エルフ族の巫女にも後見人になってもらえばいい。エルフ族も、それなら受け入れやすいだろう」「お館様」「なぁに大丈夫。儂が健全な間に、その者を育てればよかろう。けして、ライムバッハ子爵と敵対するなと、言っておけばよかろう」「かしこまりました」
家令が部屋から出ていくのを見つめている。御前会議への欠席の連絡も頼まないとならない。王弟へのお詫びの品も運ばせないとならないだろう。
それにしても、ヘーゲルヒ家の跡継ぎが居なくなってから、毎日のように、陳情に来る貴族の馬鹿共の相手は疲れる。今更嫁を押し付けられるよりも、優秀な子供を差し出すのなら、考えないでも無いのに・・・。まぁ彼らの考えも、解らないでもない。儂が同じ立花なら、やはり同じ事をしているだろう。だからこそ、余計に気分が悪い。本当に、ライムバッハ子爵に全部を譲ってしまいたくなる。
--- カルラ Side ---私は、カルラ。クリスティーネ様が作っている、諜報部門の訓練を受けた者だ。
私は、アルノルト様に拾われた、子供の一人だ。多分、アルノルト様は忘れられて居るのだろう。それだけ、多くの奴隷を救ってこられている。
「アルノルト様」「ん?なに?」「今日は、どうなさりますか?」「ん~ん。面倒だから、部屋に居るよ。カルラも好きにしていいよ」「わかりました」「ん」
王宮に缶詰にされて、1週間が経過した。その間、多くの者からの面会要請が来たが、全部断ってしまって、部屋に閉じこもって、何かをされている。私では、アルノルト様が何をしているのか解らない。
ヒルデガルド様にお聞きしても、解らないし、聞いても無駄だから、好きにさせておけばいいと言われてしまっている。確かに、王宮に留まってくれるのはありがたかった。
その間に、私の仲間が情報を集めてきている。やはり、クリスティーネ様の予想通り、アルノルト様の襲撃計画が行われている。先手必勝で潰してしまう事を、進言したが、笑って却下された。曰く”アルノルト様を襲撃してくれれば助かる”の、だそうだ。意味が解らなかったが、そのあたりに居るチンピラに、襲われた位では、”アルノルト様”ご本人なら100人で襲われようが、大丈夫だろうという事だ。怖いのは、ヒルデガルド様や、ノース街に居る。ナーテ嬢な領民を盾にされる事だが、その心配は今の所なさそうだ。それも、アルノルト様の力を、貴族の馬鹿共が知らないからだ。だから、できるだけ大人数で暴発してくれる事を願っている様だ。
私としては、アルノルト様にそのような危険が迫っている事自体、許せないのだ・・・・が、クリスティーネ様は、それなら本人に聞いてみて対応を考えてみて、言われた。
「アルノルト様」「どうした?」「アルノルト様やノース街のことをよく思っていない、貴族が集まって、アルノルト様を襲撃する計画があるようです」「へぇそう?」「”へぇそう”では、ありません。どうしましょうか?」「人数とグループは、どんな感じ?」「人数は、多くても10人前後です」「うーん。それなら、無視でいいよ。俺に直接来るのなら、無視していて、ヒルダやノース街に向かいそうなら、全力で阻止するから教えて、それと、できれば、全部の敵対勢力がまとまってくれるようにできたら嬉しいな」「え?よろしいのですか?」「うん。だって、10人程度なら、大丈夫だと思うよ。ラウラやカウラ並や・・・そうだね。カウラが”一対一”で、勝てないと思う相手が居るのなら、教えて・・・そうじゃなければ、何人集まろうが怖くないよ」「・・・解りました、相手の戦力を調べます」「うん。お願い。でも、ムリしないでね。おびき寄せて、各個撃破してもいいし、一箇所に集めて、叩き潰してもいいのだからね」「はい。でも、貴族がいます。下手に手をだしたら、何を言われるかわかりませんよ?」「ん・・・。平気だと思うよ。どうせ、次男や三男を使っているのでしょう。殺さなければ、文句を言われても、なんとでも言えると思うよ。そのあたりは、クリスに聞いて」「え?あっはい。わかりました」「うん。それだけ?」「はい」「そう、それじゃ、ヒルダの護衛をよろしく。今日、街に出たいとか言い出すと思うからね。俺は、ここ王宮の図書館で調べ物をしているよ」「はい!解りました!」
それから、本当に30分位してから、ヒルデガルド様が、外に出たいと言い出した。なぜ解るのかと、護衛で一緒に外に出た時に、ヒルデガルド様に聞いた所・・・。笑いながら「アルノルト様だからな」と、答えられてしまった。それでは、答えになっていなかったが、納得してしまった。
--- ユリウス Side ---「陛下!」「ユリウスか?」「はい。陛下、ユリウス。御前に」「よい。ユリウスだけか?」「はい。そうです」「そうか、ユリウス。余は、お主に残してやれる物がない。取り上げるばかりで、何も与えてやれん。許してくれ」「いえ、陛下からは、かけがえのないものを頂いています」「ん?」「私と対等に話が出来る友を作るチャンスをいただきました」「そうか、確かに、幼年学校に行くように命じたのは、余だったが、ユリウスは、そこで何を得たのだ?」「友です。かけがえのない・・・。私に対等に接してくれる友です」「そうか、カールハインツにとっての、フォイルゲンやライムバッハの様な存在をお前も得たのだな」「はい!アルノルトは、私にとっては・・・」「そうだな。ライムバッハ子爵は、まっすぐな人間のようだな」「どうでしょう。でも、私にはそれさえも心地よく感じます」「いい友のようだな」「はい。陛下」
--- クリスティーネ Side ---『ギルベルト様。それは本当ですか?』『あぁ今日、オヤジから連絡が入った。アルに伝えようにも、電話が繋がらない。どうなっている?』『多分、結界が影響していると思います。私から、アルノルト様にお伝えしておきます』『頼む。でも、クリスもすでに似たような情報は掴んでいるのだろう?ほら、なんて言った・・・あの、アルに心酔している、奴隷上がりの奴らを使っているのだろう?』『カルラ達ですか?』『そうそう、カルラ。諜報部門として、組み込んだのだろう?』『人聞きの悪い事をおっしゃいますね。私は、お父様に、こんな人物が居ると繋いだだけですよ。お父様の判断で、諜報部門に組み込まれただけですわ』『まぁそういう事にしておくよ。アルの事頼むな』『勿論ですわ。もう、子供の時の様な思いはしたくありませんからね』『そうだな』
ギルベルト様から齎された情報は、たしかに私も掴んでいた。でも、複数の筋から同じ様な話が来た事の意味が大きい。この情報が正しいのか・・・正直、まだ判断できないでいる。簡単に情報が得られすぎているのだ。あからさまな行動の裏に、何かあるのだろう。
王弟殿下が、バルリング辺境伯の領地に視察に出かけると言っている。視察自体は珍しくはないが、この次期に行く意味が解らない。それに、バルリング辺境伯が抱えている冒険者や軍の者達が、その護衛に向かうのではなく、王都に留まっているのだ。それだけではなく、ヘーゲルヒ辺境伯の領地近くの寄り子に、軍を集め始めているのだ。
明らかにおかしな動きを見せている。御前会議で、後継者指名がされた事が、発表された。ユリウス様が、その場にいた事も発表されているので、次期国王は、”王弟殿下”と”皇太子”に絞られる。儀式に参加した顔ぶれを見れば、”皇太子”が次期国王になるのは、既定路線の用に思われているのだろう。その皇太子も、視察と称して、”ノース街”に移動している。暗殺の危険性があるからだ。今、王国内で一番安全な街は、ノース街だろう。
そのノース街に向けて、進軍すると言うのが、先程のギルベルト様からの連絡だが、私は違うと思っている。狙いは、王都ではないだろうか?
もう少し情報が欲しい。そして、時間が欲しい。
--- ザシャ Side ---「大変です。ザシャ様!」「どうしたの?」「エルブンガルドが・・・エルブンガルドが・・・」「だからどうしたの?」「大量の魔物に襲われています。結界で撃退していますが・・・それもいつまでも持つのかわかりません。魔物だけではなく、人が・・・魔法で攻撃を加えているようです」「どういう事!!!なんで、軍が、どこからの・・・それも、魔物なんて・・・」
なんで、エルブンガルドが・・・。
「どのくらい・・・いや、いい。私が行く!」「姫様。なりません。姫様は、ここに居て下さい。私達が・・・。私達が・・・」
アル・・・。アル・・・。助けて・・・。エルブンガルドを助けてよ。アル!!!!

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