【旧】魔法の世界でプログラム

北きつね

御前会議

案内された部屋は、待機部屋という感じではなく、日本に居たときの記憶からは、セミスイートといった感じだろうか?
セミスートと言えば、IT関連のベンチャー企業の案件の為に、何度か某有名ホテルのラウンジで打ち合わせしたことがある。個人的な見解で偏見に満ちている事は重々承知しているが、打ち合わせにホテルのラウンジを指定してきたり、長期滞在しているホテルの部屋を指定してくる、3割以上が胡散臭さと感じる。残りの3割は胡散臭さの前に、”それって既存の技術の組み合わせで出来るのでは?”と、いう感じだ。それ以外は、できればすごいけど、”現状、完成に小指の先も、届いていないよね?"と、いう感じになっている。そして、少なくても、俺が打ち合わせをした、関連技術や新サービスが、”日の目を見た”という話は聞かない。何件か、火付案件になっていた物を手伝いはしたが、殆どの場合、数ヶ月で資金ショートして、内部分裂で終わっている。裁判沙汰になった事も何件かあった。
思考を現在置かれている状況に戻そう、部屋の様子は鑑定を使えば、多くの事が解るだろう。しかし、そんな事をしなくても、この部屋の調度品が素晴らしい事は解る。部屋を見回していると「アルノルト・フォン・ライムバッハ子爵ですか?」「そうですか?貴女は?」「はい。クリスティーネ様から、ライムバッハ子爵の世話をするように言われました。カルラといいます」
「そう・・・今日、ここで休むように言われているけど、間違いじゃないのだね」「はい。ヒルデガルド様も、”こちらで休む”と、お聞きしています」
「え?」「え?」俺とヒルダは二人で声を上げたが、どうやら意味が違うようだ。俺は単純に、驚いた。ヒルダは、喜んだ、という感じだろうか?
ヒルダの思考は解る。ベッドが一つしかない。少なくても、明日の御前会議に出席する事が決まっている。ヒルダが考えている事は、手に取るように解るが、無視させてもらう事にする。
「カルラさん」「アルノルト様。私の事は、呼び捨てにしてください。そうでなければ、クリスティーネ様からお仕置きをされてしまいます」「え?お仕置きって・・・。まぁ・・・。そうか、カルラ。俺達は、明日の御前会議に出る事になっているけど、何か知っている?」「何かとおっしゃられても、私は出た事はありません。ただ、時間が着たら、わかると言われていました。それまで、"アルノルト様を逃がすな”と、命令されています」「・・・今更逃げないけど、解った。ヒルダ。って事だから、今日はおとなしくここに軟禁されるぞ」「はい!!!」
「それで、俺達の食事とかはどうなっているの?それとも、一緒に来た、コンラートとかとも話をしたいのだけど?」「申し訳ありません。クリスティーネ様からは、"部屋から出すな。出ると言ったら、私を呼べ"と、言われています。ここに、クリスティーネ様をお呼びしてよろしいですか?」「いや、いい。コンラートを呼ぶのも無理?」「その場合も、クリスティーネ様を呼ぶことになります」「・・・なら、いい」「お食事はこちらで用意致します。それとも、奥に簡易的ですがキッチンもあります。そこで、簡単な物を調理する事もできます」「あっそれなら、自分で用意する。ヒルダもそれでいいよね?」「はい。もちろんです」
くぅ~と可愛い音が聞こえた。真っ赤な顔をした女の子が一人立っていた「カルラも一緒に食べるか?」
顔を真赤にして、お腹を抑えた、カルラが頷いた。俺は、ステータス袋から、食材を取り出して、簡単に調理を行う。今日は、肉を果実に漬け込んで、柔らかくした物を焼いて、後は野菜を刻んだ物と一緒に、パンに挟む簡単な物だ。
それを、5つ作った。パンが少し小さめって事もあったが、俺とヒルダで1.5個。カルラに二個渡した。最初は遠慮していたが、作ってしまったので、食べないともったいないと言い聞かせて、無理矢理渡した。遠慮しつつ、全部を食べていた。食べ終わった頃に、ヒルダがお茶を持ってきた。ノース街が発展してきて、亜人達が森の中から、いろんな植物を採取してくる用になった。これも、その一つで、元々は、赤く熟した身をかじるように食べていたそうだが、美味しくなかった事や、食べるのには面倒だった事もあって、あまり食べられていなかった物だ。それを俺は、”珈琲”と名付けた。焙煎して、曳いてお湯を注いで飲む。味は、まだまだだが、カフェイン中毒者には嬉しい飲み物だ。それを、人数分用意した。ヒルダは、甘くする為に、砂糖を使いたいようだが、まだ砂糖は高い。その為に、これも森で取れた樹液を、珈琲と一緒に煮詰めた物を入れて、甘みをプラスする。ミルクも用意してきた。カルラは初めて飲むのだろう。匂いを嗅いだりして少し飲んだ、ブラックでは苦いのだろう、ヒルダに言って、甘みを追加して、さらにミルクをたっぷり入れて飲んでいた。
一息着いてから「カルラ。それで、カルラは、どこまで事情を知らされているのだ?」「え?」「だって、カルラ。この前、ノースに来ただろう?」「なぜ・・・そりょを・・それを」
かんだ、そして言い直した。「奴隷に落とされていた、子供たちを護衛して、来ただろう?」「・・・」「言えないのなら、言わなくていいよ。クリスの事だから、そのうち説明してくれるだろう?」「はい。ですが、私は、クリスティーネ様からご命令されたから、ここに居るのではありません。アルノルト様だからです。それは信じて下さい」「・・・・解った」
これ以上追求しても何も出てこないのだろう。それに、食事が終わっているし、一息も付けた。ヒルダが片付けを始めている。
一礼して、カルラは部屋を出た。「アルノルト様?」「あぁヒルダ。悪い。少し、やっておきたい事があるから、先に寝ていいよ」「解りました、横で見ています」「暇だろう?そうだ、ヒルダ。これで遊んでいろよ。お前なら使えるだろう?」
取り出したのは、80年代に流行った、ゲー○ウォッチだ。俺が好きだった、マンホ○ルというゲームだ。これは、そのまま動く事が確認できている。最高点も、俺が叩き出している。暇つぶしにはいいだろう。
ベッドにうつ伏せになって、ゲームをやり始める。俺は、各迷宮ダンジョンの収支を見て、調整を加える事にしている。なるべく、冒険者には死んでほしくない、けど、楽に踏破出来るようでは面白くない。まずは、トラップの配置だが、あまり悪どい物は排除して、足止めになるようなトラップを、多めに配置する事にした。魔物はそれほど強くしないで、迷路を難しくする事にした。マップさえきちんと書いていけば、迷うことが無いだろう。そんな変更を加えながら、迷宮ダンジョンの様子を見ていた。気がついたら、ベッドでは、ヒルダが可愛い寝息を立てていた。俺も、少し眠くなったので、椅子に座った状態で寝る事にした。
この体制で寝ると、起きるのも早い。椅子から降りて身体を伸ばす。「おはようございます」「あぁおはよう。早いね」
後ろに、カルラが控えていた。「起きられた気配がしましたので、来ました」「そう・・・」「はい。ヒルデガルド様は?」「あぁ起こさないで上げて、昨日は、考える事が多くて、疲れてしまっただろうからね」「わかりました。クリスティーネ様からの伝言です”もし、カルラの事が気に入って、携帯が余っていたら、一つ彼女にもたせてあげて、そうしたら、私からの連絡は、基本彼女にするから”と、いう事です」
クリスからのお願いって事なのだろうけど、これは俺に断るってオプションが残されているのだろうか?まぁクリスが信頼している事からも渡して大丈夫なのだろう。ステータス袋から、クリスに渡しているのと同一機種を渡す。
「使い方は、クリスに聞いてくれ。それで、今日の予定は?」「未定です」「は?どういう事?」「アルノルト様とヒルデガルド様が、すでに王城に入られている事は、少数の者にしか知らされておりません。本日の御前会議では、アルノルト様とヒルデガルド様の証言が大きな意味を持ちます」「わかった、それで、待機していて、ギリギリに会場に向かうって事だな。そのギリギリのタイミングが、いつなのかは、解らないという事でいいのだな?」「はい。そうなります」「わかったような、分からないような事だな。まぁ待っていればいいのだな。ここで待っていればいいのか?」「控えの間は、使われていますので、ここでお待ちいただくのが一番だと思われます」「コンラートは?」「先に、入られます」「え?そうなの?」「はい。そうなります」
「はぁ解った。それじゃ、俺とヒルダの着替えを頼む。ヒルダ!起きているのだろう」
ベッドでヒルダが起き上がる。「えへ?」「じゃないよ。朝食を食べて、準備を始めよう」「はい!」
カルラは、優秀なようだ。食事の支度も、着替えも滞りなく終わらせる事ができた。カルラが、ヒルダの着替えを手伝っている時に、カルラに携帯を渡したことを、クリスに伝えた。ついでに、電話番号も教えた。
2時間が経過した位から、外が慌ただしくなっているのが解る。御前会議の為に、貴族が集まり始めているのだろう。それから、1時間近くが経過した時に、カルラに渡した携帯が鳴った。どうやらクリスの様だ。使い方をまだ教えていなかったので、俺が代わりに出た。すぐにカルラに変わった。どうやら、入場の為の手順を指示されているようだ。
電話を切ってから「アルノルト様。後、30分位で御前会議が始まります。ギリギリに来て欲しいという事です。入場は・・・」
俺が聞いてもよく解らなかったので、カルラとヒルダに案内してもらう事になった。20分位経過してから、移動を開始した。ヒルダが言うには、通常使われる事がない扉から入るようだ。
ざわざわしているのが解る。玉座に座るべき人物がいないのだから当然だろう。それに、ユリウスの隣の席が空いているのも、出席者的には問題があると喚いている。
宰相が、最初に口上を述べるようだ。”昨日、陛下が倒れられた。本日は、大事を取って、欠席するという事で、この場では、普段と違う意見交換をするようにと言われている。”
そこで一息いれてから”陛下は、昨晩、次期国王を指名された”
ここで、騒ぎが大きくなる。”静かに、見届人も揃っていて、王室典範に則って、行われた”
だれが見届人になった?子爵以上の者だぞ。フォイルゲンと誰だ?
そんな声が聞こえてくる。”私と、王家からは、ユリウス様がいらっしゃった。そして、フォイルゲン辺境伯と、ライムバッハ子爵が、いらっしゃった”
ライムバッハ?そんな訳無いだろう?今日も来られていない。宰相。どういう事だ!
ユリウスの声だろうか?”アルノルト・フォン・ライムバッハ子爵は、たしかに謁見していた。アル!”
そう言うと、扉が開いた。俺が先頭で、会場に入った。予想以上に広い場所だ。それに、一番高い場所につながっていた扉だったようだ。皆の視線が、俺とヒルダに集まる。
余裕がある”風”で、優雅に一礼して、空いている席まで移動した。ユリウスの隣に俺が座って、その隣にヒルダが座る。クリスはユリウスの後ろに座っている。カルラは、深々と一礼して、扉を閉めた。
これからが本番だ!“ざわざわ”が、続いている。
宰相が話を続ける。「見届人が揃った所で、会議を続ける」
「待った!」「なんでしょうか?王弟殿下?」「昨日という話だが、本当に、そこのライムバッハ子爵は間に合ったのか?」「おかしな事をおっしゃりますね?」「いや、確認をしただけじゃ」「そうですか、一日早く来て頂けたのが、ライムバッハ子爵だったのです」
王弟殿下と呼ばれた、豚が・・・いや、人物が、俺の方を向いた。正確には、俺ではなく、ヒルダを見ているようだ。そう言えば、ヒルダをこの豚・・・いや、豚人の子供の嫁によこせとかいう話があったと聞いたな。
「ライムバッハ子爵。卿は、なぜ、一日早く来たのだ?」
まぁ当然の問いかけだな「殿下。私は、学友である、ユリウス殿下に、相談があって、一日早く王都に来たのです。それに、我が領地であるノース領と王都は、整備された街道で結ばれていますので、馬車を飛ばせば、時間の短縮もできます。到着が遅い時間に、なってしまった為に、殿下にご挨拶に行けなかった非礼は、この場で謝罪致します」
そう言って、ヒルダと共に立ち上がって、頭を下げた。
「しかし、ユリウス殿下とお話をしている時に、宰相閣下から呼び出しがありまして、陛下に拝謁いたしました」「・・・そうか、わかった。宰相。すまん」
宰相は、明らかに解るように、ため息を着いてから、俺の方を一瞥した。「陛下の御意は、正式に聞き届けられた。次期国王の名前は、陛下の身に何かあるまで、伏せられる。ただし、ユリウス様とヒルデガルド様は、その場にいらっしゃった事から、指名者ではありません」
それだけ言って、宰相は座ってしまった。「(なぁユリウス。名前までは言わないのか?)」「(あぁそうだ。そうしないと、問題が発生するだろう?)」「(・・・あぁそういう事か・・・)」「(でも、聞いた面子を見れば明らかだろう?)」「(それでもだ。アル。暫くは、身辺に・・・って、お前なら大丈夫か)」「(どうかな。でも、俺よりも、お前の方が・・・今回は、お前は狙われないのだな)」「(そうだな。まずのターゲットは、宰相とお前とフォイルゲン辺境伯だな)」
会議が長引くと思ったが、早々に終わるようだ。陛下が来ていない事もあるが、指名者が決まった事で、貴族間のバランスにも影響するのだろう。宰相の報告など聞いている者はなく、打ち切られるように、御前会議が終わった。
会場には、俺とユリウスとヒルダとクリスが残されていた。「アル。悪かったな」「何がだよ?」「・・・そうだな、謝るようなことじゃないな」「あぁそうだ。ユリウス。俺は、このまま、ノースに戻っていいのか?それとも、王都に留まったほうがいいのか?」「本音を言えば、王都に留まっていて欲しい」「って事は、慣例的には、領地に戻っていいのだな」「あぁそうだ」
ため息しか出てこない「わかった。暫く、王都に居る。屋敷ではいざって時に動けないから、どこかの部屋を貸してくれ」「わかった!用意させる」
「アルノルト様。よろしいのですか?」「ん?そうだな。1年も二年もって言われたら困るけど、長くても1ヶ月位様子を見ればいいだろう?」「そうですね」「それなら、問題ないだろう。コンラートには、電話で伝えておく。向こうには、ユリアンネも居るし、大丈夫だろう」「わかりました。カルラに準備させます」「あぁ頼む」
御前会議は、大きな出番もなく、存在しただけで終わってしまったが、まだ終わりそうになかった

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