魔法の世界でプログラム

北きつね

孤児達と交渉事

「ヨハナ殿とラウゴール殿は、私達に、ヘーゲルヒ辺境伯と敵対しろという事をおっしゃっているのですか?」
少し強い口調になってしまうが、確認しなければならない事だ。俺としては、一向にかまわない。どこまで本気なのかを知りたいだけだ。ラウゴールとヨハナを交互に見つめる。
どのくらいの時間そうしていただろうか・・・。「・・・はぁ解りました。」「では?」「いえ、解ったと言うのは、ここでお世話になるわけには行かないと言うことです。貴方たちの事は、他言しない事をお約束いたしますが、それ以上の事はご協力できそうにありません。」「・・・。」「なぜ?」「あぁ食料が必要なら、多少余裕がありますので、お出しする事はできます。あと、王都までの護衛が必要なら、今の仕事が終わってからでよろしければ、交渉のテーブルに付きましょう。」
”なぜ”の問いかけは無視させてもらおう。この状態で、これ以上、議論の必要性もない。
これで、話は終わりだろう。これ以上してやる義理は無い。連絡も、王都に居るギルに連絡すれば、審問官まで繋がる事も出来るだろう。最悪は、ユリウスなり、クリスに頼めばいい。
「ザシャ。ディアナ。行こう。アン。ルト。悪いけど、野営出来る場所を探してくれ」「・・・」「・・・うん。」「ご主人様。かしこまりました」「了解!」
振り向いて、歩をすすめる。
「待ってくれ!」
ラウゴールだろう。振り向くだけ無駄だろう。4人には目配せをして、先に歩かせる。
「待って欲しい。お願いだ。それだけの力がありながら・・・なぜ・・・。」
何か勘違いをしている様だ。
振り向いて、跪くラウゴールに近づく
「ラウゴール殿。何か、勘違いをされていませんか?私達は、私達の為に、力を得て、この力は、私達の為に使われるべき物なのです。指先・・・いや、爪の先一つ動かすのにも、私達のメリットがなければ、動かす必要性を感じません。それに、覚悟が足りない人を助けても、私は、責任を終えません。私の力は、私が大切に想っている事に使われるべきなのです。」「子供たち・・・だけでも・・・。」
「それこそ、私になんの関係があるのですか?貴方が・・・いや、あなた方が、ご自分の心に従って、助けたのですよね。それを、私に求められても、困ります。もしかして、貴方は、女子供を出せば、助けてもらえると想ったのですか?それこそ、甘い考えじゃないですか?貴方が今やらなくてはならない事は、私に助けを求める事ではなく、どうやって、子供たちを助けるかを考えることじゃないのですか?」「だから、だから、審問官に・・・。」「それが間違っていると言っているのですよ。ここが、どこなのか理解しているのですか?王都まで、何日かかるのですか?私が、審問官に伝える為に費やす時間や労力はどうやって補填するつもりなのですか?」
だんだん腹が立ってきた。こういう経営者が”鉄火場”を作るのだ。自己の正義を具現化する為に、周りの人間に”正義”を振りかざすのを辞めない。”正義”なんて、時代で変わるし、立場でも変わってしまう。そんな曖昧なものに、命をかける。それがどれほど無駄な事なのか理解できないのだろう。そして、ベットする命は、自分や自分の身内ではなく、”他人”の命や時間を使わせる。それで、自分も”やっている”。”悲しんでいる”。”苦しんでいる”。決まり文句のように、そう嘆くのだ。
「それでは、どうしたら・・・。」「それを、考えるのが、貴方の責任で、私が考える事ではないでしょ?それとも、これだけの子供が居るのだから、助けるのが当たり前だとか想っているのですか?」「なっいや、しかし、子供達が・・・。」
「だから、それが”どうした"と、言うのですか?私に、メリットも何もない子どもの為に、命を差し出せというのですか?それが、ラウゴール殿の正義なのですか?」
ラウゴールは何か言い多層にしているが、口をつぐんでしまった。代わりに、ヨハナが出てきた。「アルノルト様。申し訳ありません。私達が間違っていました。」
”間違っていた”そう言っているが、謝罪の意味ではなさそうだ。次の言葉を待つことにする。
「ヨハナ。俺は、間違っていない。」「ラウゴール。確かに、貴方は間違っていないと思う。このままでは、孤児院の子供だけではなく、多くの人が不幸になると思った。でも、アルノルト様がおっしゃっているのは、その"間違っていない"という考えが”間違っている”と言っているのです。貴方が助けたいと言っている人々の中に、アルノルト様達は入っていないのが”間違っている”のです。」「だから、そいつらには力がある。自分たちを守れるだけの力が、だったら、その力を使ってくれるだけで俺達は・・・。」
「はぁ・・・。申し訳ありません。アルノルト様。」
「いや、構わない。どうせ、わからないのだろう。それじゃもういいよな」「もうしわけありません。アルノルト様。私達が、アルノルト様へのメリットを提示できれば、話を聞いて頂けますか?」
やっと話ができそうだ。
「メリット?最初に言っておくけど、物や金はそれほど必要としていない。」「解っております。私達が提供できるメリットは、私のすべてになります。どうでしょうか?」「おい。ヨハナ。おまえ!」「ラウゴールは黙っていて、今、私とアルノルト様が話をしているのです。」
「ヨハナ殿。すべてというのは、貴女は、私の奴隷になるのと等しいと理解していますか?」「はい。解っております。その代わり、アルノルト様にお願いする事があります。」「解りました。お聞きしましょう。まずは、聞くだけですからね。」「はい。それで十分です。」
立ったままでは話しにくいだろう。ブツブツ言っているラウゴールを完全に無視して、ヨハナの前に腰を降ろした。
「アルノルト様。お急ぎの案件がお有りなのでしょうか?」
こちらの事情を先に聞く辺りは、断りにくくする上では常套手段だ。
「そうだな。もともと受けている依頼がある。その依頼達成に邪魔にならない範囲なら出来る事もある。」「解りました。お連れの女性の護衛が、任務だと思ってよいのでしょうか?」「そうなる。ヘーゲルヒから入る、エルフの街までの護衛だ。向こうでの用事もあるから、帰りはいつになるか解らない。」「あっありがとうございます。それでしたら、すべてを賭してのご依頼が出せます。」
真剣な眼差しが違う。明らかに何かを覚悟しているのだろう。
「解りました。お話をお聞きしましょう。」「ラウゴールが言っている、審問官への報告は、自分たちでなんとかします。しかし、それ以上に、早急な対処が必要な事があります。子供たちの保護です。」「それは、半日や一日で終わるような物ですか?」「アルノルト様の出来る限りで構いません。」「それだと、私が何もしない可能性が含まれますが、それでも良いのですか?」「構いません。その時には、私の見る目がなかったという事です。」「解りました、そのことは、置いておきましょう。それで具体的には、どうしたらいいのですか?」
ヨハナは、それから事情を語ってくれた。最初からそうしたら、もっと違った反応をしたのだろう。自分たちの都合がいい事だけを聞かせて、頼み事を押し付ける。その行為がどんなに相手に不快感と不信感を募らせるのか、ラウゴールにはしっかりと認識して欲しい。
頭を、ヨハナの話しに切り替える。事情は、それほど複雑ではない。ヘーゲルヒ辺境伯の後継ぎ候補は3人居るらしい。その中で、最右翼とされているのが、次男になるが伯爵家から嫁いできた正妻が産んだ子供だ。それと、子爵家の娘との間の三男。身分的には、一番劣るが、優秀な長男の順番になっている。そして、孤児院を潰して回っているのが、三男の様だ。なぜそんな事をしているのかと言えば、長男へのあてつけだ。驚いた事に、孤児院は長男が率先して運営を行っている。ヨハナの話を全面的に信じれば、長男は辺境伯の後継ぎとしてではなく・・・すでに後継者レースを諦めて、教会や神殿に身を寄せたいと考えているらしい。その為の、実績作りで孤児院を運営している。それが、市井の者には立派な人と映るようだ。次男や三男は、長男が人気取りの為にやっていると思って、長男を疎ましく想っている。
「状況は解りました、依頼内容の前に、いくつか確認させて下さい。」「まずは、大事な事です。孤児院を潰しているのは、三男で間違いないのですか?証拠はありますか?」「・・・・。」「どうしましたか?」「私達が証拠です。」「それでは、話になりません。私が客観的に判断出来る物ではありません。ヨハナ殿やラウゴール殿が何を言ってもそれは証拠ではありません。三男が出てきて、”あいつらが言っているのは、長男から言われて、俺を貶めているだけだ”と言われてしまったら、潰されるような、曖昧な状態では困ります。」「そうです・・・か、」「おい。さっきから聞いていれば、嫌ならイヤと言え。何、難癖付けているのだ!」
「はぁ・・・難癖と取られるのなら、それでかいませんが、ラウゴール殿。それでは、貴方は、何をしているのですか?こんな所で、私に喧嘩を売っていないで、さっさと、ヘーゲルヒなり、王都なりに移動すればいいではないですか?それこそ、ご自分の命をベットして”正義”を実現すれば済む話ですよね?それをやらないで、必死に現状を変えたいと想っている人の話を横から乱して、何がしたいのですか?それとも、貴方は、孤児を救うのが目的ではなくて、あなた自身を誰かが助けてくれるのを待っているのですか?」「俺は、違う。そんな事思っていない。」「わかりました。ヨハナ殿。ラウゴール殿と貴方が同じ考えなら、私はやはり依頼をお受け出来ません。貴方となら話が出来ると思ったのですが、残念です。」
立ち上がろうとした「待って下さい。ラウゴールは、アルノルト様への依頼には関わらせません。お約束致します。証拠は・・・・あります。」
もう一度、座り直す。ラウゴールは、どこかに行ってしまったようだ。
「証拠とは?」「私が、証拠です。」「ほぉ、先程は、私達と言っていましたが、今度は、”私”ですか、何か具体的にあるのでしょうか?」「はい。私は、三男の命令を受けて、長男様の所に入り込んでメイドをしておりました。」「それだけでは、まだ薄いですね。そんなメイド知らんと言われてしまえば、終わりですからね。」「はい。それも解っております。三男からの命令書を持っております。」「それは、公文書の扱いになりますか?」「残念ながら、しかし、三男のサインはあります。」「解りました、今は、それが証拠としましょう。命令書にはなんと書かれているのですか?」「はい・・・。女の武器を使ってでも”長男の弱みを握れ”です。」「それだけでは、孤児院を潰しているのが、三男だという証拠にはなりませんよね?」「そうです。命令書には、続きがあります。”長男が支援している孤児院に、伯爵家縁の品が使われている。孤児院を潰してでも、通り返せ"とあります。当初、私はそれがどんな物なのか聞かされていませんでした。」「ほぉ」「はい。長男様の所に潜り込んでから、調査していましたが、長男様が持っていた物は、次男や三男がご自分の領地でやっている帝国相手の商売の情報でした。」「ほぉ・・・それが、奴隷売買だったのですね。」「・・・・はい。奴隷売買自体は問題ないと思いますが、帝国相手に、自領の領民を売っているのです。問題になれば、どこまで話が大きくなるかわかりません。」「解りました、今は、その証拠を信じる事にしましょう。それで、ヨハナ殿は、自分の身柄を賭してまで、私に出す依頼はどのような事ですか?」
ヨハナ殿を見据えた「アルノルト様。その書類を見つけ出して、公表して下さい。それと、残された孤児院の子供だけでも保護して頂けませんか?」「公表するだけだと、握りつぶされる可能性がありますし、孤児院がもっと酷い目にあわされる可能性も有りますよ?子供の保護は、ここに連れてくればいいのですか?それとも、安全な場所への非難でいいのですか?」「はい。解っています。でも、これ以上、領民が奴隷になってしまう事が耐えられないのです。子供は、アルノルト様が安全だと思える方法で構いません。」「わかりました。この依頼受けさせていただきます。一つ、お聞かせ下さい。貴女の本当の望みは?」「本当の望み?」「はい。そうです。」
「・・・・長男様。コンラート様を助けてください。あの方は、本当に、辺境伯などになろうとは思っていません。それどころか、子供達に囲まれた生活を望まれています。私の命一つでは足りないかもしれません。でも、コンラート様を・・・。」「そうですか、解りました。最後に一つ教えてください。貴女とラウゴールの関係は?」「・・・・。彼は、コンラート様の部下です。でも、けして悪い人では無いのです、少し偏った思考で、コンラート様が辺境伯になれば・・・と、本気で考えているのです」
「ヨハナ殿。なぜ私だったのでしょうか?」「・・・・。アルノルト・マナベ様。これは、私の独り言です。聴き逃していただければ幸いです。ヘーゲルヒ辺境伯の次男様は優秀な方です。でも、その優秀な方は、帝国との交易でもっと利益を得る事を考えていらっしゃいました。粗帝国から出された提案は、ヘーゲルヒで、王国と帝国と共和国。この3つをつなぐ交易路の中継地点になってはどうかという事です。その為には、共和国と接していて、王家からの信頼が厚い辺境伯が邪魔になる。なんとかしたいと思っていた時に、とある子爵家のバカ息子が暴走した、次男や辺境伯は、それを知ったが無視する事にした。しかし、コンラート様だけは、なんとか知らせる事ができないかと、教会や神殿や冒険者を頼った。秘事で監視されている為に、襲撃自体を伝える事しかできなかった。辺境伯や次男が望んだ、辺境伯の取り壊しにはならなかった。それを防いだのが、まだ学生だった、辺境伯の長男だという事だった。そのご長男様の名前がアルノルト・フォン・ライムバッハだというお話です。私が、知っているのは、ここまでです。コンラート様は、王都から、”聖女伝説”なる読物をお取り寄せになって、アルノルト・フォン・ライムバッハ卿の絵姿を何度も何度も、それこそ、女の私が嫉妬を覚えるくらい見ていらっしゃいました。」そこで一息着いてから「その絵姿が、アルノルト・マナベ様と似ていらっしゃるのが、一番の理由です。」
「そうですか、そんな貴族様と似ていると言われて光栄です。十分、納得出来るお話を聞かせていただきました。依頼を遂行するにあたって、一つ頂きたい物があるのですが、よろしいですか?」「はい。なんでしょうか?」「誰の名前でも、よろしいのですが、確実に、コンラート殿に面会出来る伝手を教えてください。お話を聞く限り、合わない事には、間違った状況になってしまうかもしれません。」「あっ解りました。当然の事だと思います。今すぐに準備を致しますが、少しお時間を下さい。今日は、もう遅いので、何もない場所ですが、ここでお休みいただければと思います。」「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます。ザシャ。ディアナ。そういう事だ。ルト。アン。もう警戒は解いていいぞ。あぁやつだけは、監視対象だけどな」「うん」「了解。疲れたよ」「ご主人様。監視は、私が!」「ねぇアル。私達が言って締め上げればいいよね?」「ルト。頼む。何も無ければいいが、なにか動きがあったら教えてくれ」「アン。それでもいいけど、そうなると、また俺達が働かなければならないだろう。」
俺達は、ヨハナに案内されるままに奥に入っていった。

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