【旧】魔法の世界でプログラム

北きつね

ブラント迷宮

新しい道が現れた。呆然とするナーテを見つめる事しかできなかった。
ナーテ自身、今の現象は知らなかったようだ。「にいちゃん。これって・・・。」「あぁ迷宮ダンジョンからの招待状だろうな。」
まて、いろいろ整理しよう。ナーテが、女の子なのかどうかは、この際おいておこう。態度から、ナーテがフランケンシュタイン伯爵の血縁者だと知っていた可能性は低い。そもそも、本当に血縁者なのかさえも、さっきの機械音声が告げただけだ。
「にいちゃん。おいら・・・。おいら・・・・。フランケンシュタイン博士と関係あるの?」「・・・わからないけど、ナーテは、ナーテだろう?何も変わらない。俺の大事な子だ」「にいちゃん。」
そう言いながら、ナーテは俺に飛びついてきた。確かに言われれば、年齢の割に大きくならない。そして、この腰や肩の細さ。そして、女の子特有の匂い。思い返せば、ナーテが自分で”男”だと言った事はない。俺が最初からそう決め込んでいただけだ。
「にいちゃん・・・?」
もう女の子だと思うと、女の子にしか見えなくなってくる。なんで、俺はナーテが男の子だと勘違いした。どう見ても女の子だ。そう思い出すと、一緒に風呂に入ろうとすると、ルトやユリアンネになんとなく邪魔されてきた。一緒に寝る事はあってもそれだけだ。着替えも見たことがない。不思議そうに、俺の顔を覗き込む。ナーテ。
「ナーテ。おま「ご主人様。これからどうされますか?」」
ルトが話しに割り込んでいた。それだけではない。念話で話しかけてきた。『ご主人様。できたら、ナーテが自分から言うのを待ってもらえませんか?』『・・・・ルト。おまえ、やっぱり、知っていたのだな?』『はい。申し訳ありません。』『まぁいい。俺は、気がつかないフリをして、ナーテが話してくれるのを待っていればいいのか?』『はい・・・でも、一つ補足をすると、最初にご主人様がミスリードしたのをいいことに、男の子で通す様に助言したのは私です。ナーテはすぐにでも訂正したかったようです。』『そうなのか?』『はい。ですから、罰は私が受けます。ナーテには、何の罪もありません。』『わかった。でも、ナーテにもルトにも罪はない。それだけは覚えておけ』『はい。ご主人様。』
「そうだな。せっかくできた階段だから、降りてみるか」
ナーテは何かいいたそうな雰囲気を持っているが、俺の後に従って階段を降りている。
★☆★☆★☆ ナーテリンデ・ブラント Sideあの声。おいらが女だって告げていた。にいちゃんが、聞き逃すはずがない。どうしよう。おいら、自分から言えなかった・・・。
『ナーテ。』
え?ルト?『ルト?』『えぇそうですわ。ご主人様は、まだ気がついていないようですわ。どうしますか?』『本当?』『えぇだって、それじゃなければ、さっき、ナーテを抱きしめたりはしなかったでしょう?』『・・・うん。にいちゃん。優しかった・・・。』『そうですわね。ナーテ。ご主人様と休憩の時に二人になれるようにします。自分で言うのですよ』『・・・うん。解った。でも、にいちゃん。おいらの事・・・。』『大丈夫ですわ。ご主人様なら、きっとナーテを受け入れてくれますわ。』『うん!解った。』
にいちゃん。おいらの事。どう思っているのだろう?ラウラ姉やカウラ姉と同じなのかな?それとも、本当に、弟と思っているの?にいちゃんにいろいろ聞きたい。でも、嫌われたくない。村の子供達は兄妹みたいな物だ。にいちゃんは?おいらは、にいちゃんになんでこんなに嫌われるのが嫌なの?好きだから?でも、ルトも好きだし、ラウラ姉やカウラ姉も好き。ユリアンネ姉は時々意地悪だけど好き。アン姉も好き。ヒルダ姉も・・・時々怖いけど、好き。
ユリウス様は?少ししか話していないけど、嫌いじゃない。ギルもいろいろ教えてくれた。にいちゃんの周りの人たちはみんな好き!だから、にいちゃんにも嫌われたくないの?違うような気がする。でも、にいちゃんが一番好き!
わからないや。
おいらは、にいちゃんの後につづいて歩く。
★☆★☆★☆
「ここからは、魔物が出るかも知れない。先頭を俺とカウラ。次は、ユリアンネとヒルダ。次はナーテとルト。最後をラウラとアン。大丈夫だとは思うが、ラウラとアンは後ろにも注意してくれ。」
隊列を組んで歩いて行く。広さはそれほど広くないようだ。すぐに、下への階段が見つかる。
「アル様。どうしますか?」「そうだな。馬の事も気になる。一旦、迷宮ダンジョンを出て、街に馬車を置いてきてから、再度アタックしようか。」
俺の提案に、アンとルト以外が賛成した。「アン。どういう事だ?」「だ・か・ら。この迷宮ダンジョンは、たしかに、アルの物だけど、そんなの関係ないしに、攻め込んで来る輩がいるかも知れないでしょ。だったら、二手に別れて、馬車を返しに行く人間と、ここで迷宮ダンジョンに誰も入らないようにする役目が必要でしょ」「それは解った。でも・・・。」
アンとルトの提案は、迷宮ダンジョンには俺とナーテとルトが残る。それ以外は、馬車を領主の街に返しに行くという事だ。ヒルダも最初はこちらに残ると言っていたが、アンが何なら耳打ちをしたら、街に戻って食料や道具を買いに行く事に了承した。
何か考えがあるのだろう。確かに、迷宮ダンジョンには、ナーテの力が絶対的に必要な様だ。だったら、ナーテを残す。ナーテが残るのなら、自然とルトも残る。俺が残るのは、『98』との事があるからだろう。街にも、ヒルダが行った方が、話が早い部分がある。ここでは身分は使えないが、交渉事なら、ヒルダとユリアンネにまかせておけば大丈夫だろう。それに、ラウラも一緒ならカウラやアンの暴走も止められるだろう。間違っては居ないが何か作為的な物を感じる。
「まぁいいか。1週間くらいか?気をつけていってこいよ。」「はい。アル様。かしこまりました。帰りは、加速してくるので、そこまでかからないかと思います。」「アル兄ィ行ってくる。」「お兄様。行ってまいります。お土産買ってきますね。」「アルノルト様。路銀も少し引き出してきます。」「アル。って事で、行ってくるね。」
馬車に乗り込んで皆が領主への報告もついでにしてくる事になった。ラウラ達が馬車で走り去ってから、数分が経った。
俺とナーテとルトは、迷宮ダンジョンの中に入った。1階層では、気楽に休める場所がなかったが、入口近くで野営する事にした。食料はたっぷりとは言わないが、3人で皆が戻ってくるまで食べられる位はある。
「ご主人様。」「ん?ルト。どうした?」「えぇーーと。あぁぁそうだ。私、燃やせる物を探してきます。魔法での炎もいいのですが、たまには木を燃やしてもいいですよね。獣避けにもなりますし、煙は虫除けにもなります。」
バレバレの演技だが、俺としても、ナーテのその泣きそうな顔を辞めさせたい。
「そうだな。ルト。悪いけど、頼めるか?それと、もし、食べられそうな獣や木の実があったら頼む。食料はまだあるけど、補充ができたら嬉しい。」「かしこまりました。ご主人様。少しお時間をいただく事になりますがご容赦下さい。ナーテ。ご主人様をしっかりお守りするのですよ。」「・・・うん!」
ルトが森の中に入っていく。「ナーテ。本でも読んで待っているか?」「・・・にいちゃん。」「ん?どうした?そんな所で立っていないで、こっちに来いよ。」
ナーテを横に座らせる。
「ん。にいちゃん。おいらの事。」「あぁ大切な仲間だ。仲間ってよりも、家族だな。これからも一緒に居たい。それは、ナーテが何者でも変わらない。」「・・・にいちゃん。おいら。おいら。本当に、フランケンシュタイン博士の・・・。」「どうだろうね。それはわからない。でも、そうだとしても、ナーテはナーテだろう。でも、魔法技能を見ると、そうだったとしても不思議はないよな。」「・・・ねぇにいちゃん。」「なに?」「にいちゃん。おいらね。にいちゃんに謝らないとならない事がある。」「どうした?」「あのね・・・・。」「うん。」
横に座るナーテの頭に手を置く。
「にいちゃん。あのね。おいら。女で・・・、男のフリして、ごめんなさい。でも。でも・・・。」「そうか・・・ナーテは、女の子だったのか?そうだよな。こんな可愛い男がいたら困るよな。俺の方こそごめん。気がついてやれなくて、男の子だと、思っていたよ。」「・・・にいちゃん。おいら。かわいい?」「あぁ可愛いし、かっこいいぞ。」「ほんとう?」「あぁ本当だ。ナーテが、男の子でも、女の子でも、俺はナーテと一緒に旅をしたい。これからも、俺と一緒に旅をしてくれるか?」「え?本当?にいちゃん。おいら、にいちゃんと一緒に居る。で、もっともっと強くなる。強くなって、にいちゃんの役に立つ!」「ナーテ。大丈夫だ。今でも、ナーテは、必要だよ。でも、女の子なら一緒には寝られないかな?」
少しだけ意地悪をしてみたくなる。自分が女である事を告白して、意識が変わったのだろう、急に女の子っぽい顔をするようになった。
「・・・やだ。おいら。にいちゃんの・・・え?なんで?嫌なのだろう?おかしい。でも、イヤ。にいちゃんの横はおいらが寝る場所。」「わかった。わかった。泣かなくていい。ナーテ。でも、女の子だって黙っていた事は、みんなにもしっかり謝るのだよ。」「うん。わかった!」
「ルト。居るのだろう。」「ご主人様。」
ルトが帰ってくる。俺の横に座って、俺の袖を握っている。ナーテを見て、安心した用だ。俺が振り払っていない事で安心したのだろう。
それから、ナーテが狩ってきた獣と持っていた野菜でスープを作って3人で食べた。夜は、ルトが起きて火の番をすると言い張った。ナーテは、遠慮しながらだが俺の横に来て、寝息を立て始めた。
「ご主人様。ありがとうございます。」「なんだよ。突然。」「いえ、ナーテの事を受け入れてくれて・・・。」「当然だろう。ナーテが女か男かなんて些細なことだろう。」「そうですね。ナーテはナーテですからね。」「そうだろう」
いつの間にか、俺の腿を枕にして丸まって寝ているナーテの頭を撫でながら、ルトとこれからの事を話した。取り敢えずは、ラウラ達が帰ってくるまでおとなしく待っている事にした。その間、ナーテには魔法を教える事になった。教えると行っても、俺が知っている事は少ない。本を見ながら、二人で詠唱を工夫する位だ。幸いな事に、近くに人が居ないので、広域的な魔法でない限り、試す事が出来る。
5日後に、ラウラ達は戻ってきた。領主との面談も済ませてきたと言っていた。そして、商人ギルドの預け金がすごい事になっていると笑っていた。あって困るものではないので、有効に使わせてもらおう。
ラウラ達と合流して、迷宮ダンジョンの中に入っていく。今は、5階層に差し掛かっている。まだ魔物は一匹も出ていない。
「どうおもう?」
横を歩く、ラウラに問いかける。「アル様。魔物の気配が全くありません。」「だよな」「はい。でも、なんかイヤな感じがします。」「う~ん。そうだよな。何かに見られていると言うか、見張られているというか・・・。」
10階層まで降りてきた。魔物も罠もない。多少道が複雑になっては居るが、全体的に狭いのかそれほど苦労する事なく、階段が見つかる。前の例だと、ここにフロアボスが居たのだが、そんな事はなく、11階層への階段が見つかる。
20階層になってもそれは変わらない。でも嫌な感じは消えない。
魔物との戦闘がないまま、25階層に到達した。今日は、ここで休む事にした。
どのくらいの深さがあるのだろう?
考えていてもしょうがない。翌日からも下に降りていく。これなら、魔物が居てくれたほうが良かったのかも知れない。少なくても、飽きは来ない。
いやダメだ。こういう時に、システムでもミスが発生する。ルーチンワークになっている業務では、緊張感が無くなった時が一番危ない。それも、普段問題が無い部分だから、問題が発生した時に、取り返しがつかないミスになる。
この日から、緊張感を持つために、休憩の度に模擬戦を行う事にした。魔法はなし、どちらかが、相手の背後を取るか、模擬刀で身体に触ったら終わりというものだ。負けたら、暫くは夜寝る時に、1人で寝るか火の番をする事に決まった。そんな事でいいのかと思ったが、彼女たちにはそれが一番つらい罰の様だ。真剣に模擬戦を行っている。
そして、探索でミスをしたら、模擬戦も行わないで罰が執行される事になった。
30階層まで来ている。本当に、ただの巨大な迷路になってしまっている。俺達はステータス袋があり兵站の問題が極端に少ない。それで助かっているような物だ。普通なら、ここまで重い荷物を持って、且つ実入りになるような鉱石もなければ、魔物も居ない。それじゃこの迷宮ダンジョンは誰も寄り付かなくなるな。ナーテが突破した仕掛けがなかったとしても、この迷宮ダンジョンはほぼ意味が無いのだろう。
それでも探索を続ける。すでに、45階層に来ている。ネタ切れなのか、分岐も少なくなっている。階層自体は単純な作りになっている。部屋が無いので、休める場所は少ないが、周りが見えるような直線になっている通路で休むようにはしている。
50階層に着いた。もうそろそろ終わりが見えてきたのか?
50階層は、通路ではなく、広い部屋がただ存在するだけだった。部屋の中心まで進むと、床が光った。何か、魔法陣の様な物が浮かび上がる。
”罠か!”
光が収まる。正面には、可愛い熊のぬいぐるみテディベアが立っている。
刀に手をやる。
『まった!』
ぬいぐるみがトテトテ歩いてきて、土下座の格好になる。
「はぁ?」
『ディートフリート・フォン・フランケンシュタインのご子孫様。そして、それに連なる賢者よ。我を助けてください。』
「はぁ?賢者?」
周りを見回す余裕がなかったが、改めて見回すと、管理室の様な感じになっている。全部の電源が落ちていると、言って良いのかわからないが、火が入っていないのは確かな事だ
「ナーテ。一応、聞いておくけど、このぬいぐるみはおまえの知り合いか?」「にいちゃん。おいら、喋るぬいぐるみに知り合いは居ないよ。」「そうだよな。アンやヒルダ・・・」皆に言葉をかけるが、勿論、誰も心当たりがない。
「さて、ぬいぐるみさん。私達は、貴方の事をなんて呼んだらいい?」「あっはい。ご挨拶が遅れました。賢者様。私は、魔法生命体。テディです。お見知りおきを!」「そのままの名前だな。それで、テディはここで何をしていて、俺達に何をして欲しい?」
「あっそうですね。その前に、お名前を伺っていいですか?」「そうだったな。俺は、アルノルト。アルと呼んでくれ。そして、フランケンシュタイン博士の子孫になる。この娘が、ナーテリンデ。」
「それにしても、テディはどうやって話しているのだ?」『簡単な事です。私は、ディートフリート様によって、このアーティファクトに精神を”だうんろーど”されました。私は、上手く定着できたけど、ダメだった者も多いと聞いています。』「え?それじゃ、何人も死んでしまったの?」『あっ誤解が有っては困るので、しっかり説明する。私達は、もともと死んだ者です。私達と言っているのは、このアーティファクトに”ダウンロード”を試された者が沢山居ました。私達は、この近くの村の出身で、流行り病で死んでしまった。その時に、ディートフリート様が私達の遺体と引き換えに、村を援助していただいた。』「そうか・・・それじゃ死んでしまった後に・・・ん?もしかして、魔晶球での・・・。」『いえ・・・。私1人だけが定着できたので、私がディートフリート様のお手伝いをする事になったのです。』「ほぉ。それで、話を戻した悪いが、テディは、俺達に何をして欲しいの?頼み事をするというからには、報酬もあるのだろうね?」
『はい。頼み事は簡単です。この施設のオーナになって下さい。』「え?それだけ?」『はい。それで報酬は、この施設のすべてでどうでしょうか?』「ごめん。意味がわからない。オーナなら、テディがなればいいよね?」『ダメなのです。私は、魔力で動いています。その魔力ももうなくなりかけています。施設のオーナが決まり、施設が稼働しないと・・・・人や獣が入ってこないと、魔力が貯まらないのです。』「え?あっそれで、道中魔物も罠も作動しなかったのか?」『はい。そうです・・・。だから、私は、3階層で扉を作ったのです。ディートフリート様から言われた通りに・・・。』
「解った。そのオーナになるにはどうしたらいい?」『!!!はい!!!。その装置に、手をかざして下さい。ステータスプレートを出していただければ、それで接続完了となります。貴方がオーナですか?ディートフリート様のご子息様でなく?』「ナーテでも良いけど、一番魔力に余裕があるのは俺だからな。俺のほうがいいだろう?」『え?あっはい。そのほうが私としては嬉しいです。でも・・・「いいから、いいから、大丈夫!」』
”オーナ権限は現在設定されていません。スリープモードです。””オーナ権限保有者ではありません。管理者モードで起動....成功。魔力確認...成功。””オーナ権限の書き換えを行います。候補者は所定の操作を行って下さい。”
俺は、ステータスシートを広げた。
”ステータス確認。管理者確認....成功。回路接続....成功。権限付与....失敗。権限付与.....失敗。”
『98』のアイコンが点滅している。開けって事か?
”98シリーズの存在を確認。権限付与....成功。”"権利者を確定。ユーザ名。パスワードを設定して下さい。"
ユーザ名とパスワードを設定した。
その瞬間、魔力がごっそり持って行かれた。魔力不足にはならなかったが、俺じゃなかったら耐えられなかっただろう。
少し、落ち着いて周りを見回してみる。心配そうに見つめる6名とテディを熱い目で見つめる二人が居る。

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