【旧】魔法の世界でプログラム

北きつね

迷宮攻略の報告

ユリウス達は予定通りに到着した。すごく残念な事に・・・。一日。いや、半日遅れてくれれば、それを理由に国境を目指しても良かった。
「アル!」「ユリウス。」
抱き合ったりはしない。1ヶ月と少ししか経っていないのだ。
「早速で悪いが、一つずつ確認していこう。場所は確保しているのだったよな。クリス?」「えぇユリウス様。アルノルト様にそんな事を頼んだら逃げられてしまいますからね。わたくしが代官に言って確保しています。」
「クリス。おまえな・・・。」「事実でございましょう。」「・・・・そんな事はない。と、思いたい。」
やはり、仲間っていいのかも知れない。信頼できる連中に全部を任せられるのは贅沢な事だろう。
慌てて駆け寄ってきた、代官を先頭にして、会議が出来る部屋に入った。
「ラウラ。遮音と防音を頼む。カウラ。誰か来たら教えてくれ。アン。廊下の警戒を頼む。」「かしこまりました」「はいにゃ」「了解!」「ルト。悪いけど、外に待機しているメイドを下がらせて、代わりに、飲み物とつまめる物を頼む。ナーテ。ルトを手伝って欲しい」「ご主人様。かしこまりました」「わかった!にいちゃん。お菓子。頼んでいい?」「あぁルト。ナーテやヒルダやユリアンネのつまむ物も頼むな」「かしこまりました」
「アル。おまえ、急に変わったな」「なにがだ?ユリウス。」「今なら、おまえが辺境伯でも文句を言うやつは居ないと思うぞ」「なんだよ。カールが居るし、俺は俺のやりたい事をやる。」「・・・そうか・・・。」
「アルノルト様。ヒルデガルド様からの連絡では、要領を得ない部分が有ったのですが、聞いていいですか?」「あぁ」
クリスの質問は簡単だ・ウーレンフートの迷宮ダンジョンの攻略ができたのは本当なのか?・最終地点に、『ディートフリート・フォン・フランケンシュタイン』の遺産が有ったのは本当なの?・『ディートフリート・フォン・フランケンシュタイン』の遺産はどういったものなのか?だ。質問に答える形で、説明を終えた。
「ユリウス様。アルノルト様のお話を聞いて、どう思いましたか?」「あぁ今まで"なぞ"とされていた事が幾つかわかったな。」「えぇ軍部と魔導部隊の確執はその頃から有ったのですね。」「そうだな。そして、アル。それらをどうするのだ?」「どうするって?」「公表するのか?」「それを聞きたかったのだよ。俺としては、別に軍部と魔導部隊の確執や、フランケンシュタイン伯爵が晩年どうしたのかには興味はまったくない。『98』と魔法関連の書籍があればいい。それに、あの迷宮ダンジョンをクリアするのは並大抵じゃできないぞ。俺達は、ステータス袋があったから兵站の部分で大分楽ができたけどな。それでもギリギリだったからな。」「そうか・・・クリス。俺も、この件は、内密に処理するほうがいいと思う。」「わかりましたわ。冒険者ギルドにも話を通しておきますわ。」
「ん?なんで、ここで冒険者ギルドが出て来る?」「え?ご存じなかったのですか?アルノルト様達が持ち帰った素材ですが、通常の浅い階層では出てこない物ばかりで、ギルドの上層部から私達の方に問い合わせが来ているのですよ。」「へぇそうかぁ・・・。そりゃぁ悪かったな。好きにしていいって言っておいたのだけどな。金には困っていないからな。」「支払いの問題だけではなくて、ギルドランクの問題もあります。いきなり、シングル一桁ランクになるのは当然ですけど、5か4になりそうだという話です。前代未聞なのは間違いない事ですからね。」
「アル兄ィ。すごいにゃ」「にいちゃん。すごいな」
いつの間にか、横に座って、お菓子を頬張りながら、カウラとナーテが俺を褒め称える。
「はぁ・・・。」「別に、ギルドランクにも興味はないからな。不自由なく移動できる為の身分程度に考えているだけだからな。ランクも別にそこまで高くなくていいよ。面倒なら、なかった事にしてくれてもいいからな」「・・・はぁ解りました。その筋で考えてみます。」「悪いな。頼む。」「えぇ調整を行いますので、後5日位は、この街に居てくださいね。居なくなっていたら、王国全土に、”アルノルト・フォン・ライムバッハが、150年以上攻略されていなかった、迷宮ダンジョンを踏破して沢山のアーティファクトを持ち帰った”と宣伝しますからね」「なっ解った。解った。クリスからOKが出るまで、街に留まるよ。」「えぇそれでお願いします。ユリウス様。わたくしの話はこれで終わりです。」
「アル。アーティファクトだけど、6個も出たのか?」「正確には、7個だけど、”この”形式の物は6個だ。」
机の上に、携帯電話を並べる。
「ふむぅ微妙に形が違うのだな。」「あぁフランケンシュタイン博士風に言えば次元を越えて流れ着いたという所だな。」「それでな、アル。おまえはこれの使い方がわかるのか?」「あぁわかる。」「そうか・・・。」
6台ある中から一つだけ毛色が違う物がある。米国で初めて黒人で大統領になった人が愛用していた物だ。俺も、持っていた。実は、この端末設定次第でセキュリティが強いメールが使える。それが好きで使っていたが、周りには不評だった。面倒だと言うのが主な理由だ。
「ユリウス。適当に一つを持って、部屋から出てくれ。そんなに遠くまで行く必要はない。そうだな。アンならわかるか?」「うん。実際に使った事はないけど、見たから大丈夫。」「アン。ユリウスについていってくれ、心配ならクリスもついて行ってくれ。」「了解。」「そうですね。ユリウス様だけだと評価ができないかもしれませんからね。」「おまえら・・・まぁいい。アル。外でいいのか?」「あぁ大丈夫だ。」「なぁアル。俺も、ユリウスと一緒に行っていいか?」「あぁ問題ない。」
ユリウスとクリスとアンとギルが部屋から出ていく。
『アン。そろそろいいか?』『あっ念話だね。こっちは大丈夫。番号は・・・。』『大丈夫だ。持っていった物で覚えている。』『了解。』
ユリウスに電話する。懐かしい感覚だが、これはこれで緊張する。
プルプル。音は変わらないのだな。
番号は、そのままのようで、11桁の090で始まる番号を入力する。日本に繋がったらそれはそれで面白いけど、そんな事はなかった。試しに、石川や山本の番号を入力してみた。それに、もう15年以上が経っているからな。忘れられているのだろうな。
『なっアンネリーゼ。これをどうしろと』『あぁユリウス。聞こえるか?俺だ。』『なっアルなのか?』『そうだ。これは、こういうアーティファクトだ。離れた場所に居る者と会話が出来る。それ以外にもいろいろ出来るが、今は会話が出来ると思ってくれればいい。アンに変わってくれ』
『もしもし。アル。』『なんか、そういう答えも新鮮だな。』『そうだね。あぁ悪い。アン。一旦切ってから、そっちからかけなおしてくれ。番号は』『大丈夫。履歴に残っている。』
しばらくしたら、アンから電話がかかってきた。すぐに、ギルが電話を受け取って、一言二言話したら、電話を切った。
その後は、想像出来る展開だった。興奮したギルとユリウスをなだめながら、クリスと話をする。今手元にあるのは6台。その中から一台を発見者である俺が確保する。これは、正当な権利だと思っている。電話帳機能もある。文字の入力も出来るようだが、残念ながらこちらの入力方法は確立していないようで、無理矢理アルファベットに置き換えたような感じだ。でも、入力もできた。それぞれに電話番号をセットした。
ユリウスとギルに一台ずつ持たす事は確定した。後、ライムバッハ家に1台置いておく事にする。家電の様な感じだ。盗まれても、正直一台では使いみちがそれほど有るわけではないが、好き者ならどんなに金を払ってでも欲しがるだろうという事で、クヌート先生が管理する事になった。残り2台。エヴァとザシャにと思ったが、二人ともそんな狙われるかも知れない物は持ちたくないという事だ。残った二台は、王家。皇太子に渡す事になりそうだ。残った一台は、やはりエヴァに持たせる事にした。教会に連絡を頼む事が出て来るかもしれないという配慮からだ。盗まれるのが怖ければ、ステータス袋の中に入れておけばいいだけだ。
携帯電話の配分も終わった。「なぁクリス。アーティファクトを勝手に分配していいのか?」「え?何を今更。それに、アルノルト様達が見つけてきたものですし、フランケンシュタイン博士からの譲渡契約書もありますから問題ありませんわ」「そうか、それならいいのだけどな。」「それに、その”けいたいでんわ”でしたか?使い方は、アルノルト様だからわかったのですし、問題ありませんわ。もし、魔術ギルドや職人ギルドに渡しても、数年は使い方すらわからなかったと思います。それに、これからの冒険には、絶対的に必要なことですわよね?」「そうだな。どのくらいの距離で話が出来るのかわからないが、遠距離との情報伝達手段が出来るだけで話が違うだろうからな。今回の様な時でも、連絡が付けばもっと違った動きもできただろうからな。」「そうですね。問題は・・・。」「皇太子か?」「そうですね。アルノルト様のお父様がこの事をしったら・・・。」「激怒しそうか?」「怒るには怒るでしょうが・・・多分、アルノルト様のお考えとは違いますわよ」「ん?」「なんで自分を呼ばなかったのだって怒られるでしょうね。こんな面白い物があるのなら、自分に連絡をしてこいって言うに決まっています。」「あっそういう事か・・・。」「そうですね。ユリウス様はいい意味で、皇太子様に似ていません。ヒルデガルド様のほうが似ていらっしゃるでしょう。ユリウス様は、現国王陛下に似ていらっしゃいます。」「なんか、いろいろすまんな。クリス。」「いえ大丈夫ですわよ。ヒルデガルド様が加わらなかったのは幸いですわよ」
「ひどいですよ。クリス姉様。」「ヒルデガルド様。姉様は止めて下さい。貴女は、皇女なのですよ」「今は違います。アルノルト様の婚約者です。それに、お父様のお許しも貰っています。降嫁も決まっています。」「はぁ・・・。解りました。それで、ヒルデガルド様は、どうしされるのですか?」「ん?決まっていますわ。わたくしは、アルノルト様と一緒に行きますわ。」「その気持ちは変わらないのね。」「勿論ですわ。クリス姉様も、ユリウスお兄様と一緒に居るのでしょ。それと同じですわ。」「それを言われると・・・。はぁ解りましたわ」
「アルノルト様」
何故か、背筋を伸ばしてしまう。
「これからどうされるのですか?」「あぁ共和国に行ったと思われる、二人を追ってみる。後、フランケンシュタイン博士が最初に攻略したという迷宮ダンジョンも探ってみたいと思っている。何か、新しい発見があるかも知れない。」
「解りましたわ。」「クリス。これから、できるだけ連絡するようにするから安心してくれ。その為の携帯電話だからな」「あっそうでしたわね。」
ふぅ危ない。危ない。クリスの事だから、なんだかんだ言って止めようとするかも知れなかった。そうなったら、楽しめなくなってしまう。
「なぁクリス。アル。話は終わったのか?」
ギルが横から口を挟んでくる。ディアナも身を乗り出してくる。そう言えば、”鋳直す”事に関しての話をしていなかった。
「ギル。多分、ディアナは知っているかも知れないけど、スケルトン系の魔物が落とす武器や防具だけど、今まではどうしていた?」「どうしていたって、なぁ・・・。俺の所では引取はしていない。使いみちがないからな。ディアナの所では使うのか?」「ううん。一部、質がいい物が混じっている事があるから、その時には、磨いたりはするけど、殆どが使い物にならない。」「そうなのか・・・作り直しとかしないのか?」「作り直す位なら、新しく作ったほうが楽だし、良い物が出来る。」「それは、武器や防具としてだよな?」「うん。それ以外に、何が出来る?」「う~ん。鉄製の道具とか・・・例えば、鍋とか馬車の車軸とかは?」「無理だよ。アルノルト。どうやって、あんな物を鍋にしたりするの?」
「・・・。そうか、再利用方法は確立していないのだな。」「うん。だから、アルノルトが言っている”鋳直す”が、初代様が言っていたと言われる。打ち直しなら、知りたい。」
「あっ”打ち直し”は、刀のことだよな?」「多分、何も資料が残っていない。」「”打ち直し”とは違うけど、”打ち直し”が刀の事を言っているとしたら、方法はわかるぞ」「え?本当?教えて!」「でも、”打ち直し”は辞めたほうがいいぞ。一応、方法は後でまとめるけどな」「そうなの?なんで?」「簡単にいうと、一度作った刀が火事とかで使えなくなってしまったり、錆びたりしてしまった時に、”打ち直し”をするけど、そうしたら、刀はより硬くなってしまうからな」「なぁアル。硬くなるのならいいことじゃないのか?」「それは違う。ある程度の柔軟でなければ、刀では切る事ができない。だから、硬くなると折れやすくなる。と、言われている。」「うん。初代様も同じように言っていたらしい。でも、今ある刀は使えない位になっているから、"打ち直し”して使えるようにしたい。」「そうか、”研ぎ”はどうしている?後、手入れも必要だし、”鞘”も必要だぞ?」「”研ぎ”?”鞘”?」「あぁ面倒だ。少し待っていろ、まとめておく。」「うん。ありがとう。」
「なぁアル。それと、”鋳直す”と何か関係あるのか?」「すまん。横道に逸れた。”鋳直す”のは、アンデッド達が使っていた武器や防具の鉄武具を溶かして、別の製品にしてしまおうという考え方だ。型を作って、そこに流し込めば、同じような鉄製品を大量に作れるぞ。」「なっ。アル。それは本当か?」「アルノルト様!」「アル!」
なぜか、クリスとユリウスが叫んだ。ギードとハンスも目を見開いている。あぁそうか、鉄製の武器防具を大量に作れるという事になるのか?平和利用だけにしたいけど、ダメなのだろうな。
「あぁ本当だ。方法は、それほど難しい物ではない。高温に熱していけば、鉄は溶け始める。溶けた物を、型に流し込めばいいだけだ。型も、土魔法が使える物がいれば作るのも苦労しないだろう。」「・・・。」「問題は、高温に熱する所だけど、硬貨を作っているだろう。それと同じような・・・あっダメか。」
そうか、その問題があった。鉄の融点は、1538度。金や銀や銅の融点よりも高い。鉄の鋳物が作れるという事は、硬貨の偽造ができてしまう事になる。確かにこの問題を忘れていた。
「なぁクリス。硬貨って王国が作っているのだよな?」「えぇそうです。」「そうか、そうなるとダメかな・・・。」「え?何がですか?」「だって、金と銀と銅の融点は、鉄よりも低いぞ。いろいろ加工の手順が必要だろうけど、硬貨の偽造ができてしまうだろうからな」「え?そうなのですか?」「ん?何か、話が噛み合っていない。硬貨って、金や銀や銅を溶かして作っているのではないのか?」「いえ、これもフランケンシュタイン博士の功績ですが、魔道具で作っています。中身の解析はしていますが、150年間誰も解っておりませんわ。」「・・・そうなのか?それなら、鋳物作ってもいいのかな?」「えぇ一応方法をお聞きしたいですわ。」「いいけど、これ俺が商人ギルドに登録するぞ」「あぁ勿論ですわ。いいですわよね。ギルベルト様。ユリウス様」「あぁ」「もちろんだ」
翌日、鋳物の作り方をまとめた物を作成して、商人ギルドに登録を行った。その場で受理されたので、一切の運営は、シュロート商会に任せる事とした。実験研究の為に、ライムバッハ領において、領主の許可で扱う場合はこの限りではないとした。ついでに、気休めだろうけど、"軍事利用は不可"とした。"武器・防具”にあたる物を作成する場合には、通常の1,024倍の権利料を必要とすると明記した。
諸々の手配をして、詳細をクリスに任せた。苦笑しながら、"いずれ借りを返してもらいます”と怖いことを言っていたが踏み倒させてもらいます。
ギルは、一旦ライムバッハ領に戻った後で、王都に戻る事になる。鋳物の事もそうだが、携帯電話を皇太子に届ける役目がある。ユリウスはライムバッハ領を離れられないという理由を言っている。クリスは、ユリウスの補佐だ。他のメンバーもそれぞれに理由を着けているが、皇太子に会いたくないというのが本音だろう。それに、王都までの旅路はやはり疲れるのだ。
俺達も、ユリウス達がライムバッハ領に向かうのに合わせて、国境を越えて共和国に向かう事にした。またしばしの別れとなる。
今度は、携帯電話もあるので、近況報告がかなり楽に出来る。皆と別れて、俺達も街をあとにした。

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