【旧】魔法の世界でプログラム

北きつね

ライムバッハ領

『お兄様。帰ってきたのですわね』「あぁそうだな。帰ってきたな」
「なぁにいちゃん。”帰ってきた"って、ここの人だったのか?」「そうだよ。」「ナーテ。アルノルト様は、ここのご当主代行なのですよ。」「え?にいちゃん。貴族様だったの?」「貴族様って、そうだけど・・・」「へぇおいら、貴族って始めてみた。あんまり偉そうじゃないのだな」「ナーテ。違いますよ。アルノルト様が特別なだけです。」「へぇ貴族ってもっと偉そうで、もっと横暴だと思っていた。良い奴も居るのだな」「そりゃぁそうだよ。じゃなかったら、領民が着いてこないだろう?」「それを、暴力で聞かせているのだと教えられたからな。」「そうか、ナーテは共和国の人間だったな。共和国じゃ貴族は居ないからな」「うん。でも、領主や商人が偉そうにしているよ。自分たちはなんにもしないのに、偉そうなのは一緒だよな」「そうだな。」
政治形態にかかわらず、トップが愚か者だと腐っていく。それを、政治形態の責任にするのは間違っている。リスクの度合いが違うだけなのだ。そう考えると、俺は王国でも帝国でも共和国でも別に違和感なく過ごせると思う。どのみち権力者とは関わり合いになりたくないというスタンスは変わらないのだから、でも、今までの事や恩義を感じるという意味では、王国が祖国な事には違いはない。確かに、気に入らない奴らは居る。それはどこの国でも同じだろう。
そう言えば、ストーカー達は加速を始めた辺りから着いてこられなくなってしまったようだ。目的地は教えてあるから、そのうちまたやってくるのだろう。
「もう夕方になっちゃったから、今日はこの辺りで休んでから、明日ライムバッハに入ろう。ユリウス達が着いていたら、話しも通しやすいだろう。」『はぁーい』
聖獣と子供たちが返事をする。この3週間で大分子供たちもたくましくなった。野営を行うときの手順や武器の取り扱いも出来るようになった。あと、聖獣達と狩りに出かけて、大物を仕留めて帰ってきて、皆で食べたり、なかなかできない経験を積ませる事ができている。特に、ナーテは生活魔法だが、魔法の発動に成功している。共和国では、一部の教会関係者や商人。行政官の子弟などのいわゆる特権階級にしか魔法が公開されていない。ナーテは今年で8歳になると言っていたが、神殿での測定式はまだ行われていない。共和国の辺境の村ではそれが当たり前だと話していた。一部子供のときに魔法が発現した者は、すぐに教会に連れて行かれるか、商人や行政官に養子として”買われていく”事になる。共和国も、神殿は存在しているが、教会の力が強くて、教会がほぼ首相を選任するような形になっているようだ。政治に関わる所は、ヒルダとユリアンネの補足だった。
ナーテが、ちょこんと隣に座った。魔法を教えてから、よく座るようになってきた。「なぁにいちゃん。ヒルダ姉と結婚しているって本当なのか?」「はぁ?誰がそんな事を言った?婚約はさせられたが、婚姻はまだだぞ」「なんだぁヒルダ姉ちゃんが、『アルノルト様の一番は私だから、妾なら歓迎だ』って言っていたからな」「あの馬鹿。まだそんな事言っているのか?」「でも、にいちゃん達結婚するのだろう?」「そうだな。このまま行けば、そうなるとは思うけどな。」「ふぅ~ん。」「ナーテ。何がいいたい?なんだ、お前、ヒルダの事が好きなのか?」「なっ馬鹿。にいちゃん。違う。そんなんじゃない。」「ハハハ。まぁいい。それで、決めたか?」「うん。おいらを除く、22人は、にいちゃんの所で世話になります。よろしくお願いします。」「ナーテはどうする?」「にいちゃんにそれでお願いがあって来た。ヒルダ姉ちゃんには許可を貰った。にいちゃんが”いい”って言うのなら、反対しないと言ってくれた。」「・・・そうか、それで、どうしたい?」「うん。にいちゃんとヒルダ姉と一緒に共和国に戻る。でも、共和国で生活したいって事じゃない。にいちゃんと一緒に居たい。おいらも冒険者として、にいちゃん達と一緒に居たい。」「・・・そうか、今、8歳だったよな?」「うん。」「なんで、冒険者になってまで、俺達と一緒に居たい?いや、その前に、なんで冒険者になりたい」「うぅぅぅ・・・。ルトラウトさんに助けられてから、にいちゃん達とこうして旅をして、いろんな場所や不思議な事があるって知った。おいらは、それをもっと知りたい。もっと見てみたい。そう思った。それと、にいちゃん達と一緒に居ると楽しい。確かに、狩りでは怪我したり、痛い目に有ったけど、でも、にいちゃん達となら笑っていられる。それに・・・(にいちゃんの事が・・・。)」「それになんだ?」「ううん。何でもない。ダメか?」「そうだな。俺達は、ライムバッハで少しやることがある。多分、半年位は過ごすだろう。その間に、ナーテには神殿に行ってもらう。そこで、精霊の加護が受けられるか測定式を受けてもらう。その後で、ナーテには半年かけて勉強してもらう。それで、俺の出す問題が解けるようなら、連れて行こう。それでどうだ?」「うん!おいら。頑張る!」
「ヒルダ姉ちゃん。勉強教えて!」早速、動くようだ。
精霊の加護は問題なく受けられるだろう。すでに、生活魔法が使えている事から間違いないだろう。
翌日。ライムバッハの街まで馬車を進めた。
ユリアンネにしたら、数ヶ月ぶりだが、何年も前に出た感じがしているのだろう。俺も、2年ぶり位だったが、もっと来ていなかった気がした。
ユリウス達が到着しているだろうから、城壁での検問に並んだ。こういう所で特権階級を振りかざすのは好きじゃない。俺が出ていけば、そのまま通過出来るかもしれないが、長くても1時間位並べばよさそうなので、気長に待つことにした。馬車の中では、子供たちが”リバーシ”で遊んでいる。トランプでババ抜きをしているグループもある。やはり、子供の方がこういうゲームは覚えるのが早い。”風龍”を使って、馬車全体を遮音にしている中でどんなに騒いでも、外に漏れる事はない。子供の声って目立つからね。並んでイライラしている人たちが余計にイライラしないように配慮した。ボロボロの馬車だったし、御者が俺とヒルダだから、目立ちはするが、何か有ったのだろうという目で見られているだけで終わっている。着ている物も粗末な物にしているので、目立たなくてよい。
兵達は少しピリピリしていた。それもそうだよな。現当主が殺されたそれも一家揃ってだ。生き残ったのは、俺とカールだけ。それを受けて、ユリウスが後見人となって来ている。これでピリピリしない方がおかしい。
俺達の順番が来た。若い守備兵は、俺の顔を見て怪訝な雰囲気を出した。子供だけで馬車を率いてきたのだから当然だ。マナベ商会として入場しようとは思っていた。冒険者登録もしているので、両方のプレートを見せる。馬車が二台なのは、子供を護衛してきているからと説明した。守備兵から、手続きや税金の話を聞いた。知っていたが、一応確認の為に聞く事にした。俺もヒルダも身分は、冒険者兼商会関係者となっているので、街に入る為の税金は必要ない。子供に関しては、身請け人が居ない事から、一人あたり、銀貨3枚必要だと言われた。そして、10日以上滞在する時には、再度申請を行うか、身請け人からの証明が必要になるという事だ。これにも抜け道があって、子供の場合には、神殿に行けば、神殿が身請け人になってくれると説明された。
23人分の大銀貨7枚払って、一枚はチップとして守備兵に渡した。1,000ワト程度で関心が帰れば安いものだ。
手続きが終わって、馬車を進めようと思ったときに、見覚えのある顔が全力で駆け寄ってきた。「アルノルト様ぁぁぁぁぁ」
あっ家令のルステオだ。なぜバレた?
「ルステオ。久しぶり。」「アルノルト様。なぜご連絡を頂けなかったのですか?ユリウス殿下とご一緒ではないとお聞きしまして、このルステオご心配致しておりました。」「そうか?それで、ユリウス達は?」「・・・。まだでございます。先日、先触れが到着致しましたが、三日後の予定でございます。」「え?どこで追い越した?」「・・・アルノルト様。それで・・・。」「あぁそうだな。ユリウス達が先に来て事情説明をしてくれていると思ったが、そうじゃないのなら、俺が話した方がいいだろうな。皆。屋敷に居るのか?」「はい・・・。食客の皆様はもう出立してしまいましたが、お屋敷は以前と変わらないようにしております。我らは、お館様の御恩に報いるためにも・・・。」「わかった。ありがとう。取り敢えず、馬車で屋敷まで行こう。」「はっそれなら、私が先導致します。」「頼めるか?」「勿論でございます。」
前の馬車に俺とルステオが乗って、後ろはヒルダが乗って御者の様な感じを出している。
「この街は変わらないな。」「はい。お館様のお力です。『よい統治はよい領民を育てる。』」「そうだな。あっあそこは何を作っているのだ?」「あっはい。先触れが来て、教会の聖女様がいらっしゃるという事で、教会の工事が始まりました。それと、シュロート商会の出店も決まりました。」「そうか・・・父上の統治は素晴らしかったのだな。」「・・・はい。」「負けないようにしないとな。」「・・・アルノルト様。」
暫く沈黙が続いた。馬車が屋敷に到着した。
「アルノルト様。まずは、旅装をお解き下さい。食事はどう致しましょうか?」「そうだな。馬車の中に子供たちが居る。子供たちに食事を頼む。それから、どこか休める場所を用意してやってくれ。俺とヒルダで、今までの事を説明する。」「にいちゃん。おいらも一緒に聞いていいか?」「いいけど、面白くないぞ。」「うん。にいちゃんの事をもっともっと知りたい。」「わかった。でも、その前に風呂できれいになってからだな。俺と入るか?ここの風呂なら二人位なら入れるぞ!」「な・・・なにいってんだよ。にいちゃん。おいらひとりでも入れる。」「そうか、そうか、それなら、年少組の事頼むな。」「おぉぉまかせて」「ヒルダ。それでいいな?」「アルノルト様。解りました。それでは、私と一緒にお風呂に入るのですね。」「何を聞いたらそうなる?」「え?ナーテと一緒に入るのなら、私が一緒でも問題ありませんよね?」「はぁ問題有るだろう?」「・・・。まぁいいですわ。私も子供たちを綺麗にすればよろしいですか?」「あぁ頼めるか?」「わかりました。」「ルステオ。という事だ。手配頼めるか?」「かしこまりました。アルノルト様はどうされますか?」「ユリアンネの部屋と俺の部屋を見てから、応接室に行く。皆を集めてくれ。」「かしこまりました。応接室では全員入れないかもしれません。ダンスホールでもよろしいですか?」「そうだな。頼む。長い話にもなるから、座れるようにしておいてくれ。」「かしこまりました。」
聖獣を連れて、まずは俺の部屋に入った。6歳まで過ごした部屋だ。もう学校の寮の部屋の方が長く済んだが、俺が生活していた確かな場所だ。机に座った。机が焦げた後がある。魔法の練習で焦がした後だ。熱を出して寝込んだベッドもそのままになっている。本棚に入れてある魔法関係の本で、ナーテ達に読ませるように初心者向けの書籍を、数冊ステータス袋にしまった。その後、ユリアンネの部屋に入った。
ユリアンネが恥ずかしそうにしていたが、流石に俺が一緒でないと家のものに疑われる。一緒に入って、ユリアンネの服を何着かステータス袋に詰め込んだ。下着も入れようと思ったが、そこは流石に皆に一斉に止められた。こいつら起用に魔法で別の袋に積めてから、俺がステータス袋にしまった。ステータス袋を見ると、衣類は同じ物でなければ、一つにならないので、一度衣類も全部出して、下着を入れたのと同じ袋に詰めてからステータス袋にしまった。女の子の部屋に、あまり長居するのも問題がありそうなので、ユリアンネが必要と言った物だけを取って部屋を出る事にした。アンネリーゼがベッドの下から箱を取り出して『ユリ。これは持っていかなくていいの?』笑いをこらえている感じだ。『アン。それをどこから・・・ダメ。お兄様。』そう言われると見たくなるのが人間という物だろう。そして見てしまって後悔する事になる。箱には『お兄様』と『宝物』と書かれていた。あっダメな奴だ。『ユリ。これ何?』『なんでもありませんわ』『そう、それなら、アルに開けてもらってもいいわよね?』『駄目です。絶対にダメです。お兄様でもダメです。』『あっ』
空気を読まない。カウラが開けてしまった。前足で少し触ったつもりだったのだろう。蓋が思った以上に弱かった。
箱の中身は、勉強に使っていたペンやいままでユリアンネに充てた手紙まで全部保管されているようだ。それだけではなく、俺が子供のときに着ていた服や下着や訓練で着た服まで入っていた。そして、冊子があり、そこには”お兄様観察日記”と書かれていた。
『なんだぁチーと一緒なんだ。』「アン。今、なんて言った!」『ん?”チーと一緒”ってだけだよ。』「そんな物なかったぞ?アイツの部屋を、片付けたの、俺だから気が付かない訳ない。」『うん。だって、私が預かったからね。』「はぁ?だって、お前の部屋にも・・・。」『うん。なかったと思うよ。チーのお墓に私がこっそりとしまったからね。』「何したのだよ!!!」『アルは妹に愛されるのは運命なのだね。』「そんな運命いらないよ。」『え?お兄様。私が嫌いなのですか?』「違う。ユリアンネの事は好きだぞ。妹としてな」『・・・好きだって言ってもらえた!』「妹としてだぞ。おい。ユリアンネ。」『アル。諦めな。そういう運命なのだよ。』「なんだそれ!」
それから、ユリアンネを説得したが、バレてしまったから持っていくと言い張った。それで開かないように封をしてから、ステータス袋にしまった。二度と取り出さない事を心に誓った。それとも、寮に作った墓地のユリアンネと一緒に埋葬するか?
ドアがノックされた。ルステオだった。皆ダンスホールに集まったという事だ。
どこまで話すか考えながら、ダンスホールに向かった。

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