魔法の世界でプログラム

北きつね

意思を継ぐもの

「篠原さん。どうしましょうか?」「あ?石川か、任せる。山本さんは?」「キッチンでお茶作っています。」「そうか」
「石川さん。このお茶使っていいのですよね?」「ナベさんのお茶?いいと思うよ」「本当ですか?すごく高い奴ですよ」「いいよ。飲まないともったいないよね」「了解しました。」
あの日から、2ヶ月が経っていた。精神的な立ち直りはまだ出来ていないが、そんな事を真辺が望んでいないと思い。最後を看取った4人と篠原と、何故か山本貴子が来て、真辺家の片付けをしている。当初、警察は”駅で真辺が死んだ”と聞かされて、白鳥に殺されたのだと思い、刑事までが集まって来たが死因が”過労死”だろう・・・という事がわかると、病死で処理を始めた。真辺達がホームに入った時に、二つ隣の駅で発生した”人身事故”の影響が出ているといわれた。この人身事故は、白鳥が逃げられないと思って電車に飛び込んだのだ。結局、白鳥の本当の動機は解らないままになってしまった。篠原だけは警察で事情を聞かされた。その篠原が、石川等を真辺が使っていた居酒屋に集めて話して聞かせた。白鳥は、1年前に自身の浮気から離婚していた。このときの慰謝料の支払いの為に、住んでいた家を売った。悪い奴らに付け込まれる様な生活になってしまって、薬にも手を出していたようだ。薬を買う金の為に、給料がなくなっていく。今度は、借金をしてギャンブルにも嵌った。ゴロゴロと転げ落ちるようになってしまってようだ。最初の頃は、協力会社からのリベートを取ってそれで生活をなんとかやっていたようだが、大きくなった借金や薬の頻度から、そんな物では賄いきれなく成っていたようだ。それで今回の件で、中間搾取を行う事を思いついた。真辺の会社に迷惑をかけている認識は持っていたようで、副社長に言って、普段よりも高い単価での仕事になっていたようだ。しかし、この副社長がクズすぎた。白鳥からの仕事を自分の持っている会社を通して受けて、真辺の会社に正規料金よりも割り引いた額で受注させていた。浮いた金は白鳥に回すという名目で自分もその財布に手を突っ込んでいた。白鳥は、自分の命を差し出して、『被疑者死亡』で幕引きとなった。裏取り調査の為に、警察がSIerと真辺の会社に来て書類を押収していった。副社長は、業務上横領と特別背任で訴えられる事になった。合わせて、副社長から金を受け取った役員や社員も洗い出しが行われて、退職もしくは降格処分となった。酷い者は、横領で訴える事にもなった。
それでは、真辺が最後に手掛けた仕事はどうなったのかというと・・・。無事、9月末日にカットオーバになった。前途多難の船出ではあるが、システムとしては動作確認が取れて、SIerも約束を守って、サーバ群も無事納品された。真辺が育てた部下たちが上司の死を忘れるために、必死に働いた結果だ。そして、施設をまとめるドクター松本から、篠原を通して一つの打診があった。
ドクター松本の施設は、ここだけではなく西日本-九州を中心に介護老人ホームを作っている。そんな施設では、やはりシステムがうまく動いていなかったり、開発が間に合わなかったり、システム周りで苦労しているのだという。大きめの施設では、作った会社に依頼して人員を常駐させているらしいが、思うようにうまく言っていないのが現状だ。そこでドクター松本は、真辺の部隊が解体されるという話を受けた時に、それなら希望者をドクター松本の会社で引き取れないかといわれた。その話を受けて、篠原は社長に相談した。社長としては、判断に迷っていた。"火消し部隊"は本来なら有ってはならない部署だが、実質的にないと困ってしまう。だが、真辺以外にまとめられる人間がいないのも事実だ。
社長がドクター松本と篠原と真辺の部下の主要メンバーと会って話をした結論が、”株式会社マナベ”を立ち上げる事だ。ドクター松本が39%出資する。社長と篠原も5%ずつ出資する。残りの51%をこの会社に所属する事を望んだ部下たちが出資する事になった。原資は、機密費から出されていた。この時には、増えに増えた機密費は500万に届こうとしていた。主任クラスが多めに出して、帳尻を合わせた。
そして、主な業務で”火消し”と銘打ったシステム会社が出来上がった。出資者であるドクター松本の各施設への常駐及びシステム改善を行う事になった。ドクター松本も大雑把な正確なのか、弁護士を通して来た書類には、25年契約と書かれていた。よほど、真辺達の仕事が気に入ったのだろう。経営は、元部下たちの合議制で行われる事になった。
本社登記やらなんやらで時間を使ってしまった。本社の所在地は、真辺の家が選ばれた。これにも理由があった。
真辺が天涯孤独なのは皆知っていた。親戚筋にも連絡が付かない状態だった。葬儀に関しても、最後を看取った4人と篠原が主体となって行っていた。遺言を守る意味からでも、必須なことだと思っていた。
立ち上がった会社は、少人数での船出となった。社長は、いろんな意見もあったが、真辺の遺産で一番価値のある物を受け継いだ。石川が就任する事になった。全員が出資者となるので、役職は特に考えない。好きに付ける事にした。実働する人間は、全部で27名、ほとんどが、真辺の部下だった者だ。片桐の会社のメンバーも数名合流する事になった。部下も全員が合流する事はない。やはり、真辺の死だけではなく、事件にもなってしまった事から、心に深い傷を抱えた者もいた。そういう者たちも、新会社への出資だけはしてくれた。会社を退職する時に、会社からも普通よりも多めの退職金をもらう事になった。第二の人生を歩む事を選択した人間たちを石川達は止めなかった。止めてはならないと思っていた。
篠原も合流して、営業一般の面倒を見る事になったが、営業が必要になるのはだいぶ先のことだろう。営業としては、他に森と山本貴子が合流した。
そして、真辺の死から49日法要が終わった。今日、会社の運営を開始する。
そう、真辺の死を皆が見つめたあの時から・・・。◆◇◆◇
「山本。井上。小林。石川。どういう事だ!」篠原が霊安室に飛び込んできた。
そして、横たわる真辺を見ている。真辺の横に立ち、顔を覆っていた布を乱暴に払い除けた。
「・・・おい。起きろ。新しい現場だ。お前がいないと回らない。おい、いつまで寝ている。いい加減にしろよ。おい。ナベ。起きろよ!!!俺より先に寝るやつがあるか!ナベ。真辺ぇぇぇぇ」「・・・篠原さん。ナベさんは・・・もう・・・。」「石川。ウソを言うな。ナベが俺を置いて死ぬはずがない。なぁそうだろう。ナベ。お前言ったよな。俺と約束したよな。死なないって約束したよな。石川。ナベが約束破るか?破らないだろう。だから、ナベが死んだなんて嘘だ!」「・・・篠原さん。ナベさん。疲れたって言っていました。そろそろ休ませてあげないと・・・。それに、すこしだけ寝るって言っていました。そのうち起き出すと思います。私が待っています。後は、私が、私達がやります。」石川は、目に涙を浮かべながら必死に真辺からいわれた『辛い時ほど笑え』を実践している。他のメンバーも全員笑おうとしている。
「・・・そうだな。すまん。すこし頭冷やしてくる。石川。掴んだりして悪かった。」「いえ、大丈夫です。」
篠原は、ヨロヨロとした足取りで、霊安室から出ていった。ドアが乱暴に閉められて、廊下から何か蹴ったのだろう、大きな音が響いてきた。
石川はさっきまで篠原が居た所に立って、真辺を上から見下ろしている。
「ねぇわがまま言っていい?」「なんだ?」「今だけ、30分。ううん10分でいいから、ナベさんと二人だけに、してくれない?」「わかった、井上。小林、ちょっと付き合え。篠原さんを見に行こう」
山本が3人を連れて、部屋から出ていった。篠原を見に行くというのも嘘ではない。心配するほどの取り乱しようだった。
ドアが閉まる音がした。石川は、満面の笑みを浮かべて、真辺の顔に優しく触れた。
「ナベさん。知っていました?自分は”もてナイ”って散々言っていましたが、部下だけじゃなくて、他の部署や他の会社にもファンがいたのですよ。その気になれば結婚できたのですよ。みんなの意見で、ナベさんの生活感が想像できないと言っていましたが、ナベさん。ズルいですよ。私にこんな気持ちを植え付けたままいなくなっちゃうなんて・・・・。どうしてくれるのですか?」
真辺が答える事が出来ないのは解っているが、何故か答えが聞こえるような気がしている「・・・・」
「そうですよ。『すまない』じゃないですよ。システムのカットオーバもまだなのですよ。悪いと思っているのなら、気合で生き返って見て下さいよ。やってみたら出来るかもしれないですよ。ナベさん。ほら、早くいつもみたいに笑いながら適当な事を言いながら、起きてきて下さいよ。一度だけなら許しますよ。そうだ、ナベさん復活の呪文とかどっかに作ってないですか?生き返ってきたら、今度は死なせませんからね。一生つきまとって、私が死ぬまで死なせません。だから、早く生き返って下さい。お願いします。真辺さん。」
「・・・・」
「『無理いうなよ』じゃないですよ。まったく解っているのですか?これから、私達どうしたらいいのですか?」
「・・・・」
「そうですね。『自分たちで考えろ』ですね。そうします。まずは、今の施設のカットオーバを確実に行う。その後は、また相談に乗って下さい。」
「・・・・」
「ありがとうございます。ナベさん。真辺さん。いろいろ聞きたい事が多いです。まだまだ教えてもらわないとならない事も多いです。真辺さん。他の部署でミスした私を拾ってくれたのはなぜですか?いつも笑って教えてくれませんでしたよね。『お前は根性がある』『なんとなく』そんな答えばっかりでしたよね。それに、なんで私を主任にしたのですか?部署には私よりも出来て、年上の人も沢山いたのに・・・。なんで私だったのですか?ネットワークとハードウェアの山本さん。言語知識が豊富な井上さん。顧客サポートの小林さん。私だけ何にも出来ませんよ。いつでも、真辺さんの後ろについて回るだけで精一杯だったのに・・・。」
「・・・・」
「ほら、また教えてくれない。そろそろ教えてくれてもいいと思うのですよ。私は、何も知らないで会社に入って、10年。ナベさんの下に着いて、8年。今は、その8年が心を圧迫します。苦しいです。でも、でも、真辺さんと出会えなかった事に比べたら、すごく幸せな8年間でした。あ!言い忘れていました。『真辺さん。お誕生日おめでとうございます。今年一年。よろしくお願いいたします。』もう一つ有るのですよ。毎年今年こそ・・・と思って言えなかったセリフが・・・『真辺さん。大好きです!』うぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・ダメですね。泣いちゃダメですよね。笑わないと、真辺さんに怒られちゃいますね。いいですよ。怒りに来て下さい・・・。真辺さん。お疲れ様でした。今まで有難うございました。これから、私は真辺さんの部下だった事を誇りに思って、この業界で行きていきます。今まで有難うございました!」
石川は、真辺の遺体の前で大きく一礼した後、遺体に抱きつくように泣き崩れた。涙が枯れるかと思う位の時間が経過した。ゆうに1時間は経っているだろう。
ドアがノックされて、警官が入ってきた。真辺のスマホや持ち物を検査していたが、怪しいものは何もなかったといわれた。病死と判断して事件性はないという事を告げられた。その後で、遺体をどうするのかを聞かれたので、家族や親戚の類はいないと告げた。もう一人の警官が、夕方に会った西沢と名乗った警官だった。西沢が、石川に真辺の遺書を預かっている弁護士を名乗る女性が来ていると告げられた。石川一人では心配だったので、篠原や山本達と合流してから、弁護士の会う事になった。
出された名刺は「森下美和」となっていた。年齢は、真辺と同じ位だ。それもそのはず。真辺の同級生だと言ってきた。そして、真辺の遺書を預かっていると言われた。
真辺は、地元の高校を卒業後都会に出てきて専門学校に通った。その後、そのまま都会で就職した。森下弁護士がいうには、4~5年前にふらっと地元に現れて、両親と妹さんが眠る墓を綺麗にし直して、住職に供養をお願いしていった。偶然そに居合わせた、森下弁護士の旦那さんが真辺と話をした。美和が弁護士をやっていると聞いて、頼まれごとをして欲しいと言われたのだという。頼まれ事は、真辺名義になっている山や財産の売却。売却されたお金を、適当な団体に寄付する事も頼まれたのだという。そして、もう一つが遺言書の作成だった。
森下弁護士は、皆を見回しながら篠原・山本・井上・小林・石川。の5名に関係していると言った。丁度、そこに揃っているメンバーなのを確認して、警察官立会いの下、身元確認が行われた。森下弁護士が渡された資料通りになっている事を確認して、遺言書が開示される事になった。
そこには、5人には見覚えが有る。癖の強い真辺の字だ。お世辞にも美味いとは言えない字だったが、石川だけではなく、皆その字を見て目頭が熱くなるのを認識していた。『これを読んでいるって事は、俺は死んだのだろう。多分、過労死だろうな。それとも、どっかのシステム屋に恨まれて、刺されて死んだか?まぁそんな事はいい。篠原さん。多分、何か約束をしているでしょう。守れなくて申し訳ない。この埋め合わせは、来世か地獄でする。篠原さんが天国には行けないだろうから、俺もしょうがなく、地獄で待っていますよ。でも、急いで来なくていい。できるだけ再会は遅い方が嬉しいからな。その間、利息も付けるので。きっちり回収してくれよな。山本。お前が一番長い付き合いになるな。すまんな。迷惑をかけたな。俺が誘わなかったら、お前はもっと贅沢な道を歩けただろうな。嫁さん大事にしろよ。なんか文句があるのなら、後でゆっくり聞いてやる。まずは、嫁さんを大事にしろよ。井上。いい加減ホンダ車の素晴らしさを認めろ。また、お前と言語や開発手法談義をしたいな。向こうで俺も知識を溜め込むからな。待っていろよ。面白い方法を考えておくからな。小林。すまん。いつもしんどい役回りばかりさせて、お前が矢面に立ってくれるから、俺は自由に動けた。助かったよ。これからは、自分の好きな事をやれよ。そうそう、あの子とは結婚したのか?石川。こんなオヤジのどこがいいか知らないけど、もっと周りをよく見ろ。お前は、何度も俺になんで自分が?と、聞いたよな。教えようかと思ったけど、止めておく。悩め。自分で考えろ。ヒントは俺がお前に頼む仕事を考えれば解るはずだ。お前は、いつもネットワークやハードウェアは山本に敵わない。言語は井上に敵わない。ユーザサポートは小林に敵わない。それ以外にもいろんな面子と自分を比べているよな。そんな必要ない。石川や石川なのだからな。周りをよく見ろ。言語で敵わないと思っている井上にお前はユーザサポートで勝っている。山本より言語知識がある。小林よりネットワークに詳しい。俺が欲しかったのは、そういう事だ。
美和。悪いな。こんな事頼んで。お前が、桜と結婚していたとは驚いたよ。幸せに。』
『美和に俺の財産を調べてもらった。実家の方は、すでに処分して貰って、全部美和に預けた。好きにしてくれ。こっちにある財産だが、みんな知っていると思うけど、俺は天涯孤独だ。親戚も探せばいるかも知れないが、そんな奴らよりも、お前たちの方が大事だ。迷惑かもしれないが、次のようにしたいとおもう。異議申し立てがある場合には、こっちに来て文句を言ってくれ。それ以外は受け付けない。1. 俺の家は、処分してくれてもいいし、誰か欲しいという者が居たら、そう処理してくれ。複数欲しいと手があがったら、三回勝負のじゃんけんで一番”弱かった”奴の物としてくれ2.パソコン本体は、山本貰ってくれ。勿論、処分して現金化して嫁さんへのプレゼントにしてもいい。3.移動可能なパッケージのライセンスは、井上貰ってくれ。ダブっている物もあるだろうが、あって困るような物じゃないだろう。HDDは山本と相談してくれ4.タブレットやノートパソコンは、小林貰ってくれ。古い機種もあるが、ユーザサポートで必要になる場合も有るだろうから、有って困るような物じゃないだろう。篠原さんに相談して会社に買い取って貰ってもいい。5.篠原さん。一番即物的で申し訳ないのですが、俺の現金や預貯金の処分をお願いします。俺の葬儀や片付けで必要になると思いますので、それらから出して下さい。残りで、5人以外のメンバーに中機能のノートパソコンを買い与えるくらいは残ると思います。多分、まだすこし残ると思うので、それは篠原さんが収めて下さい。いろいろ迷惑をかけて申し訳ない。可愛い後輩の頼みを聞いて下さい。6.石川。お前に何を残そうか考えたのだが、良い物が思いつかなかった。そこで、一番貰って困る物をお前に残す。俺が今まで趣味で作ってきたアプリケーション一式をお前に託す。公開するなり、しっかり作り直すなり好きにしていい。それと、美和に託してある。書類をお前に渡す。以上6項目。財産だと思われる物だ。おまけとして、家の中に転がっている家電とかは、欲しいと言った者が好きに持っていってくれ。もし、俺の死が何か事件に巻き込まれた結果だとしたら、美和すまん。篠原さんや部下達の力になってやってほしい。もし、部下の中から独立して会社を作ると言い出した奴が出てきたら、美和。顧問弁護士を頼む。顧問料は要相談だと思うが、以前渡した資金でできるだけやってほしい。
あっちの世界でも多分”火消し部隊”を設立するが、お前たちが居なくてもなんとかする。いいか、そんなに早くこなくていいからな。でも、来たら連絡よこせよ。それじゃまたな。
真辺真一』
◆◇◆◇
(真辺さん。ありがとうございます。)

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