片思い片手間ヒーロー

Joker0808

16

 純は、エレーナの要望をに答える為に、スマホのアプリを使って天丼が食べられる店を探す。 意外に近場に、美味しいと評判のそば屋があり、そこの天丼の評価が良かったため、純はそのそば屋に向かう事を決めた。
「俺はそばでも食うかな……」
「そば? あのパスタ見たいな食べ物?」
「あぁ、そばも美味いぞ?」
「う……日本食は美味しい物が多くて困るわ……」
 隣で悩むエレーナを見ながら、純は笑みを浮かべてエレーナに尋ねる。
「日本食好きか?」
「えぇ! 日本の料理は味も良いし、見た目も綺麗で素晴らしいわ!」
「外人からだとそう見えるのか」
「日本食は素晴らしいわ! 特にワガシ! しつこい甘さでは無く、どこか控えめな甘さがたまらないわ!」
 食べる事が好きなのだろうか、エレーナは目をキラキラさせながら純に話す。 そんなエレーナを見ていると、純もなんだか腹が減ってきた。 歩く事数分、ようやく店に着き二人は早速。 エレーナは天丼、純はざる蕎麦を注文した。
「やっぱり美味しいわ~」
「ここ来て正解だったな」
 幸せそうな顔で食事をするエレーナを見て、純はこの店にして正解だったなとホッとする。 エレーナは天丼だけでは飽き足らず、追加注文でぜんざいを注文し食べていた。
「美味し~」
「ホント幸せそうだな」
「昨日は引っ越してきたばっかりで、コンビニ弁当しか食べてないのよ。やっぱりこういうちゃんとした料理の方が良いわね~」
 美味しそうに食べるエレーナを店のおばちゃんはニコニコしながら見ていた。 外人のエレーナは何処に行っても目立つ。 そば屋でも、ひときわ視線を集めていた。 しかもこの幸せそうにぜんざいを食べる姿に、他のお客さんも釣られてぜんざいを注文していた。
「はぁ~満足だわ」
「エレーナ、本来の目的忘れてないよな?」
「え? ……あ! だ、大丈夫よ! 忘れるわけ無いでしょ!」
「……忘れてたよな」
 店を出て、純とエレーナはショッピングモールに向かう。 ショッピングモールは平日と言うこともあり、そこまで混雑しては居なかった。 しかしながら、やはり普通の店より人工密度は高い。 純とエレーナはどこから回るか相談しながら、店内を歩き始めた。
「えっと……まずは、洗剤とかシャンプーね」
「じゃあ、ドラッグストアとかだな…こっちだ」
 エレーナの買いたい物を聞き、純がその商品がある売り場に案内すると言う形で、買い物は進んでいった。
「エレーナ、下着売り場は一人で行ってくれ」
「も、もちろんよ! 純はここで待ってて下さい!」
 現在は女性用の下着売り場に来ていた純とエレーナ。 流石に、一緒に入る訳にはいかない純は、外のベンチでエレーナを待っていた。
「はぁ……やっぱり女の買い物って長いのかな……」
 エレーナと買い物を初めて、既に二時間が経過していた。 商品を選ぶのに、エレーナは悩み、歯ブラシ一つ選ぶのにも20分も掛かってしまった。
「ま、でも……いいか」
 可愛い女の子とデート出来ていると思えば、そんな些細な事は気にならなかった。 しかし、一つ問題が合った。 それは……。
「ねぇねぇ~、ID出て来てるけど行く?」
「エレス……お前人の心を読めたりするの?」
 純が気にしていた問題、それはIDがもし現れたらどうしよう、という事だった。 しかし、そんな事を思っていたら、案の定エレスが現れて、IDの出現を知らせてきた。
「で、場所は?」
「ここ」
「は?」
「だからここだって!」
「まて! まだスマホには警報も……」
 そう言って、純がスマホを見た瞬間、スマホの画面に緊急避難の通知が、音を立てて映し出された。 ショッピングモール内にも警報が鳴り、周りの人々は急いで避難を開始していた。
「マジかよ! エレーナ!!」
 純は、エレーナの事が心配になり、店に入って行く。 店には誰も居なかった。 もしかしたら、先に逃げたのか? そう思った瞬間、一つの更衣室から、エレーナの声が聞こえて来た。
「エレーナ!」
「え……」
「oh……」
 そこに居たエレーナは、黒の下着姿で、今まさに着替えをしようとしていたところだった。 純はすぐさまカーテンを閉め、エレーナに謝罪する。
「わ、悪い!!」
「ほ、ホントだよ!! 見た? 見たよね?!」
「ごちそうさまでした!」
「うわーん!! 誰にも見せた事無いのにー!!」
「って、そんな場合じゃない! 早く着替えてシェルターに! 警報だ!」
 エレーナの国は知らないが、この待ちはIDの出現率が多い。 慣れない人は、戸惑ってすぐに避難できなかったりもする。
「私は着替えたら行くから! 純は先に行って!」
「でも、シェルターの場所なんてわかるのか!?」
「大丈夫! 駅でシェルターの場所が書かれた地図を貰ったから!」
 そうは言われても、心配な純。 純はエレーナの言葉を無視し、その場でエレーナを待った。 すると、またしてもエレスが現れた。
「ヤバいよ……IDが近くまで来てる」
「マジか! エレーナが居るんだぞ!!」
「もうそこまで来てる……ヤバイ!」
「え…うわぁ!!」
 エレスがヤバイと言った瞬間、大きな爆発音と共に、IDは店先の広場に現れた。 その姿は人型だが、異様に筋肉が発達し、身長は三メートルを超えていた。 肌の色は黒く、背中にはトゲのような物が生えていた。
「オーブ……オーブ……」
 IDはそう呟きながら、ゆっくりランジェリーショップに近づいて来る。 純は、棚の陰に隠れながら、エレーナに問う。
「エレーナ! ヤバイ! IDが近づいて来てる!!」
「え! 本当?! 純、先に逃げて!」
「エレーナを置いて行けるか!!」
「お願い! 私は大丈夫だから!!」
「大丈夫なわけ無いだろ! クソッ! どうする……」
 もういっそ、装展してしまおうかとも考えた純。 しかし、純には不安があった。 自分がこのIDを倒せるかと言う不安だった。 最近のIDはどんどん強くなり、純の手に負えなくなって来ていた。 昨日の戦闘が良い例だ。 その為、純は早くエレーナを逃がし、IDの足止めくらい出来ればと考えていた。
「エレーナ! 開けるぞ!!」
「え? じゅ、純!」
 純はエレーナのいた更衣室のカーテンを開け、エレーナを連れ出した。 幸い、エレーナの着替えは終わっており、純はそのままはエレーナを連れて店を出た。
「このままシェルターまで走る!!」
「う、うん!」
 純はエレーナを連れて走った。 しかし、IDがそれを見逃すはずは無かった。 純とエレーナの目の前に、後ろから、突如としてベンチが投げ飛ばされてきた。
「くっ!」
 見ると、IDが純達に向けて攻撃をしてきていた。 純は逃げるルートを変更して、エレーナの手を引いて走る。
「こっちだ!」
 しかし、逃げても逃げてもIDが瓦礫などを投げつけてきて、二人の行く手を塞いでくる。 そして、逃げ道はどんどん少なくなり、やがて純とエレーナは追い込まれてしまった。
「くそっ!」
「オーブ……よこせ……」
 万事休す。 まさにそんな状況の中で、純は覚悟を決めた。
「エレーナ……今から見ること、誰にも言わないでくれよ……」
「え……」
「エレス、俺の装展した姿を見た人間はどうなる?」
 エレスは険しい顔をしながら、純の隣に姿を現し純に言う。
「君との記憶を消すか、あるいは君と同じく、IDと戦うのに協力してもらう。どっちかだよ」
「そうか……なら、エレーナ」
「ど、どうしたの? さっきから誰と話しているの?」
「この二日間楽しかった。ありがとう」
「え………」
 純がそう言った瞬間、純は目映い光に包まれる。 そして次の瞬間、純は世間一般では「赤い破壊者」と呼ばれる姿に変わる。
「じゅ、純……貴方は……」
 悲しそうな表情のエレーナを横目でちらりと見た後、純はIDに向かって突進する。

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