甘え上手な彼女

Joker0808

♯24

 そんな高志達の会話を女子生徒は、おどおどしながら見ていた。
 こういう場面に、自分は居ない方が良いと思い、そーっと高志はその場から離れようとする。

「ちょっ! お前、何処行くんだよ!」

「いや、俺完全に邪魔だし、帰ろうかと……」

「え! 俺この状況で置いて行かれるの!?」

「この子も困ってるし、俺は居ないほうが……」

「いえ! ここまで来たら居て下さい! 流石にここで二人はキツいので!!」

「えぇ……」

 まさかの女子生徒からもこの場に残るように言われてしまった。
 高志は非常に不本意だったが、その場に残り、名前も知らない女子生徒と優一の告白劇を見せられる事になった。

「えっと……手紙……読んでもらえましたか?」

「えっと……読んだけど……名前も無かったし……悪戯かと…」

「す、すすいません! な、何を書けば良いか……わからなくなってしまって……」

 敬語のところを見ると、恐らく一年生なのだろう。
 顔を真っ赤にしながら、優一をチラチラ見ている。
 
(俺…居る意味ある?)

 そんな事を考えながら、高志は二人を見ていた。
 こんな事なら、普通に紗弥と帰れば良かったと考えていると、高志のスマホが鳴った。
 どうやら紗弥からのメッセージのようだった。

『チャコちゃん、天使になっちゃった』

 メッセージにはそう書かれており、一緒に画像が添付されていた。
 その画像を見て高志は、より一層帰りたくなった。
 写真には、天使の羽を付けた猫用の服を着ているチャコと、紗弥がツーショットで写っていた。

(やべー。超可愛い……)

 高志はそっと、添付された写真を保存し、壁紙に設定する。
 その間も、優一と女子生徒の会話はは進まず、二人でチラチラ互いを見ているだけだった。

「……あのさ……帰っていい?」

「な、何言ってんだよ! まだいろって!」

「そ、そうですよ! このままだったら気まずくて、何も話さないまま終わっちゃいます!」

 じゃあ、君はどうやって告白する気だったの?
 と逆に問いたくなった高志だったが、グッと堪えて、女子生徒に尋ねる。

「えっと……じゃあ、君はこいつの事が好きって事で良いの?」

「そ、そんな……は、恥ずかしくて言えません!」

(面倒くさいな……)

「えっと……優一、お前はこの子をどう思ってんだ?」

「そ、そんなん、お前がいる前で言える訳ないだろ!!」

(じゃあ俺にどうしろと?)

 面倒くさい二人に、高志は溜息を吐き、肩を落とす。
 すると、騒ぎに気がついたのか、体育館裏に居た、高志の偽ラブレターの差出人の男子生徒達が、こちらの方にやってきた。

「あ! 八重!! お前、なんでいつまで経っても来ないんだよ!!」

「いや、罠だとわかったら、誰も来ないと思うけど……」

「お前のせいで俺たちの青春は終わっちまったんだよ! 一発殴らせろ!!」

「理不尽すぎるだろ……なんでも良いが、ちょっと今はやめてくれ、取り込み中だ」

「あん? お前、優一じゃねーか!! お前の噂のせいでこっちは迷惑してんだぞ!」

「うるせー馬鹿共!! 俺は今人生の絶頂に居るんだ! さっさと帰れ!」

 後ろから来た男子生徒三人に難癖をつけられる高志と優一。
 特に優一は、告白の邪魔をされ、現在ものすごく機嫌が悪い。

「お、おい…お前ら帰って方がいいぞ? 優一は……」

「うるせー!! こっちはお前にむかついてんだよ!! 宮岡と付き合えたからって、いい気になりやがって!!」

 男子三人組のうちの一人が、ついにしびれを切らして殴りかかって来た。
 しかし、その拳が届く前に、男子生徒の拳は優一によって止められた。

「さっさと帰れって……言ったよな?」

「んだこの野郎! まずは優一、お前から!!」

 そう言って男子生徒が、優一を殴ろうとした瞬間、男子生徒は地面にたたき落とされていた。

「あぁ……忠告したのに……」

 高志はその様子を見ながら、頭を押さえて言う。

「な、なんだ……優一がやったのか?」

「ば、ばか! あいつが転んだだけだろ!」

 そうではない事を高志は知っていた。
 そして、高志は優一に向かって叫ぶ。

「優一! やめとけ!」

「うせっせぇぇ!! 散々振り回しやがって……ぶっ飛ばす!」

「あぁ……スイッチ入っちゃったか……君」

「は、はい?!」

「優一が好きなら見ない方が良いよ、あいつこれから鬼になるから」

「?」

 高志はアタフタしながら、状況をみる女子生徒に言う。
 そう言っている間に、優一は男子生徒三人に向かって行く。

「おらぁ行くぞこらぁ!!」

「ぐぁ!」

「あうふ!!」

 優一は元不良であり、中学時代は喧嘩に明け暮れる一匹狼だった。
 しかし、中学時代のある日、優一は不良をやめた。
 今でもたまに、頭に血が上ると手をだしてしまうが、昔ほどでは無い。
 高志はそのことを知っているため、男性生徒三人に忠告したのだ。

「たく……俺を怒らせんな、また喧嘩しちまった……」

「ホントだっての全く……告白の最中で三人ボコるなんて、あり得ないって」

「大体、三対一で高志を殺ろうとした事が気にくわねぇ!」

「優一……」

 なんだかんだで、自分の事を心配してくれていた優一に、高志は感動を覚えた。

「やるんだったら、あと十人は連れて来て、徹底的にやれって話しだ!」

「優一、俺、お前と友達やめたくなった」

 この二人が何故今のような仲になったのかは、また別の話。
 しかし、状況は悪化していた。
 告白の途中で、暴力的な姿を見せてしまった優一。
 当然、女子生徒からは嫌われたと思った。

「えっと……悪い……その……俺はこういう奴なんだわ…」

 俯き、フルフルと肩を振るわせる女子生徒に優一は謝罪する。
 折角念願の彼女が出来るチャンスを自分で潰してしまった。
 優一は、溜息を吐き、女子生徒の横を通りすぎようとする。
 しかし__。

「ま、まって下さい!!」

「え?」

 女子生徒は過ぎ去ろうとする優一の手を掴んだ。
 優一も女子生徒の咄嗟の行動に驚く。

「や、やっぱり貴方だったんですね!!」

「な、何が?」

 優一は戸惑いながら、女子生徒に尋ねる。

「入学する前……駅前で絡まれていた私を貴方が助けてくれて……」

「入学する前? いつの話しだ?」

「今年の三月です!」

「三月……あ……」

 優一は少し考えて、何かを思い出した様子だった。
 そして、話しを聞いていた高志も思い出し、女子生徒に尋ねる。

「もしかして、駅前で柄の悪いのに絡まれてた子?」

「はい! その節はありがとうございました!」

「あぁ……あの子か」

 なんとなく高志は、彼女が優一に惚れた理由がわかって来た。
 そして、彼女は優一に決定的な一言を言う。

「その……せ、せんぴゃい!」

(噛んだ……)

(噛んだ……でも可愛い!)

 女子生徒の様子をぼーっと見つめる高志と、頬を赤く染めながら見つめる優一。
 すこし間があった後、彼女は優一に言った。

「す、好きです! 付き合って下さい!」

 優一にとっての人生初の告白、高志と女子生徒は優一の答えに注目した。
 そんな中、優一は女子生徒に答える。

「か、考えさせて下さい……」

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