先輩はわがまま

Joker0808

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「先輩って、俺の事好きですか?」

「急にどうしたの?」

 俺は包丁で食材を切りながら、先輩に尋ねる。
 愛実ちゃんから、好きだと言われ。
 俺は自分の気持ちを確かめる意味でも、先輩の口から聞きたかった。
 先輩のことだから「あたりまえじゃない」と直ぐに返事が返ってくるのだろう。
 そう思ったのだが、なかなか返事が返って来ない。
 少し不安になり、俺は先輩の居る、後ろのベッドの方を見ようと振り返る。

「うわ!! び、ビックリしたぁ……音も無く後ろに立たないで下さいよ」

 振り返った俺は、驚き後ろに数歩下がってしまった。
 振り返った俺の後ろには、先輩が音も無く無言で立っており、俺の顔をジーッと見つめている。

「なんでそんな事聞くのかな?」

「え……いや、何となくってか……」

 まぁ、理由なんて言える訳も無い。
 愛実ちゃんに告白されて、嬉しくなってしまい。
 自分の気持ちを確かめる為に、先輩の口から好きだと言って欲しかったなど、口が裂けても言えない。
 言った場合、俺から愛実ちゃんのどちらかが、先輩の手によってバイトを辞めさせられる。
「ふぅ~ん……もちろん大好きよ」

「そ、そうですか……じゃあ、まだ料理の途中なんで、もう少しま……」

 俺は言いかけた途中で、先輩からまたしても唇を奪われた。
 なんなんだこの人は!
 今日はもう三回目だぞ!!
 などと思いつつも、俺は男なので体は喜んでいた。

「あ、あの……何か?」

「今日……女の子と二人でどこかに行った?」

「え?! い、いえ……行ってませんよ? どうしてそう思うんですか??」

「私以外の女の匂いがするのと、女の勘よ」

 なにそれ、すげーな女の勘。俺も欲しい……。
 などと馬鹿な事を考える俺だったが、状況は最悪だった。
 俺は咄嗟に、愛実ちゃんと今日お茶をした事を隠してしまった。
 何もバイトの帰りに、二人でお茶をしてきたと正直に言えば済む話しだったのに、俺は愛実ちゃんからの告白がバレてはいけないと思い、咄嗟に嘘をついてしまった。

「じゃあ、なんで今日はこんなに遅かったの? 今なら許してあげるから、正直に話して。話してくれなかったら、縛るからね?」

「縛るって何?!」

「はい、じゅーう……きゅーう……」

「制限時間もあるんすか!!」

 俺は頭の中で考える。
 ここは、愛実ちゃんとお茶をしていた事を正直に打ち明けるべきだろう。
 先輩だって鬼じゃ無い、正直に言えば許すって言ってくれたし。
 正直に打ち明けよう。

「なーな……ろーく……」

「えっと……愛実ちゃんと……」

「ごー……よーん……さーん」

「愛実ちゃんと……」

 いざ言おうと決めてもなかなか言えないのは、罪悪感があるからだろう。
 それもそうだ、正直にと言われているのに、俺は愛実ちゃんから告白された事などは先輩に隠そうとしている。

「にー……」

 おっと、そろそろ言わないとヤバイな。
 俺はそう思い、覚悟を決めて一気に言葉にする。

「愛実ちゃんに告白されました!!」

「…………」

 あれ? あれれれ?
 俺は今なんて言った?
 あれ? 確か先輩に愛実ちゃんからの告白を隠そうと……。
 でも、あれ?
 えっと……俺……死んだ?
 俺が放心状態でそんな事を考えていると、先輩は無言のままジーッと俺の顔を見つめる。

「あ、いや! こ、これはちが!」

 やっと自分がとんでもない事を言った事に気がつき、俺は言い訳を考え始める。
 しかし、何も浮かんでこない。
 先輩はただただ、俺の顔を見て無言で立っていた。
 
「せ、先輩! 違うんですよ! ちゃんと断りましたから!!」

 俺は必死に先輩に言い訳を繰り返すが、先輩は全く反応を示さない。
 どうしたものかと考えていると、先輩がようやく動きだした。
 しかし、その動きに問題があった。

「せ、先輩?」

 先輩は俺の服の襟を掴んでそのまま俺をベッドまで連れて行く。
 俺はされるがままにベッドまで行き、そのまま先輩にベッドに押し倒される。

「あ……あの……先輩?」

「……するわよ」

「え?」

「だから、今すぐするから、服脱げって言ってるのよ」

「え、え? どう言う事??? なんでそうなるの?」

「愛実ちゃんって……あの女子高生よね?」

「そ、そうですけど……だから断りましたって!」

「そこは信じてあげる、次郎君は浮気とか出来るような器用な人じゃ無いから」

「どうせ不器用ですよ……」

「いいから脱ぎなさい! そして今日こそ私と一線を越えなさい!!」

「だからなんでそうなるんですか!!」

 俺は先輩が服を脱がせようとしてくるのに必死で抵抗する。

「だって! ……不安になるじゃ無い……」

「え……」

 先輩はそう言うと、急に手を止め俯き、悲しげな表情で話し始める。
 
「一緒に住み始めてもう一週間が過ぎるわ……それなのに……次郎君は私とキス以上の事をしてくれないじゃない……」

「そ、それは……先輩を大事にしたいからで……」

「そう思うなら、なんでしてくれないの! その方が……私は安心出来るのに……」

「そ、それは……」

「最近だと、告白の返事も仕方なくOKしてくれたんじゃないかって思うときもあるの……それぐらい不安なの! 告白されたなんて聞いたら、焦るに決まってるじゃない! 馬鹿! アホ! 年下キラー!!」

「と、年下キラーって……」

 そうは言う俺だが、先輩の気持ちも少しは汲んであげるべきだったのでは無いかと考える。 女性にとって、一緒に暮らしているのに全く求められないというのは、もしかしたら結構傷つく事なのかもしれない。
 俺はただ、先輩と軽々しくそういう事をしたく無かった。
 一応大事にしているつもりだったからこそ、そう言うのはもう少し経ってからだと思っていた。
 それなのに、逆に俺が先輩を不安にさせていたなんて……。

「あ、あの……俺も先輩の事は……だ、大好きですよ……」

「………ありがと……初めてだね……次郎君から好きって言ってくれたの……」

「そう言えばそうですね……俺、好きっても言ってなかったんすね……」

「うん……それに……キスも次郎君からしてくれた事……無いよ?」

 先輩は頬を赤く染めがら、俺の目を真っ直ぐ見てそう言う。
 潤んだ瞳が、先輩の大人っぽさをより一層引き立たせていた。
 

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