99回告白したけどダメでした

Joker0808

135話

 夏休みが始まって早くも一週間が過ぎた日曜日。
 綺凜は一人、喫茶店で本を読んでいた。
 元々読書家な彼女は、こうして休みの日に読書をする事が多い。
 最近見つけた、この落ち着いた雰囲気の喫茶店が気に入り、休みの日は良くこの喫茶店にやってきて本を読んでいた。

「うん、やっぱり面白かった」

 お気に入りの作者の新作を読み終え、綺凜は満足そうな表情で本を閉じる。
 時間にして約2時間ほど綺凜はこの店で本を読んでいたのだが、休みにも関わらずお客さんは少ない。

(このお店…いつ来ても空いてるけど……経営大丈夫なのかしら?)

 そんな事を考えてしまうほど、店内は空席が目立ち店は静かだった。
 そろそろお昼の時間でもあるので、綺凜は席を立ち家に帰ろうとする。

「あぁ~どうしたら……」

「マスターしっかりしてください! 営業中にそんな事を言っても仕方ないですよ」

「どうせ今日もお客なんて数人しか来ないんだよ! 働いてる君もわかるだろ? 毎日毎日暇すぎてやることなんて無いし!」

 店の奥からあまり聞いてはいけないような話しが聞こえてきた。
 どうやら相当この店の経営は危ないらしい。

「すいませーん」

 綺凜は若干呼びにくかったが、レジの前で店員さんを呼んだ。
 すると、ウェイターの女性が小走りで店の裏から出て来た。

「あ、すいません、お待たせ致しました。えっと……350円になります」

「はい」

 綺凜はウェイターの女性に500円を渡し、おつりを受け取る。

「いつもありがとうございます」

「いえ……お店、厳しいんですか?」

 最近のお気に入りの店なので、綺凜は気になってしまい、女性のウェイターにそんな事を尋ねる。
 すると、女性のウェイターは苦笑いをしながら答えた。

「あぁ……聞こえましたか? 最近赤字続きで……店長も自暴自棄になってしまって……」

「そう何ですか……確かに、大通りからは離れてますからね……」

「お客さん見たいに頻繁に来てくださる常連さんも居るんですが……それでもなかなか」

「大変なんですね……」

「もう、店長は店を閉めるなんて言い出す始末で……」

 がっくりと肩を落とし悲しそうに話す女性のウェイターを見て、綺凜は何か力にはなれないだろうかと考える。
 最近お世話になっているし、この店の雰囲気が好きなので潰れてしまうのも嫌だった。

「店の事を宣伝しみたら良いんじゃないですか?」

「それもやったんですけど……やっぱりダメで、そもそも私も店長もそう言うセンスが無かったようで…」

「何をしたんですか?」

「ビラを配ったんですけど……肝心のビラが……」

「あ……」

 女性のウェイターは、綺凜にビラを見せた。
 飾り気のない、なんとも特徴の無いビラで、学校なんかで配られるお知らせのプリントのようだった。

「……これじゃあ、ちょっと……」

「そうですよね……私たちにはセンスが無かったんです……」

 このチラシじゃ、お客さんは来ないだろうなと綺凜は思いながら、うなだれる女性のウェイターを見つめる。
 
(こんな時……彼ならきっと……)

 そう思って考えたのは、誠実の事だった。
 彼なら、きっとこのお店の為に何かを仕様とするに違いない。
 そんな事をなぜ考えてしまったのか、自分でもよくわからない綺凜だった。
 誠実のそんな誰に対しても優しい姿を知ってしまった綺凜は、ウエイターの女性にこんなことを言ってしまった。

「良ければ、何か力になりましょうか?」

「え! い、良いんですか?」

「はい、いつもお世話になってますし……それにこのお店、私好きなので」

「お、お客さ~ん!!」

 感動で泣き出すウェイターの女性をなだめる綺凜。
 お客さんが他に居なくて良かったと、綺凜は女性のウェイターを見ながら思った。

「何に泣いてるんだ……お客さんが居なすぎて、君まで号泣か?」

「店長……じ、実は……」

 女性のウェイターは事の経緯を店長に話す。

「き、君が協力してくれるのかい?」

「私で良ければですけど…」

「ぬぁぁぁぁ!! こんな、こんなにも心優しいお客様が……それなのに……私は、私は……君の事をぼっちの文学少女などと……」

(どうしよう……急にこのお店が嫌いになってきた)

 綺凜は本当にあんな事を言って大丈夫だったのだろうか?
 などと考えながら綺凜と喫茶店の二人とで策を考え始める。

「私はウェイターの木崎(きさき)です。うちのお店って、ウェイターのネームプレートもないんですよね~」

「だって、君しかアルバイト居ないし……お客さんも来ないし……」

 店内を急遽閉店にし、テーブル席に座って話し合いを始める三人。

「正直言えば、このお店ってあんまり目立たないですよね? 住宅地の中にありますし、普通の一軒家と替わらないですし…」

「そこなんだよ! ここが喫茶店である事を知っている人がそもそも少ないんだよ!」

「店長なんでこんなところに店を構えたんですか?」

「土地代が安くて……」

「まぁ、ここならそうですよね…」

 とりあえず、この場所に喫茶店があることをアピールする事が先決だと言うことに気がつく綺凜。
 店内の雰囲気も決して悪く無いし、コーヒーやサンドイッチなどの商品も悪くない。
 喫茶店である事をアピールすれば、それなりにお客さんは入るのではないかと思った。

「じゃあ、とりあえず呼び込みでもしてみますか?」

「でも……木崎さんじゃ……」

「どういう意味ですか!!」

 木崎さんの歳はおよそ二十代中盤と行ったところ。
 きっと店長は、若い子の方がお客さんが入るのでは? そうおもって、木崎さんにそう言ったのだろう。

「じゃあ、私がしますか?」

「うんうん! やっぱり若くて可愛い方がいいよね!」

「スケベ店長……こんな店潰れれば良いのに…」

「言ってる事とやってる事がかみ合ってませんが……」

 こんなメンバーで大丈夫なのだろうかと綺凜は心配になってくる。

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