99回告白したけどダメでした

Joker0808

130話

 なんかプロっぽい話しをしている、なんてことを思いながら、誠実は横で水を飲んでいた。 そんな時、誠実のポケットのスマートホンが音を立ててなり始めた。

「あ、すいません」

 誠実は席から立ち上がり、外で電話に出た。

「もしもし?」

『あ、もしもし? 誠実君?』

「あ、沙耶香か…どうかした?」

『うん、明日の事で色々話したくて……今大丈夫?』

「あぁ、悪い今は出先で、家に帰ってからかけ直してもいいか?」

『あ、そうなんだ、ごめんね、大丈夫だよ、外食にでも行ってるの?』

「いや、ちょっとバイトで二日間泊まりで海にな」

『へぇ~そうなんだ、じゃあ今は帰り?』

「あぁ、美奈穂と一緒にこれから飯を……」

『み、美奈穂ちゃん!?」

 美奈穂の名前を出した瞬間、沙耶香は大声を上げた。
 誠実は沙耶香の突然の大声に驚き、咄嗟に電話を耳から話す。

「ど、どうした?」

『え、えっと、なんで美奈穂ちゃんと?』

「あぁ、このバイトを紹介してくれたのが美奈穂でな……」

 誠実はこのバイトをするに至った経緯を説明する。

「……てな訳で、今はその帰りなんだ」

『そ、そうなんだ……じゃ、じゃあ…また……後で……ね…』

「お、おう……どうしたんだ? 急に暗くなって…」

 誠実は通話の切れたスマホの画面を見ながら、首をかしげる。
 何か沙耶香に対してまずい事を言ったであろうかと考えるが、そんな事を言った覚えのない誠実。
 とりあえず今は昼食を取ることにし、誠実は美奈穂と中村の元に戻っていった。





 沙耶香は自室にて、スマホを持ちながら震えていた。

「ま、まずい……」

 夏休みが始まってまだ一週間も立たない内に、沙耶香は出遅れたと感じていた。
 まさか夏休み入って直ぐに、美奈穂が動くとは思わなかった。
 約束を取り付けた自分が、一歩リードだと思って居たのだが、それは油断だったと沙耶香は気がつく。

「こ、これは明日は私も何かしなければ!!」

 このままでは、美奈穂に誠実を取られ兼ねないと思った沙耶香は、明日着ていく服を再び考え始める。
 
「この夏が勝負!」

 そんな事を一人つぶやきながら、沙耶香はクローゼットを開けて服を引っ張り出し服を選び始める。





「それじゃあ、お疲れ様~」

「どうも二日間お世話になりました。それじゃあ」

 誠実と美奈穂は自宅に到着した。
 行き帰りの運転をしてくれた中村にお礼を言い、家の前で下ろしてもらった。
 中村は直ぐに来るまで帰っていき、誠実と美奈穂は自宅に帰宅した。

「あぁ~なんか帰って来たって感じだな……」

「帰ってきたんだから当たり前でしょ、ただいまぁ~」

 玄関の戸を開け、家の中に入る。
 すると、誠実と美奈穂の母親である叶(かなえ)がソファーでくつろぎながらテレビを見ていた。

「あら、お帰り。どうだったの撮影は?」

「いつも通りだよ、それよりおにぃの方が他の子を変な目で見るから、そっちの方が心配だった」

「はぁ~、やっぱりお父さんの子だものね……」

「別に見てねぇよ! 全く、土産買って来てやったのによぉ……」

「あら気が利くわね、お父さんの子なのに」

「親父って一体昔何があったんだよ、そっちが気になってきたわ……」

 誠実はお土産のお菓子を母親に手渡し、そのまま自室に戻る。 
 荷物を置いて、誠実は早速給料の確認を始める。

「おぉ! 本当だ、結構多いな」

 予想していた金額よりも一万ほど多く、誠実はうれしさで顔がにやけてしまった。
 これで明日は安心してデートに迎える、そう考えた時に誠実は沙耶香に電話をかけ直す事を思い出した。
 誠実はスマホを操作し、沙耶香に電話を掛け始める。

「あ、もしもし?」

『もしもし、誠実君?』

「あ、今大丈夫? 俺帰って来たから、かけ直したんだけど」

『うん大丈夫だよ、明日の集合場所とか時間とか決めたくてさ』

「あぁ、そうだなぁ……」

 誠実と沙耶香は、電話で明日の集合場所と時間を話し合い、何時の上映かの確認などをした。

「……じゃあ、その時間に映画館の前で待ち合わせって事で」

『うん、いいよ。……あと、聞きたい事あるんだけど良いかな?』

「ん? どうした?」

『や、やっぱり……その……モデルさんは綺麗だった?!』

「……え?」

 いきなり何を言っているのだろう? 誠実にはそう思えた。
 綺麗かどうかと言われれば、確かに綺麗なモデルさんや可愛いモデルさんも居たが、なぜそれを沙耶香は今聞いたのか、誠実は不思議だった。

「いきなりどうしたんだよ? まぁ、確かに可愛い人とか綺麗な人ばっかりだったけど…」

『や、やっぱりそうだよねぇ……』

(いや、だからどうしたんだよ……)

 などと思いながら、誠実はなんと答えたものかと頭を悩ませていた。

『せ、誠実君……あのね』

「お、おう」

『私は今、ヤキモチを焼いています』

「は、はい?」

『なので、明日はいつも以上に甘えます! 良いですか?!』

「いや、質問の意味が……」

『良いですか!!?』

「ど、どうぞご自由に……」

 誠実は沙耶香の勢いに負け、沙耶香の頼みを了承する。

『で、でわ、また明日』

「あぁ…明日」

 そう言って沙耶香からの電話は切れた。
 誠実は一体何だったのだろうと首をかしげる。

「水でも飲んでくるか……」

 長話をしてしまい、喉の渇いた誠実は、部屋を出て冷蔵庫に飲み物を取りに向かった。
 一階のキッチンに向かうと、そこには部屋着姿で牛乳を飲む、美奈穂が居た。
 叶は買い物に行ったらしく、居なかった。

「俺にも牛乳くれ」

「ん、コップ」

「ほいほい、じゃあこれによろしく」

「ん」

 美奈穂は誠実が出してきたコップに、持っていた紙パックの牛乳を注ぐ。

「どうも、お前も水分補給?」

「まぁね、ちょっと二日間つかれたから、今から寝るのよ」

「まぁ大変そうだったしな……雑誌はいつ発売なんだ?」

「何? 買うの? 女性向けのファッション誌を? 残念ながら、私が載る雑誌と恵理さんの載る雑誌は違うわよ?」

「は? 何を言ってんだよ、お前が乗る雑誌だよ。毎回買ってるのバレちまったし、書店に通うより良いだろ?」

「な……そ、そう……確か来月の中旬よ…」

 誠実の言葉に、美奈穂は顔をそらして表情を誠実から隠す。
 赤くなった顔を冷まそうと、顔をパタパタ仰ぎながら、美奈穂は誠実の質問に答える。

「そっか、じゃあまた買いにいくか……」

「恥ずかしいなら、無理に買わなくても良いけど……」

「ここまで集めたしな、それになんか結局買っちまいそうだし」

 笑顔でいう誠実に、美奈穂の頬は更に赤くなる。

「そ、そう……わ、私もう行くから!」

「あぁ、お休み」

 美奈穂はそう言って、二階の自室に戻って行った。
 残された誠実は、牛乳を飲みながら明日の事を考える。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品