99回告白したけどダメでした

Joker0808

125話

「随分仲が良いようで! じゃ、私はこれで!」

「あ、美奈穂ちゃん!!」

 怒って美奈穂は直ぐに帰ってしまった。
 美奈穂はそう言って誠実達の元を後にする。
 そんな美奈穂の後を中村が慌てて追いかけ、誠実は美奈穂が一体何をしにきたのかがわからず、首をかしげていた。

「怒らせちゃったかな……」

「いえ、元々今日は機嫌が悪かったので。しかし、あいつは一体何をしに来たんだ?」

「はぁ~……誠実君は女心がわかってないなぁ~」

「え? どうしてですか?」

 ため息をつき、恵理はやれやれといった様子で弁当を食べる。
 一方、怒って行ってしまった美奈穂は、中村に呼び止められていた。

「美奈穂ちゃん!」

「何ですか…」

「あのね、そんなに怒っても仕方ないわよ? お兄さんだって謝ってくれたんだし、そろそろ許してあげないと」

「別に、もう怒ってませんから」

 眉間にシワを寄せながら、言う美奈穂に、中村は美奈穂が相当怒っている事を悟る。
 やっぱり、恵理と誠実が仲良くしているのが気にくわない様子の美奈穂。
 中村はなんと言ったら良いものかと考えるが、言葉が浮かんでこない。
 今の若い子の恋愛も複雑なんだなと、中村は感じていた。

「気持ちはわかるわよ、好きな男が、他の女と仲良くしてたら嫌よね?」

「べ、べつにわたしは……」

 同様する美奈穂に、中村は追い打ちを掛けるように言う。

「ならなんで怒ってるの?」

「そ、それは……」

「いい? 怒りたくなるほど、他の女と居られるのが嫌なら、怒ってないで行動しなきゃダメよ!」

「行動ですか?」

「そうよ! 私も昔は頑張ったわ……ほとんど逃げられたけど……」

「あぁ……まぁ……はい」

 逃げられ他のは女性なのだろうか? それとも男性なのだろうか? そんな事を考える美奈穂に、中村は更に言う。

「正直、私は美奈穂ちゃんを応援しているのよ! 兄妹の許されない禁断の恋……私も似た経験があるから……」

「中村さん……」

「だから、怒ってるばっかりじゃダメよ! 美奈穂ちゃん可愛いんだから! 頑張ってお兄さんを振り向かせなきゃ!」

 美奈穂は中村に言われ、そうかもしれないと自分の考えを改める。
 確かに、自分は少しピリピリしていたかもしれない。
 こんな調子では、誠実の方が自分から離れて行ってしまう。
 そんな事を思った美奈穂、これからどうするべきかを考える。

「大丈夫よ、貴方のお兄さんが優しいことは、美奈穂ちゃんが一番良く知ってるでしょ?」

 しょんぼりしている美奈穂に、中村は優しく語り掛ける。
 そんな中村に励まされ、美奈穂は中村と二人で今後の作戦を練り始めた。





「はい! 二日間お疲れ様でした! これで全日程終了で~す!」

「「「おつかれっした~」」」

 夕方、撮影のすべてが終わり、後は旅館に行って宴会をするだけの段取りとなった。
 誠実は機材や道具などを車に積み込むのを手伝い、最後の一仕事を終え、ホテルのロビーで中村と美奈穂を待っていた。

「はぁ~なんかつかれた……」

 二日間の慣れないアルバイトに、誠実は緊張の糸が切れ、ホテルのロビーでソファーに体を預けてぐったりしていた。
 今から移動して温泉宿に泊まり、明日の昼頃に帰るだけの日程となっている。

「おまたせ~」

 誠実がソファーで休んでいると、中村と美奈穂が荷物をまとめてホテルから出て来た。

「遅かったですね、なにしてたんですか?」

「うふふ、乙女の秘密よ」

「お、乙女……ですか……」

 引きつった笑みを浮かべながら、誠実は中村に答える。
 一方、後からついてきた美奈穂はというと、不機嫌ではなさそうだが、どこか難しそうな表情で荷物を持ってやってきた。
 誠実は夜の事をまだ怒っているのかと思い、美奈穂をこれ以上怒らせないよう、極力話し掛けはしないようにしていた。

「それじゃ、行きましょうか?」

 中村の車に乗り、誠実と美奈穂は温泉に向かう。
 その道中、車内は静まりかえっており、誠実は一人だけが気まずい空気の中、何か話した方が良いだろうか? と一人で葛藤していた。
 しかし、そんな誠実の考えを見透かしたかのように、美奈穂が口を開く。

「なにか話しでもあるの?」

「え! あ、いや……その……」

「………もう良いわよ……夜の事」

「え…」

「私も少ししつこかったし……それに寝ぼけてそっちのベッドに入った私も悪かったし……」

「美奈穂……」

「だから、そんな黙り(だんま)してないで、いつも通りにしてなさいよ」

 笑みを浮かべながら言う美奈穂に、誠実はほっと一安心する。
 誠実は仲直りのつもりで、改めて美奈穂に謝罪する。

「本当にわるかったな……」

「ま、私も大げさ過ぎたわね……考えて見ればおにぃだし」

 やっといつも通りに戻れたと、誠実は安心した。
 これでようやく宴会と温泉を心から楽しめると思うと、なんだかつかれがどこかに行ってしまったようだった。
 車に揺られること数十分、誠実達は温泉宿に到着した。

「へ~、なんか高そうな宿だな……」

「気にしなくて良いわ、どうせ経費で落ちるし」

「こんな宴会が経費って……」

 中村の言葉に誠実は驚きつつ、荷物を案内された部屋に運んでいく。
 やっぱり誠実と美奈穂は同室で、誠実は昨晩のような事がない用に気を付けようと心に決めた。

「うわ、部屋も広くて良い部屋だな~」

「和室ってのも良いわね」

 昨日泊まったホテルとは違い、旅館の窓からは山々が一望出来た。
 しかも、広々とした部屋は、畳の良い香りがして気持ちが良かった。

「宴会までは自由にしてて良いらしいけど、おにぃはお風呂行くの?」

「あぁ、そうするよ。疲れたし、早くさっぱりしたいんだ」

「じゃ、私も行くわ。えっと……あ、あった、はい浴衣」

「おう、サンキュー。じゃ、行くか」

 誠実は美奈穂から浴衣を受け取り、早速温泉に向かう。
 男湯と女湯の入り口で誠実と美奈穂は別れ、誠実は一人男湯に入っていく。
 すると、そこには撮影の時に居たスタッフさんやメイクさん、カメラマンさんなどがおり、楽しそうに談笑していた。

「お、誠実君も来たのかい? 良いお湯だからゆっくりつかるといいよ」

「そうなんですか? じゃあ、ゆっくり入って来ます」

 カメラマンのおじさんに言われ、誠実は笑顔でそう答えて温泉に向かう。

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